全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)

全国的な学力調査の今後の改善方策について「論点の整理」


平成28年6月15日
全国的な学力調査に関する専門家会議


   全国学力・学習状況調査は、平成19年度の開始以来、平成28年度調査で10年目を迎える。この間、国・教育委員会・学校では、調査を通じて、児童生徒の課題を把握・分析し、教育施策や教育指導の改善・充実を図るという、継続的な検証改善サイクルを確立する取組が行われている。また、理科の実施、都道府県・市町村教育委員会による調査結果の公表方法の見直し、経年変化分析調査の実施、保護者に対する調査の実施など、調査自体の改善を図ってきたところである。
   今後の学習指導要領の改訂などを見据え、全国的な学力調査を引き続き、悉皆(しっかい)、かつ、毎年度実施する必要性やメリットを示した上で、全国的な学力調査の全体像や具体的な改善方策などについて整理する。


1. 全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施する必要性

   全ての教育委員会・学校・個々の児童生徒に対する教育施策・教育指導の改善・充実を図るためには、全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施することが必要であり、以下のように整理できる。

○ 全国学力・学習状況調査は、義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、

  • 全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析することによって、国・教育委員会における教育施策の成果と課題を分析し、その改善を図る
  • 学校における個々の児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる
  • そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する

ことを目的としている。

○ 上記の目的を確実に果たすには、

  •  全ての市町村教育委員会において、自らの教育施策の成果と課題を分析し、その改善を図ることができるようにするためには、全ての市町村教育委員会を対象に調査を実施すること
  •  全ての学校において、個々の児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てるためには、調査の対象学年が小学校6年生と中学校3年生に限られるのであれば、全ての学校の該当する学年の全ての児童生徒を対象に、毎年度調査を実施すること
  •  国、全ての教育委員会、全ての学校、全ての児童生徒において、教育施策や教育指導の改善・充実を図る取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立するためには、全ての教育委員会、全ての学校、該当する学年の全ての児童生徒を対象に、毎年度調査を実施すること

が必須となるため、引き続き、全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施する必要がある。

○ 全国的な学力や学習状況の傾向、又は、都道府県別の学力や学習状況の傾向を単純に把握するだけならば、抽出方式による調査でも可能である。しかしながら、全ての教育委員会における教育施策の改善・充実、全ての学校における該当する学年以外の児童生徒を含む個々の児童生徒に対する教育指導の改善・充実を図るためには、全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施することが必要である。


2. 悉皆、かつ、毎年度調査を実施するメリット

   全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施することは、以下の四つのメリットが挙げられる。

(1) 全ての教育委員会・学校・児童生徒に対する具体的なメッセージ

○ 全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施することは、毎年度、全ての教育委員会、全ての学校、当該年度の全ての小学校6年生と中学校3年生に対し、教科の設問と質問紙調査項目を示すことになる。

○ そのため、調査実施後に調査問題を全て公開することにより、全ての教育委員会、学校、児童生徒は、各設問の誤答の状況などから課題の有無を把握し、把握した課題の解決に向けて取り組むことができる。

○ さらに、調査問題は、全ての教育委員会、学校、児童生徒に対して、学習指導要領の理念・目標・内容等に基づき、学習指導上特に重視される点や身に付けるべき力を具体的に示すメッセージとなる問題を出題することができる。

○ また、質問紙調査項目も同様に、調査実施後に全て公開することにより、全ての教育委員会、学校、児童生徒に対して、教育施策や教育指導の改善・充実に資する指導方法や学習に対する関心・意欲・態度などに関し、具体的なメッセージとなる調査項目を提示することができる。

○ なお、調査により測定できるのは学力の特定の一部分であることや、学校における教育活動の一側面であることなどについて、留意する必要がある。

(2) 教育に関する様々な分析の基盤となる調査

○ 全国学力・学習状況調査は、全ての教育委員会・学校・児童生徒を対象に、毎年度実施しているからこそ、推計値を用いることなく、調査としての信頼性を確保することができるとともに、国や教育委員会、大学等の研究機関等が行う他の調査と組み合わせることにより、新たな知見を導くことができる。

