現行制度が制定されて以降、例えばハードディスク内蔵型録音録画機器やパソコンが開発・普及したこと、制定から10年以上経過し、制度の問題点が関係者から指摘されていることなどを背景として、文化審議会著作権分科会では、平成17年1月にまとめた「著作権法に関する今後の検討課題」において、以下のとおり補償金制度についての諸課題をまとめた(注1)。
- ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定に関して、実態を踏まえて検討する。
- 現在対象となっていない、パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ、データ用CD−R/RW等のいわゆる汎用機器・記録媒体の取扱いに関して、実態を踏まえて検討する。
- 現行の対象機器・記録媒体の政令による個別指定という方式に関して、法技術的観点等から見直しが可能かどうか検討する。
これを受け、同年、同分科会に設置された法制問題小委員会において、補償金制度の見直しに関する検討を開始した。
同分科会では、補償金制度が一定の機能を果たしてきたことを認めたうえで、現行制度をめぐる諸課題として次のような点について指摘した(注2)。
- ア 指摘された制度上の問題点
- 実際に著作物の私的録音・録画を行わない者も機器や記録媒体を購入する際負担することとなる。この問題点を解消するための返還金制度も,そもそも返還額が少額であり実効性のある制度とすることが難しい。(複製を行う者の正確な捕捉の困難性)
- 汎用的な複製に用いられる機器(パソコン)や記録媒体(データ用CD−R)は,私的録音・録画に用いられる実態があるが,仮に指定すると音楽録音等に使用しない者にも負担を強いることとなり,指定は困難(しかし,指定されないことにより,現実に行われている多くの複製が捕捉されない結果となっている)。(複製の対象となる機器や記録媒体の正確な捕捉の困難性)
- 権利者への分配は,CD出荷量,放送・レンタル等の音楽使用データより推計して行っており,緻密に算出しても,実態の捕捉の困難性から,著作物等を複製されているのに配分を受けることができない権利者が生じ得る。(配分を受ける権利者の正確な捕捉の困難性)
- (注)「二重徴収」についての問題
- 消費者が配信サービスにより楽曲の提供を受けた場合に,配信についての「課金」と,私的録音に対する「補償金」が「二重徴収」されているのではないかとの問題が指摘された。
<「二重徴収」に当たらないとする意見>
配信サービスの対価はあくまでも「消費者への音源の配信」や「ダウンロードに際しての複製」についての対価であり,その後の私的複製は対象としていない。
<「二重徴収」に当たるとする意見>
ユーザーの複製を前提とした配信サービスにおけるビジネスモデルにかんがみると,配信サービスの対価を徴収した上で「補償金」を徴収することは「二重徴収」に当たる。
- 購入等の手段によって,自己所有のCD等を複製する場合においても「補償金」が「二重徴収」されているのではないかとの問題が指摘された。
- イ 指摘された運用上の問題点
- 消費者に制度が知られておらず,機器や記録媒体購入の際負担していることを認識していない消費者がほとんどである。
- 補償金の返還制度は十分に機能していない。
- 共通目的事業の内容が十分知られていない。また,権利者のみならず,広く社会全体が利益を受けるような事業への支出も見られる。
- ウ 現在の補償金制度の前提となる状況の変化
- 現在の補償金制度は,「私的録音・録画が零細であり,その捕捉が事実上困難である」ことを前提とした制度であったが,DRM等の技術の進展により私的録音・録画の実情の捕捉が可能となりつつあるとの意見がある。したがって,「機器や記録媒体の購入の際にすべての消費者が補償金を支払わなければならない」という現在の制度を正当化する根拠は失われつつあるとの指摘がなされたところである。
以上のように補償金制度の諸課題を整理した上で、同分科会が提示した3つの課題について一定の見解を示したうえで、
- 本小委員会としては,今回の検討の過程で補償金制度の在り方について様々な問題点や社会状況の変化の指摘があったことを踏まえ,上記「私的複製の検討」では,私的録音・録画についての抜本的な見直し及び補償金制度に関してもその廃止や骨組みの見直し,更には他の措置の導入も視野に入れ,抜本的な検討を行うべきであると考える。
とし、補償金制度の抜本的な検討を求めた。
また、検討に当たっての留意事項として、次のような指摘があった。
- (
) 平成4年の制度導入時においては,国際条約との関連に大きな考慮が払われた。私的録音・録画が今後一層広範かつ自由に行われるような事態となれば,我が国としてはその国際的な責務を十分果たしているか,国際社会から厳しい目を向けられることは必定である。そのようなことから,今後も国際条約や国際的な動向との関連に大きな留意を払いながら,私的録音・録画により権利者の利益が不当に侵害されると認められることのないよう留意する必要がある。
- (
) また「ユーザー」の視点を重視し,提案されるべき将来あるべき姿は,ユーザーにとって利用しづらいものとならず,かつ納得のいく価格構造になるよう留意する必要があるとともに,ユーザーのプライバシー保護にも十分留意しなければならない。
また、現行制度の運用上の改善点として、次のような指摘があった。
- (
) 「消費者への理解」に努める。
(更なる広報活動の充実・商品パッケージ記載の充実)
- (
) 「共通目的事業」の理念の再検討又は見直し。