答申素案

平成20年1月15日

7.今後の行政等の在り方−生涯学習・社会教育の再構築

(1)国、都道府県及び市町村の任務等の在り方

(国、都道府県及び市町村の任務等の在り方)

  •  今後、目指すべき施策を実施する上で、国や地方公共団体等の新たな任務や制度上より明確に位置付けるべき任務等について検討を行うことが求められる。
  •  生涯学習振興行政を推進するに当たり、社会教育行政はその中核的な役割を担うものである。このことを前提に、また、改正教育基本法第3条の「生涯学習の理念」が新設されたこと等を踏まえれば、社会教育法第3条に規定されている国及び地方公共団体の任務について、国民一人一人がその生涯にわたって行う学習を幅広く支援することや、個人の学習機会を充実することのみならずその成果を活かし得る環境を醸成することを、社会教育行政の任務として明確に位置付けることが必要である。
  •  また、教育行政においてこれまで以上に関係者の連携・協力が必要となっている実態を踏まえ、さらに改正教育基本法第13条において、子どもの健全育成をはじめとする教育の目的を実現する上で大きな役割を担っている学校・家庭・地域住民等の三者が、相互に連携・協力に努めることについて新たに規定されたことを考慮し、三者の連携について社会教育行政の任務として明確に位置付けることが必要である。
     これら三者の連携促進にあっては、当然のことながら、社会教育のみに大きな比重がかかるものではないが、社会教育は内容や手段等に広がりがあり、弾力的な手法によりこれら三者の連携に当たって積極的な役割を果たすことが期待されるものである。このため、このことを明確にすることは、社会教育行政のより積極的な展開を推進する上で意義深いものである。
  •  家庭教育支援については、家庭の教育力の低下が指摘されている中で、情報や学習の機会の提供の重要性が高まっており、家庭教育支援をより充実させることが求められている。このことから、家庭教育支援を社会教育行政の重要な任務としてより明確にすることは重要である。また、改正教育基本法第10条第2項に、国及び地方公共団体による家庭教育の支援の手段として保護者に対する学習の機会の提供とともに情報の提供が規定されていることから、家庭教育に関する情報の提供を社会教育行政の任務として明確に位置付け、市町村による取組の推進を図ることが必要である。
  •  なお、各個人の学習の成果が社会において実際に活用され、社会教育やそれを通じた学習の意義を実感できるような環境を整備することは生涯学習の理念の実現の上で重要である。また、地域の教育力の向上のために、学校・家庭及び地域が協力した地域ぐるみの教育活動等の重要性は高まっており、社会教育が積極的に地域における子どもたちの健全育成等を支援することが求められているのは前述のとおりである。したがって、地域における教育活動や学校を支援する活動等、地域住民が学習の成果を生かして活動する機会の提供を社会教育行政の任務として明確に位置付けることは、このような取組を推進する上で必要である。特に、これまでも学社融合等の重要性については指摘されてきたものの、学校の支援等についてはこれまで、学校教育行政との関係で社会教育行政の役割が必ずしも明確にされてこなかったが、社会教育行政が積極的に担う役割があることを明確にすることは、地域における取組を制度的に後押しする上で意義があるものであり、今後、社会教育行政の新たな積極的な展開を図っていく上で極めて重要である。
  •  このほか、教育委員会の事務の見直しについては、改正教育基本法第12条に、国及び地方公共団体による社会教育の振興の手段として「情報の提供」が追加されたことを踏まえ、教育委員会の事務に社会教育に係る情報の収集、整理及び提供に関する事項を社会教育行政の任務として明確に位置付けることが必要である。
     さらに、情報化社会の進展に伴い、情報リテラシー(情報及び情報伝達手段を主体的に選択し、活用していくための個人の基礎的な資質)に関する学習、情報格差(デジタルデバイド)への対応、有害情報対策等が必要となっている状況に対応し、教育委員会の事務の見直しを行う際には、情報の活用に関する学習の機会を提供するための講座の開設等の事務を社会教育行政の任務として明確に位置付けることが求められる。これにより、情報リテラシーの向上、情報格差の解消や社会の有害環境から子どもたちを守るための有害情報対策の充実を図ること等、社会の要請に応じた施策が講じられることが期待される。

