第4章 著作権保護技術の現状と当該技術を活用したビジネスの現状について

第3節 著作権保護技術を活用したビジネスの動向について

1 音楽パッケージビジネス

(1)音楽CDに関する著作権保護技術

 現在、音楽パッケージとして流通しているもののほとんどは、音楽CD(Compact Disc)であるが、音楽CDにはデジタル録音に係る著作権保護技術として、SCMS(注1)という技術(前述のフラグ検出型)が採用されている。

 例えば、この技術が採用されている場合、MDレコーダーでは、音楽CDデータをMDに1世代までコピーすることはできるが、録音したMDデータをさらに他のMDへ録音することはできない仕組みになっている。

SCMS(Serial Copy Management System)…オーディオ

(出所:社団法人電子情報技術産業協会提供資料)

 音楽CDについては、上記のように、DAT、MD、CD−R等の録音機器において一定の複製制限が行われているが、そのような方式が採用されていないパソコンや携帯用オーディオプレーヤー等については、複製制限はなく自由に複製等を行うことができる。

 なお、1990年代半ば以降、パソコンの普及により、音楽CDデータ(音楽)をパソコンへ取り込み再生して楽しむことが可能になり、ファイル交換ソフトを経由して音楽CDデータを複製するなどの事例が増加したため、パソコンでの音楽CDデータの複製を制御する技術として、平成14年から一部のレコード会社がコピーコントロールCD(CCCD)(注2)を導入した。

 しかし、CCCDは、一部のOSで意図した効果が発揮されなかったことや一部のCDプレーヤー等で正常に再生されない場合があったことなどから、現在では、CCCDを発売しているレコード会社はない。

(2)音楽パッケージビジネスの現状

 音楽CDは、現在においても音楽パッケージビジネスの中心的商品であり、平成18年には、約1億8千万枚のアルバムが市場に出荷されている。

 このうち、約1億7千万枚の音楽CDがセル用に出荷されており、残りの約1千万枚はレンタル事業者へ提供されている。

<CDアルバムの出荷枚数>
(単位:百万枚)
出荷枚数 セル用 レンタル用
平成18年(2006年) 178 168 10
平成17年(2005年) 191 181 10
平成16年(2004年) 181 172 9
平成15年(2003年) 185 176 9
平成14年(2002年) 206 198 8
平成13年(2001年) 225 217 8
平成12年(2000年) 251 244 7
平成11年(1999年) 238 226 12
累計 1,655 1,582 73

(社団法人日本レコード協会提供資料を元に作成)

(3)次世代オーディオに関する著作権保護技術

 音楽CDに続く次世代オーディオとして期待されているスーパーオーディオCDは平成11年から、DVDオーディオは平成12年から発売されている。

 このようなパッケージについては、先述の暗号技術利用型の著作権保護技術を採用しているが、現在のところ余り普及しているとは言えない。

<スーパーオーディオCD、DVDオーディオの出荷枚数>
(単位:千枚)
出荷枚数
平成18年(2006年) 249
平成17年(2005年) 326
平成16年(2004年) 411
平成15年(2003年) 489
平成14年(2002年) 205
累計 1,780

(社団法人日本レコード協会提供資料を元に作成)

2 音楽配信ビジネス

(1)音楽配信に関する著作権保護技術

 音楽配信ビジネスでは、著作権保護技術を採用していないものも存在するが、主要なサービスにおいてはほとんどの場合、何らかの暗号技術利用型の著作権保護技術を採用している。

 代表的な音楽配信の著作権保護技術としては、iTunes Storeで採用されているFairPlaymoraで採用されているOpenMG、その他多数のサービスで採用されているWMDRMなどがある。

 これらの著作権保護技術を用いたサービスでは、パソコンや携帯用オーディオプレーヤーへの複製回数などがあらかじめ決められているサービスもあるし、コンテンツの提供者が自由に設定することが可能なものもある。

 ちなみに、コンテンツホルダーであるレコード会社が配信事業者のサービスで選択しているコピー制御ルールの内容は次のとおりである。ただし、iTunes Storeについては、選択の幅がほとんどないのが現状である。

<音楽配信事業におけるコピー制限ルールの例>

(平成19年10月時点)

