もっと学校をみんなの居心地が良い場所にするには?

第2回「CO-SHA ワークショップ」イベントレポート(後編)

文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。
本稿では、今年度2回目の開催となる「CO-SHA ワークショップ」の模様をお届けします。
CO-SHA ワークショップとは、日本全国の小中学校をオンラインでつなぎ、CO-SHA Platformのアドバイザーの先生方から助言を受けながら、学校内のオープンスペースや空き教室などの環境づくり(レイアウト変更や模様替えなど)にみんなで挑戦する取り組みのこと。
「そのうちなんとかしたいと思っている空間があるけれど、日々の業務に追われて、なかなか重い腰が上がらない」とお悩みの学校関係者のみなさんに、「試しに家具や什器をちょっと動かしてみるだけで、こんなに空間の使い方を変えられるんだ!」「環境づくりなんて難しそうだと思っていたけれど、実際にやってみたら意外と楽しい!」という気づきを得てもらいたい——そんな想いで企画されたイベントです。
今回ご登壇いただくのは、前回プレイヤー(レイアウト変更などワークショップに参加される方)としてご参加いただいた長野県南牧村立南牧南小学校のみなさんと、6年生の総合的な学習の時間に、オープンスペースのデザインに取り組まれていた神奈川県横浜市立初音が丘小学校の遠藤先生です。南牧南小学校のみなさんには、前回のワークショップ後の変化をご報告いただくとともに、解決しきれていないお悩みを、そして初音が丘小学校の遠藤先生には、子供たちと学習を進める中で生まれたお悩みを、それぞれアドバイザーの先生方に相談していただき、オブザーバー(視聴者)のみなさんのご意見も交えながら、より良い環境を目指して行きます。
前編に引き続き、後編では初音が丘小学校の取り組みについて、ご紹介します。前編は、こちらから(別ページに移動)ご覧いただけます。
イベントの様子は、こちらからも(文科省施設企画課のYouTubeチャンネルへ移動)ご覧いただけます。

初音が丘小学校~子供たちが探求する“くつろげる”空間デザイン~

 

次は、初音が丘小学校の遠藤先生(以下、遠藤先生)による発表をご紹介します。同校では、6年生が総合的な学習の時間を使って、1年生のフロアにある「なかよし広場」というオープンスペースをデザインする授業に取り組まれています。その中で、遠藤先生からCO-SHA相談窓口にご連絡いただき、今回の登壇が実現しました。
まずは、初音が丘小学校のなかよし広場にどのような課題があり、これまで6年生がどのような活動を行なってきたのかを振り返ります。

現状のなかよし広場
 
横浜市保土ヶ谷区にある初音が丘小学校は、全学年3クラス編成で、約600名の児童が在籍しています。なかよし広場があるのは、南北に分かれた校舎をつなぐ渡り廊下のような場所。子供たちの往来は多いものの、彩光がイマイチで、物置のように使われていることから、子供たちからは「なかよし広場なのに、全然なかよしじゃない!」という声が漏れ聞こえてきます。そこで発足したのが「『なかよし広場』をもっと仲良しにしようプロジェクト」でした。

 

環境づくりのアイディア(初音ヶ丘小学校発表資料より)

なぜ小学校には“のんびり”できる場所がないの?

令和元年度から3年度まで幼保小連携事業推進地区であり、また令和4年度から6年度までは接続期カリキュラム研究推進地区として、園と小学校のスムーズな接続を研究していたこともあり、本年度は子供たちと一緒に、1年生も安心できる環境づくりに取り組むことにしたのです。
そこで、まずは近隣の若葉保育園で先生体験をするところから始めました。そこで子供たちが気づいたのは、「園はとても温かくて、のんびりできる空間だ」ということ。『学校にもこんな場所があったらいいのにな』という思いが芽生えたと言います。
さらに、CO-SHA Platformアドバイザーの千葉工業大学教授 倉斗先生(以下、倉斗先生)や東京学芸大学教授 金子先生(以下、金子先生)から「誰にとってどんな場所にしたいのかを考えてみよう」「現状をしっかりと把握して、それがどうなってほしいのか、具体的にイメージしよう」というアドバイスをもらい、学校内でアンケートを取ってみることに。すると、現状のイメージは「ただの通り道」「倉庫・物置」であり、ほとんどの児童が使っていないことがわかりました。
授業の板書の様子(初音が丘小学校発表資料より)
しかし、学校は子供たちだけの場所ではありません。そこで、事務員・栄養士・技術員など、学校で働く方々にもインタビューを実施したところ、「なかよし広場は調理員さんが給食をコンテナに入れる作業をしている」「学校で物品を購入するのは、とても大変。申請書を書いて校長先生に許可をもらう必要がある」など、いろいろなことを教えてもらいました。
こうしてプロジェクトを進める中で、「芝生にしたい」「園にあったものを置きたい」「天井から物を吊るしたい」など、子供たちの夢は広がります。その一方、遠藤先生は「予算や持続性なども踏まえると、実現可能かどうかの判断が非常に難しい」と感じているとのこと。この悩みに対し、アドバイザーの先生方は、どのようなアドバイスを送るのでしょうか。次に詳しくご紹介します。

子供たちの探究を後押しするには?