(生涯学習振興行政・社会教育行政の実態把握の在り方)

  •  生涯学習の理念の下、より積極的に行政を展開していくためには、生涯学習振興行政・社会教育行政に係る関連施策の基礎データの的確な整備を行うことは極めて重要と考えられる。したがって、社会教育調査等の関連統計調査について、都道府県・市町村の教育委員会だけでなく首長部局の協力も得ながら、生涯学習・社会教育の全体像を把握し、施策に関係する基礎データを整備する観点から改善・充実を図ることが必要である。

(2)社会教育を推進する地域の拠点施設の在り方

  •  より積極的に取り組むことが望まれるこれらの新たな任務も含め、生涯学習振興行政・社会教育行政が今後、地域社会の教育力を向上するための施策や国民一人一人の学習活動を支援するための施策を推進するにあっては、地域における様々な施設を地域の資源として活用することが望まれる。その中でも特に、公民館、図書館、博物館、青少年教育施設等の社会教育施設は、社会教育行政の拠点として積極的に活用される必要がある。
  •  家庭・地域の教育力の低下についての指摘や社会の要請に応じた学習機会の提供等へのニーズの高まり等を背景に、例えば、地域における課題等に関する学習活動としての場や子どもたちの学校外の居場所、自主的な学習の場、家庭教育支援の場等として、公民館、図書館、博物館、青少年教育施設等の社会教育施設は、社会教育行政を推進する拠点施設として、その機能を充実させることが求められる。また、改正教育基本法第12条においても、国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置等によって社会教育の振興に努めなければならないと改めて規定されたところである。
     これらの社会教育施設が、これまで社会教育行政の推進において果たしてきた役割を引き続き果たしていくことは当然であるが、社会の変化に対応し、新たな各個人や社会全体のニーズに積極的に応えていくことが求められている。
  •  例えば、公民館においては、各地域の実情やニーズに応じて、民間等では提供されにくい分野の講座開設や子育ての拠点となる活動を積極的に行うなど、「社会の要請」に応じた学習活動の機会の量的・質的な充実に努め、その成果を地域の教育力の向上に生かすことが求められる。また、関係機関・団体と連携・協力しつつ、地域の課題解決に向けた支援を行い、地域における「公共」を形成するための拠点となることが求められる。
  •  また、図書館についても、国民が生涯にわたって自主的な学習を行う上で、その果たすべき役割は極めて大きい。図書館が従来より担ってきた役割、すなわち、住民の身近にあって、図書やその他の資料を収集、整理、保存し、その提供を通じて住民の個人的な学習を支援するという役割に加え、特に近年は、地域が抱える課題の解決や医療・健康、福祉、法務等に関する情報や地域資料等、地域の実情に応じた情報提供サービスを行うこと等も求められている。図書館は、いわば地域の「知の拠点」であり、その質量両面における充実が図られるべきであり、特に図書館未設置の市町村にあっては、住民のニーズを踏まえ、今後速やかに図書館の整備に向けた取組に着手することを期待したい。改正教育基本法はもちろん、旧教育基本法にあっても、地方公共団体は図書館等の設置により教育の目的の実現に努めなければならないとされていることを想起すべきである。
  •  同様に、博物館は、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料の収集・保管、調査研究、展示、教育普及活動等を通して、社会に対し様々な学習サービスを提供してきており、人々がその興味関心やニーズに応じて学習を行っていく上で、その果たす役割は大きい。
