3 調査結果

4.翻訳出版

 翻訳エージェント業務は、古くからイギリスやアメリカで発達しているが、我が国では、第二次大戦直後、GHQ(General Headquarters Supreme Commander for the Allied Powers(総司令部/連合国最高司令官))公認の著作権エージェントが、アメリカで出版される書籍の翻訳権契約ビジネスを独占的に行っていたが、洋書の輸入販売や和書の輸出が盛んに行われるようになり、我が国でも洋書の翻訳出版に関する需要が高まったことによって翻訳エージェントが誕生した。
 現在、我が国で活動している翻訳エージェントは10社にも満たないと聞いている。なお、大手出版者では、自社組織内に翻訳担当部署を設けているところもある。

【E事業者】

(1)管理業務の概要

 E事業者は、古くから美術、建築、料理、華道、歴史、宗教、小説など多くの分野において日本を中心とした東洋文化に関する書籍の出版事業を行っていたが、その後、洋書の輸入販売、和書の輸出等に加え著作権取引を行うようになった。ちょうど、我が国においてアメリカ文化への感心が高まった時代から翻訳出版に関する需要が高まってくることとなり、E事業者の翻訳エージェント業務も活発になった。

 まず、諸外国の文芸作品を我が国で翻訳出版する場合の交渉窓口は、著作者が権利を有する場合と出版者が権利を有する場合で異なる。
 著作者が権利を有する場合は以下の3つの場合が考えられる。

 次に、出版者が権利を有する場合は以下の2つの場合が考えられる。

 このように、諸外国の文芸作品の翻訳出版については、権利を有する者や著者エージェントが関与しているか等により、交渉の相手方は複雑になっている。我が国の翻訳エージェントは、このような権利関係を把握した上で諸外国の文芸作家や出版者、著者エージェントと契約を締結して、権利者の意向を踏まえた上で日本における翻訳出版に関する代理人として業務を実施している。
 我が国の翻訳エージェントと諸外国の著者エージェントとの間で契約を締結する場合があるが、この場合、日本の翻訳エージェントは諸外国の著者エージェントとの間で総代理店契約を締結することで、日本における代理店として独占的な利用許諾窓口となり、権利者の意向を踏まえた許諾手続を実施している。
 総代理店契約を締結した場合には、我が国の翻訳エージェントは、一般的に以下のことを義務付けられる。

 なお、翻訳エージェントの報酬は、著作者に支払われる使用料の10パーセントとされているのが一般的である。

 また、E事業者は、国内の出版者の翻訳利用に関する申請に基づいて諸外国の作家の翻訳エージェント業務を実施するだけでなく、諸外国の売れそうな作家を見つけて日本の出版者に売り込みを行っている。

 現在、E事業者は、翻訳エージェント業務だけでなくキャラクターの商品化に関する契約窓口として業務を実施している。キャラクターの商品化については、商品化されるまでに時間と手間がかかるため、翻訳エージェントが受け取る報酬は、権利者に支払われる使用料の30パーセントから40パーセント程度が一般的とされている。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 使用料については、契約の可否を含めて権利者の意向を確認して決定されている。E事業者が実施している業務のうち、諸外国の著者エージェントとの使用料交渉を例にとってみると、日本の出版者から翻訳出版に関する交渉の申込みがなされた場合、E事業者は原作者の権利を管理する諸外国の著者エージェントと使用料等の交渉を開始し、交渉の結果、諸外国の著者エージェントと契約内容や使用言語を含む契約書式等が合意されれば契約書を締結している。
 一方、総代理店契約を締結している諸外国の著者エージェントから文芸作品等の売り込み依頼があった場合、日本での翻訳利用が可能な作品リストや使用料等の利用条件が送付されてくるので、E事業者は日本の出版者に話しを持ちかけ、条件面で折り合いが付けば、翻訳利用の契約を締結する。
 その際、日本ではどの程度の額で売れるかなど、日本の事情をアドバイスする場合もある。ただ、いくら折り合いが付いても、著作者自身が特定の出版者以外には許諾しないという場合もある。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 翻訳出版については、利用形態や利用者によっては、権利者が許諾を拒否する場合も考えられる。また、利用形態ごとに統一的な使用料を設定することは困難である。
 これは、作家の意向を確認した後、許諾の可否や使用料の額を決定する手続きが作家の意向を適切に反映できるためであり、翻訳出版は一任型管理にはなじまない利用形態と考えられる。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 我が国では、翻訳出版に関するエージェント業務は1950年代には行われており、出版業界では、翻訳エージェントの存在やその業務内容が十分認知されている。翻訳出版に関する利用秩序も形成されており、利用者とのトラブルはほとんど起こっていない。

