3 調査結果

6.美術

【H事業者】

(1)管理業務の概要

 H事業者は、主に美術に関する諸外国の管理団体と相互管理契約を締結し、諸外国の美術作家の作品の日本における利用許諾について独占的な権限を与えられている。諸外国では、ピカソやマティスなどの有名作家の権利を承継している団体があり、H事業者は、これらの権利承継団体とも契約を締結したり、日本に居住地を有する外国国籍の日本人作家の遺族から直接委託を受けている場合もある。

 H事業者の管理委託契約約款では、新聞・雑誌への利用(非商業的利用)、書籍(モノグラフ、表紙、カバーを除く)への利用、テレビ放送(美術作家の特集番組を除く)への利用については、一任型管理とされている。
 一方、H事業者は、ポスター、チラシ、カタログへの利用などについては、一任型管理によらず、諸外国の管理団体の日本における代理人として業務を実施している。

 なお、H事業者は、我が国の一部の美術作家から権利行使の委任を受け、諸外国で美術作品を利用する場合の窓口を行うことも可能であるが、事実上、我が国の美術作家からの委託はほとんどない。

 平成18年3月末現在、H事業者が管理している著作物数は、約2,000件である。また、H事業者は管理業務の概要について特に情報提供は行っていない。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 諸外国の美術作品をポスター、チラシ、カタログに掲載する場合や美術作家の特集記事や特集番組で作品を利用する場合などについては、一任型管理とはされていないため、H事業者は、諸外国の管理団体や作家本人又は権利承継者に申請内容を伝え、許諾の可否、許諾条件、使用料の額を確認した上で利用者に許諾を行っている。

 許諾する場合は、許諾書に権利者名と代理権限を有するH事業者名を付して利用者に使用料を請求している。なお、許諾の際には、利用許諾条件として、作品をそのまま利用すること(トリミングなどを行わないこと)、作品に文字を載せないこと、著作権表示のクレジットを表記することを求めている。なお、利用者から最低1部献本を受けることによって、許諾条件が遵守されたか否かをチェックしている。

 諸外国の管理団体の代理業務に係る許諾件数は、年間約800件程度であり、一任型による許諾件数は、年間約2,000件程度である。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 ポスター・チラシ・カタログなどの利用や特集番組での利用については、著作権者の意図しない利用が行われたり、トリミングや原色と異なる色を使うなど不本意な利用をされる場合があり、著作者の名誉声望を害する可能性が高いため、一任型管理には馴染まない。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 美術の分野では、長い間の取引慣行があり、利用秩序が定着しているため、大きなトラブルは起こっていない。

2利用者の意見

 特になし。

【I事業者】

(1)管理業務の概要

 I事業者は、日本国内の物故作家約20名の作品やI事業者の会員の作品の利用など、我が国の有名美術作家の作品を日本国内で利用する場合や諸外国で利用する場合に、委託者から権利行使の委任を受けて利用許諾の窓口になっている。

 I事業者は、放送利用のみ一任型による管理事業を実施しており、放送局と美術作品の放送利用についての協定を締結している。
 一方、展覧会におけるカタログ、ポスター、ポストカードなどの利用については、委託者から権利行使の委任を受け、利用許諾の窓口業務を実施している。

 I事業者は、ドイツ、オランダ、ノルウェーなど諸外国の管理団体と相互管理契約を締結しており、その数は9ヶ国9団体である。

 I事業者はH事業者と同様、管理業務について特に情報提供を行っていない。平成18年3月末現在、I事業者が管理している委託者数は約1,500名である。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 I事業者は、展覧会のカタログ、ポスター、ポストカードなどの利用形態ごとに使用料の目安を作成しているが、利用申請が行われた場合、利用契約の都度、委託者の意向を踏まえて使用料を決定している。
 I事業者は、利用者から申請のあった内容を委託者へ伝えた後、許諾の可否と使用料を委託者に決定してもらった後、利用者に決定された内容を伝えている。

 なお、利用者からI事業者に委託していない会員に対して直接利用申請が行われた場合、I事業者の会員である美術作家は、新たにI事業者に利用許諾窓口の委任をした上で、I事業者を通して利用許諾を行う場合がある。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 H事業者と同様、美術作品の利用については、特定の利用形態でも様々な使われ方があり、利用者も多様なので、委託者の意向を確認しなければ、許諾を行うことができない。
 また、写真の利用とは異なり、利用者は、どんな作品でもよいと考えている訳ではなく、特定の作品を指定して申請してくるので、作品の代替性がないのが特徴といえる。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 利用者との間で使用料の額などによってトラブルになったケースはほとんどない。

2利用者の意見

 特になし。

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