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「高校魅力化」の次なるカギは働き方改革と「見える化」にあり。主幹教諭体制と大規模評価を用いたPDCAサイクルの深化

島根県立隠岐島前高等学校/島根県教育委員会

 島根県内の離島・中山間地域の高校が、地域と協働しながら改革に取組む「高校魅力化」。島根県では、校内における教科横断的な授業改善推進の役割を主幹教諭に与え、また独自の「高校魅力化評価システム」によって、現場における改革の持続性、自律性を高めようとしている。こうした中、隠岐島前高校で主幹教諭がまず着手したのは、意外にも教職員の「働き方改革」だった。評価を「実施したきり」にしないなど、PDCAを実質化するために、同校が取組んできた内容とは。「SHUKANチーム」の3名(登城主幹教諭(写真中央)、岡本主幹教諭(同左)、中山教育魅力化コーディネーター(同右))に話を伺った。

隠岐島前高校「SHUKANチーム」の3名

目次

サマリー(事例のポイント)

各論点のポイント

  • ビジョン

    ロジックモデルの作成によって魅力化の共通目標、共有したいプロセスを明確化

  • ミッション

    教科横断的な授業改善の推進主体として主幹教諭を位置付け

  • アクション

    主幹教諭自身の働き方改革や職員会議の効率化を通して、Checkの時間を創出

  • リフレクション

    県の大規模調査の結果を活用して、自校の強みや課題を検討する研修を実施

  • プロモーション

    評価結果を地域、生徒にも展開していくことで、魅力化のPDCAサイクルの深化を目指す

ロジックモデル

ロジックモデル

挑戦者からのメッセージ

何を目指す?(ビジョン)

隠岐島前高校における教育魅力化

魅力化プロジェクトの正の循環

魅力化プロジェクトの正の循環

出典)隠岐島前教育魅力化プロジェクトHP

 島根県隠岐郡西ノ島町、海士町、知夫村の3町村からなる島前(どうぜん)地域。この地域唯一の高校である島根県立隠岐島前(おきどうぜん)高校は、海士町の玄関口である菱浦港の高台に位置し、静かに町の人々を見守っているようにも、逆に、町の人々に見守られているようにも見える姿が印象的だ。
 そんな地域のシンボルともいえる隠岐島前高校であるが、約10年前には生徒数の減少に直面していた。高校がなくなる、ひいてはそれは地域がなくなることに直結するという危機感の中で、島前地域の町村、学校関係者などが対話を重ねる中から導き出したのが、地域全体で隠岐島前高校を魅力的な高校にするという方向性だった。ここに始まった「高校魅力化」、より広く地域・教育の魅力化という流れは、地域課題を題材とした探究学習、公立塾との連携による学習・キャリア教育、島外からの積極的な生徒募集、生徒の海外研修など、様々な挑戦を生んだ。これらが積み重ねられた結果、子どもの地域外流出傾向の反転や、地域の祭りの継承などの成果が現れるまでに至った。

 同時期に島根県内では、隠岐島前高校と同じく人口減少に直面しながらも、そうした条件を強みと捉え、高校をはじめ地域の教育を魅力化していこうとする様々な動きが生まれていた。こうした取組を加速化するために、島根県教育委員会は、平成23年度から「離島・中山間地域の高校魅力化・活性化事業」として、高校魅力化に関わるチームづくりの支援や財政的支援を進めている。

高校魅力化のロジックモデル

 島根県では、ともすれば言葉として独り歩きしがちな、また、特定の具体的なプログラムや、生徒数増という成果のみが目的としてクローズアップされがちな「魅力化」について、改めてそのプロセスと目的に関する共通認識を持つため、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームに協力して、高校魅力化のロジックモデルを作成した。
 このロジックモデルの内容面での特徴は、魅力化プロジェクトの核心を、生徒が変化、成長する可能性を高める「学びの土壌」(学校・地域における学習に係る雰囲気や、人との関係性、機会の有無)を豊かにするためのプロセスに据えている点にある。また、「学びの土壌」を豊かにするための要素として、魅力化に関わる大人のあり方が非常に重視されている点も特徴的である。各校、各地域による独自のプログラムの違いを超えて共通する「土台」の部分を明確化することで、魅力化校と呼ばれる複数の高校の取組を見る統一的な視点ができた点に、このロジックモデルの強みがある。

高校魅力化のロジックモデル。各要素を指標化することで評価にも活用できる。

高校魅力化のロジックモデル

出典)一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム作成

どのように進めていく?(ミッション)

主幹教諭による校内推進体制

 島根県では、各地の市町村は魅力化を推進するにあたり協議会を設けること、学校と地域との調整役として教育魅力化コーディネーターを配置することを通して、また、県教育委員会は職員を伴走者として配置することを通して、チームを重視するアプローチにより体制を整えてきた。こうした流れの中で、今年度(2018年度)島根県が取組んだのが、学校内における魅力化推進のエンジンとして主幹教諭を位置付けたことであった。
具体的には、魅力化校と呼ばれる離島・中山間地域の8高校に新たに配置された主幹教諭に対して、 これまでの活動で培われた、地域資源を活用した特色ある教育課程や、その実現に寄与する地域社会とのつながりなどの蓄積をベースに、「次期学習指導要領で求められる『主体的・対話的で深い学び』や『思考力・判断力・表現力』を育むために、高校全体で授業改善に取組むこと」、そして「マンパワーが限られる校内体制の中で、教科横断的にイニシアチブを発揮すること」が求められた。

