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3.権利者不明の場合の利用の円滑化について

(1)課題の整理

  •  前述にように、昨年10月の検討状況の整理では、
    •  権利情報のデータベース(所在、生没年、戦時加算対象物、管理事業者の管理著作物の範囲)の構築など権利情報の管理の仕組みを整えることや、権利の集中管理を一層促進すること、
    •  特別な場合にしか使用されていない裁定制度を(著作隣接権の場合も含め)より簡易に使えるようにすることや、アメリカやイギリスで検討されている制度の例を参考に需要に見合ったコストで著作物が利用できる方策を整えること
    が、課題・要望として指摘されているが、この指摘の背景は、先の(2.多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について)場合と同様に、保護期間延長に関する問題とそれ以外の問題とが存在している。
     権利者不明の場合には、多数の権利者が関わる中で利用許諾のための権利関係の調査、契約作業等のための費用が過大となりかねないこと自体は、特に保護期間延長に関するものではなく常に存在しうる問題であるが、加えて、保護期間を延長した場合に生じてくる問題として、死後70年まで保護期間が延長された場合には、転居等によって権利者情報が管理しきれなくなる割合が自然と増加するのではないか、さらに、代々相続が行われるうちに、権利を管理する自覚のない遺族が増えるのではないか、との問題意識が指摘された。なお、諸外国においても、保護期間延長後の利用円滑化の課題として、権利者不明の場合の利用円滑化が中心的な問題の一つとなっていることは前述(1.はじめに)のとおりである。
  •  さらに、前述(2.多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について)のように、放送番組等の二次利用のような多数権利者が関わる場合においても、実務上は、許諾が拒否されるというより連絡先の不明により許諾を求めることができない事例の方が多く、権利者不明の場合の方が問題となっていることが明らかになったほか、後に(4.次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について)触れるように、アーカイブの構築の際にも、コンテンツ事業者自らが行うアーカイブにおいては、結局はアーカイブの構築も、自らが既に製作したコンテンツの二次利用に過ぎないため、必要な対応策は、コンテンツの二次利用についての問題と同じことであることが分かる。
     また、一部の権利者不明の場合に結果としてコンテンツが利用できない状態となっていることは、コンテンツの享受により恩恵を受ける側だけでなく、収益の機会を逸することや、二次利用が困難になることを避ける観点から、あらかじめ不利な条件で権利の買取りなどの条件を提示される背景となってしまうなど、権利者にとっても、問題であるとの指摘もなされている。
  •  このことから、権利者不明の場合の著作物等の利用の円滑化は、単にこの問題自身にとどまらず、より広く、多数権利者が関わる場合の利用の円滑化やアーカイブ構築の円滑化にもつながるものであり、一部の所在不明の権利者のために、文化価値の共有・普及や次代の文化創造にもつながる貴重なコンテンツが死蔵され、社会にとっての損失となるとの事態を防ぐためのボトルネックとして、大きな意義・役割を有するものと考えられる。

(2)現状と基本的な対応方策

1 前提

 そもそもの前提として、権利者不明が問題になる場面とは、著作権者等から利用許諾を得ようとする際に、権利者の所在情報が十分でないこと(またそもそも誰が著作者・著作権者なのか分からないこともある)により、利用許諾自体が困難になる場面であるが、そもそも、著作権者等から改めて利用許諾が必要となる場合とは、二次利用、すなわち既に製作されたコンテンツを別の用途で用いる場合、又はコンテンツ製作者とは別の者が用いる場合である。
 ただし、同じ利用許諾のための交渉が必要となる場合の中でも、利用許諾交渉が必要となる対象の者が、利用しようとするコンテンツの制作に関わっていた者(制作関係者、原著作者や出演者等)である場合と、いわゆる「写り込み」(注1)の関係者である場合とで、その課題が大きく異なってくるほか、対象物についても、著作権・著作隣接権である場合と、肖像や思想・信条、名誉等の人格的利益である場合とがあるため、権利者不明の問題について一律に捉えるのではなく、これらを分けて認識しておくことが重要である。

  • (注1) 街頭で映像の収録作業を行った場合に、一般人の肖像、看板やポスター等の美術の著作物、街頭で流れている音楽等が記録されてしまうなど、コンテンツの制作過程において、意図せずに収録されてしまうものを、一般に「写り込み」と呼んでいる。