○ 全国学力・学習状況調査では、教科に関する調査と児童生徒や学校に対する質問紙調査により、児童生徒や学校の取組や教育環境と学力の傾向を全国、教育委員会、学校ごとに分析し、全国的な傾向と都道府県ごとの傾向を公表している。文部科学省では、調査結果を踏まえ、学習・指導方法の改善等の教育施策の改善・充実を図っている。また、各教育委員会や学校では、都道府県ごとの児童生徒や学校の取組や教育環境の違いと学力の傾向を参考とし、教育施策や教育指導の改善・充実に生かしている。

○ その上で、全国学力・学習状況調査は全ての教育委員会や学校、児童生徒を対象としているため、教育委員会や学校を特定して、更に詳細な調査を行えば、高い成果を上げている教育委員会や学校の取組、教育環境を実証的に分析することができる。

○ 一方、文部科学省では、全国学力・学習状況調査の結果を公表し、各教育委員会・学校・児童生徒に対して結果を提供するとともに、毎年度、大学等の研究機関に委託して調査結果を用いた追加分析を行い、教育委員会や学校に対して情報提供を行っている。文部科学省が行う委託調査研究にとどまらず、大学等の研究者が全国的な学力調査の詳細なデータを活用できるようにすることにより、新たな知見が得られることが期待される。

(3) 教育委員会・学校における教育に関する継続的な検証改善サイクルの基盤の提供

○ 教育委員会の中には、各教育委員会の教育振興基本計画等において、教育施策の目標値を全国学力・学習状況調査の教科の平均正答率等や質問紙調査項目の回答割合に置いているところもある。また、同様に、学校の中には、学校運営における目標値として、教科の平均正答率等や質問紙調査項目の回答割合を掲げているところもある。

○ また、全ての教育委員会や学校を対象に調査を実施していることから、各教育委員会や学校は、教科の設問や質問紙調査項目によって明らかになった課題に対し、当事者意識を持って対応することができている現状がある。過去の調査問題や調査結果は、校内研究や校外の教員同士の授業研究、授業設計の際の基礎資料として活用されている。さらに、学校によっては、できるだけ早く調査結果を教育指導の改善・充実に生かすため、調査結果が提供される前に、自ら採点を行うところも存在する。

○ 全国的な学力調査を全ての教育委員会、学校を対象に、毎年度実施することにより、各教育委員会や学校における教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立するために必要な数値や課題等を示すことができる。

(4) 一人一人の児童生徒に対する教育指導の改善・充実

○ 全国的な学力調査を全ての学校・児童生徒を対象とし、調査実施後に調査問題と質問紙項目を全て公開することにより、各学校において、一人一人の児童生徒の学力や学習状況を把握して、全国的な状況との比較などにより、指導に生かすことができる。また、調査結果の分析を踏まえて、校内研究を行うことなどにより、学校全体ないし各学級としての指導方法等の改善につなげることができる。さらに、各学校では、そのような教育指導の改善・充実を図る取組を進めることが期待される。


3. 悉皆、かつ、毎年度調査のメリットを生かした全国的な学力調査の全体像

   各教育委員会や学校における教育施策や教育指導の改善・充実に資するため、全国学力・学習状況調査では、調査実施後に調査問題と質問紙調査項目を全て公開することとしている。しかしながら、悉皆調査であり、かつ、調査問題を公開するために予備調査を実施することがなじまない等の理由から、年度間の調査問題の等化が困難である、といったような課題を抱えている。また、学力の要因としては、学校の取組だけでなく、家庭の状況も影響しているが、児童生徒及び学校に対する質問紙調査項目だけでは、把握することは難しい面もある。
   そこで、全国的な学力調査を悉皆、かつ、毎年度実施し、そのメリットを生かしつつ、様々な課題を克服するため、全国的な学力調査は、以下のような全体像の下に実施すべく、改善を図っていく必要がある。

(1) 実施教科

○ 全国学力・学習状況調査の教科に関する調査は、国の責務として果たすべき義務教育の機会均等とその水準の維持向上という観点からの学力等の把握が必要であること、大規模な調査を確実に実施する必要があるといったことに加え、読み・書き・計算など、日常生活やあらゆる学習の基盤となる内容を扱う教科であること等から、小学校の国語・算数、中学校の国語・数学を毎年度実施しており、これらの教科については、今後も引き続き、毎年度実施する必要がある。

