テレビ番組について著作権を有するUniversal City Studios, Inc(ユニバーサル)が、Sony Corp. of America(ソニー)に対し、ソニー製のVTRを使用してテレビ番組の録画をしている消費者の行為は著作権侵害であり、また、当該VTRを製造して一般に販売している点でソニーも著作権侵害の責めを負うものであるとして、差し止め、損害賠償などを求めた事案。
家庭内の録画はフェアユースに該当し、著作権侵害にならないとした第一審の地方裁判所の判決は、第二審である控訴裁判所により逆転されたが、最高裁判所は控訴裁判所の判決をさらに逆転し、5対4の僅差でソニーの侵害を認めなかった。
最高裁判決では、タイムシフトを「後で一度観るために番組を録画し、その後消去する方法」と定義している。
素材が一般公衆に無料で放送されている事実、利用の非営利性及びその全てが家庭の内部で行われる行為の私的な性質を強調し、著作権のある著作物の全体が録画されたときでも、「“原告のオリジナルな作品”の市場の減少を伴うものではない」として、この複製をフェアユースとみなした。
また、仮にVTRのホームユースが侵害にあたる利用であるとしても、ソニーは、そのような利用を行うベータマックスの購入者とは直接の関係がなく、寄与侵害の責任を負わないとした。
地方裁判所の判決を破棄。VTRのホームユースは「生産的利用」ではないので、フェアユースにはあたらないと結論。VTRによって可能になった大量複製の累積的効果がユニバーサルの著作物の潜在的市場を減少させる傾向にあることが明らかになったと考えられると述べている。
また、著作権のある素材の複製はVTRの「最も顕著な利用方法」であり、「主要な利用方法」でもあるから、ソニーは、家庭での所有者の侵害行為を知っていることについて責任があるとした。
地方裁判所の判決を支持。著作物の無料放送に許諾を与える著作権者の大多数は、視聴者が私的な範囲で放送をタイムシフトすることに対して異議を申し立てない可能性が高いことをソニーが立証したこと、また、タイムシフトがその著作権のある著作物の潜在的市場又は価格に少なくない損害を与える可能性があることをユニバーサルが立証しなかったことをもって、ソニーのVTRは侵害でない利用が相当程度に可能であり、ソニーによる一般公衆へのこのような機器の販売は、ユニバーサルの著作権の寄与侵害にはならないと判断した。
判決では、フェアユース及び寄与侵害について、以下のような考えが述べられている。
- フェアユース条項は、裁判所が「衡平法上の合理の原則」に従った分析を特定の侵害クレームに対し適用することを可能にする様々な要素を明らかにしている。地方裁判所は、家庭内での利用を目的としたタイムシフトは非商業的、非営利と評価されるべきと判断したので、そのような利用は公正(フェア)であると推定するのが適切である。さらに、テレビ放送される映像著作物の性質と、タイムシフトが全て無料で視聴するよう勧められている作品を視聴者が見ることを可能にしているだけであることを考慮すると、作品全体が複製されるという事実は、フェアユース認定にあたり不利に作用しない。さらに、著作物の潜在的市場や価値に対する影響を考慮することが必要だが、そのような影響を証明できない利用を、創作者の創作意欲を守るために禁止する必要はない。そのような禁止は、反対利益なくアイデアに対するアクセスを禁止することになる。非営利的な利用の場合、その利用が有害であること、あるいはその利用態様が広く普及した場合に、将来損害が発生することについての、ある程度意味ある可能性を、優位な証拠をもって証明することが必要だが、ユニバーサルはその責任を果たさなかった。また、地方裁判所の結論は、タイムシフトが無償のテレビ番組に対する公衆のアクセスを拡げる限りにおいて公共の利益をもたらすことによっても裏づけられる。公共の利益にも制限がないわけではないが、この事実は、私的なタイムシフトを連邦法違反とするにあたっては著作権者の挙証が求められるというフェアユース概念の解釈を支持するものである。これらの要素を全て「衡平法上の合理の原則」のバランスに照らして評価すれば、裁判記録は、家庭内タイムシフトはフェアユースであるとの地方裁判所の結論を十分に支持するものであると我々は結論づけなければならない。
- 控訴裁判所は、「衡平法上の合理の原則」に従った分析をこの裁判で採用しないことを選択し、代わりに、フェアユースの類型はすべて「生産的利用」でなければならないと推定したため、単にスケジュールコンフリクトのために逸してしまう情報やエンタテインメントを得ることを可能にするためのテレビ番組の複製はフェアユースになり得ないと結論づけた。しかし、そのフェアユースの理解は誤りである。議会は、フェアユースの分析にあたり利害のバランスを慎重にとるよう指示しただけであり、生産的な利用か非生産的な利用かは、バランスを量る助けになるかもしれないが、決定的な要素ではあり得ない。
- 本件でソニーに寄与侵害責任を課すとすれば、それは、使用者が許可なく著作物を録画するであろうことを知っていたと推定されるのにベータマックスを販売したという理由でなければならないが、著作権法上、そのような理論で責任を認めた先例はない。しかし特許法に先例が存在し、法制の歴史的緊密さに鑑み、これらを参照するのが適切である。特許法上、寄与侵害は明文をもって定義されている。それは特定の特許に関して使用するために特別に作られた部品を、そうと知って販売した場合に限定されている。他の特許にも使える場合を含まない。また、「相当の正当使用に適した有用商品(staple article of commerce)の販売は寄与侵害に当たらない。」と明記している。従って判例は、その特許を使用する以外に用途がない場合にのみ寄与侵害を認めてきた。著作権法と特許法は異なるが、寄与侵害について共通の基礎がある。従って、複製機の販売も、他の有用商品と同様、それが広く合法的で意義のない目的に使用されているか、あるいはその可能性さえあれば寄与侵害とはならない。
なお、Bluckmun裁判官は次のような少数意見を述べ、3名の裁判官がこれに同意している。
- 家庭での視聴のために録画を行うことは、著作物の生産的利用ではなく、むしろ通常の利用である。非生産的利用であっても、当該利用が著作者の著作物の価値又は市場に影響を及ぼさない場合があることは認めるが、「小さな侵害の個々の事例が多数重なると、全体としては防止しなければならない重要な著作権侵害になる」ことも考慮し、通常の利用について著作者から保護を奪う場合には、裁判所は慎重になる必要がある。
- 少なくとも提案される利用が非生産的なものであるときは、著作権者は、著作物の市場又は価値に関する損害の可能性のみを証明すれば足りる。新テクノロジーが現に損害を及ぼしていないことを理由に、著作権の保護を否定されるべきではない。VTR録画は映画館での上映やビデオテープの販売等を通じて作品を市場に出しうる可能性を減少させ、また、そのライセンスの料金を減少させる可能性がある。タイムシフトが著作物の「潜在的市場」に相当の不利な影響を与えているのは地方裁判所の記録及び認定から明らかであり、したがって、タイムシフトはフェアユースにあたらない。
- 放送からの録画はベータマックスに関する予測可能な利用であるばかりか、意図された利用でもある。放送からの録画が著作権侵害である場合は、ソニーはベータマックス利用者の侵害行為を誘引し、侵害行為に実質的に寄与したといえる。