     特に近年、地域文化や生涯学習・社会教育の中核的拠点としての機能や子どもたちに参加・体験型の学習を提供する機能等を高めていくこと等が期待されており、自己点検・評価の結果や地域住民等の意見を踏まえた展示の不断の改善・充実に努めるとともに、一般的には難解な印象が持たれがちな現代美術や科学技術の分野等の専門的な展示内容をわかりやすく伝えるため、インタープリター(解説員)やサイエンスコミュニケーター等を養成・活用する等の取組が求められる。
     また、学芸員等の交流を含む広域的な地域連携や例えば自然史博物館と動物園、歴史博物館と水族館、美術館と植物園等、館種を超えたネットワークを構築する等、多様な博物館同士が協力することによって、新たな可能性を追求していくことも重要である。
  •  また、図書館や博物館が家庭教育の支援のための活動を一層充実させるために、家庭教育の向上に資する活動を行う者を図書館協議会や博物館協議会の委員にできるよう法令上明確に定めることが考えられる。
  •  さらに、少年自然の家や青年の家をはじめとする青少年教育施設は、これまでも青少年を対象に、体験活動を中心とする様々な教育プログラムの実施や、青少年が行う自主的な活動の支援などを実施し、青少年の健全育成に大きな役割を果たしてきたところである。昨今、青少年の社会的自立の遅れ等の問題が指摘される中、青少年が自立への意欲を持ち行動する上で必要な資質・能力の多くは自然体験を通じて育成されることがこれまでの地検により明らかになっており、青少年教育施設の果たす役割の重要性は高まっている。青少年教育施設がこうした要請に応えた対応を行うよう、関係者の連携による積極的な取組が求められる。
  •  これらの社会教育施設のほか、地域の実情に応じて、学校施設や文化、スポーツ施設、首長部局所管の施設等の積極的な活用を図ることや、高等教育機関や企業所有の施設等で専門性の高い学習を提供できる施設との連携等、地域における様々な施設を生涯学習振興行政・社会教育行政の拠点として活用していくことも重要である。
  •  地域の教育課題に対応するために、関係者・関係機関で横断的なネットワークを築き、そのネットワークに特定の機能を持たせることにより、生涯学習振興行政・社会教育行政を推進していくに当たっては、社会教育施設等が地域のネットワークの拠点となることが求められる。その際に、社会教育施設が「調整者(コーディネーター)」の役割を果たし、地域における民間施設等を含む他の施設との積極的な連携を促進していくことが特に求められる。
  •  なお、これらの社会教育施設が自らの運営状況に対する評価を行い、その評価結果に基づき課題等を把握し、組織的・継続的に施設の運営の改善を図ることにより、その水準の向上を図るよう努めることは重要であり、計画・実践・評価・改善のサイクル(いわゆる「PDCAサイクル」)の着実な実施は、社会教育施設についても求められるものである。またその情報が地域住民をはじめとする関係者に情報提供されることは、地域における連携を促進するものである。
     このことから、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設について、それぞれが実施する教育活動等の運営状況に関する自己評価、それに基づく改善を図る努力義務及び地域住民等の関係者に対し情報提供の努力義務を課すことが求められる。なお、自己評価を行う際は、可能な限り、外部の視点を入れた評価が望まれる。