○ また、理科については、

  • 科学技術人材の育成等のために、理科教育の充実が求められている
  • 科学的な思考力、表現力、科学への関心を高める学習の充実が求められている
  • 児童生徒の「理科離れ現象」の実態把握と課題の改善が必要である
  • 国際的な学習到達度調査(TIMSS、PISA)が「理科」や「科学的リテラシー」を調査内容としている

こと等を踏まえ、平成24年度と平成27年度の3年に一度、実施しており、今後も3年に一度程度の実施を続けていく必要がある。

○ さらに、「英語教育実施状況調査」の中・高等学校の生徒の英語力に関するアンケート結果では、十分な改善が見られていないなど、各種調査によって明らかになった中・高等学校の生徒の英語力の状況を踏まえ、生徒の英語力を把握し、着実な英語力向上を図るため、中学校における英語4技能を測る調査について、悉皆で行われる全国学力・学習状況調査の中で、3年に一度程度実施することを検討する必要がある。

(2) 調査結果の分析・公表及び提供

○ 各教育委員会や学校においては、全国学力・学習状況調査の毎年度の調査結果の分析を行う際、域内又は学校内の全体的な状況を把握するため、全国や都道府県・市町村の平均正答率との比較による分析を行うことが中心となっている現状がある。しかしながら、児童生徒が必要な学力を身に付けているかどうかについて、各教育委員会や学校、児童生徒が捉えられるようにする観点からは、平均正答率を示されるだけでは、必ずしも十分ではないと考えられる。そこで、各教育委員会や学校が児童生徒の学力の状況をより客観的・多角的に、教育委員会全体や学校全体として評価できるような仕組みを検討する必要がある。

○ 全国学力・学習状況調査の結果分析については、児童生徒や学校の質問紙調査項目と学力との単純な相関関係の分析だけでなく、教育委員会や学校における教育施策や教育指導の改善・充実に役に立つ、より詳細な分析結果を結果公表時に併せて公表する必要がある。

○ 教育施策や教育指導の改善・充実に役立てるため、引き続き、調査問題に関する出題の趣旨や正答・誤答の解説、指導の改善・充実の在り方等の分析結果について各教育委員会や学校へ提供する必要がある。

(3) 悉皆、かつ、毎年度実施する調査を補完する調査

○ 現在の悉皆、かつ、毎年度実施する全国学力・学習状況調査では、調査問題の全てを公表することにより、教育施策や教育指導の改善・充実に活用している。しかしながら、調査問題の全てを公表することは、同じ問題を活用して調査結果を年度間で厳密に比較することができない。

○ また、現在の全国学力・学習状況調査では、全ての児童生徒が同一の調査問題を解答することにより、学校において、同一の調査問題から導かれる個々の児童生徒の課題を把握し、教育指導の改善・充実に活用しているが、教科ごとの調査の実施時間が限られるため、年度ごとに出題できる教科の設問数・出題範囲は限られており、国として毎年度、把握できる学力の状況は限られることとなる。

○ そのため、全国学力・学習状況調査では、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、調査問題の一部のみを公表し、幅広い内容に関する学力の状況を把握すべく複数分冊を用意した、抽出方式で行う経年変化分析調査を平成25年度から実施しており、2回目の調査を平成28年度に行うこととしている。今後も継続的、かつ、定期的に実施する必要がある。

○ さらに、全国学力・学習状況調査では、教科に関する調査とともに、児童生徒及び学校に対する質問紙調査を行うことにより、児童生徒や学校の状況と学力との関係を把握・分析している。しかしながら、児童生徒や学校に対する調査のみでは、家庭の状況を踏まえた、教育施策や教育指導の改善・充実に生かすことのできる分析結果を提供することは難しい。そのため、平成25年度には、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、抽出方式で、保護者に対する調査を実施しており、今後も継続的、かつ、定期的に、同様の調査を実施する必要がある。


4. 具体的な改善方策

   前述した「3.悉皆、かつ、毎年度調査のメリットを生かした全国的な学力調査の全体像」の下、当面、以下の八つの改善方策の検討を進める必要がある。

(1) 学習指導要領改訂を反映した調査問題や質問紙調査項目

○ 全国学力・学習状況調査では、義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、学習指導要領の理念・目標・内容等に基づき、全ての児童生徒に身に付けさせるべき基盤的な内容を調査問題として出題し、全国的な児童生徒の学力を把握・分析している。

