(1) |
「『大学の質』保証の在り方」について,舘昭専門委員及び米澤彰純専門委員から意見発表があり,その後,質疑応答が行われた。意見発表と質疑応答の内容は以下のとおりである。
|
|
 |
アメリカの設置認可制度は州によって異なるが,日本の設置認可制度と比べて,どこが一番の相違点か。また,「FBIによる封じ込め作戦」とはどういうもので,今後,我が国でも応用可能なものか。
|
 |
日本とアメリカの設置認可制度の一番の相違点は,日本が教員の一人ひとりについて資格審査を行う点である。アメリカの設置認可制度では,日本のように審査を行うことはない。それは,アメリカの場合,学位と個人の実力とがある程度一致しているからではないか。
「FBIによる封じ込め作戦」については,いわゆる偽学位が全米単位で横行し,それを封じ込めるため,FBIが関与して摘発していった。現在も当時のノウハウをディグリー・ミル対策に役立てている。
|
 |
全米アクレディテーション基金を設立しようという話があるとのことだが,このような動きが出てきた背景は何か。連邦政府の奨学金政策やITの進展に伴う新たなディプロマ・ミルの影響か,それとも営利大学の参入の影響か。日本でもアメリカと似た状況が生じつつあるが,アメリカ連邦政府の動きの中で日本が参考にできる点はあるか。
|
 |
連邦政府の奨学金政策やITの進展の他にも,今回初めてリベラル・アーツ系のアクレディテーション機関が設立されたという動きがある。この背景には,アメリカの統合性を一層図ろうとする共和党系の動きが反映されているのではないか。日本では,自己点検・評価を行っているが,同時に指標づくりも重要である。指標の正確性や意義付けを重視した改革につながるのではないか。
|
 |
National Accreditation Foundationについて,海外の有識者に意見を聞いてみたところ,批判的な意見であった。一方で,評価者自身もアメリカのアクレディテーションの仕組みが十分機能していないこと認識しているようであった。また,アメリカの高等教育の競争力が低下し,多様な学生が入学しているにもかかわらず,彼らを十分支援できていないため,連邦政府として改善すべきだとの意見もあった。
|
|
|
【米澤彰純専門委員の意見発表】 |
|
現在のヨーロッパを理解する際,政府,大学,質保証評価機関,情報提供サービス機関等の立場や見方によってかなり異なっており,それぞれについて国,欧州,世界レベルで議論を行っていると捉えるべきである。
政府について,ヨーロッパの大学の質保証については,もともと日本の大学の設置認可に近い形で行われてきた。イギリスでは歴史ある大学に対して,国王がチャーターを与えて,これが学位授与権の根拠となっていた。一方,大陸の伝統的な大学は,税で賄われている国立ないし州立大学が殆どであり,法人化以前の日本の国立大学のように,政府が設置に関して直接予算責任を負っていた。これに対して,1990年前後からNew Public Managementの考え方に基づき,アカウンタビリティや,質の向上を目指した評価機関が各国につくられるようになった。さらに,平成10(1998)年のソルボンヌ宣言や平成11(1999)年にボローニャ宣言が出されており,後者は平成22(2010)年までに魅力ある欧州高等教育圏設立を目指している。この宣言の骨子は,欧州レベルでの学生と教職員の自由な移動を保障するために如何に単位や学位の互換性を高め,情報を共有していくかである。
国際機関については,ボローニャ宣言ではあくまで国家が主体となった動きであり,EUはパートナー的な立場に留まっていた。EUが推進してきたのは,ERASMUS短期留学制度であり,その中でも特にECTS(European Credit Transfer system)といわれる大学間の単位互換システムの導入に積極的な役割を果たしてきた。さらに,国際機関では,UNESCOやOECDの活動も重要である。UNESCOは,地域ごとに高等教育資格の相互認証に係わる地域基本協定を結んでおり,この欧州版であるリスボン協定には,オーストラリア,アメリカ,カナダも加盟している。OECDは,1990年代からIMHE(Institutional Management for High Education)等のプログラムを通じて国際的な質保証の問題に早くから取り組んでいたが,WTO,GATT等での国境を越えた教育サービスの議論の高まりを受けて,平成15(2003)年に教育開発研究所(CERI)が,各国の専門家を集め,質保証とアクレディテーションに関する国際研究プロジェクトを立ち上げている。さらに,UNESCOもグローバル・フォーラム等を通じて途上国を含めた議論を進めており,平成17(2005)年には「国境を越えて提供される高等教育の質保証に関するガイドライン」を発表するに至った。このガイドラインの最も重要な点は,政府,高等教育機関・提供者,学生団体,質保証・適格認定機関,学位・学修認証機関,職能団体の6者が共同してこの問題に取り組むべきと定めた点である。