2 二次利用の円滑化のための基本的な対応策とその限界

  •  コンテンツの二次利用を円滑化するための基本的な方策としては、現在、次のような方策が取り組まれている。
    • 1)「当初のコンテンツ製作時にあらかじめ、二次利用を前提とした契約を締結する」
      • ⇒ この場合、あらかじめ二次利用の許諾を得ているため、二次利用を行う時点で再度の交渉が必要なく、権利者不明により許諾が得られないとの問題が生じない。
         実際、今後制作される放送番組についての利用円滑化を図る観点から、関係者により「放送番組における出演契約ガイドライン」が作成され(注2)、コンテンツのマルチユースを念頭に置いた書面による契約を結ぶような環境づくりも進められている。
    • 2)「コンテンツ製作者が責任を持って権利者の所在情報等を管理する」
      • ⇒ 当初のコンテンツ制作の際に関わっている者については、その時点で所在不明であることがあり得ないため、その制作の時点で関係者の所在情報を管理しておくことが、後々の二次利用の際の交渉の際に、権利者不明の問題が生じることを未然に防ぐ有効な方策となる。実際、アメリカでは映画に関して、団体協約によりコンテンツホルダーと権利者団体とで権利者データを共同管理する取組が行われているとの指摘があった。また、我が国においても、現在このような取組が進められつつある。
    • 3)「権利の集中管理体制の充実・強化により、集中管理団体が権利者の所在情報等を管理する」
      • ⇒ 上記2)と考え方は類似であるが、コンテンツごとではなく、音楽、脚本、レコード、実演等の各分野で行われている権利の集中管理の取組をより一層進め、集中管理団体に所属していない者を減らしていくことにより、権利者不明の問題が生じることを防ごうとするものである。また、集中管理団体が、二次利用についていわゆる「一任型」の権利管理を行っている場合には、そのまま集中管理団体が二次利用の許諾を与えることができるため、権利者不明の問題が生じない。
         実際、著作権に関して、音楽、原作、脚本の分野において著作権等管理事業法に基づく「一任型」の集中管理が行われているほか、著作隣接権に関しても、実演や放送番組で用いられたレコードのインターネット送信での二次利用について、著作権等管理事業法に基づく「一任型」による集中管理が開始されている(注3)。
    • 4)「権利者の所在情報等についてのデータベースを整備する」
      • ⇒ 上記2)、3)の取組をさらに統合し、データベース化することにより、一括してこれらの権利者情報を取得することができるようにするとの考え方であり、現在、コンテンツ情報を紹介することを目的として、日本経団連により企画されたコンテンツ・ポータルサイトが運営されている(注4)ほか、各権利者団体の権利者情報データベースを連携させた創作者団体ポータルサイトの開発が進められており(注5)、双方のデータベースの連携も視野に入れて取組が進められている。
  •  一方で、これらの取組それぞれには限界もある。例えば、「写り込み」の場合には、コンテンツ製作者が情報を管理しようにもそもそもの情報を有していない場合があるほか、肖像等の人格的利益が問題となる場合には、個々人の認識に負う部分が大きいため、いわゆる「一任型」の集中管理が性質的になじまないなど、各種の取組を組み合わせて対応していくことが必要となる。
  •  しかしながら、これらの対応方策を今後充実させていくことで相当の部分について対応ができるようになるとしても、あらかじめの二次利用を前提とした契約による対応方策や、コンテンツ製作者による権利者情報の管理による対応方策については、既に過去に製作されてしまっているコンテンツでは、必ずしもそのような方策がとられているわけではないため、過去のコンテンツに対する効果は限定的であるとの指摘もある。
     また、今後製作されるコンテンツについても、例えば、実演家の引退等により、どうしても所在情報等の管理が難しくなる場合があるとの指摘があった(注6)。
  • (注2) 2.多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について(注5)参照。
  • (注3) これらのインターネット送信についての権利管理を行っている主な著作権等管理事業者としては、音楽については社団法人日本音楽著作権協会、原作については社団法人日本文藝家協会、脚本については協同組合日本脚本家連盟、協同組合日本シナリオ作家協会、実演については社団法人日本芸能実演家団体協議会、レコードについては社団法人日本レコード協会がある。
  • (注4) 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年7月9日・第7期第5回)配付資料「コンテンツ・ポータルサイトの概要について(PDF:492KB)(※過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第5回)議事録・配付資料へリンク)」参照。
  • (注5) 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年9月3日・第7期第7回)配付資料「ポータルサイト構想について(PDF:378KB)(※過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第7回)議事録・配付資料へリンク)」参照。
  • (注6) 小委員会の議論の中では、放送番組に関して、10年以上前のドラマ番組について、1割程度の出演者が所在不明になっており、所属事務所や権利者団体でも把握できない場合があるとの実態の紹介もなされている。

3 権利者不明の場合の民間の対応策とその限界

  •  このように、一定の対策にもかかわらず既に製作されたコンテンツの二次利用に当たって権利者不明の事態が生じてしまった場合について、現在、関係団体間において、一定の能力・実績を有する団体が権利者捜索を請け負い、その団体が利用の事後に権利者との調整を行うこと、また、権利者が判明した場合に備えて、使用料を事前に預託しておく第三者機関を設け、その第三者機関において精算を行うとの取組が検討されている(注7)。
     このような取組は、コンテンツの円滑な流通を進めるとの社会的な要請がある中で、大多数の権利者の許諾が得られつつも、一部の権利者不明の者がいるために利用が妨げられることのないようにする観点から、その一部の不明権利者の捜索を、その者と関係の深い一定の団体に委ね、事後に訴えられるリスクを負いつつも利用を行い、権利者が判明した場合には、その団体を通じて事後的に調整を行うものと考えられる。
  •  しかしながら、このような取組には法的な裏付けがあるわけではなく、事後的に差止請求を受けるリスクや、刑事罰の適用関係など、最終的な法的リスクがなくなるわけではない点には特に留意が必要である。例えば、利用に先立って比較的大きな投資が必要となるような利用形態にあっては、多少でもリスクが残ることによって利用がためらわれる場合もあると考えられる。
  • (注7) 「映像コンテンツ大国の実現に向けて」(2008年2月25日、社団法人日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会)