○ 現在、学習指導要領の改訂に向け、中央教育審議会において議論が進められている。中央教育審議会・教育課程企画特別部会の審議において取りまとめられた「教育課程企画特別部会 論点整理」(平成27年8月)では、各教科等において育成すべき資質・能力を明確化していくことや、各学校において、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」を確立することといった方向性が示されている。

○ 全国学力・学習状況調査の調査問題については、新しい学習指導要領が求める育成すべき資質・能力を踏まえ、それを教育委員会や学校に対して、具体的なメッセージとして示すものとなるよう検討を進める。新しい学習指導要領が実施される前の段階においても、その方向性を勘案しながら、現行の学習指導要領に基づく調査問題の工夫を行う。

○ また、調査問題に限らず、児童生徒や学校に対する質問紙調査項目においても、新しい学習指導要領の理念が、教育委員会や学校に反映されているのか、把握・分析することができるものにしていく必要がある。さらに、質問紙調査項目によって、非認知能力を把握・分析できる仕組みも検討する必要がある。

(2) 児童生徒の学力の状況をより客観的・多角的に評価できる仕組みの導入

○ 各教育委員会や学校では、全国学力・学習状況調査の結果分析について、全国や都道府県・市町村の平均正答率との比較により分析を行うことが中心となっている現状があるが、児童生徒が必要な学力を身に付けているかどうかについて、各教育委員会や学校、児童生徒が捉えられるようにする観点からは、平均正答率を示されるだけでは、必ずしも十分ではないと考えられる。

○ また、平成27年度秋の年次公開検証(「秋のレビュー」)等の指摘事項に対する文部科学省の対応状況において、「国として一定の学力水準を示す(指標の設定等)などの学力の状況を客観的に評価するための改善を図り(平成30年度からの導入を目指す)、個々の児童生徒にきめ細かく指導できるようにする」としていることなどを踏まえ、各年度の全国学力・学習状況調査において、各教育委員会や学校が児童生徒の学力の状況をより客観的・多角的に、教育委員会全体や学校全体として評価できるような改善を図るべく、その具体的な方策を検討し、平成30年度からの導入を目指す必要がある。

○ あわせて、全国学力・学習状況調査は、教育委員会や学校の平均正答率等の数値データによる単純な比較や序列化、過度な競争を行うものではなく、あくまでも、教育委員会や学校、個々の児童生徒の課題を把握・分析し、教育施策や教育指導の改善・充実を図るものである。こういった調査本来の趣旨・目的について、改めて教育委員会や学校に対して共通理解を得て、その認識を深く浸透させるとともに、教育委員会・学校との間で調査への適切な向き合い方や適切な指導改善の方策等について理解を深め合う必要がある。

(3) 中学校における英語4技能を測る調査を平成31年度から3年に一度程度実施

○ 文部科学省では、生徒の英語力向上を目指して、「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」(平成26年12月)などを踏まえ、小・中・高等学校を通じた先進的な取組や教員研修などの支援を進めてきた。しかしながら、平成23年度以降毎年実施してきた「英語教育実施状況調査」の中・高等学校の生徒の英語力に関するアンケート結果では、十分な改善が見られていない。

○ 各種調査によって明らかになった中・高等学校の生徒の英語力の状況を踏まえ、生徒の着実な英語力向上を図るため、平成27年6月に、文部科学省において、生徒の英語力向上のための国、地域、学校における検証改善サイクルの構築を進める「生徒の英語力向上推進プラン」が策定・公表された。同プランでは、中学校において英語4技能を測定する全国的な学力調査を国が新たに実施することで英語力を把握することが示されている。

○ これらを受けて、中学校における英語4技能を測る調査について、悉皆で行われる全国学力・学習状況調査の中で平成31年度から実施し、その後も継続的に、3年に一度程度実施することを目指し、検討を進める必要がある。

○ また、平成31年度から調査を円滑に実施するため、平成30年度に抽出方式で予備調査を行う必要がある。

(4) 調査結果のより詳細な分析を結果公表時に併せて公表

○ 全国学力・学習状況調査では、児童生徒や学校の質問紙調査の回答状況と教科に関する調査の平均正答率等との関係について分析を行っている。しかしながら、個々の質問紙調査項目と学力との関係を分析するだけでは、児童生徒や学校の状況と学力との関係を必ずしも正確に把握することができていないとの指摘がある。

