第3節 各分野の研究開発の推進方策

3.環境分野

(1)研究開発の推進方策

 環境分野における研究開発は,多様な生物種を有する生態系を含む自然環境を保全し,人の健康の維持や生活環境の保全を図るとともに,人類の将来的な生存基盤を維持していくために不可欠です。文部科学省は,地球環境の観測とその結果に基づく環境変動の予測と理解,環境技術対策の開発に取り組んでいます。科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球環境科学技術委員会において,第3期科学技術基本計画に基づき,環境分野における科学技術について推進方策を策定しました。また,同審議会の地球観測推進部会において,総合科学技術会議が取りまとめた「地球観測の推進戦略」に基づき,国際的動向を踏まえた我が国の地球観測の実施方針の策定などを行いました。

(2)環境分野における取組

1地球環境観測研究の推進

 地球温暖化や未曾有の自然災害など地球的規模の環境問題に,科学技術を活用して的確に対応していくため,地球観測の推進が強く求められています。
 2003年(平成15年)のエビアン・サミットを契機として行われた3回の地球観測サミットを経て,「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」が承認され,GEOSS構築に向けた取組が本格化しています。我が国においても総合科学技術会議の推進戦略とそれを受けた実施方針に基づき,地球温暖化,水循環など公共的ニーズに対応した統合的地球観測の取組が進められています。
 文部科学省としては,以下の(ア)〜(オ)の研究開発を推進しています。また,「全球地球観測システム10年実施計画」の実施に貢献するため,地球観測に関する政府間会合や「統合地球観測戦略(IGOS)パートナーシップ」などの全球規模の地球観測を推進する国際的な取組に積極的に参画しています。

(ア)海洋観測技術

 海洋は,地球的規模の諸現象に大きくかかわっていることから,海洋が地球環境に果たす役割の解明が重要な課題となっています。海洋研究開発機構においては,気候変動観測,水循環観測,地球温暖化観測,海洋大循環観測,海面・陸面・大気相互作用総合研究などの「地球環境観測研究」を進めています。このため,大気・海洋間の二酸化炭素吸収・放出量を観測できる海洋二酸化炭素分圧センサーシステムなど海洋観測技術の研究開発を推進するとともに,エルニーニョ現象をはじめとする大気・海洋間の相互作用や気候変動への影響解明などのため,太平洋,インド洋,北極海,ユーラシア大陸アジア域などで研究船,ブイなどを用いた観測研究を実施しています。
 また,全世界の海洋の状況を即時に監視・把握するため,文部科学省は,平成12年度から,国土交通省と共同で,国際協力の下,参加国が海面から水深2,000メートルまでの水温・塩分の鉛直分布を観測する中層フロート(自動的に海中を浮き沈みして,水温・塩分濃度を測定・送信する高さ1メートルの筒状の計測機器)を,全世界で約3,000個敷設する高度海洋監視システムの構築(ARGO計画)に参画しています。

(イ)人工衛星による観測に関する技術

 人工衛星による地球観測は,広範囲にわたって様々な情報を繰り返し連続的に収集することを可能とする,極めて有効な観測手段です。現在,特に地球環境問題の解決に向けて,地球観測衛星委員会(CEOS)や国内外の関係機関と協力しつつ,総合的な推進を図っています。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))では,米国の熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載されている降雨レーダ(PR)や地球観測衛星(Aqua)に搭載されている改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)などから降水量や海面水温などのデータを取得しています。また,平成18年1月には災害状況把握や地図作製などに貢献する陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の打上げを行い,10月から本格運用を開始しています。そのほか,温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT),全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)などの研究開発を関係機関との協力の下に進めています。
 さらに,人工衛星からのデータの利用を促進するため,JAXA(ジャクサ)の地球観測研究センターなどにおいて,地球観測データを利用した研究や地球観測情報ネットワークの整備を,関係機関と密接に連携を取りながら推進しています。

(ウ)地球観測システム構築推進プラン

 全球地球観測システム構築への日本の貢献策として,平成17年度から,地球温暖化・炭素循環観測研究プロジェクトやアジアモンスーン地域水循環・気候変動観測研究プロジェクトを実施しています。また,18年度から,対流圏大気変化観測研究プロジェクトを開始し,地球規模の観測の空白を埋めるための革新的な技術開発,新たな観測手法を得るための研究開発を進め,全球規模の地球観測システムの構築を推進しています。

