第6章 外国における私的複製の取扱いと私的録音録画補償金制度の現状について

第6節 その他の国

1 スペイン

(1)沿革

 スペインでは、1987年に著作権法を改正し補償金制度を導入した。その後、EU理事会指令2001を受け、2006年に私的複製及び補償金制度等に関連する著作権法の改正が行われた。

(2)私的複製の取り扱い

 スペインでは、複製物を集合的な使用又は営利目的の使用に供しないことを条件として私的使用のために複製する場合は、著作者の許諾を要しないこととされている(第31条3項)。

 なお、2006年の改正において、インターネット上で明らかに違法な態様で提供されているものからの複製は、私的複製の範囲から除外することが明確化された。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作者、レコード製作者、ビデオ製作者、実演家に与えられる(第25条)。

 支払義務者は、機器及び記録媒体の製造業者又は輸入業者とされており、流通業者や卸売・小売業者は、製造業者等と伴に連帯責任を負う(第25条(4))。

 補償金額の決定方法は、2006年改正により、デジタル方式の録音録画機器・記録媒体については、徴収団体と製造業者等による市場調査の後、両者の交渉を経て政府が決定する方法に改められたが、法改正後に行われた両者の協議は合意に達しなかったため、スペイン文化省は、今後、経済大蔵省との調整を経た後補償金額を決定することとしている。

 また、同年の改正により、著作権保護技術の使用度合いに応じて補償金額を決定することとされた。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

2 オランダ

(1)沿革

 オランダでは、1991年に補償金制度を導入している。その後、EU理事会指令2001を受けて、2004年に補償金制度等の関連の著作権法の改正が行われている。

(2)私的複製の取り扱い

 オランダでは、個人が商業目的でなく、かつ、個人での使用や研究のみを目的として著作物の複製を行う場合は、著作権の侵害とはみなされないこととされている(第16条(c)(1)(2))。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作権者等に与えられ、補償金の支払義務者は、記録媒体の製造業者と輸入業者とされている。

 補償金は、権利者の利益を代表する機関として法務大臣により指名された私的複製協会(Stichting de Thuiskopie)と製造業者とによって構成されるSONTと呼ばれる組織が、補償金の対象品目及び補償金額を決定している。

 なお、2004年改正により、著作権保護技術を考慮して補償金額を決めることとされ、2004年11月以降は、DVDプラスR/RWに係る補償金額について66パーセントの減額が行われている。
 また、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

3 オーストリア

(1)沿革

 オーストリアでは、1980年に西ドイツに次いで世界で2番目に補償金制度を導入している。なお、オーストリアの特徴として共通目的事業への支出割合が50パーセントと他国に比べて非常に高い割合になっている。

(2)私的複製の取り扱い

 私的使用のために、文学、音楽、美術の著作物の複製物を作成することができることとされている(第42条)。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音・録画(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は著作権者等に与えられる(第42b条)。

 支払義務者は、製造業者や輸入業者など、国内で最初に記録媒体を商用有償流通させた者とされているが、輸入業者が捕捉できない場合には、記録媒体の卸売業者や小売業者が保証人としての支払義務が課せられている(第42b条3項)。

 記録媒体には、一体型機器に内蔵されたハードディスクやMP3プレーヤー内蔵のメモリカードが含まれるが、パソコンのハードディスクは対象とされていない。

 補償金の額は、法令で決定されている訳ではなく、音楽録音権管理団体(Austro-Mechana)と連邦商工会議所との協議により決定する。なお、2006年の管理団体法の改正により、協議が整わなかった場合の特別仲裁手続が設けられた。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

4 カナダ

(1)沿革

 カナダでは、補償金制度が導入されるまで、調査研究目的での複製を認める公正使用(fair dealing)の規定しかなく、私的使用目的であっても権利者の許諾を得ずに複製する行為は全て権利侵害とされていたが、1998年に補償金制度が導入された。

(2)私的複製の取り扱い

 カナダでは、調査又は私的研究を目的とした公正使用は、著作権を侵害しないこととされており(第29条)、さらに、音楽の著作物、実演、レコードを聴覚的記録媒体に複製する行為は、著作権の侵害にならないこととされている(第80条(c))。なお、娯楽目的の私的録画については特別な規定は置かれておらず、違法とされている。

(3)補償金制度の概要

 対象行為は、私的録音(アナログ・デジタルの区別なし)である。請求権は、著作者、実演家、レコード製作者に与えられる(第81条(1))。

 支払義務者は、聴覚的記録媒体の製造業者及び輸入業者とされている(第82条)。

 補償金額は、徴収団体であるCPCC(Canadian Private Copying Collective)が補償金の対象品目と料金表案を独立行政審判所であるカナダ著作権委員会に提案し、同委員会による料金表案の公告の後、異議申し立てがあれば、同委員会は必要に応じて料金表案を修正し決定する。

 2003年12月、カナダ著作権委員会は、メモリー内蔵型オーディオ・レコーダーのメモリーを補償金の対象とする決定をしたが、連邦控訴裁判所によって否定され、その後、カナダ著作権委員会は考え方を変更し、2007年7月、再度、メモリー内蔵型オーディオ・レコーダーの追加を決定した。現在、料金表案の公告、異議申し立ての受け付けが行われている。

 なお、徴収・分配方法、返還制度、共通目的事業等については、後掲の一覧表を参照されたい。

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