○ そのため、全国的な学力調査の分析については、個々の質問紙調査項目と学力との相関関係だけでなく、質問紙調査項目をまとめた領域と学力との相関関係や、学力に与える影響が大きい質問紙調査項目を統制した三重クロス分析など、各教育委員会や学校において、教育施策や教育指導の改善・充実により一層資する分析を行い、調査結果の公表と併せて、分析結果を公表する必要がある。

○ また、それぞれの教育委員会や学校では、提供された域内や校内の調査結果を分析し、教育施策や教育指導の改善・充実に活用している。それらの分析の中には、他の教育委員会や学校でも活用できるものもあり、国として事例を収集し、教育委員会に対して情報提供することが必要である。

(5) 経年変化分析調査の継続的、かつ、定期的な実施

○ 全国学力・学習状況調査では、各教育委員会、学校において、一人一人の児童生徒に対する教育指導の改善・充実を図るべく、調査実施後に調査問題を全て公表し、具体的に、どのような設問で、どのようなつまずきがあったのか、正確に把握できるようにしている。しかしながら、調査問題を全て公表することは、同じ問題を活用して調査結果を年度間で厳密に比較することができず、国として学力水準の変動を把握することができない。

○ また、現在の全国学力・学習状況調査では、全ての児童生徒が同一の調査問題を解答することにより、学校において、同一の調査問題から導かれる個々の児童生徒の課題を把握することができ、教育指導の改善・充実に活用することができる。しかしながら、教科ごとの調査の実施時間が限られるため、年度ごとに出題できる教科の設問数・出題範囲は限られており、国として毎年度、把握できる学力の状況は限られることとなる。

○ そのため、全国学力・学習状況調査では、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、調査問題の一部のみを公表し、幅広い内容に関する学力の状況を把握すべく複数分冊を用意した、抽出方式で行う経年変化分析調査を平成25年度から実施しており、2回目の調査を平成28年度に行うこととしている。経年変化分析調査の趣旨から、平成28年度以降も長期間にわたり、継続的、かつ、定期的に、調査を行う必要がある。

(6) 保護者に対する調査の平成29年度実施と継続的、かつ、定期的な実施

○ 全国学力・学習状況調査では、教科に関する調査とともに、児童生徒及び学校に対して質問紙調査を行い、児童生徒の学習意欲、学習方法、学習環境、生活の諸側面や学校における指導方法に関する取組や人的・物的な教育条件の整備の状況等と学力との関係を把握・分析している。

○ 一方、全国学力・学習状況調査では、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、平成25年度に抽出方式で行った保護者に対する調査及び追加分析調査により、

  • 家庭の社会経済的背景と学力の関係
  • 不利な環境を克服している児童生徒の特徴
  • 不利な環境においても成果を上げている学校の取組
  • 保護者の意識等と学力の関係

等が明らかになった。

○ 児童生徒や学校に対する調査のみでは、家庭の状況を踏まえた、教育施策や教育指導の改善・充実に生かすことができる分析結果を提供することは難しい。経済的な面も含めた家庭の状況と学力等の状況を把握・分析することにより、児童生徒や学校の状況と学力との関係からでは分からない、学力向上のための方策を見いだす可能性がある。

○ そのため、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、平成29年度に保護者に対する調査を抽出方式で行い、教育委員会や学校における教育施策や教育指導の改善・充実に生かす必要がある。また、今後も継続的、かつ、定期的に、同様の調査を実施する必要がある。

○ その際、平成25年度の調査では、小学校391校、中学校387校から有効回答があったが、学級規模など、学校ごとの状況が異なる事項を比較する分析を行うには、抽出学校数が少ないという課題があった。そのため、平成29年度の調査では、抽出学校数を増やすなど、抽出方法等を改めて検討する必要がある。

(7) 指定都市の調査結果の公表方法の検討

○ 現在の全国学力・学習状況調査では、国が以下のことなどを勘案し、都道府県別の調査結果を公表している。

  • 国として国全体の調査結果について、説明責任を有しており、その観点から全国的な調査結果だけを示すのでは十分ではなく、都道府県単位程度の状況について公表する必要があること
  • 規模(域内の広さ、児童生徒数、学校数等)が大きく、様々な地域を包含することなどから、弊害が生じるおそれが比較的小さいと考えられること
  • 都道府県教育委員会は、教職員の給与費を負担するとともに広域で人事を行うなど役割と責任を担っていること
  • 都道府県教育委員会独自の学力調査においても、都道府県全体の調査結果を公表している例が多く見られること

