文化審議会著作権分科会（第23回）議事録・配付資料［資料5］ 1．過去の著作物等の利用の円滑化方策について

　著作物を利用する際には、著作権者の許諾を得る必要がある。この際に必要となる権利関係の調査、契約作業等のための費用が使用料に加えて必要になるが、場合によっては、この費用が過大となり流通阻害の要因となる場合があるとして、次のような指摘があった。
1. 　著作権が流通の阻害要因であるというのは、誤解である。著作権等管理事業者が権利を管理している場合には、原則として応諾義務が課せられているため（著作権等管理事業法第16条）、実質は報酬請求権と同じこととなっており、通常の利用が拒否されることはない。
2. 　音楽以外の分野では、管理事業者が管理する著作物等のシェアが高くなく、団体に属していない者の著作物、団体がない分野の著作物を利用する場合の交渉に時間・労力等がかかる。
3. 　権利者が管理事業者を変更したなどの事情で、管理対象外となっている著作物は、結果として無許諾で使用することとなるが、そのリスクとその対応の費用（保険など）は、大きな課題である。
4. 　戦時加算があることにより、その対象国ごとに保護期間が異なるほか、戦時加算の適用の有無について、著作権の譲渡の有無等も調査する必要がある。
　これらの問題のほか、権利を管理する自覚のない権利者の問題等に由来して、権利者が誰か分からない場合、権利者の所在が不明の場合があり、また、相続により権利者が分散している場合、多くの権利者が関わっていてそのうち一部が利用を拒否している場合などもあり、これらの場合には、特に、円滑な利用を妨げているとの指摘があった。

）対応の基本的考え方

　このような問題への対応については、権利処理が円滑に行われることで、適正な価格の著作物が提供されるようになることは、エンドユーザーにとって著作物の購入の際に大きな影響を与えることから、著作物を広めていく観点からも対応の必要性が高いとの指摘があった。
　一方、権利を制限する方法など権利者を犠牲にする対応策では、集中管理などの権利者が行う対応策の取組のインセンティブを妨げることになるという意見や、既にある著作物等の利用に偏重すると、実演家の新たな実演機会が失われるおそれもありバランスのとれた方策が必要であるという意見もあった。
　対応策の提案・要望として出された事項は、次のとおりである。
1. 　権利の集中管理をより一層進めることや、まずは関係者間の協議により、自己責任で解決していく方式を考えていくべき。
2. 　コンテンツホルダーなどによる権利者情報の管理の仕組みを構築すべき。
3. 　特別の場合にしか使用していない裁定制度をより簡易に使えるようにすべき。
4. 　裁定制度のように費用のかかる方法のほか、需要に見合ったコストで著作物が利用できる方策も考えるべき。
5. 　複数の権利者のうち一部の者の反対のみで全体が利用できなくなるような事態は避けるべき。

（2）権利の集中管理、関係者間協議の推進

　現状としては、前述のように、著作権等管理事業者の場合には、原則として応諾義務があるなど、著作権等の管理団体に権利を委託している者、権利者団体と利用者団体との協定が適用されている者については、所定の規程や協定のルールに従って、一定の使用料を支払うことにより、著作物の利用について、ほぼ自動的に許諾が得られる仕組みが整備されている場合がある。
　一方で、団体に属していない者の著作物、団体がない分野の著作物を利用する場合の交渉費用の問題が引き続き残ることや、権利者が管理事業者を変更したなどの事情で、管理対象外となっている著作物は、結果として無許諾で使用することとなるが、そのリスクとその対応の費用（保険など）の問題があるとの指摘があることは前述のとおりである。
　このような権利の集中管理の仕組みについて、一層推進して、一定の使用料を支払えば利用できるようにする体制を構築すべきであるという意見があった一方で、一元集中管理を進めることは、便利だが、逆に手数料や使用料の高額化を招く可能性があるとの指摘や、著作者人格権についての承諾が必要な場合など集中管理が難しいものもある（例えば、戯曲の改変を前提として利用する高校演劇のような場合、集中管理や強制許諾で対応を考える方向だと、例えば亡くなった作家の作品を高校演劇などで使えにくくなる等の問題がある）との指摘があった。
　また、通常から取引関係のある事業者や団体間での問題に関しては、まず、関係者の協議により自己責任で解決する方法を考えるべきとの意見や、過去の放送番組の二次利用については、既存の枠組みの中での協議を通じた解決では限界があるのではないかとの指摘があった。

