3 調査結果

3.コミック

 コミックの二次利用に関する大手出版者の管理業務の内容は以下のとおりである。

(1)管理業務の概要

 コミックは、雑誌に掲載された後に単行本化されるケースがほとんどであり、通常、週刊誌連載3ヶ月分の分量で1冊分の単行本になる。
 雑誌への掲載については口約束によることがほとんどであるが、大手出版者の場合、単行本化する際には作家と出版者の間で文書による出版契約を締結するのが通常である。

 単行本出版の際には、二次利用に関する代理について出版者を窓口とする旨を出版契約に盛込んでいる場合が多いが、この出版契約では、出版者の窓口手数料などの二次利用の際の取り決めを内容とするものではなく、二次利用に関する作家の内諾を得ておく程度のものである。
 出版者によっては、コミック作家と専属契約を締結している場合もあるが、この専属契約は雑誌掲載と単行本出版を目的としているので、二次利用に関する代理については契約内容に含まれていない。

 コミックの二次利用については、まず海外出版に利用されるケースが多い。これは海外の出版者の日本のコミックに対する注目度が高いことによる。海外出版の次に、アニメーション化、映画化、テレビドラマ化、ゲームへの利用、商品化などの二次利用の申込みが行われることが多い。

 なお、海外出版の企画が生じた際には、前述した出版契約の中に盛り込まれた代理に関する取り決めとは別に、その都度、作家と出版者との間で覚書を締結するようにしている。

 出版契約と前述した海外出版の覚書を締結した後に、利用者からアニメ化を含め、映画化、電子出版などの二次利用の提案が出版者に寄せられることがほとんどなので、そこではじめて出版者が独占的に代理を行う旨の包括的な委任契約を作家との間で締結している。
 もちろん、作家本人が出版者に窓口手数料を支払いたくないといった理由で、委任契約の締結を断られる場合もある。

(2)利用手続の流れと使用料の決定方法

1テレビアニメ化

 特に二次利用の多いコミックのテレビアニメ化における契約では、二次利用に関する窓口業務を行う出版者と放送局との間で、放送に係る利用、国内番組販売(BS、CS)、ビデオ化を内容とする映像化許諾契約を締結することが一般的である。

 テレビアニメ化する際のコミック作家の使用料については、出版者が作家の意向を踏まえて放送局と交渉し、最後は作家の了解を得て決めている。
 なお、具体的な使用料については、利用形態や利用者によってまちまちであるが、使用料の相場はある程度決まっている。

 テレビアニメ化の場合、テレビアニメ製作にあたり、脚本家や声優など、様々な関係者が関与するので、予定されている声優が気に入らないために、作家が許諾を断ったケースもあると聞いている。
 そのほかにも、単行本で30巻に及ぶ作品を無理矢理1時間番組に縮めて製作しようとしたため、作家の許諾が得られなかったケースもあるとのことである。

2ビデオ化

 アニメのビデオ化については、出版者が作家の意向を踏まえて利用者と交渉して使用料を決定している。しかし、コミックの原作はアニメへの寄与度が高いにもかかわらず、使用される時間によっては音楽の方が使用料が高くなる傾向にあり、コミック作家からは使用料についての不満が多いと聞いている。

3映画化

 劇場用の映画化の場合は、出版者が作家の意向を踏まえて利用者と交渉して使用料を決定している。
 映画化の場合、制作費が高くリスクが伴うため、実際に映画化できるかどうかを見極める期間をおき、その間は、作家は第三者に映画化の許諾をしないこととするオプション契約を映画製作者と出版者が締結する場合がある。
 オプション契約の際の使用料についても出版者が作家の意向を踏まえて利用者と交渉して決定している。

4インターネット配信

 インターネット配信は著作者の公衆送信権が働く利用行為なので、一次利用である出版契約の中に盛り込むことはなく、インターネット配信の可能性が生じた時点で作家と別途契約を締結し、出版者が作家の意向を踏まえて利用者と交渉して使用料を決定している。
 特に、最近盛んになっている携帯電話への配信については、マンガのコマを1つずつ見せたり、効果的な演出を加えるなど、デジタル化する際の費用が高くなり、ビジネスとして成立するかどうか不透明な部分が多いため、今のところ、人気作品が優先される傾向にある。

(3)一任型管理業務を実施していない理由

 コミックのテレビアニメ化や映画化などは、原作に加えて、絵コンテ、脚本、声優・俳優などの要素が重要になってくる。そこで、翻案の程度によっては同一性保持権の問題が生じるため、作家に許諾の可否と使用料の判断を委ねなければならないことから、元々、一任型管理の慣行がないものと考えられる。

(4)利用者とのトラブルについて

1事業者の意見

 利用者が提示する使用料があまりにも安いので、作家の了解が得られないケースもあるが、トラブルになるケースのほとんどは著作者の同一性保持権の問題が生じる可能性のある場合や、名誉声望を害するおそれのある利用の場合である。

2利用者の意見

 特になし。

(参考)

 コミック以外の学術書や文芸書等の一次利用に関する著作者と出版者との一般的な契約を参考に紹介する。

<雑誌>

1一般雑誌

 一般雑誌は書籍に比べ同一の雑誌が継続的に出版される可能性が低く、出版権設定にはなじまないことから、著作者と出版者との契約は口頭による掲載契約がほとんどであり、文書による契約は締結していないのが通常である。なお、出版契約を締結する場合でも権利の移転がなされないのが一般的である。

2学術系雑誌

 学術系雑誌の場合は、執筆要綱により、原稿料などの契約内容を明記し、個々の著作者へ執筆依頼状を送付後、承諾書を返送してもらうことによって出版契約書の締結に代えている場合が多い。また、自然科学系論文の場合は、投稿規定によって権利の譲渡を受けている場合がほとんどである。

<書籍>

1文芸書・実用書

 文芸書、実用書については、著作者と出版者との間で出版物ごとに個々に出版権設定契約を締結するのが一般的である。なお、社団法人日本書籍出版協会では契約書のひな形を作成しているが、必ずしもこのひな形に基づいて契約書を作成している訳ではなく、出版者ごとに独自の契約書を作成している。特に、文芸作家の場合は、出版権設定契約をしない場合が多く、独占的な出版契約を内容とする場合が多い。また、電子出版、ドラマ化、映画化などの二次利用の際には、出版者を窓口とする内容を契約書に盛り込むことが多い。

2学術専門書

 学術専門書の場合、文書による契約がなされている場合がほとんどであり、出版者は著作者から権利の譲渡を受けている。出版者から著作者に対して執筆依頼を行う場合でも、出版者に権利が帰属する旨の承諾書を著作者から受けている。なお、日本医書出版協会では、権利譲渡を内容とする契約書のひな形を作成している。

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