(3)生涯学習振興行政・社会教育行政の推進を支える人材

  •  社会の変化に対応するための国民の学習機会の充実を図り、また社会全体の教育力を向上させる取組等を推進するに当たっては、行政の専門的職員がその中核的役割を果たすことが期待されているのは言うまでもない。また、それらの活動の実施に当たっては、地域の様々な人材との連携・協力が不可欠である。
  •  このような中、行政の職務に従事する専門的職員である社会教育主事、司書、学芸員の在り方について見直すべき点がないか検討することや、社会教育団体等のNPO、地域における様々な学習活動を支援する人材や他の行政分野の職員等も含め、これらの地域の人材全体でどのように国民の学習ニーズを支えていく仕組みを築いていくかが課題となっている。

(社会教育主事の在り方)

  •  社会教育主事は、社会教育法に基づき都道府県及び市町村教育委員会に置かれる社会教育に関する専門的職員であり、都道府県及び市町村の社会教育行政の中核として、地域の社会教育行政の企画・実施及び専門的技術的な助言と指導に当たることを通し、人々の自発的な学習活動を援助する役割を果たしてきた。その職務は「社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える」と規定されている。
  •  社会教育主事の具体的な役割や機能としては、地域の学習課題やニーズの把握・分析、企画立案やその企画の運営を通じた地域における仕組みづくり、関係者・関係機関との広域的な連絡・調整(コーディネート)、当該活動に参画する地域の人材の確保・育成、情報収集・提供、相談・助言等が挙げられるが、社会の状況に対応し、国民の増大かつ多様化する学習ニーズに応えるために社会教育が果たすべき役割が増大する中、社会教育主事が果たす役割や重要性も従来に増して大きくなっている。
  •  今後、社会教育主事については、地域において関係者が連携して生涯学習振興行政・社会教育行政を推進するに当たって、社会教育関係者や実施する活動において関係する地域の人材等の連携のための調整を行い、さらに関係者の具体的な活動を触発していく調整者(コーディネーター)として、積極的な役割を果たすことが期待されている。
  •  子どもがこれからの社会を生き抜く上で必要となる「生きる力」を身に付けるための学習が学校教育を中心に行われることは論を待たないが、学校、家庭、地域住民等の連携が求められる中(改正教育基本法第13条)、社会教育としてもそれを支援していくことが、今、求められている。また、社会全体の教育力の向上のために、学校、家庭、地域住民等の連携がこれまで以上に求められている。これまでの学社融合の必要性についての指摘も踏まえつつ、社会教育行政のより踏み込んだ積極的な展開を実現するため、学校・家庭・地域住民等の連携に関する事務について、学校が地域住民等の協力を得て教育活動を行う場合は、社会教育主事が学校長の求めに応じて助言することができることを社会教育主事の職務として明確に位置付けることが有効と考えられる。

(司書等の在り方)

  •  図書館に置かれる専門的職員である司書及び司書補には、図書館等の資料の選択・収集・提供、住民の資料の利用に関する相談への対応等の従来からの業務とともに、地域が抱える課題の解決や地域のビジネス支援、子どもの学校外の自主的な学習の支援等の新しいニーズに対応し、地域住民が図書館を地域の知的資源として活用し、様々な学習活動を行っていくことを支援していくことが求められている。そのため、司書及び司書補が、時代の要請に応じ、住民の学習ニーズに適切に対応できる能力を養うため、その資格取得要件の見直しや資質の向上を図るための研修の充実等が必要との指摘がなされている。
  •  このため、具体的な方策の一つとしては、これまで司書の資格要件として大学において履修すべき図書館に関する科目について法令上明確に定めること等が考えられる。なお、司書等が現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材として育成されるよう、司書講習及び大学における司書養成課程等において履修すべき科目、単位についての具体的な見直しについては、今後引き続き検討する必要がある。
  •  さらに、司書補の資格要件については、幅広く多様な人材を育成する上で、その資格要件を緩和することが適当であるとの指摘がなされているところである。この観点から現行制度を見直す場合に、同様の資格試験において受験資格として高等学校卒業程度認定試験の合格者を対象としていない例は少ないことからも、司書補についても高等学校卒業程度認定試験の合格者等も対象とすることが適当である。
  •  このほか、多様化、高度化する人々の学習ニーズや地域における課題に対応し、専門的な知識・技能の習得と資質の向上を図るために、司書及び司書補の研修の充実は重要である。このため、国、都道府県、図書館関係団体等でそれぞれ実施されている研修の有機的連携を図り、体系的・計画的に研修体制の整備を図っていくことが必要であり、任命権者のほか、文部科学大臣及び都道府県が司書及び司書補の研修を行うこととする旨の規定を法令上設けることが考えられる。
  •  また、図書館も自らの事業として、司書研修や研究会の実施に努めるとともに、図書館等における学習成果を活用したボランティア等の図書館に関する人材の養成及び研修等を積極的に行うことも重要である。

(学芸員等の在り方)

  •  博物館に置かれる専門的職員である学芸員は、資料の収集、保管、調査研究、展示、教育普及活動等の多様な博物館活動の推進のために重要な役割を担っており、今後、博物館が人々の知的関心に応える地域文化の中核的拠点として、人々の生涯学習の支援を含め博物館に期待されている諸機能を強化していく観点から、学芸員及び学芸員補の資質の向上が重要であり、その養成及び研修の一層の充実が求められている。
  •  これに対応する具体的な方策として、多様化、高度化する人々の学習ニーズや現代的課題に対応し、専門的な知識・技能の習得と資質の向上を図るため、学芸員及び学芸員補の研修について、その重要性についてより明確にするため、任命権者のほか、文部科学大臣及び都道府県が研修を行うこととする旨の規定を新たに法令上設けることが考えられる。また、博物館も自らの事業として、学芸員研修や研究会等の実施に努めるとともに、博物館等における学習成果を活用したボランティアや博物館実習を行う大学生等の博物館に関する人材の養成及び研修等を積極的に行うことも重要である。
  •  学芸員及び学芸員補の養成については、大学等における養成課程において、専門的な知識・能力に加え、より実践的な能力を身に付けるための教育を行うことが必要である。近年、国際的な博物館間の交流や相互賃借・協力等が進展している状況を踏まえ、学芸員が現代的課題に対応し、国際的にも遜色のない高い専門性と実践力を備えた質の高い人材として育成されるよう、大学における学芸員養成課程等において履修すべき科目、単位についての具体的な見直しを含め、今後その在り方について検討が必要である。