4 権利者不明の場合に対応するための現行制度とその問題点

  •  このような権利者不明の場合に、著作物を利用するための制度としては、現行著作権法において、次のような制度が設けられている。
     まず、私的使用目的や各種の公益目的での利用など、権利制限規定の対象となる場合には、二次利用に当たって利用許諾を得る必要がないため、権利者不明かどうかにかかわらず、利用が妨げられることはない。
     それに加えて、文化庁長官による裁定制度が設けられている。裁定制度とは、著作権者が不明の場合、相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け文化庁長官が定める額の補償金を供託することにより、著作物を利用することができる制度である(著作権法第67条)。この場合は、著作権者の許諾を得たことと同様の効果を生じるため、民間における権利者不明の場合への対応策と比べて、事後の訴訟リスクは存在しない。
  •  しかし、各種の権利制限規定について、別途、法制問題小委員会において見直しの検討が進められてはいるものの、本小委員会で行った関係者からのヒアリングでは、例えば、障害者関係団体や図書館関係者等から、現行の権利制限規定では不十分な範囲があると指摘されたほか、非営利や日常的で小規模な利用についての権利制限規定を設ける要望などがなされた。
     さらに、裁定制度については、次のような問題点が指摘されている。
    •  著作権使用料の多少にかかわらず、手数料等が高く、手続に時間がかかる。
    •  著作者調査の「相当な努力」に多大な費用と時間がかかり、無償での利用を予定しているなど、経済的価値と裁定に要する費用とが見合わない場合には、手続をどれだけ改善したとしても利用に限界がある。
    •  新聞、雑誌のように1点に出版物に多くの著作物が含まれている場合には、調査が特に困難であり、事実上、裁定制度の利用が困難である。
    •  制度が設けられているのは、著作物の利用の場合だけであり、著作隣接権に関して同様の制度がない。
     この中には、権利者不明の裁定制度そのものの問題点というよりは、二次利用に際しての許諾手続の一般的な円滑化方策によって解決すべきものも含まれているが、このように、現行の文化庁長官による裁定制度は、各種の権利制限規定に該当しない利用を行おうとする場合には、権利者不明の場合に事後のリスクなく利用を行うための唯一の手段である一方で、事実上、その利用が困難となっている実態が指摘されている。

【参考】諸外国における権利者不明の場合への対応例【参照条文p.24】

 諸外国でも、前述(1.はじめに)のように、アメリカ、イギリスを中心に、権利者不明の場合の対応策は大きな関心を持たれる傾向にある。現在、主な国において導入あるいは検討されている措置は、次のとおりである(注8)。

1アメリカ

  •  図書館・文書資料館において、著作権保護の最後の20年間は、合理的な調査に基づいて一定の条件に該当しないと判断した場合には、保存、学問又は研究のために、著作物又はその一部のコピー・レコードを、ファクシミリ又はデジタル形式で、複製、頒布、実演又は演奏することができる。(第108条(h))
  •  また、利用者が、真摯な調査を行ったが著作権者の所在を特定できない場合で、かつ、可能な限り適切な著作者・著作権者の表示を行ったことを利用者が証明した場合、著作権者が後に出現して著作権侵害の請求を行ったとしても、救済手段(金銭的救済等)を制限することを内容とする法案が企画された。【再掲】

2イギリス

  •  合理的な調査により著作者の身元を確認することができないときには、文芸、演劇、音楽、美術の著作権について、侵害とならないこととしている。(第57条。映画についても、第66条のAで同様の規定がある。)
  •  実演の録音録画物については、著作権審判所による強制許諾制度が設けられている。(第190条)
  •  また、ある者が合理的な調査によって著作者の身元が確認できないときは、著作者が知られていないものとして扱われ、著作権の保護期間がそれに基づいて算定されるとの規定もある。(第9条(5)、第12条、第13条のB)
  •  このほか、利用者が合理的な調査を行うことを条件とする権利制限規定や、権利者情報を登録するシステムの整備などが提案されている。【再掲】

3カナダ

  •  日本と同様、利用者が相当の努力を払っても著作権保有者の所在が確認できない場合について、著作権委員会による裁定制度が設けられている。(第77条)

4その他

  •  権利者不明の場合のために設けられた制度ではないが、一般の権利制限規定も、権利者不明の場合の著作物の活用に有効な役割を果たすとされている。中でも、北欧諸国においては、「拡張された集中許諾スキーム」(Extended collective licensing scheme)により、代表的な集中管理団体から許諾を得ることによって、当該団体が代理権を有しない権利者についてもその合意が法的拘束力を有する等の仕組みを有しており、それが、権利者不明の場合の著作物の利用策となっているとされている。