○ その上で、

  • 平成30年度までには、教職員給与負担等は指定都市へ移譲することとなっており、指定都市は人事に関し、都道府県と同様の役割と責任を担うことになること
  • 指定都市教育委員会独自の学力調査においても、指定都市全体の調査結果を公表している例が多く見られること

といった現状を踏まえ、国が行う調査結果の公表の在り方について、

  • 国として国全体の調査結果に関する説明責任について、都道府県単位の状況について公表するだけで果たすことができるのか、指定都市を別途公表することで果たすことができるのか
  • 指定都市の規模(域内の広さ、児童生徒数、学校数等)から、指定都市の結果を国が公表することについて、弊害が生じるおそれがどの程度あるのか

といった点について精査し、都道府県・指定都市の教育委員会の意向を踏まえつつ、検討を進める必要がある。

(8) 大学等の研究者による詳細データの活用

○ 全国学力・学習状況調査における、詳細なデータの取扱いについては、

  • 調査結果は、教育施策の改善・充実に生かすことを目的として、調査は、国が実施主体となり、全国の教育委員会の合意と協力により実施している
  • 国及び事業を受託した事業者が個人名を取得しない形で調査を実施しているが、調査結果のデータは、個々の児童生徒をはじめ、学校別の結果など慎重に取り扱わなければならない
  • 教育委員会や学校の安易なランキングなどは、学校における教育活動や地域に大きな弊害を与える

ということを基本的な考え方としている。

○ そのため、市町村教育委員会や学校に対し、当該市町村教育委員会や当該学校の詳細なデータを提供するとともに、都道府県教育委員会等に対し、申請に基づき、当該都道府県教育委員会等の域内に限り、集計前の詳細なデータを貸与している。

○ また、大学等に委託している調査結果の活用の一環として実施する専門家による追加分析の場合は、以下の観点について、必要に応じて判断し、詳細なデータを貸与している。

  • 教育施策や教育指導の改善・充実に資する調査研究であること
  • データ管理を適切に行うことができる体制等があること
  • 研究結果の公表に当たっては、専門家のレビューを経ること

○ これらを踏まえつつ、国が行う委託調査研究にとどまらず、大学等の研究者が詳細データを活用できるよう、提供する詳細データの内容やデータの管理方法、研究成果の公表の在り方など、具体的なデータ貸与のルール等について検討し、平成29年度から貸与が開始できるよう検討を進める必要がある。


5. 調査方法の不断の見直し

   前述の「4.具体的な改善方策」だけでなく、全国的な学力調査は、児童生徒の学力や学習状況の変化などを踏まえ、不断の見直しを行う必要がある。特に、教育委員会や学校の取組や教育環境と学力との関係について、より実証的な分析に資する必要がある。そのため、中長期的に検討すべき課題として、以下のものが挙げられる。

(1) 実施教科

○ 現在の全国学力・学習状況調査の教科に関する調査では、小学校の国語・算数、中学校の国語・数学を毎年度実施しており、理科を3年に一度程度実施するとともに、中学校における英語4技能を測る調査を平成31年度から、3年に一度程度実施することの検討を進める必要がある。

○ それらに加えて、社会を実施するか否かや、特定の教科ではなく、PISA調査で求められるような統合的な資質・能力を把握することを目的とする調査の実施について、理科や英語4技能を測る調査の実施状況を踏まえつつ、抽出方式で実施することも含め、改めて検討する必要がある。

(2) CBTの導入の検討

○ 現在の全国学力・学習状況調査は、紙による調査を実施しているが、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」では、CBT(Computer-Based Testingの略称。コンピュータ上で実施する試験)の導入が検討されている。CBT導入のメリットやデメリット、全国学力・学習状況調査の実施規模は、より多くの学校・児童生徒が対象となること、システムの安定性やセキュリティの確保、機器導入・運送・維持管理のコスト等を勘案しつつ、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の検討状況や実績を踏まえて、改めて検討する必要がある。