2利用者の意見

 特になし。

【F事業者】

(1)管理業務の概要

 F事業者では、主に諸外国の作品を日本で翻訳利用する際のエージェント業務を行っている。翻訳利用については、E事業者と同様、まず、誰が交渉窓口になっているかを探すことが重要な業務とされている。
 諸外国において交渉窓口になっているのは、著作者又は承継者、原出版者、著者エージェントが考えられるが、一般のフィクション・ノンフィクション作品の場合、特に著作者が英米人、とりわけ米国人の場合は、著者エージェントが窓口になる場合が多い。
 それ以外の国の著作者及び専門書の場合は、原出版者が窓口になるケースがほとんどである。
 著作者又は承継者、原出版者が利用許諾窓口になる場合は、それぞれ個別に契約交渉を行い、その都度、契約書を作成している。
 一方、諸外国の著者エージェントが利用許諾窓口になる場合は、我が国の翻訳エージェントが諸外国の著者エージェントと総代理店契約を締結する場合もあるが、総代理店契約の有無にかかわらず、個別の出版利用や映画化利用などの利用形態ごとに、その都度、契約書を交わしている。
 なお、総代理店契約では、主に以下の事項が記載されている。

 F事業者では、米国の約20社の著者エージェントと総代理店契約を締結している。

 F事業者のエージェント業務は、単行本、雑誌などの印刷物への利用が中心だが、最近、インターネット利用が徐々に増えている。特に諸外国の作家は、インターネット利用や書籍の付録用CD−ROM等の電子媒体への利用については、翻訳利用の管理を任せている著者エージェントとは別の著者エージェントに管理を任せている場合が多いので、利用形態ごとに窓口を探さなければならない。その場合、F事業者は日頃から付き合いのある諸外国の著者エージェントへ問い合わせて利用許諾窓口を調べている。

 一方、諸外国の著者エージェントから日本での翻訳利用が可能な作品リストや利用条件等が記載された文書が送付され、海外作品の売り込みを依頼される場合がある。このような場合、日本ではどの程度の金額で売れるかなど、諸外国の著者エージェントに日本の事情をアドバイスしつつ、日本の出版者に話を持ちかけ売り込みを行っている。

 F事業者では、総代理店契約を締結している代理店の情報を積極的に提供していないが、我が国の出版業界では、どこの翻訳エージェントに交渉すれば、どの作家と契約できるかをおおむね把握しているとのことである。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

 諸外国の著者エージェントとの契約交渉の内容を例にとってみると次のとおりである。
 我が国の出版者から電話等によりF事業者に翻訳出版交渉の申込みが行われた後、F事業者は諸外国の著者エージェントと契約条件等について契約交渉を開始する。作品によっては、諸外国の権利者は翻訳出版させる出版者をあらかじめ決めている場合もある。
 使用料の額については、その都度、権利者の意向を踏まえて決定されている。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 E事業者と同様、翻訳出版については、使用料などの条件面で作家の意向を確認しなければ許諾できない利用形態であるため、一任型管理事業には馴染まない。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 これまで利用者との間でトラブルになった事例はない。

2利用者の意見

 特になし。

前のページへ

次のページへ