洋上と教室をリアルタイムでつなぎ「海を学ぶ」学習が深化

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山形県立加茂水産高等学校

洋上と教室をリアルタイムで結ぶ――Starlink活用で「海を学ぶ」が深化:山形県立加茂水産高等学校

  • 取材・編集・撮影:株式会社シード・プランニング
  • 素材提供:山形県立加茂水産高等学校

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山形県立加茂水産高等学校では、実習船「鳥海丸」にStarlinkを導入し、洋上から学校へのGoogle Meet(Google for Education)を活用したオンライン配信が可能となりました。60日間の航海実習を行っている2年生が、教室にいる3年生に海洋観測・漁業データを共有し、航行状況や漁獲したスルメイカの生態考察などを報告し、リアルタイムで意見やアドバイスをもらえる授業を実施しました。これにより実習中の2年生はもちろん、長期航海実習のない系列の3年生にとっても専門性の高い学びが深化し、生徒が主体的に観察・分析・考察する探究的学習が強化されたと考えています。

お話を伺った先生

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佐藤 勝則(さとう かつのり)先生 水産科(海洋技術系列長・実習船担当)

民間船舶勤務を経て、2015年度より同校に着任。海洋技術系列長として、漁業や船舶運用の授業を担当。同校の卒業生。

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田代 拓(たしろ たく)先生 水産科

2017年度同校に着任。水産と理科の授業を担当。授業の一環で水中ドローンの操作や3Dモデリング制作等も行っている。

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土井 拓也(どい たくや)先生 水産科

民間船舶に就職後、2018年度に同校に着任。水産と航海・計器、船舶運用を担当。同校の卒業生。

授業資料

事例概要

実践している学校・学科

山形県立加茂水産高等学校 水産科(海洋技術系/資源増殖系/食品系)

利用しているデジタル教材・デジタル環境

Starlink(実習船「鳥海丸」)、生徒用端末(Chromebook)、Google for Education(Classroom / Meet / Drive / Sheets)、高性能デスクトップパソコン(情報メディア室)、外付けカメラ、360度カメラ、VRゴーグル(Meta Quest)、船内計測装置(海洋観測データ取得)

どのような学びが可能になったか

海洋観測データ(水温・深度など)を実習船から即時共有し、生徒がその場で問いを立て、教室側と双方向で考察できる学びが実現。

スルメイカの漁獲実習では、生態、日周鉛直移動、環境条件などを議論。
生徒から多様な視点が生まれ、より深い探究へ発展。

・360度カメラとStarlinkを活用し、船舶交通の多い海域の映像を共有。

航行ルール・海上交通法の理解につながる新しい疑似体験教材を作成した。

支援や事前準備のポイント、工夫

Starlinkを導入したことで、洋上からのGoogle Meet等を活用した配信が可能となった。また、洋上でもGoogle Driveにアクセスできることから、航海実習の写真やPDF資料、授業準備データ等のやり取りを行うことができ、スムーズに授業を実施することができた。

360度カメラを導入したことで、海面の様子等をリアルに撮影することができるようになった。また、学校所有のVRゴーグル(Meta Quest)で、360度カメラの映像を再生すれば、リアルな映像教材として活用できると考えている。

導入・活用の成果・今後の予定

ICTにより、航海実習でしか得られない実体験を、学校全体で共有することができた。

Starlinkのデータプランは50GBで契約していた。しかし、50GBではデータ容量の問題でオンライン配信を数回しか実施できなかったため、今後はよりデータ容量の大きいプランへの見直しも検討している。

・船内からの配信で問題となったのが、エンジン音などの船内騒音による音声の聞き取りづらさであった。口元マイクの導入を検討し、よりクリアーな音声を教室に届けられるような対策を行いたいと考えている。

Starlinkの導入で洋上と教室がつながった

実習船「鳥海丸」にStarlinkを導入する、と聞いたとき、正直に言えば本当にうまくいくのだろうかという不安もありました。実習船を用いた学習を行っている水産高校は全国にありますが、実習船にStarlinkを導入している水産高校は珍しいため、ファーストペンギンのような気持ちで、授業・実習を設計しなければいけないと考えたからです。しかし、海洋資源や船舶を専門的に学ぶ本校にとって、海の現場と学校をつなぐことは、学びを大きく前に進められるのではないか――そんな思いもありました。

実際にStarlinkを活用し始めてみると、海と学校が同じ時間を共有し、同じ事象を一緒に考える学習が実現しました。
Chromebookを船で開き、StarlinkのWi-Fiに接続し、Google Meetで学校とつないで海洋観測の報告を行う。生徒が海中にワイヤーを沈めて観測を開始すると、学校の教室へデータが届きます。
「今ワイヤーは何メートルまで入っていますか?」
「角度から考えると、この深度になりますね」
そんなやりとりを、海の上と教室でリアルタイムに交わしながら、一緒に観測データを整理していきます。

これまでは実習で得たデータを、陸に戻ったあと、振り返る形で活用していましたが、今は“その場で一緒に考える”学びになり、より実践的な授業が行えるようになったと考えています。

 

Starlink

左下の白い板のような機器がStarlink。中央の3本のアンテナは衛星通信アンテナ

ライブ配信で「海を教室へ」  ICTが学びに臨場感をもたらす

Starlinkの導入によって、これまでは船でしか見られなかった景色や体験を、教室の生徒にも届けられるようになりました。

今年度は360度カメラを導入し、関門海峡(山口県下関市と福岡県北九州市を隔てる海峡)を通過する際の様子を撮影し、教室の生徒に見せながら授業を行いました。普段は教科書の中でしか説明できなかった海上交通のルールを、実際の映像を使いながら解説できるようになったのです。