質保証・評価機関については,これらもまた国際的な連携を強めており,現在,欧州の殆どの国には,何らかの質保証・評価機関が置かれている。これらは世界ネットワークである
INQAAHE(International Network for Quality Assurance Agency for Higher Education)に属している。また,この他ENQA(現在のEuropean Association)という欧州質保証ネットワークにもほぼ全機関が参加している。さらに,他地域でも独自のネットワークを形成しつつある。また,オランダやドイツなどの質保証機関が加盟するECA(European Consortium for Accreditation)という機関もある。これは,アクレディテーションの相互認定のみを目的としたプロジェクト型のネットワークである点が注目される。なお,INQAAHE,ENQA,ECAはそれぞれが相互に高度な互換性を有している。
ECAについて詳しく見ると,平成19(2007)年末までにアクレディテーションの決定を相互認定することを目指している。ドイツ,オーストリア,オランダ・ベルギー等の国々が中心となっている。今回のECAの議論は,具体性があるという点でかなり特徴がある。例えば,「機関の相互理解」,「プロセスの相互認定」,「結果の相互認定」,「決定の相互認定」というそれぞれの目的について時限が示された上で,具体的な道筋が示されている。ただし,これらが 機関別なのか,あるいはプログラム別なのか, 構成員の範囲をどうするかについては明確になっていない。特に,機関別かプログラム別かについては,大学の学術的な資格と職業的な資格の一致度が高いドイツ語圏やオランダ等の国々と,職業団体がプログラム別アクレディテーションの機能を担うイギリス等の国々とで考え方が異なっていく可能性がある。一方で,実際には,大学評価を巡って各国間で国内問題的なゆらぎが起きている。ボローニャプロセスと前後してヨーロッパに急速に広まったアクレディテーションの考え方には,各国それぞれの質保証や評価に係わる国内事情があり,必ずしも一致していない。
こうした中,質保証や向上を促進するもう一つの公共的な役割として,学位等についての情報提供サービスに対して,注目が集まっている。イギリスは,従来からあった高等教育質保証機構(QAA)が行う機関別オーディットを中心とする質保証事業のほかに,Teaching QualityInformation,National Student Surveyの3つを柱とする新たな質保証の枠組みを作ろうとしている。これとは別に,学位や資格の認定にかかわる情報サービスについて,国際協力を行うENIC‐NARICネットワークが,すでに昭和59(1984)年から活動を行っている。ENIC‐NARICのネットワークは,具体的に国外の学位資格証書が自国でどのような価値を持つのかについての情報提供を行っている。
国際的な高等教育市場に実質的に大きな影響力を持ち始めている大学ランキングについては,その信頼性を向上させようとする動きも見受けられる。5月末にドイツで専門家会議が開催され,透明性や安定性の確保等ランキングの道徳律のようなものを定めた「ベルリン原則」が発表された。原則自体に拘束力はないが,大学ランキングの世界でも公共性を意識した動きが出てきており,世界の主要な国際機関も大学ランキングの影響力の大きさを認識しているようである。
日本は,積極的に国際社会の形成に関与することで,イニシアティブを獲得することが必要があるのではないか。また,情報を国内外に積極的に発信することで,信頼され,魅力ある高等教育を形成する必要があるのではないか。
|
|
【米澤彰純専門委員の意見に対する質疑応答】 |
|
 |
近年,アクレディテーションがヨーロッパでも中心的な課題として議論されるようになっているが,その際のアクレディテーションの意味合いとはどのようなものか。例えば,情報公開によりヨーロッパ域内の重要性を高めるという話もあるが,それ以外に,相互の競争力を高めることが主要な課題になっているのか,あるいはアメリカのように,最低限の基準として悪質なものを排除していくという考え方になっているのか。