遠藤先生:子供たちからは「ゴロゴロするとか、教室ではできないことができる場所にしたい」という意見が一番多く出ています。そんな特別な空間にするには、どんな工夫をすれば良いでしょうか。
 
呉工業高等専門学校准教授 下倉先生(以下、下倉先生):まず、壁側にある棚を柱の延長線上に移動させて、空間を区切ってもらいたいです。動かせない棚はあえて塞いでしまって、壁にする。広すぎる空間は落ち着きませんし、もたれられる場所があると安心しますから。人工芝を敷いて、ぬいぐるみやビーズクッションを置くのがオススメです。IKEAのエッグチェアや葉っぱの形の天蓋を使って、狭い空間をつくってあげるのも良いですね。
 
倉斗先生:「のんびりできるスペースはどうやったらつくれるか」というテーマを考えるときに、「なぜ教室ではのんびりできないんだろう?」と考えてみるきっかけを与えてあげたら、「ふわふわした素材があるといいかも」とか「こもれる空間って落ち着くよね」と
いった感じで、下倉先生のアイデアに辿り着けるかもしれないですよね。
 
金子先生:そうそう。“くつろぐ”ってどういうことなのかを思いっきり探求させてあげたい。
 
広島工業大学教授 栗﨑先生(以下、栗﨑先生):保育園の“はいはい”ができる匍匐室で先生体験をしたのが、子供たちは心地よかったんじゃないですかね。そういう意味では、床がポイントになると感じました。あとは、他の教室にある家具は絶対に置かないと徹底することで、特別感が出せるのではないかと思います。
 
金子先生:靴を脱ぐってくつろげるんですよね。教室では靴を脱げないですから。このなかよし広場だけは靴を脱いでOKにすると、特別な場所になるんじゃないですか。
東京理科大学教授 垣野先生(以下、垣野先生):遠藤先生がここまですごくおおらかに絶妙な匙加減で子供たちを導いておられるのが、すごく良いですよね。このまま子供たちに自走させても良いのではと思う反面、遠藤先生が子供たちにどのタイミングでどんな“ささやき”をするかによって、子供たちは大きな学びの飛躍をするのではないかという期待もあります。
 
金子先生:そのためには1回は失敗してもらいたいですよね。「実際にレイアウトしてみたら、思ったより人数が入れなくて、なんかすごく窮屈!」みたいな。
東京都立大学名誉教授 上野先生(以下、上野先生):ここまでの取り組みはとても素晴らしいですし、遠藤先生がほんとうに素晴らしい先生だと思いますので、教育委員会やPTAも含め全校を上げて、遠藤先生をバックアップする仕組みをしっかりと整えてもらいたい。この取り組みが事例として全国へ広がることを期待しています。
 

アドバイザーの先生方からのメッセージ

 
栗﨑先生:今日も2校の先生方から刺激をいただきました。「ちょっとしたスペースをどう活用するか」という話から、地域との関係性や授業のあり方へと議論が広がっていく様が、とても楽しかったです。
 

金子先生:子供たちや地域の方々を巻き込むことで、継続性や可変性は担保されるはずなので、長期的な視点を持ってこの取り組みを続けていただけたらと思いました。
 
下倉先生:2校の先生方の熱意が素晴らしく、しっかりと前に進んでいる様子を見られたので、前回に引き続き今回のワークショップにも参加できて、とにかく楽しかったです。
 
倉斗先生:昨年度は1回きりの開催でしたので、「その後どうなったかも知りたいね」と話して終えたのですが、今年度は2回目も開催でき、実際に学校での変化や活動の進展を共有いただけたことで、我々も大きな勇気とやる気をもらえました。
この取り組みを見て「うちの学校でもやってみようかな」と思ってくれる学校が1校でも多くあれば本望です。来年もワークショップは継続予定ですので、ぜひご期待ください。また、南牧南小学校や初音が丘小学校のみなさんには、今後の活動もCO-SHA Platformにお寄せいただけるとうれしいです。
 
垣野先生:近年、図書室や理科室など用途が明確な空間だけでなく、今回の2校のように“名前のつかない空間”をうまく使って、教室ではできないことをできるようにする好例が増えているのは、これからの学校教育にとって大きな希望になると感じています。さらに欲を言えば、今後は教室そのものの使い方についても派生して考えられるようになると、より一層、学校全体の可能性が広がるのではないかと期待しています。とても学びの多い時間を、ありがとうございました。
 
上野先生:改めて、今回の2校の取り組みは、実に素晴らしいものでした。こうした先生方の意欲的な挑戦を、教育委員会や地域、保護者といった周囲の人たちがどう支えていけるか。その「支援の輪」をいかに広げていくのかが、今後のCO-SHAワークショップのひとつの課題になるのではないかと感じました。
また、今回は「くつろぐ」「ゆっくりする」「交流する」といったテーマが中心でしたが、垣野先生がおっしゃったような「多様な学びのスタイルに応じたオープンスペースや多目的スペースのあり方」を考えるワークショップについても、今後検討できたらと考えています。本日は本当に素晴らしい会でした。みなさんありがとうございました。

イベント後の取り組み:初音が丘小学校

ワークショップの翌週、初音が丘小学校の遠藤先生は、早速ワークショップでのやり取りを踏まえ、子供たちと「なかよし広場」の環境づくりに取り掛かりました。
授業の前半は、教室でなかよし広場をどのような空間にしていきたいか、子供たちと話し合いました。ひとの行動、もの、空間の3つの項目で整理し、自分たちが目指したい「なかよし広場」のイメージを膨らませました。
 
後半は、なかよし広場に移動し、空間づくりを実施しました。
移動できる本棚や人工芝、ジョイントマットを使って、思い思いにのんびりできる空間を作りました。
 
 
今回は「まずやってみる」ことを大切に取り組みました。今後、1年生や他の児童・先生方の声も聞きながらブラッシュアップしていくようです。
遠藤先生と子供たちの振り返りの様子

お知らせ

 
CO-SHA Platformでは、今年度より、学校作りを行っている地方公共団体の教育委員会の職員、学識有識者、文科省の職員等を対象にした「Slackコミュニティ」を立ち上げました。いつでもお気軽にご質問などお寄せいただけます。ご興味のある方は、こちらより(別ページに移動)お気軽にご参加ください。