第3節 文化財の保存と活用

2.有形文化財の保存と活用

(1)有形文化財とは

 建造物,絵画,工芸品,彫刻,書跡,典籍,古文書,考古資料,歴史資料などの有形の文化的所産で,我が国にとって歴史上,芸術上,学術上価値の高いものを総称して有形文化財と呼んでいます。このうち,「建造物」以外のものを「美術工芸品」と呼んでいます。

(2)国宝,重要文化財の指定

 国は,有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定し,さらに世界文化の見地から特に価値の高いものを国宝に指定して保護しています。
 最近国宝,重要文化財に指定されたものの概要は以下のとおりです。

1建造物

 国宝については,平成17年12月に「東大寺二月堂」(奈良県)を指定しました。「東大寺二月堂」は,寛文9年(1669年)の完成で,近世の建築技術を駆使し高い完成度を持ちながら,古代から連綿と続いている修二会(お水取り)と極めて密接に結び付いているたぐいまれな建築です。
 重要文化財については,明治以降の建造物の指定を重点的に進めています。平成17年12月に9件,18年7月に「旧日向家熱海別邸地下室」(静岡県),「広島平和記念資料館」(広島県)など12件を新たに指定しました。「旧日向家熱海別邸地下室」は,昭和11年の竣工で,日本美の再発見に努めた著名なドイツ人建築家のブルーノ・タウトが日本に唯一残した建築です。「広島平和記念資料館」は,昭和30年の竣工で,国際的に高い評価を受けた最初の戦後建築であり,丹下健三の出発点となる建築です(図表2-9-8)。

図表●2-9-8 重要文化財(建造物) 平成17年12月,18年7月指定(計21件)

2美術工芸品

 平成18年6月に,美術工芸品について新たに,「福岡県平原方形周溝墓出土品」(考古資料)及び「琉球国王尚家関係資料」(歴史資料)の2件を国宝に,「紙本著色四季日待図」(絵画)をはじめ,47件を重要文化財に指定しました。
 このうち国宝に指定された「福岡県平原方形周溝墓出土品」は,福岡県前原市に所在する史跡曽根遺跡群のうち,平原遺跡の一号墓にあたる方形周溝墓からの出土品一括であり,一遺構からの発見では他を凌駕する銅鏡40面及び,我が国最大の面径を持つ内行花文鏡を含んでいるものです。
 また,同じく国宝に指定された「琉球国王尚家関係資料」は,琉球王国を統治した尚家の王冠などを含む「琉球国王尚家伝来品」(平成14年に重要文化財に指定)のほか,政治,外交,司法などの分野の資料を含んでおり,琉球王国全体を明らかとする歴史的・学術的に極めて高い価値を有する一級の資料群です(図表2-9-9)。

図表●2-9-9 重要文化財(美術工芸品) 平成18年6月指定(計47件)

▲国宝(建造物)
東大寺二月堂

▲重要文化財(建造物)
旧日向家熱海別邸地下室

(3)保存・活用のための取組

 我が国の有形文化財は,木材などの植物性材料でつくられているものが多く,その保存・管理には適切な周期での修理が必要であるとともに防火などの防災対策が欠かせません。これらは所有者が行うことが原則ですが,多額の経費を要することから大半は国庫補助により行っています。
 また,地震や火災などの災害から文化財を守るためには,国や地方公共団体の協力の下で,所有者などが事前に対策を講じることが重要です。そのため,文化庁では文化財建造物の地震時における安全性の確保についての考え方を取りまとめ,具体的な耐震診断の指針と手引を策定しています。さらに,平成17年度からは耐震診断の一部についても国庫補助による支援を行っています。こうした施策を通じて文化財を後世に残せるよう支援しています。
 なお,有形文化財の活用については,文化庁では,美術工芸品について,重要文化財の鑑賞機会の拡大を図るため,展示や体験学習を行うのに適した文化財保存施設の整備を推進するとともに,博物館などの施設が開催する展覧会について一部の経費を負担しています。
 また,文化財建造物の更なる活用を目指し,文化庁では,所有者が保存活用計画を策定するための指針を取りまとめ,また「文化財建造物活用への取組―建造物活用事例集」を作成するなど,活用の事例についても幅広く紹介を行っています。

▲国宝(美術工芸品)
琉球国王尚家関係資料

▲重要文化財(美術工芸品)
紙本著色四季日待図

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