また,アクレディテーションについて,具体的な評価項目はどのようなものか。
|
 |
アクレディテーションそのものよりは,短期留学等を積み重ねていく中でヨーロッパの一体化を図り,その上で多様性を認めていくということが進められてきたのではないか。例えば,オランダ,ベルギー,スイス等の人口が比較的少なく,移動することで優位を保っている国は,アクレディテーションの前からヨーロッパレベルの評価機関を創設するという話題に積極的である一方,イギリス等は大陸でのアクレディテーションをめぐる議論に対して関心が薄い。このように,国によって議論に対する温度差は大きい。ECAが目指しているのは国を超える職業的移動を促進するための資格の国際化ではなく,あくまで学術的な国際的通用性を念頭に置いた「学位」の相互認定を目指すものである。
相互の競争力の向上については,これがアクレディテーションに直接関わるとは考えていない。次に,悪質なものを排除する点について,特に東欧からドイツに至る中央ヨーロッパにおいて,様々な私的な高等教育機関やサービスが出現してきたことが,この地域でのアクレディテーションの普及の一因であると考えている。
具体的な評価のプロセスについては,ほぼ日本の認証評価と同じである。また,Code of GoodPracticeは,日本の認証評価機関の認証基準に当たるものではないか。最も端的でわかりやすい例はECAのものであるが,同様なものはENQAやINQAAHEでも決められている。
|
 |
大学の学位の条件や単位の認定権をどのように設定するかは,それぞれの大学や国の権限に託しているため,国によって考え方が違うのはある意味当然である。また,私的部門の有無が重要な意味を持っており,国が全面的に責任を負っている国では,アメリカ的なアクレディテーションとは違った考え方になる。そこで,国によって状況が異なってくる。その際,なぜ国際的な動きが出てきたのか。ヨーロッパの場合,EUが成立して域内で学生が流動化し,学位の同等性を確保しなければ学生の流動化が起きないという問題があり,そのためお互いに国際的なネットワークをつくろうという動きが起こったのではないか。
また,国際的な学生の流動はEUだけではなく世界中でも起こっており,同様に学位の同等性をどのように担保するかが問題になってくる。そうすると,学生の国際的な流動化や大学の国際化には国際的なネットワークづくりが不可欠となるのか。
|
 |
1990年代にできた大学の評価機関の在り方は,基本的には,アクレディテーションとは異質もので,むしろ日本の大学評価・学位授与機構ができる直前の大学評価機関の考え方,つまり公的な資金の支出を受ける大学や高等教育機関を査定するという考え方によってできたものだと理解している。一方,当時からオランダを中心に学位の相互認証を目指す動きはあった。しかし,この流れは一つの筋ではなく,単位と学位の総合情報サービスの発達やEU内での短期留学に対する単位互換の問題についても考える必要がある。その中で,平成12(2000)年のボローニャ宣言を通じて現在のアクレディテーションの議論となったのではないかと考えられる。また,ドイツでもこの前後にすでにアクレディテーションの議論があり,事前評価か事後評価かという観点からも議論があったようである。
また,ヨーロッパから人が流出しないよう,魅力あるヨーロッパをつくっていくためにはどうすれば良いかという議論が大きな要素として存在している。その中で,特にイタリアのように,極端に学生の在学期間が長かった国などはボローニャ・プロセスにより,学士3年,修士2年という原則が適用されることにより,大きな影響を受けたと考えられる。
|
|
(2) |
事務局から,「諸外国における大学の設置認可,質保証制度の状況」及び「大学の質保証に係る国際的な情報ネットワークの構築」について説明があった後,自由討議が行われた。自由討議の内容は以下のとおりである。
|
|
 |