（3）権利者情報の管理、データベースの構築

）現状と基本的な考え方

　権利者の所在情報やコンテンツに含まれる権利者の情報の管理の現状について、一部の団体・業界での取組が次のように紹介された。
1. 　放送番組では、放送局において今後の放送番組の権利情報の管理に取り組んでいるが、二次利用が想定されていなかった過去のものについては、管理されておらず、権利者が誰なのかも不明な場合がある。また、外部制作の場合には、十分に管理できているか不明であり、メタデータ（権利者情報を含めたコンテンツ情報）を収集するシステムを構築中である。
2. 　映像制作会社のように小規模な会社では、メタデータの管理の余力がなく、支援が必要である。
3. 　脚本の分野では、ほぼ90パーセント以上の権利者の所在を把握できており、定期的に連絡も取っているので、権利者不明になることは、ほぼあり得ない。
　また、コンテンツ情報については、コンテンツの発信やコンテンツホルダーの連絡先情報の提供を目的とした（ただし権利処理は目的としていない）コンテンツ・ポータルサイトが構築されているほか、平成21年1月を目途に、創作者団体により権利者情報のポータルサイトを構築する計画があると紹介されている。
　このような権利情報の取扱いについて、次のような意見があった。
1. 　今後、デジタルデータがパッケージなしで流通する場合もあり、コンテンツホルダーが、メタデータを参照可能な状態に保持するとのルール作りが必要である。
2. 　権利者自身が、氏名表示、データベースへの登録などによって自分の所在を管理すべき時代になってきており、それらを明示していない場合には、比較的容易に利用できるようにするなどの措置を講じてもいいのではないか。

）権利者情報データベースの構築

　権利情報の管理については、次のような提案・要望があった。
1. 　著作者の没年、所在情報、翻訳権10年留保等に関する情報について、外国人著作者も含めて網羅的にデータベースを構築すべき。
2. 　また、利用に当たっては無料で国民に公開すべき。
3. 　このような取組を国レベルで行うべき、あるいは一元的な交渉窓口となる公的機関の整備も検討すべき。
　また、このようなデータベースについて、上記の著作者の没年等に加えて、さらに、権利者がどのような利用条件で許諾できるかをあらかじめ示しておくことや、著作権を放棄するための意思表示のシステムとすることも考えてはどうかという提案があった。
　ただし、データベースに利用条件の意思表示も加える場合には、他人がなりすました場合の問題等もあり、比較的公的な機関の後援など、ある程度体制を構築する必要があるとの意見もあった。
　一方で、このような権利者情報データベースの実現性やコスト、登録のインセンティブについて、次のような意見もあった。
1. 　データベースは、そこに積極的に協力する権利者が多くいなければ、根本的な解決にはならず、権利管理をしない権利者への対応は別途検討が必要である。また、登録のインセンティブを高めるような制度的な措置についても検討が必要である。
2. 　米国のように登録制度に一定の効果を持たせることはベルヌ条約違反ではなく、制度を利用した者には一定の効果を享受させる仕組みは検討の価値がある。
3. 　個人情報保護法が施行され、第三者への個人情報の提供が制限されるようになったことで、権利者の所在情報を得るのが困難になっている。
4. 　網羅的なデータベースは、膨大な情報量になり、莫大な予算を伴うことになるが、その負担を国民に負わせることが適切か。
5. 　ウィキペディアのようなオープンな方法で権利者の情報を収集するような方式であれば、コストをかけずにデータベースが整備できるのではないか。