「この海域は船が多く、こういうルールで航行します」
「これは実際の信号です」

海上は、海域によって交通ルールが異なる場合もあるため、実際に運用されている交通ルールの状況を確認できることは、非常に意義深いものです。生徒たちは、海の現場を自分の目で見ているかのように学ぶことができるため、理解が格段に深まったと感じています。

将来的にはVRゴーグルを使った、まるで船の上に立っているかのような疑似体験教材も作成したいと考えています。海を専門とする学校として、いかに“実際の海を持ち込むか”を考えることが大切だと感じています。

 

高性能パソコンとVRゴーグル

情報メディア室に設置してある高性能パソコンとVRゴーグル

通信量、環境音、運用面での工夫が必要だと実感

もちろん、導入してすぐにすべてが順調に行えたわけではありません。まず大きかったのが通信量の問題です。現在は月50GBの契約ですが、洋上でのライブ配信やデータのやり取りを続けていると、どうしても容量が不足します。今後は契約見直しも検討したいと考えています。

また、船は常にエンジン音が響いており、オンライン配信ではこちらの声が聞こえにくいことも多々ありました。今後は口元に近いマイクを導入するなど、環境に合わせた機材の工夫が必要だと感じています。

航海実習

60日間の航海実習を行った土井先生と生徒たち。教室とのオンライン配信は写真の場所で実施した

運用面で調整が難しかったのが、学校の授業の時間に合わせた配信です。上記にも記した関門海峡の通過に関しては当初、撮影ではなくライブ配信を行おうと考えていました。しかし、スケジュールの都合で関門海峡の通過のタイミングが土曜日になってしまい、学校にいる生徒たちに、リアルタイムで関門海峡通過を見せることはできませんでした。長期航海は、天候などさまざまな事情でスケジュール通りに行かないことが多々あります。洋上と学校がつながりやすくなったとはいえ、どうしても陸と海ではタイミングが合わないことが起こりえるので、オンライン配信を行う場合は、臨機応変な対応を取ることができる授業設計の構築も必要だと実感しました。

また、今回の航海実習ではStarlinkの利用を生徒に全面的に開放せず、オンライン接続が必要になったら、教員が生徒のChromebookを操作して接続していました。航海実習では22時から朝の4時までイカ釣り実習を行うなど、生活リズムが昼夜逆転するため、いかに生徒を休ませるかも重要なポイントです。現代の子どもたちにとっては、SNSや動画視聴ができないことは、ストレスになってしまうこともあると考えていますが、しっかりと休息の時間を確保するために学習の場面でのみ接続を許可する運用を実施しました。
生徒の情報モラル指導も進めながら、より良い運用方法についても探っていきたいと考えています。

加茂港と鳥海丸

加茂港と鳥海丸(提供:山形県立加茂水産高等学校)

航海予定表

60日間の航海実習の予定表。取材日は航海実習58日目で、生徒たちは下船の日を心待ちにしていた

洋上と学校がつながり、生徒の探究心が自然と育ち始めた

洋上と学校がつながったことにより、生徒の学びの姿勢に大きな変化が起こりました。

たとえばイカ釣り実習では、これまで“釣る作業を覚えて終わり”という側面が強かったのですが、今年度はまったく違いました。
自分たちで釣ったスルメイカについて、
「なぜこの時間帯に上がったのか」
「水温や日周鉛直移動(海洋・湖沼などの水圏環境の生物が一日のなかで規則的に生息深度を移動させる現象)が関係しているのではないか」
「観測データと組み合わせると、こう考えられるのでは」
など、次々と意見が飛び交い、自然と探究的な学びが生まれています。

学校側の3年生が観測データをグラフ化し、船上の生徒と一緒に分析するような取組も始まりました。海の上で起こっている現象を、学年や学科の枠組みを超えて、学校で“科学的に読み解く”という学びが成立しつつあります。

また、Chromebookの導入により、授業内容や資料をGoogle Driveで共有できるようになり、振り返りが容易になりました。授業のテンポが上がり、実習に十分な時間を割けるようになったことで、技術の習得も以前より深く進んでいます。

教室での事業

実習船「鳥海丸」と3年生の教室をオンラインでつないだ授業の様子。2年生の時に航海実習を体験した生徒からは、経験をもとにした質問をするなど、活発な議論が行われた

ICT基盤を活かした教員の取組が“海のスペシャリスト”を育てる

ICTの導入は、生徒だけでなく教員の指導にも変化をもたらしました。

乗船実習で行う海洋観測は、3年生の地学を担当する教員と事前に連携し、取組が相互に活きるよう、観測データの分析方法や授業展開を話し合いながら進めました。洋上と教室をオンラインでつなぐ新しい授業は、2025年度から始まった取組で、まだまだ手探り状態で行っていますが、ICTがなければ実現できなかった授業ですので、生徒たちにとって有意義な授業になるように研鑽を続けていきます。

さらに校内では、外部講師を招いた研修や、県教育センターによるDX出前支援などを積極的に取り入れ、教員全体のICT活用力を高める取組を進めています。管理職もICT整備の予算確保に力を入れ、学校全体としてICTを教育の基盤に据えていこうという方針が明確になってきました。

“海のスペシャリストを育てる”という学校のミッションを実現するためにも、StarlinkをはじめとするICT機器を上手に活用し、生徒の探究心を高める授業に取り組んでまいります。
 

ヒラメ

校内ではウニやヒラメの養殖も行っている


※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2025年11月)のものです。

 

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