(社会教育に関する専門的職員について)

  •  このほか、社会教育主事、司書、学芸員について共通に求められる知識や資質を共通科目を通じて身に付けられるようにするべきではないかとの指摘がある。これについては、他方で、これらの専門的職員については、それぞれ勤務する場所も専門性も異なるとの指摘もなされている。また、現在も養成における共通科目として「生涯学習概論」が設けられているが、社会教育主事、司書、学芸員の3つの資格が社会教育に係る専門的な資格として共通する部分も多いことにかんがみれば、例えば、司書や学芸員となるために社会教育主事等の社会教育に係る専門的職員としての実務経験をj評価できるようにすること等が適当と考えられる。
  •  また、社会教育主事、司書、学芸員等の社会教育に関する専門的職員について、「社会教育士」や「地域教育士」のような汎用資格を設けることを検討することについて指摘がなされている。これについては、各地域において社会教育に関わる専門的職員が社会教育を推進するに当たり、各専門的職員にはその地域の実情やニーズを広く吸い上げるとともに、それぞれの分野で高度化するニーズ等への対応も求められていること、また、教育サポーター等各地で活用されている人材制度の現状等を踏まえ、社会教育に関わる専門的な人材の在り方全体を今後どのように考えるかということとあわせて検討する必要がある。

(地域の人材・専門的職員との連携等について)

  •  各地域における学習ニーズに応え、社会教育を推進するに当たっては、社会教育主事が行政として、企画立案・事業の運営等を通じた地域における仕組みづくりを行い、当該地域における広域的な調整機能を担うことにより、中核的な役割を担うのは当然であるが、各地域において、関係者・関係機関が連携し、具体的な学習活動の場を提供・実施していくに当たっては、個々の活動を実施するためのコーディネートをする者、実際の学習活動を講師等として支援する者、学習者の需要と供給を結び付けるマッチングのための相談や支援を行う者等、様々な地域の人材との連携・協力が必要である。地域における学習活動の支援や社会全体の教育力の向上を図るためには、行政の専門的職員のみならず、地域の人材が行政の専門的職員と連携し、学習活動が円滑に行われるように地域全体で仕組みを築く必要がある。
  •  様々な教育課題や地域の課題がある中、地域の学習ニーズの高まりに応えるため、各地域ではそのための人材の確保に苦慮し、また厳しい財政状況を背景に人材育成や研修等のための予算を十分に確保できない状況が見られる。一方、各地域において、多様かつ増大する学習ニーズに応え、継続的にこれらの学習活動を支援する人材を確保し、育成するシステムが求められている。これについては、例えば、各地域において学習ニーズに応じた人材バンクや需給のマッチングを行うセンター等の機能を置くことにより、継続的に人材を確保することが考えられる。これらについては、例えば、これまで学習支援の人材等に関する広域的な情報提供システム等が構築されてきたところであるが、その一層有効な活用について検討を進めることが必要である。また、各地域においては、学校教育支援、家庭教育支援、子どもたちの体験活動の支援等に関わる地域の人材の総合的な把握に努め、その活用のための仕組みを確立する必要がある。その際、これらの人材バンク等が地域全体に広く周知されたものとなることが重要であり、登録者の活動の場が十分確保されるなど、身近な地域の人材が継続的に活かされる仕組みとすることが重要である。また、地域におけるボランティアセンターとの連携も重要である。
     人材の確保や育成については、その時々の事情に合わせて対応するだけではなく、より中長期的な視点に立った地域の人材確保・育成のための仕組みを築くことが急務であり、そのためにこれまで実施されてきた国や地方公共団体の様々な事業の成果等の蓄積を活用することが有効であると考えられる。

