第3節 文化財の保存と活用

11.世界遺産と無形文化遺産

(1)世界遺産の登録・推薦の推進

1世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)

 「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)は,顕著な普遍的価値を有する文化遺産・自然遺産を,人類全体のための世界の遺産として損傷・破壊などの脅威から保護することを目的として,1972年(昭和47年)のユネスコ総会において採択されました。我が国は1992年(平成4年)に同条約を締結し,2006年(平成18年)8月現在で締約国は182か国に上ります。
 毎年1回開催される世界遺産委員会は,締約国からの推薦に基づき,顕著な普遍的価値を有すると認める文化遺産・自然遺産を世界遺産に登録しており,平成18年8月現在,830件の遺産(文化遺産644件,自然遺産162件,複合遺産24件)が登録されており,我が国では13件の遺産(文化遺産10件,自然遺産3件)が登録されています(図表2-9-13)。

図表●2-9-13 登録されている我が国の世界遺産

 世界遺産への登録を推進することは,我が国の貴重な文化遺産の国際的な価値が評価されるとともに,登録を目指す過程で地域における総合的な文化財保護の取組が格段に充実するという点で,大きな意義があります。
 我が国は,世界遺産委員会の委員国(2003年〜2007年(平成15年〜19年))を務めているほか,ユネスコ文化遺産保存日本信託基金などを通じ,世界における文化遺産の保全のための様々な支援を行っています。

2世界遺産の登録・推薦の取組について

 締約国は,世界遺産の登録にふさわしいと考えられる文化遺産・自然遺産を,世界遺産暫定一覧表として世界遺産委員会に提出することを求められています。
 現在,我が国の世界遺産暫定一覧表に記載されている文化遺産は,「古都鎌倉の寺院・神社ほか」(神奈川県,平成4年記載),「彦根城」(滋賀県,平成4年記載),「石見銀山遺跡」(島根県,平成13年記載),「平泉の文化遺産」(岩手県,平成13年記載)の4件です。このうち,「石見銀山遺跡」については,2006年(平成18年)1月に推薦書を提出しており,2007年(平成19年)6月に開催される世界遺産委員会において,登録の可否が決定する予定となっています。また,「平泉の文化遺産」については,2006年(平成18年)12月に推薦書を提出しました。
 また,2006年(平成18年)に初めて世界遺産暫定一覧表の記載候補について,地方公共団体から提案書の受付けを行い,文化審議会文化財分科会世界文化遺産特別委員会における調査審議を経て,2007年(平成19年)1月末,約6年ぶりに暫定一覧表に4件の追加を行いました(「富岡製糸場と絹産業遺産群」,「富士山」,「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」,「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」)。
 現在,世界遺産委員会では,世界遺産の登録数の地理的な不均衡や種別の不均衡,登録数の増加に伴う遺産の適切な管理の在り方など,様々な議論が行われており,世界遺産への登録審査も厳格さを増しています。今後,このような議論の動向なども踏まえ,地方公共団体と連携しながら,我が国として世界遺産にすることが適当と思われる世界文化遺産の候補の選定を進めていきたいきます。

(2)無形文化遺産の保護に関する取組

1無形文化遺産保護条約

 2003年(平成15年)のユネスコ総会において,無形文化遺産の保護に関し拘束力のある初めての国際的な法的枠組みとして「無形文化遺産の保護に関する条約」が採択され,2006年(平成18年)4月20日に発効しました。我が国は,2004年(平成16年)6月,条約の早期発効を促すため,3番目の締約国となりました。締約国は,自国の無形文化遺産保護に努めるとともに,国際的な枠組みの中で,世界の無形文化遺産保護のために協力することが求められます。
 2006年(平成18年)6月27〜29日,パリのユネスコ本部で第1回締約国総会が開催され,我が国は締約国の中から選出される政府間委員会の委員国になりました。引き続き,政府間委員会において,条約執行のための指針の策定に参画していく予定です。
 なお,第2回委員国会議は,2007年(平成19年)9月上旬に日本で開催される予定です。

2人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言

 無形文化遺産保護条約の策定に先立ち,ユネスコは,人類の口承及び無形遺産の傑作を讃えるとともに,その継承と発展を図ることを目的として,2001年度(平成13年度)より,加盟国から提出される候補でユネスコの基準を満たすものを,隔年で,傑作として宣言してきました。
 これまでに,我が国からは第1回目で「能楽」が,第2回目で「人形浄瑠璃文楽」が,第3回目で「歌舞伎(伝統的な演技演出様式によって上演される歌舞伎)」が傑作として宣言されています。なお,無形文化遺産保護条約の発効後は,それ以前に「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」として宣言された無形文化遺産は,「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されます。

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