第3節 各分野の研究開発の推進方策

8.地震・防災分野(参照:第2部第13章第4節

(1)研究開発の推進方策

 自然災害が多発する我が国において,地震・防災分野の研究開発は安全・安心な社会を構築する上で必要不可欠であり,自然災害による被害を予測し,これを未然に防止・軽減することや,被害の拡大を防ぎ,救援・救助,復旧・復興に資することが期待されます。
 文部科学省では,「防災に関する研究開発の推進方策について」(平成15年3月科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会。以下「推進方策」という。)に基づき,防災分野の研究開発を進めてきました。これまでに,例えば大都市圏における人的・物的被害の大幅な軽減化を目指す「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の実施や,実物大の構造物に阪神・淡路大震災級の地震動を加えて破壊実験を行うことのできる「実大三次元震動破壊実験施設」(E-ディフェンス)の完成・運用開始など,大きな成果が上がっているところです。
 一方で,第3期科学技術基本計画及び分野別推進戦略の策定や国内外における巨大災害の頻発などを受け,18年7月に推進方策を改訂しました。新たな推進方策では,リスクマネジメントに基づく総合的防災対策,先端技術の災害軽減への積極的利活用など,従来の推進方策で提示された研究開発の一層の推進を掲げるとともに,インドネシア・スマトラ島沖の大地震,新潟県中越地震など,近年の国内外における巨大自然災害の教訓を踏まえ,災害時要援護者救援策の充実や国際的な枠組みの下での研究開発の推進など新たな視点も追加し,合わせて九つの重点研究開発領域を設定しています。
 さらに,分野別推進戦略における戦略重点科学技術を踏まえ,「社会の脆弱性とその原因の把握,経済的影響評価等,社会科学分野との連携の確立」,「耐震性評価のための実大破壊実験及び破壊シミュレーション技術開発」,「地殻構造調査,地震観測,GPS連続観測等,観測技術開発と観測網整備」を,第3期科学技術基本計画期間中の最重点課題と位置付け,研究開発の推進を強化することとしています。

(2)地震・防災分野における取組

1地震調査研究の推進

 平成7年に発生した阪神・淡路大震災を契機に,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,「地震防災対策特別措置法」が制定され,同法に基づき「地震調査研究推進本部」(本部長:文部科学大臣。以下「推進本部」という。)が設置されました。同推進本部は,11年4月に「地震調査研究の推進について─地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策について─」を策定し,政府として一元的に地震調査研究の推進を図ることとしています。
 推進本部には関係省庁の職員や学識経験者から構成される政策委員会と地震調査委員会が設置されています。このうち,政策委員会では,関係行政機関の地震調査研究に関係する予算の事務の調整,調査観測計画の策定,調査研究成果の社会への活用等について審議しています。また,地震調査委員会では,関係機関などから提出された資料を基にした地震活動についての総合的な評価,全国の主要な活断層帯で発生する地震や海域で発生する海溝型地震の発生可能性に関する長期評価,さらには,揺れの強さなどの予測手法を用いた強震動評価結果などについて審議しています。
 平成17年3月には,それまでの長期評価や強震動評価の成果を基に「全国を概観した地震動予測地図」を作成・公表しました(図表2-6-11)。この地図には,全国各地で今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率などが示されており,地震ハザードマップとして防災対策などに活用されています。
 文部科学省では,「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月地震調査研究推進本部)などに基づき,長期評価や強震動評価の精度をさらに高めるための活断層の追加・補完調査や,将来,大きな地震が発生する可能性が高いと予想されている糸魚川−静岡構造線断層帯や宮城県沖において重点的な調査観測を行っています。また,「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として,大都市圏における地殻構造の調査研究を実施しているほか,東南海・南海地震や日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震について,地震発生可能性の長期評価,強震動(ゆれ)や津波の予測精度の向上のための観測研究を実施しています。
 さらに,平成18年度から,地震・津波観測監視システムの構築として,地震計,水圧計などの各種観測機器を備えた海底ネットワークシステムの技術開発を推進し,東南海地震の想定震源域である紀伊半島熊野灘沖に敷設するとともに,海溝型地震の多発地帯のインドネシアなどにおける地震観測と観測データ共有のためのシステム構築を推進しています。

図表●2-6-11 確率論的地震動予測地図

2防災科学技術の研究開発の推進

 文部科学省では,「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」を平成14年度からの5か年計画で特に重点的に推進しています。このプロジェクトの一環として,17年度からはE-ディフェンスを活用し,阪神・淡路大震災の地震波と同じ振動を用いて,移築した築30年の木造建物や1970年代の設計法による6階建ての鉄筋コンクリート建物の実大破壊実験を行い,耐震性や耐震補強の効果を検証しています。
 防災科学技術研究所においては,平成7年の阪神・淡路大震災以降の全国的な地震観測網の整備,E-ディフェンスの運用という2大事業を推進しています。また,全国的な地震動予測地図の作成・公開や,気象庁との共同による緊急地震速報の開発,自治体との連携によるIT技術を活用した震災軽減システムの開発などの応用研究を行っています。地震以外では,集中豪雨などの監視に威力を発揮するマルチパラメータレーダや,最新鋭の火山専用空中赤外映像装置などの測器の開発と,それを用いた基礎研究も着実に進めています。さらに,土砂災害予測,浸水被害危険度予測,雪氷災害予測などの研究開発を進めています。

3地震・火山予知研究の推進

 我が国の地震・火山噴火予知研究については,科学技術・学術審議会が平成16〜20年度の推進計画として15年7月に建議した「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について」と「第7次火山噴火予知計画の推進について」に基づき,大学や防災科学技術研究所,気象庁など関係機関が連携し,それぞれの機能と特色を生かしながら,総合的・計画的に進められています。
 地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)では,地震発生に至る地殻活動の過程と,その過程に伴って現れる地殻現象の発生メカニズムを解明するための総合的な観測研究,常時観測網からのデータに基づいて地殻活動を定量的に予測するためのシミュレーション手法の開発,地殻現象を高精度に検出する観測技術の開発などを推進しています。また,第7次火山噴火予知計画では,火山の活動度や防災の観点から常時監視機能を高め,関係機関の連携を強化することにより,噴火予知を一層高度化するとともに,火山観測研究を強化し,噴火予知高度化のための基礎研究を推進しています。

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