会員社名(注3) Fair PlayiTunes Store)(注4) OpenMGMORA WMA(多数の配信サービス)
PCへの複製 CD-R/RWへの書込み 携帯プレーヤーへの複製 PCへの複製 CD-R/RWへの書込み 携帯プレーヤーへの複製(注5) PCへの複製 CD-R/RWへの書込み 携帯プレーヤーへの複製
A社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限
B社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 5回まで ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 5回まで
C社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 禁止 3回まで ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 禁止 3回まで
D社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 5回まで ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 25回まで
E社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限
F社 (未提供) ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 禁止 3回まで ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 禁止 3回まで
G社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 禁止 3回まで ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 禁止 3回まで
H社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 3回まで ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 3回まで
I社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限
J社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限 (未提供)
K社 同時に最大5台まで 同一プレイリストは7枚まで
音源単位では無制限
無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限 ダウンロード時に利用した1台のPCのみ 音源ごとに10枚まで 無制限

(出所:社団法人日本レコード協会)

(2)音楽配信ビジネスの現状

 我が国の音楽配信ビジネスは、約1,500事業者(注6)が事業展開をしていると言われているが、配信デバイス、課金方法、著作権保護技術などにより様々なサービスが存在する。

 配信デバイスとしては、パソコンへの配信、携帯電話への配信、専用機器への配信などがあり、課金方法としては、コンテンツごとの課金モデル、会費制(サブスクリプション)モデル、無料モデルなどがある。

 特に、我が国では、「着メロ」「着うた」「着うたフル」に代表される携帯電話への配信が発達している。

<有料音楽配信の売上実績>

2005年/2006年 有料音楽配信売上実績(年間)

社団法人日本レコード協会

  2005年(1月〜12月) 2006年(1月〜12月)
数量 構成比 金額 構成比 数量 構成比 前期比 金額 構成比 前期比
インターネット・ダウンロード 9,463 3.5パーセント 1,851 5.4パーセント 23,903 6.5パーセント 253パーセント 5,027 9.4パーセント 272パーセント
モバイル 258,376 96.4パーセント 32,340 94.3パーセント 344,140 93.5パーセント 133パーセント 48,240 90.2パーセント 149パーセント
その他 63 0.0パーセント 92 0.3パーセント 20 0.0パーセント 31パーセント 211 0.4パーセント 229パーセント
合計 267,901 100.0パーセント 34,283 100.0パーセント 368,063 100.0パーセント 137パーセント 53,478 100.0パーセント 156パーセント

3 映像パッケージビジネス

(1)映像パッケージに関する著作権保護技術

 現在、映像パッケージとして広く流通しているものはアナログビデオカセットとDVDがある。

 アナログビデオカセットについては、多くの場合、著作権保護技術としてマクロビジョン(注7)と呼ばれる技術が採用されており、この技術が施された映像をVHSビデオデッキで複製し再生した場合、映像が乱れて映し出される仕組みになっている。

 一方、DVDには、マクロビジョンのほか、CGMS(注8)やCSS(注9)と呼ばれる著作権保護技術が複数施されている。

 CGMSは、映像データの複製世代を管理する技術で、「コピー可」「1世代までコピー可」「コピー不可」のいずれかの信号に機器が反応して録画を制限する技術である。

 また、多くのDVDには、CSSと呼ばれる著作権保護技術が施されており、映像信号に暗号がかけられているため、復号に必要な鍵を有する機器しか再生できない仕組みになっている。

(2)映像パッケージビジネスの現状

 現在、販売用の映像ソフトはDVDが主流になっている。レンタル用の映像ソフトについてもDVDが中心になりつつあるが、旧作の映画は現在でもビデオカセットが用いられている。

 商業用の映画については、現状では、マクロビジョンやCGMS、CSSなどの著作権保護技術の仕様にかかわらず、多くの場合、複製は禁止で運用されている。

<ビデオカセット・DVD(セル・レンタル)の売上の推移>
(単位:億円)

  2001年 2002年 2003年 2004年
DVDセル 2,927 3,230 4,220 5,174
DVDレンタル 80 190 475 1,227
ビデオカセットセル 527 459 239 113
ビデオカセットレンタル 3,134 3,859 3,109 2,359

4 映像配信ビジネス

(1)映像配信に関する著作権保護技術

 映像配信ビジネスは、約400事業者(注10)が事業展開をしていると言われているが、視聴用機器の種類等により著作権保護の特徴が異なっている。

 セットトップボックス(STB)を介してテレビで視聴する場合は、マクロビジョンなどのフラグ検出型の著作権保護技術や、デジタル伝送路の規格に対応したHDCP(注11)と呼ばれる暗号型の著作権保護技術が採用されており、STB側で暗号化された映像配信信号を受信・復号した後、上記の著作権保護技術を適用する仕組みになっているため、外部機器への録画等は原則禁止されている。

 パソコンによる視聴の場合についても、HDCPによる著作権保護技術が採用されている場合には、ソフトウェア側が暗号化された映像配信信号を復号して再生する際に、当該著作権保護技術を適用する仕組みになっている。