（4）権利者所在不明の裁定制度の改善等

）現行制度の改善について

　現在、著作権法では、著作権者不明その他の理由により相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、文化庁長官が定める補償金を供託することにより、著作物を利用できる制度（裁定制度）を設けている。この制度については、既に、平成14年に「相当な努力」の緩和など、運用の改善を図ってきているが、この制度については、次のような問題点の指摘があった。
1. 　著作権使用料の多少にかかわらず、手数料等が高く、時間がかかる等の問題がある。
2. 　著作者調査の「相当な努力」に多大な費用と時間がかかり、経済的価値に見合わない場合には限界がある。さらに、新聞、雑誌のように1点に出版物に多くの著作物が含まれている場合には、調査が特に困難であり、事実上、裁定制度の利用ができない。
　このような現状に対して、次のような制度改善に関する意見があった。
1. 　手数料の減額や国の補助、裁定に特化した審議会や補償金の額を決定するための審議会について、分野ごとに著作物を類型化して金額をランク付けしておけば、時間が短縮されるのではないか。
2. 　事前の「相当な努力」についても、例えば文芸の分野では文藝家協会に登録しない者の大部分は経済的利益を求めていない者であり、非営利のアーカイブのような利用であれば、文藝家協会のホームページをチェックして名前がなければ、「相当な努力」を払ったことにする等、利用者に負担のないようなガイドラインを作成すべきではないか。
3. 　権利者が自ら権利を十分に管理していない場合には、比較的容易に利用を認め、後に権利者が現れたときに相当額が払われる制度や、供託金が国庫帰属でなく共通目的基金となるような新たな裁定制度を考えてはどうか。
4. 　ある作品について裁定手続きが終了した後に、後から同じ作品を利用する第三者が、再度、調査等の手続を経ることは不経済であり、一人が調査を行った場合には、その結果が対世的に及ぶような方策を検討すべき。次の者には、著作物の利用目的の公益性が高い場合、利用態様が権利者を害しない場合には、料金の支払いのみで裁定を認めるべき。
5. 　国立国会図書館が権利確認をした成果については、公表すべき。

）著作隣接権に関する裁定制度

　現在の裁定制度は、著作権に関するものであるが、過去の放送番組等の利用の際には、実演家の所在不明の場合等もあり、著作隣接権についても裁定制度が必要であるとの意見があった。
　一方、このような提案に対して、次のような指摘があった。
1. 　コンテンツ・メタデータは、コンテンツホルダーでなければ収集し得ず、コンテンツホルダーが、権利者が誰か分からない場合の裁定制度を求めるのは不合理である。今後の作品については、権利者団体との協力により利用の仕組みを作る方向で検討すべき。
2. 　関係者間で何らかのファンドを用意して、権利者が現れたときに支払いができるような仕組みを検討しているように、まだ努力する余地があるのではないか。
3. 　著作隣接権の裁定制度については、実演家等保護条約との関係についての整理が必要であったのではないか。

）裁定制度以外の対応策

　裁定制度は手数料等のコストの問題から経済的価値に見合わない場合には利用できないとの指摘もあり、その観点から、次のように、裁定制度以外にも権利者の所在不明の場合等への対応策が必要とする旨の意見が出されている。
1. 　過去の文学作品の復刻などで、所在不明で遺族も分からないような場合には、一定の印税を積み立てておいて利用するような仕組みはどうか。
2. 　没年確認が出来ない場合のために、生後又は作品公表後150年で保護期間が終了することを規定すべき。
3. 　特定少数の間で、コミュニケーション目的で行う複製については米国のフェアユース規定のような枠組みを作るべき。
4. 　公共的な利益があるときに一方的に利用拒絶がされないよう、利用拒絶ができる場合を、利用拒絶をしなければ「通常の利用を妨げる」場合で「正当な利益を不当に害する」ときに制限すべき。
　このほか、英米で提案されているような、新たな権利者不明の場合の制度についても検討が必要ではないかとの指摘があった。
　一方、このような提案に対しては、現行の裁定制度と英米で提案された制度とは、後から権利侵害を問われないという法的安定性の面と許諾手続の費用・時間の面で一長一短だが、権利者を探す作業の負担はどちらも負わなくてはならない。裁定制度の問題とは、審議会を経る時間などの文化庁の事前手続によるものか、それとも、権利者を探す実際のインフラが不足しているということによるものなのか検証が必要であるとの意見もあった。
　なお、緩やかな裁定制度を作る際には、条約上の問題と人格権の問題がある。人格権については、特に著作物を改変して利用することには、権利者はナーバスになるため、人格権の取扱いもあわせて考えるべきとの指摘もなされた。