(エ)データ統合・解析システム

 気候変動,洪水被害,食糧問題などの人類社会が直面している様々な社会的課題に的確に対応するため,衛星による観測データや陸域・海洋における観測によって得られる各種データを統合・解析して国民の生活に役立つ情報として提供するための「データ統合・解析システム」の構築を推進しています(参照:本章第2節2(2))。

(オ)南極観測

 我が国の南極地域観測事業は,「南極地域観測統合推進本部」(本部長:文部科学大臣)の下に,関係府省の協力を得て,情報・システム研究機構国立極地研究所が中心となって実施しています。平成18年度は,第47次観測隊(越冬隊)と第48次観測隊が,昭和基地を中心に,気象などの定常的な観測や地球規模での環境変動の解明を目的とする各種のプロジェクト観測などを実施しています。また,ドームふじ基地において18年に掘削した約3,029メートルまでの氷床コアに引き続き,岩盤までの掘削を目指しています。
 さらに,平成21年度以降の昭和基地への輸送手段を確保するため,17年度から南極地域観測船「しらせ」後継船の建造を始めています。

▲南極観測船「しらせ」後継船(CG)

2地球変動予測研究の推進

(ア)地球変動予測に関する様々な取組

 地球規模の諸現象の解明に関する研究開発は,多国間の連携・協力により効果的に実施することが重要です。このため,文部科学省では,地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)など国際的な研究計画に積極的に参加し,外国の研究機関などと共同研究を進めています。
 また,平成14年度から「人・自然・地球共生プロジェクト」において,世界最高解像度の温暖化予測モデル(日本モデル)を開発し予測実験を行っており,その成果は,気候変動に関する科学的知見を取りまとめて各国政府に提供する役割を担う「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次評価報告書(19年)に盛り込まれる予定です。
 さらに,人間文化研究機構総合地球環境学研究所において地球環境問題の解決に向けた学問の創出のための総合的な研究を行っています(参照:本章第1節2(1)1)。
 このほか,科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において,「水の循環系モデリングと利用システム」などに関する研究開発などを推進しています。

(イ)地球シミュレータ等を活用した地球環境予測研究

 平成14年3月から,超高速ベクトル並列計算機システム「地球シミュレータ」が,海洋研究開発機構において運用されています。「地球シミュレータ」は,高い計算性能から生み出された予測計算の成果が評価され,14年から3年連続「ゴードンベル賞(注1)」を受賞しました。文部科学省では,今後も,精度の高い地球変動予測研究などに利用される「地球シミュレータ」の安定的かつ効率的な運用を推進していきます。
 この世界に誇る計算機等を有効に活用して,海洋研究開発機構では,気候変動予測,水循環変動予測,生態系変動予測,大気組成変動予測,地球温暖化予測,分野横断型モデル開発や総合研究などの「地球環境予測研究」を進めています。例えば,100年後の地球温暖化予測では,地上気温が地球全体で平均約4℃上昇するという結果が出ています。

  • (注1)ゴードンベル賞
     高性能計算技術分野において世界で最も権威のある賞。
▲100年後の地球温暖化シミュレーション結果

3環境対策技術にかかわる研究開発

 我が国における経済社会の持続的な発展のためには,資源の投入,廃棄物などの排出を極小化する生産システムの導入や,生物資源を活用する技術など,環境への負荷ができる限り低減される循環型社会を構築するための研究開発が不可欠です。
 文部科学省では,平成15年度から,都市・地域から排出される廃棄物やバイオマス(注2)を無害化・原料化・燃料化するための技術開発や,その技術の実用化と普及のための人体などへの影響・安全性評価,経済社会システムの一環として成立させるための社会システム設計などに関する研究開発を推進しています。また,次世代型燃料電池のかぎとなる革新的な材料の技術開発や超耐熱材料の研究など新エネルギーなどに関する研究開発も推進しています。

  • (注2)バイオマス
     生物資源(バイオ)の量(マス)を示すものであるが,ここではエネルギー源や化学・工業原料として利用される生物体の意味。再生可能な生物由来の有機性資源で化石燃料を除いたもの。

前のページへ

次のページへ