3 調査結果

5.文献複写

【G事業者】

(1)管理業務の概要

 我が国では、文献複写に係る権利の管理については、平成3年以降、社団法人日本複写権センターによって、著作物の種類にかかわらず、低廉な使用料による許諾業務が実施されてきたが、商業出版者が発行する自然科学系・医学系に代表される学術専門書の複写利用については、他の著作物の複写使用料と同一にすることは馴染まなかったため、委託者が使用料の額を決定する方式により個別に許諾を行う形で同センターが許諾業務を行っていた。
 しかし、このような方式では、複写権の管理の実効性が上がらなかったため、平成13年1月、学術系の専門書誌を発行する商業出版者がG事業者を設立し、我が国の大手商業出版者から非一任型による複写権の委託を受け、企業や文献提供業者が自然科学系・医学系の学術専門書を複写利用する際の許諾業務を平成14年4月から開始した。

 G事業者の管理委託契約約款では、複写利用に係る利用許諾の代理による委任契約が採用されており、委託者から企業内での複写、頒布目的の複写、ファクシミリ送信、電磁的記録媒体への複製に係る利用についての権利行使の委任を受けている。
 なお、電子的記録媒体への複製に係る権利委託の範囲は、電磁的記録媒体から紙媒体へのプリントアウトのみに限定されており、電磁的記録媒体への複製のみ及び電磁的記録媒体からの配信等は含まれていない。

 平成18年3月末現在、G事業者の委託者数は約150社、委託点数は、書籍:約35,000タイトル、雑誌:約2,600タイトルである。なお、G事業者は、非一任型による管理業務の概要と委託著作物のタイトルをインターネットのホームページを通じて情報提供している。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 委託者があらかじめ出版物ごとに出版物名と複写使用料の額を指定してG事業者に登録できるようにしており、G事業者は、出版物ごとに指定された複写使用料に基づいて許諾業務を実施している。

 また、委託者は、月単位で出版物ごとの複写使用料の額を変更することができることとされており、変更を行う場合、委託者は毎月20日までにG事業者に複写使用料の変更の申し出を行う。G事業者は、申し出があった月の翌月1日から1ヶ月間ホームページで変更予定の複写使用料を公示した後、その翌月1日から変更した複写使用料を適用するようにしている(申出の月の翌々月から変更後の複写使用料が適用される)。

 なお、利用者との契約方式は、一定期間の複写利用内容をG事業者に報告する年間報告許諾方式と、利用申請の都度、複写利用内容を報告する個別許諾方式を採用しており、年間報告方式の契約件数は約10件、個別許諾方式の契約件数は年間約100件程度である。これらの契約方式では、あらかじめ委託者から指定された使用料に基づいて利用許諾を行っているため、許諾を拒否するケースはない。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 自然科学系・医学系出版物の場合は、論文掲載に係る投稿規定等により、出版者が著作者から権利の譲渡を受けている場合が多いが、学術専門書の販売部数は一般書に比べて極端に少ないことから、これらの学術専門書の販売価格は高額になる傾向があり、複写利用による影響を直接受けやすいこと、販売価格は出版物ごとにまちまちであり、複写利用単価は出版者によって様々になることなどから、非一任型による管理業務が実施されている。
 なお、G事業者は、平成14年3月に、一旦、管理事業法に基づく管理事業者として文化庁の登録を受けたが、前述の理由により使用料の額を一律に決定できないことなどから、平成16年12月、一任型による管理事業を見送っている。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 通常の出版物と異なり、自然科学系・医学系出版物は読者数・発行部数が少なく、1ページ当たりの販売単価が高く設定されており、複写使用料は委託者が指定した額によることとされているため、一任型の管理事業者が適用している使用料に比べ1件あたり1ページ単価が高額になっている。
 委託者である商業出版者の意向を踏まえているため、業務内容に問題があるとは考えていない。

2利用者の意見

 文献複写は、代替性のない著作物の利用であるため、その複写使用料が高額の場合、複写利用に影響が出る。

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