(3)今後の対応方策

1 基本的な考え方

  •  権利者不明の場合の対応策については、現在、前述のように民間において各種の取組が進められている途上の状況にある。これらの取組は、著作物等の二次利用全般の許諾手続の円滑化にも資する方策も含まれており、権利者情報の把握について、コンテンツ製作者と集中管理団体の双方において体制整備の努力を続けるなど、今後とも中核的な対応策として、引き続き、強化、充実されるべきものと考えられる。
     一方で、権利者不明の場合の裁定制度などの制度的な対応については、訴訟リスク等の面で民間の取組を補完しうる唯一のセーフティネットとしての意義を有するものであるため、この制度の機能不全によって、文化価値の共有・普及や次代の文化創造にもつながる貴重なコンテンツが一部の所在不明者のために死蔵され、社会にとって大きな損失となることがないよう、より利用しやすい制度とすることが必要と考えられる。
  •  なお、本小委員会の検討の中では、民間の取組が進められている中、まずはその努力を重視すべきであり、より利用しやすい制度が設けられることにより、民間の努力に対する意欲を削ぎかねないとの懸念も寄せられたが、本小委員会としては、権利者捜索のための努力や権利者情報の把握のための民間の取組が引き続き行われるべきことを前提としつつ、その取組を補完し、最終手段たるセーフティネットとしての制度的措置を用意するとの基本的な考え方に立ちつつ、制度を整備すべきものと考える。
  •  なお、権利者不明の場合として対応が求められる事項のうち、単なる「写り込み」の場合については、問題の本来的な性格が異なるほか、前述のように民間において取ることが可能な対応方策も限られるなど、同列に論じるべきものではないと考えられる。このような「写り込み」については、セーフティネットとしての制度的措置として対応するのではなく、権利制限の見直しなど別途の措置として対応を考えていくべきものである(注9)。【参照条文 p.24】
  • (注9) 例えば、「主要な被写体の背景に何か絵らしき物が写っているという程度のものは、著作物の実質的利用というには足りず、著作権がそもそも働かないジャンルのもの」(加戸守行著「著作権法逐条講義五訂新版」社団法人著作権情報センター発行、288頁)とする見解がある。

2 制度改正において取りうる方向性について

a 現行裁定制度の手続についての運用改善の可能性

  •  現行の裁定制度については、知的財産推進計画2004等において手続の見直しについて指摘を受け、既に平成17年度に手続の簡素化を行っているが、手続に要する期間や手数料について、なお改善の要望がある(注10)。また、本小委員会の検討においては、現在開発中の権利者情報に関するデータベースを活用し、データベースに登録されていない者については、より簡易な手続で裁定が受けられるような方策が提案された。
  •  しかしながら、このような指摘に対しては、非営利無料などの小規模な利用については、どのように手続、費用を改善したとしても裁定制度を利用することにどうしても限界があるとの意見や、写真など一人の著作者で膨大な数の著作物を創作する可能性のある分野では、作品をデータベース上で完全に把握できるようにすることは困難との懸念が示された。
     また、権利者情報のデータベース上の登録の有無については、権利者捜索の相当な努力の内容として加味することは当然にあり得ることと思われるが、加味できる程度は、権利者情報データベースがどの程度の情報を集積しているかの実態にもよってくると考えられ、登録の有無自体を直接的に法的効果に結びつけることは、困難が多いと思われる。
  • (注10) 特に指摘があったのは、1期間の面(権利者を捜索する「相当な努力」として、一般又は関係者への協力要請が必要とされており、インターネットのホームページにより調査をする場合には、通常2ヶ月以上の期間が必要とされる(文化庁HP「裁定申請の手引き」より。標準処理期間は3ヶ月)点)と、2費用の面(手数料は13,000円であるが、社団法人著作権情報センターの権利者捜索のための窓口ページを利用する場合には、さらに基本料金21,000円と加算料金が必要となるなどの点)である。

