第6章 外国における私的複製の取扱いと私的録音録画補償金制度の現状について

第7節 世界知的所有権機関(WIPO)

 世界知的所有権機関(WIPO)事務局における私的録音録画と補償金制度についての見解は次のとおりである。

1 ベルヌ条約との関係

 私的録音録画については、ベルヌ条約第9条第2項により、いわゆるスリー・ステップ・テストの下で認められる。著作者の正当な利益を不当に害する事情がある場合には、適切な補償措置を導入することによりスリー・ステップ・テストの要件が満たされる。しかし、補償金制度自体は条約上の義務ではないので、条約を根拠に補償金制度を設ける国もあれば、そうでない国もある。

2 補償金制度の対象外とされるべきもの

 補償金制度を採用すべきでない例としては、違法なソースからコピーしたり、権利者の許諾を得ていないものを私的録音録画する場合が挙げられる。しかし、違法な使用かどうかの区別は困難という課題がある。

3 補償金制度について

(1)補償金額の決定

 WIPOとしては、どのように額を決めるべきかを奨励する立場にないが、多くの国で権利者側と支払者側で交渉して補償金額を決定する方法を採用しており、額が決まらない場合には仲裁(調停)手続に入るなど国によって方法は様々である。

(2)支払義務者

 製造業者又は輸入業者としている国が多い。補償金を支払わなかった場合の制裁については国によって異なり、国際ルールは存在しない。

(3)共通目的事業

 徴収した補償金を完璧に権利者に分配することは不可能であるので、音楽、アート、文学の伝承といった共通目的のため、補償金を支出することは正当化される。徴収団体による共通目的事業への支出割合について国際的な共通ルールはなく、WIPOとしては各国内法によるべきと考えている。

4 著作権保護技術と補償金制度との関係

 著作権保護技術の将来性は十分考えられるが、著作権保護技術が広く適用されるかどうかは不透明であり、現時点において著作権保護技術と補償金額を調整するメカニズムが確立しているわけではない。
 WIPOとしては、補償金制度を廃止するのではなく、補償金の額を下げるという方向性が現実的であると考えている。また、多機能な機器が登場した場合に自動的に補償金を課すことは適切ではないと考えている。

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