(4)NPO、民間事業者等と行政の連携の在り方

  •  生涯学習振興行政・社会教育行政においては、様々な学習機会の提供や学習活動の実施等において、NPO、中間支援組織及び民間事業者等の民間団体の果たす役割が大きく、地域の実態等に応じて行政が民間団体等との積極的な連携を進めることが大切である。
  •  民間団体との連携については、国及び地方公共団体で現在実施されている様々な施策を講じることにより、各地域における連携・ネットワークが築かれていき、その過程においても深まっていくものと考えられるが、そのような地域における民間団体等との連携の蓄積を行政として目的意識を持って計画的に行っていくことが必要である。
  •  このような民間団体との連携に当たっての行政の役割は、それらの自主的な民による活動を側面から支援しつつ連携し、持続可能な活力を生み出していくことであると考えられる。その際の支援としては、例えば、国においては、サービスの受け手である国民に対し、それらのサービスに対する一定の質や信頼が得られるよう基準づくりを行うことにより、民間団体が活動しやすくなるような環境づくりを行うことや、自らも広く国民に情報提供を行うとともに、民間団体等による情報提供が積極的に行われるような方策を講じること、さらには施策を講じる際に、様々な行政機関と民間団体との連携が促進されるよう調整者(コーディネーター)としての機能を果たすこと等が考えられる。また、これらの行政としての役割は、都道府県や市町村においてもその実情において期待されるものである。
  •  また、このようなNPO、民間事業者等と行政の連携については、NPOや民間事業者等の自主的な活動によるものでもあり、今後連携が進んだ際には、地域による格差が生じていくことも考えられる。一般的には、民間団体等が多く存在する都市部では活発な連携が促進されることが可能であるが、そもそもこれらの民間団体等が少ない地方においては、地域住民等のニーズに十分に対応することが困難な場合も多い。このことから、行政の役割として、国においては国民の教育の機会を保証する観点からも、地域に配慮した方策についても今後検討していく必要がある。
  •  なお、民間団体等も含めた地域における教育力を向上させるための様々な取組においてその財政基盤の強化の必要性に対する指摘等もあるが、これについては例えば各地域において地域の教育力向上のための基金等を創設し、地域における企業等も財政的に貢献できるような仕組みをつくること等が考えられるとの指摘もある。このような仕組みは、同時に地域の関係者の意識改革にもつながり、持続可能な仕組みを構築するものと考えられる。