b 著作隣接権の裁定制度の創設の可能性

  •  また、著作隣接権について、現行裁定制度と同様の制度が設けられていない点については、この制度が、民間の様々な努力を補完し、最終手段たるセーフティネットとしての役割を果たすとの基本的な考え方に立てば、何らかの対応が必要であると考えられる。
  •  しかしながら、現行裁定制度と同様の形態で、著作隣接権についての裁定制度を設けることについては、著作隣接権関係の国際条約に抵触しないかどうか、留意が必要である。【参照条文p.27】
     具体的には、「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約)」第15条では、保護の例外として認められる範囲について、著作権の保護の制限と同一の種類の制限を設けることができるとしているが、強制許諾については、実演家等保護条約に抵触しない範囲に限定される旨を定めている。
    •  「強制許諾」とは、排他的権利の例外・制限(注11)のうち、「特定の条件の下に、多くの場合は権限のある機関により又は著作者団体を通じて強制的に与えられる特別の形式の許可」を指すと一般に理解されており(注12)、文化庁長官による裁定制度は、手続の外形上からは、この類型に当たる可能性がある(注13)。
       なお、現行の権利者不明の場合の裁定制度(著作権法第67条)は、そもそも協議のしようがない場合の規定であり、かつ、著作者が利用を廃絶しようとしていることが明らかな場合には裁定してはならないとされている(同法第70条)ように、裁定制度の中でも、利用について協議が成立しない場合の裁定制度(同法第68条、第69条)とは性格が異なるとも考えられる。実際、著作権に関する国際約束との関係では、著作権法第67条の裁定制度は、一般の権利制限の基準である「スリーステップテスト」(注14)の範囲内で設けられていると考えられる一方で、同法第68条及び第69条の場合は、ベルヌ条約上、特に根拠規定が定められており、規定の外形上に差異が見られる(注15)。ただし、はっきりと両者が異なることを根拠づけている資料は、現在のところ見あたらない。
  •  また、その他の関係する国際約束では、保護の制限・例外については、次のような基準が採用されており、これらの規定についても留意が必要である。
    •  「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」は、保護の制限について、著作権の制限と同一の種類の制限であること及び「スリーステップテスト」を基準としている(第16条)。
    •  「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定・附属書一C(TRIPS協定)」は、ローマ条約が認める範囲内で、条件、制限、例外及び留保を定めることができるとしている(第14条)。
    •  このほか、レコードに関しては「許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)」があり、同条約は、権利の制限を著作権の制限と同一の種類の制限とすることしつつ、強制許諾は一定の条件が満たされない限り認めることができないとしている(第6条)。
  •  なお、視聴覚的実演のインターネット送信については、現在のところ関係の国際約束に基づく義務が課せられておらず(注16)、このような範囲に限って裁定制度を設けることについては、特段の支障はないのではないかとの指摘もあった。
  • (注11) その他「権利の例外又は制限」には、自由利用、法定許諾、強制的に集中管理に従わせること、が含まれる。
  • (注12) 大山幸房訳「WIPO著作権・隣接権用語辞典」(1980年 WIPO、昭和61年 社団法人著作権資料協会)
  • (注13) なお、カナダにおいては、著作権の保有者の所在を確認するために相当な努力を払っておりかつ同保有者の所在が確認できない旨の確信を得た場合に、著作権委員会が権利者に代わって、実演やレコード等の利用について許諾を与えることのできるとの制度が設けられているようである(第77条)。また、イギリスにおいても、権利者の身元又は所在を合理的な調査により確認することができない場合には、著作権審判所が、実演の録音・録画物の複製物を作成することの同意を与えることができるとの制度が設けられているようである(第190条)。いずれの場合も、実演家等保護条約との関係は、現在のところ、明らかとはなっていない。
  • (注14) 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約・第9条(2)。複製権以外の制限については明文の規定はないが、1967年のストックホルム会合での合意により、「小留保(minor reservation)」として、公の上演・演奏権、朗読権等の「伝達系の権利」について、制限・例外を定めることが認められている。
     また、ベルヌ条約以後に締結された、著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)においても、保護の制限・例外については、全面的に「スリーステップテスト」の基準が採用されている(第10条)。
  • (注15) それぞれベルヌ条約第11条の2(2)、第13条(1)
  • (注16) WPPTは、インターネット送信等に関しては、実演のうちレコードに固定された実演についてのみを規定の対象としており、視聴覚的固定物を用いてインターネット送信等を行うことについての実演家の権利は、WIPOにおいて検討が続けられてきたが、現在のところ、国際約束の締結には至っていない。

c 新たな制度設計の可能性

 現行の裁定制度について、単なる手続改善にはとどまらない提案としては、次のような指摘がなされた。

  •  実際には供託金を受け取りに来る権利者が少ない中で、この供託金を単純に国庫に帰属させるのではなく、非営利目的の利用の場合の裁定制度の利用について費用を軽減させるための原資に回すことや、不明権利者を探すための広告料や運営費として用いることを検討すべきではないか。
  •  事前に一律に使用料を支払わせる合理性が果たしてあるのか。著作物等の利用にどの程度のコストをかけることができるのかは、利用態様によって異なるほか、利用態様によって事後に訴えられるリスクも異なる。それを最も適切に判断できるのは利用者自身であり、イギリス、アメリカにおいて検討されている制度のように、自己責任でリスクを判断する可能性を活かせる制度とすべきではないか。
  •  裁定制度の運用主体を見直して、権利者情報を管理し、捜索を行うような機関が、権利者に代わって許諾を与える仕組みを検討してはどうか。このような第三者機関が利用料を預かり、精算等も行うことにより、きちんとしたルールを定め、監視をしつつ、かつ、現行制度よりも柔軟に運営することができるのではないか。

3 制度設計のイメージ

  •  以上のように、現行の裁定制度の手続運用改善による対応では、非営利の利用の場合などの手続コストの負担が難しい利用に対応が困難なこと、また、著作隣接権の場合について国際約束との関係が明確ではないこと、またより柔軟な制度運用が可能な制度を目指すべきとの指摘もあることを踏まえ、次のような要素を盛り込んだ制度とすることが適当ではないか。

<A案>

  •  イギリスで検討されている制度を参考としつつ、権利者の捜索について相当の努力を払っても、権利者と連絡することができない場合には、著作物等の利用ができることとする(権利制限。なお、相当な努力を払ったことの立証責任は、利用者側が負う。)。
  •  その際に利用者は、権利制限規定によって利用されたものであることを利用の際に明示する。
  •  権利者が判明した場合には、通常の使用料に相当する補償金を支払わなければならないこととする(事前支払いは不要)。
  •  この案を採用する場合には、裁定制度の要件をいたずらに緩和することについては懸念を表明する意見もあったことから、それについての対応はどのように考えるか。
    • ア 例えば、権利者の捜索についての相当な努力について、何らかのガイドラインを設けることはどうか(イギリスのガウワーズ・レポートにおいても、ガイドラインを提示する必要が指摘されているほか、アメリカで現在提出されている法案においては、著作権局が調査のベストプラクティスの現況について整備し公衆に提供することとされ、それが救済制限を受けるための要件となっている)。
    • イ この規定により利用を行ったことについて、一定の機関に申告し、その情報を開示しておくなど、利用記録が残るようにすることはどうか。(アメリカで現在提出されている法案においても、使用通知が救済制限を受ける要件とされており、著作権局がその使用通知を保存することとされている。)
    • ウ あるいは、既存の裁定制度も残しつつ、新たな制度は、導入が特に求められている映像コンテンツ分野に限って導入するという考え方はどうか。
    • エ あるいは、多数権利者のうち大半の権利者の同意が得られている場合に限るなどの、その他の要件を課すなどの考え方はどうか。
  •  この案を採用する場合でも、事前の支払いを一定の機関にプールしておいて、それを事後の請求に対する精算や様々な費用等に充当するとの提案については、民間の自主的な取り決めにより対応することが可能と考えられる。