 また、モバイル機器による視聴の場合は、現在のところ、選択した機器のみ再生が可能な仕組みであり、当該機器でダウンロードしたものからの録画はできないものがほとんどである。

<映像配信サービスの特徴>
視聴用機器 サービスの特徴 外部機器への録画等
セットトップボックス(STB)利用型 ストリーミング配信が中心 原則禁止
パソコン ストリーミング配信が中心
  • ただし、再生期限付ダウンロード配信も一部あり
原則禁止
モバイル機器 ダウンロード配信が中心 原則禁止

(2)映像配信ビジネスの現状

 映像配信サービスは、STB、パソコン、モバイル機器などの視聴用機器ごとに配信サービスが異なっている。課金方法については、コンテンツごとの課金モデル、会費制(サブスクリプション)モデル、無料モデルなどがある。

 現在の映像配信サービスは、ストリーミング配信が中心であるが、最近では、再生期限付きのダウンロード配信も登場している。

 一方、携帯電話等のモバイル機器による視聴の場合は、当該機器からパソコンや他のモバイル機器への転送を制限している場合が多く、配信されるコンテンツが複製される可能性が少ないことから、ダウンロード配信のビジネスモデルが発達している。

<映像配信にかかる売上の推移>
(単位:億円)

  2001年 2002年 2003年 2004年
インターネット配信 10 39 147 173
携帯電話配信 171 266 274 314

(出所:財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書2005」)

5 地上デジタル放送

(1)「コピーワンス」ルール

 地上デジタル放送においては、現在、著作権保護方式として、いわゆる「コピーワンス」ルールが適用されている。

 この方式は、BSデジタル放送において、音楽番組などの不正コピーを防止するため、平成16年(2004年)4月から導入された著作権保護方式で、録画した放送番組をオリジナルを残したまま複製することはできず、移動(ムーブ)のみ可能とするルールである。

 具体的には、放送番組をハードディスクレコーダーに録画し、その後、DVDディスク等の他の記録媒体に複製した場合、オリジナルの番組は消去される仕組みになっている。

 また、放送番組をDVD等の記録媒体に録画した場合、直接録画した媒体は再生することはできるが、それをさらにコピーすることはできない。

(2)「コピーワンス」ルールの見直し

a 経緯

 現行の「コピーワンス」ルールについては、録画の制限が厳しすぎる、視聴者が「ムーブ」に失敗すると、オリジナルの放送番組が使用不能になるなどの指摘があったことから、平成18年9月、総務省の情報通信審議会情報通信政策部会に「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(主査:村井純(慶応義塾大学教授))」が設置され、現行のデジタル放送の著作権保護方式である「コピーワンス」の運用改善等について検討が進められ、平成19年8月、当該検討委員会の検討を踏まえ、同審議会が中間答申を行った。

b 中間答申の内容
1 共通認識

 中間答申では、検討委員会の議論の経緯を紹介した上で、審議会としての共通認識を以下のとおり得たとした。

(出所:−デジタル・コンテンツの流通の促進−地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政が果たすべき役割<平成16年諮問第8号 第4次中間答申>(概要版)情報通信審議会)

2 当面の改善策

 改善策の方向性としては、「COG(Copy One Generation)の考え方の適用プラス一定の制限」が適当とし、具体的な回数を決めるにあたっては、次の考え方を考慮すべきとされた。

(出所:−デジタル・コンテンツの流通の促進−地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政が果たすべき役割<平成16年諮問第8号 第4次中間答申>(概要版)情報通信審議会)

 具体的には、デジタル・チューナーとハードディスク等が同一筐体の場合、ハードディスク等にCOGで録画された放送番組については、同一筐体内のDVD等への出力や、外部機器への出力におけるコピー回数を9回までとし、最後の10回目のコピーを行った場合、ハードディスク内のオリジナルは消去される取り扱いとする考え方である。

3 配慮事項

 今後の取り組みとして、今回の「コピーワンス」の運用改善が、海賊版の違法流通を助長しないよう、行政、放送事業者、受信機メーカー、消費者などの関係者が連携・協力して周知広報活動に努めることや、デジタル技術の急速な進展に対応するため、今回の運用改善を暫定的なルールとすること等を配慮すべき事項としつつ、放送事業者や受信機メーカーなどの関係者においては、同審議会の提言を踏まえた取組を可能な限り早期に実現するよう要請している。

6 有料放送ビジネス

 CS放送などの有料放送では、番組ごとに、コピー禁止、コピーワンス、EPN(Encryption Plus Non Assertion)、コピーフリーなどの著作権保護技術を選択することが可能であるが、現在は、「コピーワンス」ルールが採用されている場合が多い。

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