（5）権利者が複数存在する場合の利用の円滑化

）共有著作権に関する問題

　前述のように、権利者が複数存在する場合に、一部の権利者の反対によりコンテンツ全体の利用が困難になる旨の指摘がなされている。この点、現行の著作権法は、共有著作物の創作意図及び共有著作物の著作権の一体的行使の観点、一般財産との対比における著作物利用の性質の特殊性等を考慮して、権利行使には全員の同意が必要等とする規定を設ける一方で、正当な理由無く合意の成立を妨げることができない等の規定（第65条等）を設けて、利用の円滑化との調和を図っている。
　このような共有著作権に関する仕組みについては、次のような指摘があった。
1. 　そもそも、第65条の規定は、共同著作物については共同の創作の意図があること等を背景としていることから、例えば、著作権者が著作者である場合とない場合とで「正当な理由」の解釈の判断を分けて、前者により強い拒絶を許容するなどとすれば、ある程度円滑化に対応できる可能性もある。
2. 　立法論としても、共同著作物以外の共有の場合にも第65条のルールを適用させる妥当性も考えなければならない。著作権が禁止権であることを考えれば、他の共有者の権利行使も禁止できていいという考え方もあり得るが、報酬請求権とのバランスを考えて、どこまで著作権に禁止権としての性質を認めるべきなのかという問題はやはり残るのではないか。
3. 　複数権利者が一つの財に対して権利を有している場合、「アンチ・コモンズの悲劇」として市場での解決は困難なことが立証されている。複数権利者のうち一部の許諾が得られない場合については、共有著作権の権利行使に当たり、一定の条件の下に利用が可能となる仕組みについて検討が必要である。
4. 　強制許諾のような行政の関与による措置や同意の推定規定、より簡便な裁定制度は考えられないか。
　一方、一定の法的措置については否定的な見解もあった。
1. 　権利者の権利を制限するのは難しい問題であり、権利の集中管理を進めることによって、複数権利者の場合の利用円滑化の解決にもなるのではないか。
2. 　問題となるのは、一部の相続人の所在不明の場合であり、簡易な裁定制度ができれば、不安はほとんど解消するのではないか。
3. 　相続によって権利者が複数存在する場合も考えられるが、実際は、相続人が多数の場合でも、相続人の代表者との話で大体は解決がつく。
　なお、相続人の代表者とだけ話をしても、一部の権利承継者から訴訟を起こされる可能性は当然あるのではないか、日本の遺族はあまり主張をしないが、海外の作品の上演が多い演劇などの分野では現実に起こりうるとの意見もあった。

）共有でなく複数の権利が存在する場合

　さらに、共同著作物や相続などの権利が共有になっている場合ではなく、異なる複数の権利が、同一のコンテンツの利用に関係する場合についても、権利が共有の場合と同様の問題に考えるべきではないかという観点から、上記と同様の指摘等があった。
1. 　多数の権利者が関係する映画の著作物では、一部の許諾が得られない場合については、共有著作権と同様に、正当な理由がない限り同意を拒否できないようにすべきではないか。
2. 　創作者に共同して創作している意図が明確にないような、『電車男』などのネットで行われる新たな形態の創作活動はどのように考えるべきか。

（6）放送番組の二次利用について

　上記のうち、特に経済財政諮問会議などから検討の要請の強い、過去の放送番組の二次利用についても、上記と同様の意見が当てはまるが、その他、以下のような指摘があった。
1. 　放送番組では、新しいものが次々と求められているのが実態であり、過去の番組の利用が求められることはそれほどないのではないか。
2. 　そもそも、放送事業者が当初から二次利用を想定して契約をすれば済む問題ではないか。
3. 　当初から二次利用を想定して契約をしておくことについては、ドラマやアニメについては行っているが、バラエティーなど二次利用されるか分からないものについては、当初の段階で契約を行うのは難しいとの実態もあり、なんらかの対応が必要である。
4. 　実演家の所在不明の場合は、著作隣接権についても裁定制度が必要であるという意見があるが、職業的な実演家の所在不明と、一般人の「写り込み」の問題が混同されているが、区別して議論すべき。
　そのほか、放送事業者自らが二次利用する場合だけではなく、番組制作に協力した研究者が、学会等で放送番組を活用する場合等の権利処理の方策についても検討すべきではないかとの指摘もあった。

1．過去の著作物等の利用の円滑化方策について

（1）現状・対応の基本的な考え方

）現状