<B案>

  •  日本経団連で検討されている第三者機関の取組を参考としつつ、権利者の捜索について相当の努力を払っても、権利者と連絡することができない場合には、第三者機関に使用料相当額を支払ったときは、事後の権利追及に関して免責される一定の効果を与える。(なお、事後の免責に関して、相当な努力を払ったことの立証責任は、利用者側が負う。)。
  •  その際に利用者は、免責規定によって利用されたものであることを利用の際に明示する。
  •  なお、この免責の法的性質をどのように考えるかについては、検討を要する。仮に、権利者による許諾に代わる同等の効果があることとする場合には、実質的には、第三者機関が文化庁長官の裁定と同じ権限を行使することと同じことになる。また、その場合に、第三者機関は要件に適合していることについてチェックすべきなのか等について、どのように考えるか。

  •  事前の支払いを要件とする場合には、支払いを行う相手方をある程度特定しておくことが、法的な要件として必要となると思われるが、第三者機関を特定する手段として、どのような方法が考えられるか。(例えば、行政機関への登録、認可、指定等)

  •  事前に支払った使用料の取扱いについて、仮に、その清算(使用料の精算、あるいは損害賠償の免責)を制度的に位置付ける場合には、事後の権利者からの請求が第三者機関になされた場合と利用者本人になされた場合、選択的に請求できることとするかどうか、選択的とする場合には相互の免責、求償(精算)の関係をどうするか、利息の取扱い、時効の取扱い等について、詳細な検討が必要となる可能性がある。

【参照条文】

○「写り込み」関係

1ドイツ著作権法(注17)

  • 第24条 拘束を離れた使用
    • (1) 独立の著作物で、他人の著作物の拘束を離れた使用において作成されているものは、使用された著作物の著作者の同意を得ることなく、公表し、及び利用することができる。
    • (2) 前項の規定は、音楽の著作物の使用で、旋律をその著作物から取り出しかつその旋律を新たな著作物の基礎とすることが明白であるものには、適用しない。
  • 第57条 重要でない付随物
     著作物を複製し、頒布し、又は公衆に再生することは、その著作物が、複製、頒布又は公衆への再生の本来の対象と比べて重要でない付随物とみなされ得るときは、許される。
  • (注17) 2.多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について(注12)参照。

2イギリス著作権法(注18)

(著作権資料の付随的挿入)

  • 第31条
    • (1) 著作物の著作権は、美術の著作物、録音物、映画、放送又は有線番組へのその著作物の付随的挿入により侵害されない。
    • (2) その作成が第1項に基づいて著作権侵害ではなかったいずれかのものの複製物を公衆に配付し、又はそれを演奏し、上映し、放送し、若しくは有線番組サービスに挿入することにより、著作権は侵害されない。
    • (3) 音楽の著作物、音楽とともに話され、若しくは歌われる歌詞又は音楽の著作物若しくはそのような歌詞を挿入している録音物、放送若しくは有線番組は、それが故意に挿入されるときは、他の著作物に付随的に挿入されたものとはみなされない。
  • (注18) 大山幸房訳「外国著作権法令集(34)-英国編-」(社団法人著作権情報センター、平成16年6月)

3カナダ著作権法(注19)

付随的使用 (Incidental use)

  • 30.7 次に掲げる行為を行うことは、それが付随的にかつ善意で(not deliberately)行われる場合には、著作権を侵害しない。
    • (a) 著作物その他の目的物を他の著作物その他の目的物に含ましめること
    • (b) 他の著作物その他の目的物に付随的にかつ善意で含ましめられた著作物その他の目的物について何らかの行為を行うこと
  • (注19) 駒田泰士・本山雅弘 共訳「外国著作権法令集(33)-カナダ編-」(社団法人著作権情報センター、平成11年3月)

4オーストラリア著作権法(注20)

  • 第67条 美術著作物の付随的撮影またはテレビ放送
     前二条の効力を妨げることなく、美術著作物に対する著作権は、当該著作物を映画フィルムまたはテレビ放送に含めることによっては、当該フィルムまたは放送により表現される主たる主題に付随するにすぎない場合には、侵害されない。
  • (注20) 岡雅子訳「外国著作権法令集(33)-オーストラリア編-」(社団法人著作権情報センター、平成15年8月)

○権利者不明関係

2アメリカ著作権法(注21)

