文化審議会著作権分科会（第23回）議事録・配付資料［資料5］はじめに

　「著作権法における今後の検討課題」（平成17年1月24日文化審議会著作権分科会）では、関係団体からの要望を受け、著作権の保護期間について、「欧米諸国において著作権の保護期間が著作者の死後70年までとされている世界的趨勢等を踏まえて、著作権の保護期間を著作者の死後50年から70年に延長すること等に関して、著作物全体を通じての保護期間のバランスに配慮しながら、検討する」として、戦時加算の問題とともに、検討課題の一つに挙げていたところである。
　また、平成18年9月22日には、著作権問題を考える創作者団体協議会から保護期間の国際的調和を図ること等について、要望が寄せられている。
　一方、平成18年11月8日には、著作権保護期間の延長問題を考える国民会議（現：著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム）から、一度延長をすると短縮が困難なこと、延長を繰り返す懸念があること等から、文化的経済的影響について実証的に慎重な国民的議論を経ずに延長を決定すべきでない旨の要望がなされている。また、同年12月26日には、日本弁護士連合会からも、同じく慎重な議論を求める旨、さらに延長する場合には、データベースの整備や実効性のある裁定制度その他の利用を困難にしないための措置を講ずるよう提案がなされている。
　このような中、政府の「知的財産推進計画2007」（平成19年5月31日知的財産戦略本部決定）では、「著作物の保護期間の延長や戦時加算の取扱いなど保護期間の在り方について、保護と利用のバランスに留意した検討を行い、2007年度中に一定の結論を得る」こととされているほか、権利者不明の場合のコンテンツの流通促進、アーカイブの促進・活用、ネットワーク上で利用条件を意思表示するシステムなどについても同様に記述がなされている。

　本小委員会では、上記のような要望等を踏まえ、著作権の保護期間の問題だけではなく、以下のような事項を課題としている。
- 　過去の著作物等の利用の円滑化方策について（権利者不明の場合の著作物の利用の円滑化方策等）
- 　アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策について（図書館、博物館、放送事業者等においてアーカイブ事業を円滑に行うための方策）
- 　保護期間の在り方について（保護期間の延長、戦時加算の取扱い）
- 　意思表示システムについて（クリエイティブコモンズ、自由利用マーク等の利用に伴う法的課題等）
これらの各検討課題どうしの関係については、著作権の保護期間が延長される場合の懸念やデメリットを中心として、次のように意見が出されている。
　仮に、著作権の保護期間が延長された場合には、著作物の利用許諾を得るための権利調査等が一層困難になると考えられ、延長するのであれば、利用の円滑化のための方策が十分に措置されるべきとして、この具体例としては、次のようなものが挙げられている。
1. 　権利情報のデータベース（所在、生没年、戦時加算対象物、管理事業者の管理著作物の範囲）の構築、集中管理の一層の促進
2. 　裁定制度の改善、著作隣接権についての裁定制度の創設
3. 　需要に見合ったコストで著作物が利用できる方策
　なお、これらの課題は、延長するのであれば必ず取り組まなければならない課題であるという意見の一方、保護期間の問題とは別個の問題として取り組むべき、保護期間延長の代替措置として権利情報のデータベースの構築を考えるのであれば、実効性のあるシステムが実際に構築されるかどうかを見極める必要があるという意見もあった。
　また、保護期間が延長された場合には、ひ孫の代になり遺族の数が増えるために許諾手続が煩雑になり、取引費用が増大するとの意見、既存の創作物を利用した二次的創作や文化の継承のためのアーカイブ活動の制約になるとの意見も出されている。
　これについては、保護期間の延長が文化の承継に影響を与えないようアーカイブ活動の円滑化を検討すべきという基本認識の一方、保護期間内であっても、例えば、アーカイブを容認する等の意思表示システムとその作品情報のデータベースの整備は取り組むべきという意見があった。
　そのほか、利用円滑化策やアーカイブの構築によっても、著作者人格権の関係で引き続き利用困難な作品形態があるといった指摘や、そもそも保護期間延長をしないことが最大の利用円滑化方策であるとの意見があった。
　また、本小委員会の直接の検討事項ではないが、障害者への情報保障の環境が不十分なまま保護期間を延長することは、さらに障害者の情報アクセス環境を悪化させるおそれがあるとの指摘もあった。
　以下のそれぞれの課題に関する検討では、これらの課題の相互の関係性に十分留意しながら検討を進める必要があると思われる。

はじめに

）経緯

）検討課題と各課題の関係