大学における独創的・先端的研究は,学部,大学院,研究所,研究施設などに加え,特定の大学に属さず,全国の大学等の研究者が共同で利用し,研究を行う大学共同利用機関を中心に進められています。近年における研究手法の高度化や研究プロジェクトの大型化に伴い,多くの研究分野で研究者が共同して研究を進める必要性と有用性が増大しています。このため,大学共同利用機関及び国立大学に附置されている研究所(以下附置研究所という。)などの共同利用の体制の強化や特色ある基礎研究に必要な研究費の充実を図っています(図表2-6-6)。
大学共同利用機関は,全国の大学等の研究者が共同研究を推進する拠点として,また,特色ある大型の施設・設備や大量の有用な資料・データの共同利用の場として,各分野の発展に大きく貢献するとともに,国際的な競争と協調の中で世界最先端の研究を推進しています。また,大学教育の一環として,総合研究大学院をはじめとする大学院学生の受入れを行うなど,研究と教育を一体的に実施しています。各々の機構の役割は以下のとおりです。
文化にかかわる基礎的研究や自然科学との連携も含めた研究領域の開拓に努め,文化の総合的学術研究拠点を目指しています。地球環境問題の解決に向けて,人文・社会科学から自然科学までの幅広い研究分野を総合化する「総合地球環境学研究所」などの五つの研究所があり(参照:本章第3節3(2)),現在,機構では,五つの研究所の研究基盤を結び付けて新たな成果を生み出すことを目指して,国内外の大学・研究機関の研究者の参画を得て「連携研究」を推進しています。
宇宙,物質,エネルギー,生命などの自然科学分野の基盤的な研究の推進や各分野の連携による新たな研究領域の開拓・育成などを目的としています。天文学に関する観測的・理論的研究を実施する「国立天文台」など五つの研究所があり,欧米との協力による「アルマ計画」の推進など(参照:本章第3節5(2)),国際的研究拠点として研究活動を展開しています。
高エネルギー加速器(注1)に関する開発研究などを行い,素粒子から生命体にわたる広範な実験・理論研究を展開するとともに,加速器科学の拠点として国内外の大学等との連携・協力を推進することを目的としています。物質の究極の構造と相互作用について研究を行う「素粒子原子核研究所」など二つの研究所があり,国際共同実験であるBファクトリー計画(注2)の推進をはじめとして,世界第一線で指導的役割を果たすために,数々の開発研究を推進しています(参照:本章第3節6(2))。
情報とシステムの観点から分野を越えた総合的な研究を推進し,新たな研究パラダイム(枠組み)の構築と新分野の開拓を目的としています。宇宙の窓,地球環境の窓と表現される極地に関する科学の総合研究と極地観測の推進を目指す「国立極地研究所」(参照:本章第3節3(2))など四つの研究所があり,機構では,四つの研究所が連携して,システムとしてとらえられる生命・地球環境の分野と,情報の分野の各分野間の新領域融合研究を進めています。
附置研究所は,特定の専門分野の研究に専念し継続性をもって長期的に研究を進める組織であり,学問の動向や社会の変化に対応しながら高い研究水準を維持しています。また,学部・大学院における教育研究との連携の下で,優れた若手研究者の養成にも貢献しています。国立大学法人には,平成18年度現在,60の附置研究所(うち20は全国共同利用型の研究所)が設置されています。研究所の例として,以下のものがあります。
東南アジアを中心とした総合的な地域研究を行っています。人文科学の観点に自然科学の観点も加味し,自然環境の現状と変遷の過程を視野に入れつつ,変動する地域を総合的にとらえようとするところに特徴があります。平成16年度からは,研究施設という組織形態から附置研究所に改組し,より継続的・長期的視野で研究を行うための体制が整備されました。近隣のアジア諸国と我が国の学術文化の交流が深まる中,本研究所が地域研究の研究拠点の一つとしてより重要な役割を果たすことが期待されています。
岐阜県飛騨市に設置されている「スーパーカミオカンデ」を用いて,ニュートリノの研究を推進しており,世界をリードする成果を出しています。平成13年にニュートリノを検出する光センサー「光電子増倍管」の約半数以上が破損した事故が発生しましたが,18年5月に全面復旧し,同年7月から本格実験が再開されました。今後,性能を取り戻した「スーパーカミオカンデ」において,引き続き素粒子理論に対する新たな知見を開拓し,宇宙の物質起源の解明へ貢献することが期待されています。
国立大学法人には,学部や研究科において,特定目的の研究を推進する研究施設や,学内の共同利用に供するために学部等から独立した研究施設,さらには大学の枠を越えて全国の研究者の共同利用に供する全国共同利用施設が設置されています。研究施設の例として,以下のものがあります。
平成18年度から,学内共同利用施設から全国共同利用施設に改組し,国内外の研究者と連携して,高出力レーザーが生み出すエネルギーの集中性を活用し,「レーザーエネルギー学」という新しい学問領域を開拓,その体系化を目指しています。今後は,宇宙物理関連の研究機関と連携して,レーザー宇宙物理の研究も進めていく予定です。
土壌や植生と大気との間で行われている水や二酸化炭素などの物質交換を観測するなどして,陸面におけるエネルギーと物質循環に関するデータを取得し,地球環境の研究に役立てるための活動を続けています。また,地球環境に関する研究の効率を高めるために,他大学の研究機関や各省庁の研究機関などとの共同研究や国際的な観測プロジェクトにも力を注いでおり,将来の地球環境研究の発展へ重要な役割を担うことが期待されています。
また,国立大学法人化後は自由な組織再編が可能になり,大学が地域・社会からの要請や大学の個性に応じて,より自由な研究展開を行えるようになりました。平成18年度に新たに設置された研究施設の例として,以下のものがあります。
エネルギーを効率良く変換・貯蔵することのできる機能など,先進機能を持った物質の設計・創製を目指し,化学・物性物理・材料工学の分野を融合させ,さらには,他大学と連携をしながら,研究を推進しています。今後,これらの研究が,省エネルギー・省資源型社会構築へ貢献することが期待されます。