我が国の質保証についての現状が,非常に立ち遅れているということを痛感した。現在,国際的な質保証ネットワークをどうするかという議論もあるが,それ以前の問題として,国内の質保証の仕組みをどのように機能させていくかについての議論は始まったばかりである。認証評価制度についても,動き始めたばかりであり,全ての大学が評価を受けるまであと5年もかかるため,我が国の評価システムが国際的なレベルに達するにはまだ時間がかかるだろう。一方,それ以前の問題として,より積極的に大学の教育研究に関する情報提供を行う必要がある。国,評価機関,個々の大学が連携しながら適切に情報提供を行わなければならない。大学ランキングに対しても,どのように対応をすべきか,大学も国も方針がまだないのではないか。ランキング自体を否定するということではなく,ランキングに十分に対応できるだけの情報を提供していくことが必要ではないか。
|
 |
国際的な情報の提供では,例えば,専門情報誌に情報広告を掲載するに当たり,表記をどうするか,あるいは分類をどうするかという,より現実的な問題が生じる。そして,それらの情報をどこまで提供するか,それに対してどこまでの責任を負うかという問題がある。国際化が進めが進むほど,これらの問題は避けて通れなくなる。また,認証評価や質保証の問題を考える際には,同時に言語の問題も検討しなければいけないのではないか。
|
 |
アクレディテーションも第三者評価も基本的には,目的理念があり,学生がその目的を達成できているか,あるいはステークホルダーの要求を満足するような学生が育っているかが基本となっているのではないか。しかし,それは大学という組織のシステムを最低限保証するに過ぎず,誰が質を保証するのかという問題が生じる。例えば,大学ランキングのように公表されているもので相対的に質を保証するという考え方もあれば,単位数を共通化し量的基準から質を保証するという考え方もある。
工学分野ではJABEEがABETの方法を参考にしながらアクレディテーションを行っているが,それを欧州のボローニャ・プロセスの量的な部分と合わせながら,質的な基準をどうするかという議論すべきではないか。また,日本でもアメリカのように様々な尺度でのランキングと比較することで質的な基準を明確にする方法について議論すべきではないか。
|
 |
情報ネットワークの発信については,積極的にかつ戦略的に行う必要がある。質保証について,日本には事前チェックである設置認可の長い歴史があるが,このことが情報として国内外に対して発信され浸透しているかというと必ずしもそうではない。認証評価に関しても,政府や各大学が積極的に情報発信していくべきではないか。また,戦略的な情報発信のためにも国際的な視点が重要ではないか。
|
 |
評価の問題は国内問題と国際問題と2つあり,国内問題以上に国際的な問題が重要性を増してきている。日本は,この数年の間に従来のヨーロッパ的な設置認可を中心とした仕組みからアメリカ的なアクレディテーションの仕組みに移行することで認証評価の仕組みを作ったが,このことが国際的にどの程度認知されているのかは疑問である。事前・事後のどの部分で質の担保しているのかを世界に対して発信しなければならない。
一方,日本の仕組みが本当にアメリカ的になったのかについては疑問がある。現在,認証評価機関は5つあるが,これらはアメリカのリージョナルな認証評価機関とは性格が異なる。今後も認証評価機関が設立され,それぞれの機関が全ての大学・短大を評価対象にできるという特異な仕組みを対外的に理解してもらわないと,国際的に様々な問題が生じるのではないか。アメリカでは,評価機関を統一していく議論もあるようだが,日本のように認証した後,自由に評価を行うことが国際的に通用するのか。
|
|
(3) |
事務局から,「教育基本法案の概要」について及び経済財政諮問会議が取りまとめた「グローバル戦略」について報告があった。
|
(4) |
事務局から,「OECD高等教育政策レビューの概要」について報告があった。
|
|
 |
OECD調査団からは,加盟国は知識基盤を強固なものとするため,大学院レベルの教育を強化し,国際競争に備えているという状況であるにもかかわらず,日本は,高等教育に対する公財政支出が極端に少ないのではないかとの指摘があった。国として,高等教育の需要を認識し,高等教育に対する公財政支出を確保しなければならないのではないか。
また,大学院生が自分で授業料や生活費を支払い,奨学金も十分に受けられない現状については,日本特有の事情であり,解消しなければならないと考える。
|
 |
OECD加盟国中,高等教育に対する公財政支出の対GDP比が下から2番目であり,この状況が改善されるよう,政策に反映させていかなければならない。
|
|
(5) |
事務局から,「大学等の教育組織の整備に係る学校教育法の一部を改正する法律等の施行について(通知)」及び「我が国の大学の競争力強化と国際展開」について報告があった。
|