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設計基礎脅威とは
INFCIRC/225/Rev.4によれば、「核物質防護システムを設計し評価する基となる、核物質の不法移転又は妨害破壊行為を企てようとする内部者及び/又は外部敵対者の特性及び性格」(資料1注)が設計基礎脅威(以下「DBT」という。)と定義されている。DBTは、核物質防護を担当する規制当局が、脅威情報や治安情報を保有する治安当局と協議し策定する。このDBTを用いた規制手法は、事業者が現実の脅威に対し、自らの責任で脅威に対する防護措置の評価を行い、効果的な防護措置を講ずる手法である。
具体的には、防護対象特定核燃料物質の区分(資料3)に応じて、仮想敵の種類、人数、能力など現実的・合理的に想定し得る複数の脅威を設定した上で、それらをまとめて一つのDBTとして策定し、事業者が核物質防護システムを構築する際の設計の基礎とする。
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主要国の状況
主要国のDBTの策定と適用状況は資料4のとおりである。英仏及び米国エネルギー省(以下「DOE」という。)においては、防護対象の全原子力施設に対して、DBTを適用している。それに対して、米国原子力規制委員会(以下「NRC」という。)においては、区分 のうち核燃料サイクル施設及び原子力発電所にのみDBTを適用している。
NRCでは、1970年代後半からこのDBT適用範囲を採用しており、DBTを適用すれば比較的複雑で大規模な施設固有の特性に応じた防護措置を事業者の責任において取らせることができるとしている。DBTの適用にあたっては、施設に存在する核物質の種類や形状、施設の規模等を考慮して、最終的に区分 施設のうち核燃料サイクル施設及び原子力発電所について行うこととした。
一方、その他の施設については、比較的小規模な施設であり、自ら防護措置を設計するノウハウ等を必ずしも有していない。NRCでは、これらの施設にDBTを適用することは現実的ではないとして、画一的な防護措置を示して、規制しているとのことである。
なお、米国においては、原子力施設を規制している規制当局は、DOEとNRCであり、DOEはDOE所管の国立研究所などを、NRCは原子力発電所等の民間施設やDOE所管外の国立研究所を規制している。
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経済産業省所管施設におけるDBT適用方針
経済産業省においては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により防護措置が義務付けられている施設として、再処理施設・MOX加工施設(区分 )、原子炉施設(実用炉・研究開発段階炉)(区分 ・ )、ウラン加工施設(区分 )を所管している。これらの施設における、DBTの適用方針は資料5のとおりである。これについては、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力防災小委員会及びその下の危機ワーキンググループにおいて検討されており、報告書案は次のとおりである。
(総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力防災小委員会報告書案)
事業者が現実の脅威に的確かつ迅速に対応し、効果的な防護措置を講ずるためには、事業者が核物質防護システムの設計に当たり考慮すべき脅威(Design Basis Threat(DBT))を国が策定し、事業者に提示し、事業者は当該脅威情報に基づき具体的な核物質防護システムを構築することが重要である。
設計基礎脅威(DBT)は、核物質の不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為の防護の観点から、十分な防護体制を講ずる必要のある施設、すなわち区分 施設及び原子力発電所を対象に策定する。
原子力施設に対する脅威を想定し、当該施設に効果的な防護措置を講ずることが核物質防護の基本的取り組み姿勢であり、設計基礎脅威(DBT)の策定・適用はその手段の一つであること、また、規制の有効性の観点や施設の特性等から、あらゆる原子力施設の核物質防護に設計基礎脅威(DBT)を導入することは適当でない。
上記の観点から、設計基礎脅威(DBT)の策定対象以外の施設(区分 ・ の加工施設等)については、設計基礎脅威(DBT)は策定しないが、施設の特性に応じた脅威及びそれに対する防護水準等を国及び事業者が評価し、適切な防護措置を講ずる必要がある。
経済産業省においては、核物質の不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為の観点から、その潜在的な影響を考慮し、DBTを適用する施設としない施設を設定している。
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文部科学省所管施設におけるDBT適用方針
文部科学省所管の防護対象原子力施設は、試験研究用原子炉施設及び核燃料物質の使用施設である。これらは、施設に存在する核物質の種類や形状、使用目的などが多様であり、施設や事業者の規模も様々である。DBTは、核物質の不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為に対する防護措置を決定するという観点から、十分な防護体制を講ずる必要のある施設を対象に適用することが適当である。
主要国の状況を参考に、DBTの文部科学省所管施設への適用範囲を考慮した結果、DBTで想定される脅威については、核物質の種類や形状などに応じたものを適用することが妥当である。
具体的には、資料5のとおり、区分 施設並びにプルトニウム、ウラン233及び濃縮度20%以上の高濃縮ウランを使用している施設に対してDBTを適用する。これらの核物質は、少量でも環境への潜在的な影響が無視できないものがあることや転用のおそれが大きい。このような理由から、これらの核物質を取り扱う施設を特に慎重に防護することが、不法移転及び原子力施設への妨害破壊行為に対する防護措置決定上重要であり、十分な防護体制を講ずる必要がある。DBTが適用される施設については、事業者が自らの責任において決定した防護措置を国が認可(事業者が核物質防護規定に記載する)することが必要である。
一方、その他の施設については、DBTは適用しないが、国が、事業者の状況についての聞き取りを行いながら、施設の特性に応じた脅威及びそれに対する防護水準等を評価し、適切な防護措置を事業者に対して示していく必要がある。
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