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「むすび」で「最終責任は大学ガバナンスの法的保証が必要」と述べているが,具体的にはどういうことか。
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例えば,国立大学を定年になり私立大学に移籍した知人が数人いるが,彼らは異口同音に「学校法人は何でもできる」と言う。つまり,ガバナンス意識が全くない理事長が非常に多いということだ。学校法人運営調査委員として調査に行くと,ガバナンスについては,学校法人によって対応が様々である。古くからある大規模校は組織で動いており,ガバナンスがしっかりしているところが多いが,新興の小規模大学ではそうではないところが多い。
商法が改正され,会社法にはガバナンスを法的に保証する仕組みが制度化された。私立学校法では,学校法人の理事会が意思決定を行い,かつ,それをチェックすることになっている。しかも,理事会の中心となる理事長等が業務の執行にも当たる。もっと機能分担を明確にすべきではないか。
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例えば,古い大規模大学でも,依然として教授会が全権を握っているようなところもあり,国立大学が法人化し,様々な改革を実行に移していることを考えると,大規模私立大学が一番遅れているのではないかと危惧している。大規模私立大学でもガバナンスを法的に保証すべきなのか。
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例えば,法政大学では2年前に外部委員による第三者評価委員会を学内に設置し,自由に意見が言える体制を作った。大学の学長経験者,教育学者,民間企業の社長,会長経験者,元官僚等の方々から多面的に御意見をいただいている。我々は,自分の大学の欠点は十分熟知しているつもりだが,その熟知している部分を明確に指摘してもらい,結果を公表する。これにより,教学サイドにも意見をぶつけて改善を図らなければ,大学は変わらない。学内に設けた第三者委員会等を,法的に制度化する必要はないが,例えば行政指導的な方法を用いて設置を促すことがあってもいいのではないか。
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私立大学の公共性とガバナンスの関係について,どこで公共性とガバナンスが結びつくのかが重要ではないか。経済学的な外部性では高等教育は必ずしも公共的である必要はないが,情報の非対称性のため,教育,特に高等教育は即時にその価値がわからない。したがって,市場的な交換ができないために,何らかの形で提供者に自律的な責任を負わせるという論理で,非営利的な性格を持つ学校法人制度が創設されたのではないか。
また,帰属収入で消費支出が賄えない大学法人が約120法人程あるが,このような法人が退場する場合に,誰が責任を持ち,どの観点からどの時点で退場を促すのが,社会にとってよりよい選択なのかを考える必要がある。
その場合,ガバナンスの問題としては2つある。1つは法人自身がそのような状況で客観的に判断できるのかどうか。オーナー型の私学の場合には法人自体が客観的に判断することができないケースが出てくる。もう1つは,そういった私学に対して政府または私学団体がどのように退場を促すのか。また,退場が適当であることの法的根拠をどこに求めるのか。これらの点についてはどのように考えるか。
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私立大学の公共性については,設置者の公共性と設置された大学の公共性の2通りがある。先ほど述べたのは設置された大学の公共性である。もう1つの設置者の公共性・公益性については,学校法人が公益法人たる財団法人から発展したものであり,それ故社会的責任があると考えられる。客観的な指標に基づき学校法人の経営状態が悪化していることが明らかになった場合,第一義的には事業団が経営相談等を行い,それでも改善しない場合には文部科学省が経営指導を行うという仕組みが今回の中間報告でも謳われている。
他業界で学校法人と類似しているのは醸造業である。国税庁は酒税を確保するため,許認可した企業の経営データを把握している。清酒の需要減により企業の淘汰が進んだ際,保有している経営データから企業を類型化することで政策を実行していった。同様に,学校法人に関しても,文部科学省や事業団が客観データを把握しており,監督官庁等としての指導・助言等の対応が重要だと考える。これは,対学生という視点から考えても重要である。学校法人内部からは経営改善という点では事後チェックが行われているが,客観的に見て社会的責任を果たしているかどうかについての認識は弱い。 |
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学校法人運営調査委員会が,どの程度経営改善等に対しての権限を持っているのか。また,事業団は,本来,国の補助金業務に関して作られた法人であるが,経営破綻を来す危険性がある学校法人の増加に伴い,経営改善等の機能に重点が移っているようだが,このことの是非についてどのように考えるか。
また,事前規制から事後チェックへという流れの中で認証評価制度が創設されたが,認証評価機関による財務,管理運営面の評価と学校法人運営調査委員会あるいは事業団が行おうとしている経営改善業務との関係はどうあるべきか。
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アフターケアと学校法人運営調査委員会の関係については,前者はあくまで設置の際の認可条件が整備されているかどうかについて,大学設置分科会,学校法人分科会双方が調査を行い,指導・助言を行うものである。一方,後者は,具体的に問題がある学校法人に対しては,文書で通知し,改善状況報告の提出を求めている。