  • 第108条(h) 図書館・文書資料館による利用
    • (1) 本条において発行著作物に対する著作権の保護期間の最後の20年間に、図書館または文書料館(図書館または文書資料館として機能する非営利的教育機関を含む)は、合理的な調査に基づいて第(2)項(A)、(B)および(C)に定める条件に該当しないと判断した場合には、保存、学問又は研究のために、かかる著作物又はその一部のコピーまたはレコードをファクシミリ又はデジタル形式にて複製、頒布、展示又は実演することができる。
    • (2) 以下のいずれかの場合、複製、頒布、展示または実演は本条において認められない。
      • (A) 著作物が通常の商業的利用の対象である場合。
      • (B) 著作物のコピー又はレコードが合理的価格で入手できる場合。
      • (C) 著作権者又はその代理人が、著作権局長が定める規則に従って、第(A)号または第(B)号に定める条件が適用される旨の通知を行う場合。
    • (3) 本節に定める免除は図書館又は文書資料館以外の使用者による以後の使用には適用されない。
  • (注21) 株式会社三菱UFJコンサルティング&リサーチ編「コンテンツの円滑な利用の促進に係る著作権制度に関する調査研究報告書」(平成19年3月)のうち山本隆司氏・執筆部分より。

2イギリス著作権法(注22)

(著作物の著作者)

  • 第9条
    • (1) この部において、著作物に関して、「著作者」とは、著作物を創作する者をいう。
    • (2)・(3) (略)
    • (4) この部の目的上、著作者の身元が知られていないとき、又は共同著作物の場合にはいずれの著作者の身元も知られていないときに、著作物は、「著作者が知られていない」ものである。
    • (5) この部の目的上、ある者が合理的な調査により著作者の身元を確認することができないときは、著作者の身元は、知られていないとみなされる。ただし、著作者の身元がいったん知られるときは、その後は知られていないとはみなされない。

(文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の著作権の存続期間)

  • 第12条
    • (1) 以下の規定は、文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の著作権の存続期間について効力を有する。
    • (2) 著作権は、以下の規定に従うことを条件として、著作者が死亡する暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
    • (3) 著作者が知られていない著作物の場合には、著作権は、以下の規定に従うことを条件として、
      • (a) 著作物が作成された暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
      • (b) その期間中に著作物が公衆に提供されるときは、著作物が最初にそのように提供される暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
    • (4) 第3項(a)号又は(b)号に明示される期間の終了前に著作者の身元が知られることとなるときは、第2項の規定が適用される。
    • (5)〜(9) (略)

(映画の著作権の存続期間)

  • 第13条のB
    • (1) 以下の規定は、映画の著作権の存続期間について効力を有する。
    • (2) 著作権は、以下の規定に従うことを条件として、次の者のうち最後に死亡する者が死亡する暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
      • (a) 主たる監督
      • (b) 映画台本の著作者
      • (c) 対話の著作者
      • (d) 映画のために特別に創作され、かつ、映画において使用される音楽の作曲者
    • (3) 第2項(a)号から(b)号までにおいて言及されている1人又は2人以上の者の身元が知られており、かつ、1人又は2人以上の他の者の身元が知られていない場合には、同項におけるそれらの者のうち最後に死亡する者の死亡への言及は、身元が知られている最後に死亡する者への言及として解釈される。
    • (4) 第2項(a)号から(b)号までにおいて言及されている者の身元が知られていない場合には、著作権は、
      • (a) 映画が作成された暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
      • (b) その期間中に映画が公衆に提供されるときは、それが最初にそのように提供される暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
    • (5)〜(8) (略)
    • (9) いずれの場合にも、第2項(a)号から(d)号までに該当する者が存在しないときは、前記の規定は適用されず、著作権は、映画が作成された暦年の終わりから50年の期間の終わりに消滅する。

(ある種の場合に実演家のために同意を与える審判所の権限)

  • 第190条
    • (1) 著作権審判所は、実演の録音・録画物の複製物を作成することを希望する者の申請を受けて、複製権について資格を有する者の身元又は所在を合理的な調査により確認することができない場合には、同意を与えることができる。(注23)
    • (2) 審判所が与える同意は、次の規定の目的上、複製権について資格を有する者の同意としての効力を有し、また、審判所の命令に明示されるいずれの条件にも従うことを条件として、与えることができる。 
      • (a) 実演家の権利に関するこの部の規定
      • (b) 第198条第3項(a)号(刑事上の責任――資格ある実演に関する十分な同意)の規定
    • (3) 審判所は、第150条(一般的手続規則)に基づいて定められる規則が要求することができる通知又は審判所がいずれかの特定の場合に指示することができる通知の送達又は公表の後を除き、第1項(a)号に基づく同意を与えない。
    • (4) 削除
    • (5) いずれの場合にも、審判所は、次の要因を考慮する。
      • (a) 原録音・録画物が実演家の同意を得て作成され、かつ、以後の録音・録画物を作成することを提案する者がそれを適法に所有し、又は管理しているかどうか。
      • (b) 以後の録音・録画物の作成が、原録音・録画物がそれに基づいて作成された協定の両当事者の義務と一致しており、又はその他原録音・録画物が作成された目的と一致しているかどうか。
    • (6) この条に基づく同意を与える場合には、審判所は、申請者と複製権について資格を有する者との間に合意がないときは、与えられる同意を考慮してその者に対して行われる支払いについて適当と認める命令を定める。
  • (注22) (注19)参照。
  • (注23) (3)の中に、「第1項(a)号」との記述があるが、原文も同様であり、1988年法の第190条(1)は、以下のような条文であったため、その当時の条項引用を指しているものと思われる。
    • (1)The Copyright Tribunal may, on the application of a person wishing to make a recording from a previous recording of a performance, give consent in a case where?
      • (a)the identity or whereabouts of a performer cannot be ascertained by reasonable inquiry, or
      • (b)a performer unreasonably withholds his consent.