 隠岐島前高校ではこうした流れの中で、登城先生、岡本先生の2名の主幹教諭、そして教育魅力化コーディネーターの中山氏の3名から結成される「SHUKANチーム」を中心として、校内における魅力化の推進に取り組んでいった。

何をする?(アクション)

主幹教諭自身の働き方改革

 教科横断的な授業改善に取り組むことをミッションとして与えられた中で、隠岐島前高校のSHUKANチームがまず取りかかったのは、意外にも主幹教諭自身の働き方改革であった。これは、まず主幹教諭自身が、眼前の仕事に追われないように、計画・立案、実行、振り返り、改善のサイクル(PDCAサイクル)を回し、多忙感を削減できるようになることが、教職員全体のPDCAサイクルを可能とし、さらに対話の時間の創出に繋がるとの考え方によるものだった。

 具体的には、独自の「業務管理シート」を作成し、チームの仕事をすべて記録、管理し、チーム全員が各自の仕事を「見える化」することに取り組んでいる。ここで特徴的なのが、仕事を単に量のみで把握するのではなく、「緊急度」と「重要度」の軸で4つの類型に分け、質的に分類することで、本来的に主幹教諭が実施すべき業務への選択と集中を意識化している点にある。

業務管理シート

業務管理シート

出典)隠岐島前高校提供資料

業務仕分け表

業務仕分け表

出典)隠岐島前高校提供資料

業務仕分け表に基づいたSHUKANチームの業務量の推移

業務仕分け表に基づいたSHUKANチームの業務量の推移

出典)隠岐島前高校提供資料

 

職員会議の改革

 さらに働き方改革は全教員にも及んでいる。SHUKANチームが着手したのは、職員会議の時間の短縮であった。これまで審議・報告連絡が主であった職員会議を、SHUKANチームが司会を行う体制への移行、時間配分の事前調整、議題提案者の説明ポイントの事前伝達などの工夫により効率化し、捻出できた時間で職員研修を実施するなど、業務に対するCheckやAction、そしてPlanに関する協働・対話の場を設ける取組を進めている。
 職員会議中に研修機能を持たせることのメリットについて、SHUKANチームは「職員会議の浮いた時間を利用すれば、全ての教職員が研修に参加できるというメリットがあります。」「おそらく、時間外の任意の研修であれば、教職員の3分の1も集まらなかったかもしれません。」と語る。
 隠岐島前高校では、こうした働き方改革によって生み出された時間によって、主幹教諭とその他の教員、また教員同士の対話の時間を増やしていくことによって、魅力化のあるべき姿や次なる挑戦について、深く内省・検討する機会の創出を目指している。

職員会議の時間推移

職員会議の時間推移

出典)隠岐島前高校提供資料

 

どう振り返る?(リフレクション)

「高校魅力化評価システム」による振り返り

 共創的な対話の時間を作り出すことを目的とした隠岐島前高校の職員研修で実際に題材となったのが、島根県が今年度試行的に実施した「高校魅力化における学習環境に関するアンケート調査」の結果の振り返りであった。
 島根県では、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームと協働して、先述のロジックモデルに基づき、魅力化のプロセスと成果を見える化し、評価する「高校魅力化評価システム」を開発、導入し、今年度試行を行った。その結果は「高校魅力化チェックシート」という形で、生徒の意識や行動、学校・地域の学習環境の実態について、県内の全回答校の結果と自校の結果を比較可能な形でグラフ化し整理したものが各校に提供されている。

 隠岐島前高校において、この調査結果を研修の題材とした経緯には、あるエピソードがあった。「この調査結果のフィードバックを受けた際、ちょうど生徒会長選挙のタイミングで、生徒から、隠岐島前高校の学習環境について問題提起がなされていた直後だったんです。こうしたきっかけで、偶然ですが校内でも『学習環境』という考え方に対する意識が高まっていたため、学習環境を指標で可視化した高校魅力化評価システムの結果を活用した研修を職員会議内で企画しました。」

 教員研修は知識構成的ジグソー法を用いて、「生徒の特に伸ばしたい点」「(魅力化プロジェクトの)成果は出ているか」「どこに課題があるか」という論点ごとにチームを作って結果を読み取ったのち、それを全体で共有する方法で行われた。

高校魅力化評価システム

島根県が地域・教育魅力化プラットフォームに協力し開発した、主に魅力化に取り組む高校における学習環境と生徒の成長の見える化を目的としたアンケート調査。生徒用と、その高校の魅力化に関わる大人を対象とした大人用の2種類がある。集計結果は「高校魅力化チェックシート」として各校に返され、「チェックシート振り返りシート」による振り返り例を参考としながら、学校での現状把握や目標設定に役立ててもらうことを目的としている。

もう一歩先へ!(プロモーション)

評価をアクションに繋げるために

 高校魅力化評価システムによる振り返りについては、研修に参加した教員からは概ね好意的な反応が得られたものの、結果を次の行動や、計画づくりにいかに反映させていくのかという点には、評価結果の見せ方や使い方のガイダンスの必要性等、引き続き課題が見出された。また、今後この評価システムの結果を、地域の大人とも共有していくこと、また、生徒にも共有していくことについても今後の課題であり、そのための時間捻出のための「働き方改革」についても今後一層求められることになるだろう。
 島根県による高校魅力化評価システムは、次年度が実施2年目となり、各校の生徒の成長、そして学習環境の経年での変化を把握できるようになる見込みである。隠岐島前高校のSHUKANチームをはじめとする現場の推進役と、県によるPDCAサイクルの円滑化、実質化のための側面支援の充実が両輪となり、教育の魅力化という「終わりのないプロセス」の推進力がより高まっていくことが期待される。