第2節 政策課題対応型研究開発における重点化

2.国家基幹技術の推進

(1)宇宙輸送システム

 我が国が必要な時に,独自に宇宙空間に必要な人工衛星などを打ち上げる能力を確保・維持することは,我が国の総合的な安全保障や国際社会における我が国の自律性を維持する上で不可欠です。また,ロケットなどの宇宙輸送システム技術は巨大システム技術であり,その技術力の向上のための活動自体が広範な分野における技術にブレークスルーをもたらし,産業の高度化や社会経済の発展につながります。
 さらに,我が国が国際協定を締結して参画している国際宇宙ステーション計画においては,我が国が国際宇宙ステーションへ物資の輸送を行う義務があります。このため,第3期科学技術基本計画や分野別推進戦略においては,「宇宙輸送システム」を国家的な長期戦略の下に推進する国家基幹技術として位置付け,基本計画期間中に重点投資することにしています。具体的には,基幹ロケットであるH-2Aロケットを開発し,製作・打上げを行うとともに,H-2Aロケットの能力を向上させたH-2Bロケットや国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を担う宇宙ステーション補給機(HTV)の開発を推進しています。

▲H-2Aロケット11号機の打上げ
資料提供:JAXA(ジャクサ)

(2)海洋地球観測探査システム

 地球環境変動予測を行うため,陸域・海域を含めた全球観測網の整備やそのデータの管理・提供の必要性が指摘されています。また,我が国周辺には広大な海洋が広がっており,詳細地形の調査や資源探査は,我が国の総合的安全保障の観点から必要です。これらの課題を解決するため,国家基幹技術として「海洋地球観測探査システム」が選定されました。
 これは,海洋における地球観測・探査と宇宙からの地球観測によって得られるデータを有機的に統合・解析して提供することを目指しており,文部科学省に新しく設置した海洋地球観測探査システム推進本部の下,「次世代海洋探査技術」,「衛星観測監視システム」,「データ統合・解析システム」の三つの技術を構成要素とし,推進しています(参照:本章第3節3(2)1本章第3節5(2)2本章第3節7(2))。平成18年7月の総合科学技術会議においては,本システムの研究開発について,総合的には概ね妥当と評価され,今後は,地球環境観測分野,災害監視分野,資源探査分野における社会的貢献が期待されます。

▲海洋地球観測探査システムの概念図

(3)高速増殖炉サイクル技術

 エネルギー資源の乏しい我が国においては,長期的なエネルギーの安定供給を確保していくことが,大変重要な課題です。我が国では,原子力発電所で発電に利用した使用済燃料を再処理し,回収されるウラン・プルトニウムなどを再利用し,長期にわたって国内においてエネルギー供給を行うことを可能にする核燃料サイクル(図表2-6-7)を推進することを基本方針としています。特に,消費した燃料より多い新しい燃料が生み出される高速増殖炉やそれに関連する核燃料サイクル技術(以下「高速増殖炉サイクル技術」という。)は,核燃料サイクル確立の中核となる枢要な技術であり,長期的なエネルギー安定供給や放射性廃棄物の潜在的有害度の低減に貢献できる可能性を有しています。第3期科学技術基本計画に基づく分野別推進戦略においても,国家基幹技術として位置付けられたところであり,その実用化に向けた研究開発に着実に取り組んでいます。また,平成17年10月に原子力委員会により決定された「原子力政策大綱」において,2050年ごろから高速増殖炉の商業ベースでの導入を目指すとされています。

図表●2-6-7 核燃料サイクル

(4)次世代スーパーコンピュータ

 スーパーコンピュータを用いたシミュレーション(注)は,理論,実験と並び,現代の科学技術の方法として確固たる地位を築きつつあります。スーパーコンピュータは,大規模なシミュレーションを高速に行うことができるため,自動車の衝突損傷の解析,台風の進路や集中豪雨の発生予測などに利用されています。
 文部科学省では,今後とも我が国が科学技術・学術研究,産業,医・薬など広汎な分野で世界をリードし続けるため、平成18年度から「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用プロジェクト」を開始しています。22年度の稼働(24年の完成)を目指し,開発主体(理化学研究所)を中心に産学官の密接な連携の下,同プロジェクトを一体的に推進しています。18年度は,ハードウェアの概念設計や次世代スーパーコンピュータを最大限利活用するためのソフトウェアの開発等を進めています。
 次世代スーパーコンピュータの開発に当たっては,産学官に幅広く開かれた共用施設としてその価値が最大限発揮され,多様な利用者にとって使いやすく,優れた成果が創出されるよう,施設の整備・運営を行います。
 平成18年7月に「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」が施行され,文部科学省では,「特定高速電子計算機施設の共用の促進に関する基本的な方針」を取りまとめました。今後,本格的な運用の前に更に検討を行うため,現在広く学会・研究機関等に対して,意見募集を行っています(参照:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public(※電子政府の総合窓口ホームページへリンク))。

  • (注)シミュレーション
     コンピュータなどを使用して模擬的に実験を行うこと。

(5)X線自由電子レーザー

 理化学研究所と財団法人高輝度光科学研究センターは,次世代放射光として,X線領域の波長を持ったレーザーである「X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)」の整備を平成18年度から開始しました。XFELは,X線とレーザーの優れた性質を併せ持つ極めて高輝度,高品質なX線レーザーを発振する,まさに「夢の光」です。
 XFELは,欧米をはじめ世界中で熾烈な開発競争が行われています。日本のXFEL計画は,欧米と比較して同等以上の優れた性能を狙うものでありながら,我が国独自の技術により,コンパクト化,それに伴う低コスト化を実現します。既に試験機を完成させ,平成18年6月に波長49ナノメートルのレーザー発振に成功しました。
 XFELは国際競争の優位を確保する推進基盤として国家基幹技術に位置付け,世界最高性能の実現に向け,日夜研究開発が進められています。XFELは,結晶化が困難な膜タンパク質の解析,触媒反応のリアルタイム観察,新機能材料の創成など,生命科学やナノ領域の構造解析をはじめとする広範な科学技術分野において多くの期待が寄せられているだけでなく,新しい研究領域を開拓することが期待されています。

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