3カナダ著作権法(注24)

所在不明の権利保有者
委員会によって許諾証が発行されうる事情

  • 77.(1) 著作権が存続する次の目的物について、その利用に係る許諾証の取得を希望する者の申請があったとき、委員会が、その申請者が著作権の保有者の所在を確認するために相当な努力を払っておりかつ同保有者の所在が確認できない旨の確信を得た場合には、委員会は、第3条、第15条、第18条又は第21条のいずれかに掲げる行為を行う許諾証を、その申請者に発行することができる。(注25)
    • (a) 発行された著作物
    • (b) 実演家の実演の固定物
    • (c) 発行されたレコード
    • (d) 伝達信号の固定物

許諾の条件

  • (2) (1)の規定に基づき発行される許諾証は、排他的でなくかつ委員会が定める期間及び条件に従う。

権利保有者への支払い

  • (3) 著作権の保有者は、当該著作権に関して(1)の規定に従い発行される許諾証の期間満了後5年以内に、当該許諾証に裁定される使用料を徴収し、又は、その支払いに不履行が生じた場合には、裁判管轄権を有する裁判所において、その回収の訴訟を開始することができる。

規則

  • (4) 著作権委員会は、(1)の規定に基づく許諾証の発行に関する規則を制定することができる。
  • (注24) (注20)参照。
  • (注25) 第3条は著作権、第15条は実演家の権利、第18条はレコード製作者の権利、第21条は放送事業者の権利の内容を、それぞれ列挙している規定である。

○国際約束関係

1実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約)

  • 第15条(保護の例外)
    • 1 締約国は、国内法令により、次の行為については、この条約が保障する保護の例外を定めることができる。
      • (a) 私的使用
      • (b) 時事の事件の報道に伴う部分使用
      • (c) 放送機関が自己の手段により自己の放送のために行う一時的固定
      • (d) 教育目的又は学術研究目的のためのみの使用
    • 2 1の規定にかかわらず、締約国は、国内法令により、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関しては、文学的及び美術的著作物の著作権の保護に関して国内法令に定める制限と同一の種類の制限を定めることができる。ただし、強制許諾は、この条約に抵触しない限りにおいてのみ定めることができる。

2実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)

  • 第16条 制限及び例外
    • (1) 締約国は、実演家及びレコード製作者の保護に関して、文学的及び美術的著作物の著作権の保護について国内法令に定めるものと同一の種類の制限又は例外を国内法令において定めることができる。
    • (2) 締約国は、この条約に定める権利の制限又は例外を、実演又はレコードの通常の利用を妨げず、かつ、実演家又はレコード製作者の正当な利益を不当に害しない特別の場合に限定する。
  • 第1条 他の条約との関係
    • (1) この条約のいかなる規定も、1961年10月26日にローマで作成された実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下、「ローマ条約」という。)に基づく既存の義務であって締約国が負うものを免れさせるものではない。

3世界貿易機関を設立するマラケシュ協定・附属書一C(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)(TRIPS協定)

  • 第14条 実演家、レコード(録音物)製作者及び放送機関の保護
    • 6 1から3までの規定に基づいて与えられる権利に関し、加盟国は、ローマ条約が認める範囲内で、条件、制限、例外及び留保を定めることができる。(以下略)

4許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)

  • 第6条(保護の制限、強制許諾)
     著作権その他特定の権利による保護又は刑罰による保護を与える締約国は、レコード製作者の保護に関し、文学的及び美術的著作物の著作者の保護に関して認められる制限と同一の種類の制限を国内法令により定めることができる。もつとも、強制許諾は、次のすべての条件が満たされない限り、認めることができない。
    • (a) 複製が、教育又は学術的研究のための使用のみを目的として行われること。
    • (b) 強制許諾に係る許可が、その許可を与えた権限のある機関が属する締約国の領域内で行われる当該複製についてのみ有効であり、かつ、当該複製物の輸出については適用されないこと。
    • (c) 強制許諾に係る許可に基づいて行われる複製について、作成される当該複製物の数を特に考慮して(b)の権限ある機関が定める公正な補償金が支払われること。

5文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約

  • 第9条(複製権)
    • (2) 特別な場合について(1)の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。
  • 第11条の2(放送権等)
    • (2) (1)に定める権利を行使する条件は、同盟国の法令の定めるところによる。ただし、その条件は、これを定めた国においてのみ効力を有する。その条件は、著作者の人格権を害するものであつてはならず、また、協議が成立しないときに権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであってはならない。
  • 第13条(録音権に関する留保等)
    • (1) 各同盟国は、自国に関する限り、音楽の著作物の著作者又は音楽の著作物とともにその歌詞を録音することを既に許諾している歌詞の著作者が、その音楽の著作物を録音すること又はその歌詞を当該音楽の著作物とともに録音することを許諾する排他的権利に関し、留保及び条件を定めることができる。ただし、その留保及び条件は、これを定めた国においてのみ効力を有する。その留保及び条件は、協議が成立しないときに権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害するものであつてはならない。

6著作権関する世界知的所有権機関条約(WCT)

  • 第10条 制限及び例外
    • (1) 締約国は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合には、この条約に基づいて文学的及び美術的著作物の著作者に与えられる権利の制限又は例外を国内法令において定めることができる。
    • (2) ベルヌ条約を適用するに当たり、締約国は、同条約に定める権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。