答申素案

平成20年1月15日

1.生涯学習の振興の要請−高まる必要性と重要性

(国民が生涯にわたって行う学習活動の支援の要請)

  •  戦後の著しい経済発展、科学技術の高度化、情報化、少子高齢化等が進む中、人々は、物質的な豊かさに加え、精神的な面での豊かさを求め、生涯を通じて健康で生きがいのある人生を過ごし、その中でそれぞれの自己実現を求めている。このような状況の中で、人々は自己の充実・啓発や生活の向上のため、多様な学習の機会を求めており、国民一人一人がその生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、また、その成果を生かすことのできる社会の実現が求められている。
  •  このような国民の学習活動を促進することは、国民一人一人が、充実した心豊かな生活を送り、また、職業生活に必要な知識・情報・技術等を習得・更新することにより経済的にも豊かな生活を送ることを可能とすることのみならず、同時に、社会の変化をもたらし、社会を支え発展させることができる国民一人一人の能力を向上させることにつながるものである。これは、ひいては社会全体の活性化を図り、我が国の持続的発展に資するものである。このような我が国の現状及び将来を見据えると、生涯学習社会の実現の必要性・重要性がますます高まっている。

(総合的な「知」が求められる時代−社会の変化による要請)

  •  21世紀は、著しく急速な科学技術の高度化や情報化等により、新しい知識が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域で基盤となり重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会(knowledge-based society)」の時代であると言われている(注1)。そのような社会においては、知識を創造する人への投資こそが重要となる。そこでは国境を越えた知識の急速な伝播・移動により、さらなる競争と技術革新が生まれ、相乗的にグローバル化が進展する。また、時としては新たな知識の創造は旧来からの大きなパラダイム転換をもたらすこともある。したがって、このような変化に対応していくためには、狭義の知識や技能のみならず、自ら課題を見つけ考える力、柔軟な思考力、身に付けた知識や技能を活用して複雑な課題を解決する力及び他者との関係を築く力等、また豊かな人間性を含む総合的な「知」が必要となる。国民一人一人がそのような変化に対応できることは、自己の充実・啓発のためのみならず、変化する国際社会にあって我が国及び我が国の国民が確固たる地位を占めていくことに資することになる。

    • (注1)中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月28日)、「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」(平成19年11月7日)
  •  特に、近年指摘されている国民の経済的な格差の問題や非正規雇用の増加等の問題を考慮すれば、各個人が社会の変化に応じ、生涯にわたり職業能力や就業能力(employability)を持ち、社会生活を営んでいく上で必要な知識・技能等を習得・更新し、それぞれの持つ資質や能力を伸長することができるよう、国民一人一人が必要に応じて学び続けることができる環境づくりが急務となっている。その場合、学習機会が等しく提供され得るよう各種の支援方策を含めた配慮が求められる。

(自立した個人や自立したコミュニティ(地域社会)の形成の要請)

  •  行政改革・規制緩和が進む中、我が国の社会は大きな変化の局面にさしかかっており、様々な分野で事前の規制から事後のチェックへのシステムの転換が進んでいる。また、行財政改革の観点からも、様々な権限が「官」から「民」へ移行され、これまでの行政サービスが縮小される傾向がある。この中で、各個人が自己の責任において主体的に判断を行うことがより求められるようになっている。このような状況に対応し、国民一人一人が自らの人生を豊かなものとするための判断を十分な情報を得た上で主体的に行えるよう、国民のニーズに応じた学習機会を充実し、その学習活動を支援することが求められている。また、これまで行政が公的に提供してきた地域におけるサービスの縮小が進み、地域住民等が自らその役割を果たす状況が増えていくことが予想され、自立した地域社会の育成も必要となっており、各個人の学習の支援のみならず、地域社会の基盤強化につながる地域全体の教育力の向上の要請も高まっている。

(持続可能な社会の構築の要請)

  •  また、近年、地球規模の様々な課題が深刻化する中、世界的にも「持続可能な社会」の構築が求められており、そのような社会を構築するための教育(「持続可能な発展のための教育(Education for Sustainable Development, ESD)」)の必要性・重要性も国際社会で提唱されている(注2)。持続可能な社会では、各個人が社会の構成員として、生産・消費、創造・活用のバランス感覚を持ちながらそれぞれを社会で責任を持って果たし、社会全体の活力を持続させようとする「循環型社会」への転換が求められる。したがって、各個人が、自らのニーズに基づき学習した成果を社会に還元し、社会全体の持続的な教育力の向上に貢献するといった「知の循環型社会」を構築することは、持続可能な社会の基盤となり、その構築にも貢献するものと考えられる。

    • (注2)国連「持続可能な発展のための教育の10年」

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