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事業団が経営指導等を行うことについては,教育機関や学校法人の特殊性による問題があるのではないか。一般には,事業団に相当する機関が破綻処理を行った事例はない。しかし,高等教育機関は社会的に及ぼす影響が大きく,事業団が一定の役割を果たさざるを得ないのではないか。私学団体は護送船団方式に対応してできた組織であり,その役割を果たすのは困難である。現在,事業団は助言的な仕事に限定しており,法的に処理が必要な段階になった場合には,文部科学省が行うこととなっている。「学校法人再生機構」を創設すべきという意見もあるが,現在の方法の方がより円滑に進むのではないか。
また,専門職大学院の質保証の問題については,大学基準協会でも専門職大学院の評価基準について検討を進めているが,日独シンポジウムの結果を踏まえると,専門職大学院といえども法人サイドの基盤がしっかりしているかどうかが重要である。法人の評価を明確にしなければ,今後の大学評価は専門職大学院だけに限らず,一般の大学であってもプログラム評価が意味のないものになってしまうのではないか。
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情報公開に関して,情報共有についての意識が足りないのではないか。外部に対する情報開示と同時に,内部に向けても情報開示を行う必要があるのではないか。また,大学ガバナンスの法的保証の際には,情報開示を前提条件とすべきではないか。
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法政大学では,第三者機関の導入が功を奏しているとのことだった。国立大学でも経営協議会に外部有識者を参画させたり,一般企業でも社外取締役を積極的に活用している。しかし,そういうところでも,ガバナンスがあまりうまく働かずにコンプライアンス上の問題が起こっているのが現状である。「中間まとめ」では,人材の派遣と養成について,「学校法人を再生に向かわせる専門家であるターンアラウンドマネージャーやアドミニストレーターが必要」と提言しているが,具体的にはどのような人材を想定しているのか。また,そのような人材が市場に存在するのか。
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設置形態によって異なるのではないか。例えば,公立大学の場合,転勤のため,2年程で全く違う分野にいた職員が配属になるため,大学固有の職員がいない。一方,私立大学の場合,外部から人材を登用したり,理事や職員が大学経営・政策を扱う大学院に通学する等非常に熱心である。国立大学法人も現在は法人間の異動は困難であるようだが,職員の流動化がないと,このような人材市場も形成されない。人の流れができる仕組みを作る必要があるのではないか。例えば,その仕組みを私学団体が担うのも1つの方法である。
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ガバナンスとの関連で事前規制の重要性ということについてどのような考えを持っているのか。また,設置時に将来的な危機をどのくらい予想し得るものなのか。また,ガバナンスという視点に重点を置くと,予測にも変化が生じるのか。
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ガバナンスという場合に,大学には二重のマネジメント,それに対応した二重のガバナンス,そして最終的なトータルなガバナンスがある。つまり,法人内部のガバナンスと,教学面のガバナンスがあり,最終的には設置者の教学までを含めたガバナンスという構造になるのではないか。事前規制では,事前に教育・研究の質と財政基盤についてチェックをしているが,事前の質保証とガバナンスが関係が深いと考える。これは教授会の権限とも大いに絡んでいる。例えば,首都大学東京は教員の任期制を導入し,年俸制,教員評価も導入した。そうなると,権限が移譲するだけではなく,法人側の責任が非常に強くなる。人事権やカリキュラム編成権も法人側に移ると,学内や教授会に対する説明責任が非常に重要になる。また,教員審査についても外部委員を導入する等の仕組みが考えられるが,そこまでガバナンスのことを考えて質保証を行っている大学は少ない。これらを一般化することはなかなか困難であるが,既存の大学を前提に置いた場合,教学部門のガバナンスにどれくらい設置者が関与できるかが重要ではないか。
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学校法人は何のためにあるか。それは,設置する学校を健全に運営するためであり,全ての視点が教育と研究に向いていなければならない。最近,理事会に外部理事を登用するように言われているが,単に外部理事を登用したから理事会機能が向上するというものではない。
現在,私立大学で問題になっているのは教授会である。古くからある私立大学の多くは未だに教授会が全権を持っている。学校教育法上「大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置かなければならない」となっているが,「重要な事項」には人事権や予算編成権もあり,そこに学校法人の運営の難しさがある。その権限をどのように学校法人の理事会が握るかが重要である。権限を握るということは,それだけ学校法人や理事長の責任は重くなるが,責任体制を明確にしたガバナンス体制を構築することが重要ではないか。
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教授会における「重要な審議」とは何かについて,これまであまり議論はされてこなかったのではないか。この問題は,私立大学だけの問題ではなく,国公私を通じた大学全体の問題としてとらえていくべきではないか。本日の意見を踏まえ,今後も議論を続けていきたい。 |