(5)これからの生涯学習振興行政・社会教育行政を推進するための地方公共団体における体制について−教育委員会と首長との関係等

  •  地方公共団体において生涯学習振興行政・社会教育行政を推進していく上で、地方公共団体の任務の内容や役割等を明確にすることとともに、それらを推進するに当たって、地方公共団体における教育委員会と首長との関係を明確にし、それぞれがその役割を果たし積極的に連携を図っていくことが必要である。
  •  地方公共団体の長と教育委員会の関係については、平成17年の中央教育審議会答申(「新しい時代の義務教育を創造する」)において、「今後、地域づくりの総合的な推進をはじめ、他の行政分野との連携の必要性、さらには政治的中立性の確保の必要性等を勘案しつつ、首長と教育委員会との権限分担をできるだけ弾力化していくことが適当である。」との基本的な考え方が示されている。
     その上で、「教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く)、スポーツ、生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)は、地方自治体の判断により首長が担当することを選択できるようにすることが適当である。」と提言されている。
  •  また、平成19年の中央教育審議会答申(「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」)においても、「教育における政治的中立性や継続性・安全性の確保、地方における行政執行の多元化等の観点から、全ての地方自治体に設置するなどの現在の基本的な枠組みを維持することが必要である。その上で、地方分権の理念を尊重しつつ、教育委員会の役割の明確化を図るとともに、その機能・体制を充実し、それぞれの地域の実情に合わせた弾力的な運用が可能となるよう制度改革を図ることが適当である。」という基本的な考え方が述べられており、その上で、具体的には「教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く。)、スポーツ(学校における体育を除く。)に関する事務は、地方公共団体の判断により、首長が担当できるものとすること」が適当であると提言されている。
  •  このようにこれまでの本審議会の答申においては、生涯学習支援に係る行政については、首長が行うことを可能としつつも、社会教育に関する事務は教育委員会が担当することが適切であることが示されている。
  •  生涯学習振興行政の固有の領域が、生涯学習の理念を実現させるため、社会教育行政や学校教育行政等の個別に実施される教育に係る施策や、その他首長において実施される生涯学習に資する施策等について、その全体を総合的に調和・統合させるための行政であることにかんがみ、生涯学習振興行政は、その中核を担う学校教育や社会教育行政を担う教育委員会と、学校教育・社会教育以外で生涯学習に資する施策等を担う首長とが、それぞれの役割や機能が確保されることを前提に連携して進められるべきものである。その際、教育委員会及び首長が3.で述べた目標の共有化を図っていくことも必要である。
  •  前述の「生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)」については地方自治体の判断により首長が担当している例もある。しかしながら、社会教育に関する事務については、これまでの本審議会の答申等で指摘されている教育における政治的中立性や継続性・安定性の確保等の必要性のほか、前述のとおり学校、家庭、地域住民等の連携の重要性が高まっている中、学校教育と社会教育とがより密接に連携していくことが不可欠となっていることにかんがみると、教育委員会が所管することが適当であると考えられる。また、地方公共団体の長と教育委員会の関係については、教育委員会の自主性と職務権限の独立性を侵害しない限度において地方公共団体の事務の能率的処理等を促進する補助執行等の仕組みが既に存在しており、弾力的な事務の執行を行うことは可能となっている。
  •  なお、社会教育施設の所管に関しては、地方公共団体の長へ改めてもよいとする指摘がある一方で、社会教育施設は多様で自主的な教育活動を助長することを目的とするものであり、政治的中立性の確保等の観点から教育委員会の所管が望ましいという指摘もある。社会教育施設の管理及び整備に関する事務については、これらを踏まえ、学校施設の管理及び整備に関する事務について地方教育行政及び運営に関する法律の特例が構造改革特別区域で認められたこと等を考慮して検討する必要がある。
  •  このほか、生涯学習振興行政と社会教育行政との関係に関連して、地方公共団体の組織等についていずれを組織の名称とすべきか分りにくいなどの声も聞かれるが、これについては、それぞれの地方公共団体が、6.(2)に述べた概念整理に基づき、生涯学習振興行政における各施策の総合調整機能等を強調してその組織の名称とするか、あるいは社会教育行政が生涯学習振興行政の中核を占めることから、社会教育を組織の名称とするかなど、各地方公共団体の実情に応じて決定されるべきものである。

(地域の実情に応じた手続きの弾力化)

  •  地方公共団体が社会教育関係団体に対して補助金を交付する際に、社会教育法第13条は、社会教育委員の会議の意見を聴くことが必要であるとしている。この手続きについては、同条が補助金の配分と使途に慎重を期する目的をもって設けられた規定であることを考慮する必要があるが、その趣旨を十分に確保することが可能である場合は、社会教育委員の会議への意見聴取を原則としつつも、各地方公共団体の多様な実態を踏まえた弾力的な対応が可能となるような措置を構ずることが適当である。

(6)これからの生涯学習振興行政・社会教育行政を推進を支援するための国の教育行政の在り方)

  •  これからの生涯学習振興行政・社会教育行政の効果的な推進に当たっては、関係者・関係機関の連携を図り、そのためのネットワークを構築する視点が重要である。現在、国及び地方公共団体で実施されている事業等においてもこのような視点が重視されており、様々な関係者が連携し、各教育課題や行政課題へ対応するための地域における機能・仕組みづくりが行われている。
  •  このような国の事業の実施等を通じた地方公共団体におけるいわば「面」としての、各機能に応じた仕組みづくりに対応して、国の教育行政においてもこれまでの縦割りの個別の分野や施設等を対象としてではなく、横断的な「機能」に対応して柔軟に連携を支援していくための仕組みを今後検討していく必要がある。例えば、社会教育行政と学校教育行政が連携を効率的・効果的に行うために様々な横断的な課題に対応し、支援していくことが、これまで以上に両者の連携を促進していくことなると考えられ、各地域における機能に応じた「面」としての連携を国においても総合的に支援していく視点が求められる。

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