(3) 調査結果の提供の早期化

○ 現在の全国学力・学習状況調査では、4月下旬に調査を実施し、8月下旬に調査結果を教育委員会や学校に提供している。しかしながら、8月下旬に調査結果が提供されたとしても、学校としては夏季休業中に調査結果を分析することができない。各学校が調査結果を個々の児童生徒の教育指導の改善・充実に生かすことができる期間は、当該児童生徒が卒業するまでの短い期間に限られている。

○ このため、国立教育政策研究所においては、調査実施直後、各教育委員会や学校が速やかに児童生徒の学力や学習状況、課題等を把握し、学習指導の改善・充実等に役立てることができるよう、「解説資料」を作成し、各教育委員会や学校へ配布・公表している。学校によっては、この「解説資料」を活用して、できるだけ早く調査結果を教育指導の改善・充実に生かすため、調査結果が提供される前に、自ら採点を行うところも存在する。

○ 教育委員会や学校において、現在よりも早期に、調査結果を児童生徒の教育指導の改善・充実に活用できるよう、教育委員会や学校に対する調査結果の提供を早期化する方策の検討を進める必要がある。その際、現在、教育委員会や学校に対する調査結果の提供は、CD-ROMの形でそれぞれに送付しているが、コンピュータのシステムの安定性やセキュリティの確保などの技術開発の状況、コスト面等に対して配慮した検討が必要である。

(4) 悉皆、かつ、毎年度実施する調査を補完する調査

○ 悉皆、かつ、毎年度実施する全国学力・学習状況調査の本体調査とは別に実施する経年変化分析調査と保護者に対する調査は、いずれも抽出方式で行っているが、学校の抽出は、調査ごとに行っている。経年変化分析調査と保護者に対する調査について、抽出する学校を同一にした場合、児童生徒の年度間の学力や学習状況の変化と家庭の状況との関係を分析することで、新たな知見が得られる可能性がある。そのため、平成32年度以降、経年変化分析調査と保護者に対する調査を同一年度に実施し、抽出する学校を同一にすることを検討する必要がある。

○ また、現在の全国学力・学習状況調査では、学校に対して質問紙調査を行っているが、学校としての回答は一つであり、児童生徒の学力や学習状況との関係について、詳細に分析することができないとの指摘がある。そのため、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、抽出方式により、教員に対して、指導方法(アクティブ・ラーニングの視点からの学習・指導方法の改善の観点を含む)や学級運営(学級の集団性との関係を含む)に関する意識を調査することにより、国として教員の意識と児童生徒の学力や学習状況との関係に係る傾向や課題を把握し、教育委員会や学校に対して、教育施策や教育指導の改善・充実に資する分析結果を提供することを検討する必要がある。

○ なお、2時点の間の個々の児童生徒の学力の進捗状況を分析できるようにする場合には、悉皆、かつ、毎年度実施する本体調査とは別に、抽出方式で、学年末など本体調査とは別の時期に学力を測る調査を実施する必要性があるとの指摘もある。


全国的な学力調査に関する専門家会議委員

(50音順 敬称略)



鵜沢 勇

(~平成27年6月)
公益社団法人日本PTA全国協議会業務執行理事(当時)


大津 起夫

独立行政法人大学入試センター教授


鎌田 首治朗

奈良学園大学人間教育学部教授


北川 千幸

広島県教育委員会参与


斉藤 茂好

(~平成28年3月)
渋谷区立松濤中学校長


斉藤  規子

昭和女子大学人間社会学部初等教育学科特命教授


齋藤 芳尚

(平成27年7月~)
公益社団法人日本PTA全国協議会常務理事


柴山 直

東北大学大学院教育学研究科教授


清水 康一

京都市教育委員会総務部総務課長


清水 美憲

筑波大学大学院教育研究科長


田代 和正

(平成28年4月~)
調布市立第五中学校長


田中 博之

早稲田大学大学院教職研究科教授


種村 明頼

新宿区立西戸山小学校長


田村 知子

岐阜大学大学院教育学研究科准教授


垂見 裕子

早稲田大学高等研究所招聘研究員


土屋 隆裕

情報・システム研究機構統計数理研究所教授


寺井 正憲

千葉大学教育学部教授


戸ヶ﨑 勤

戸田市教育委員会教育長


長塚 篤夫

日本私立中学高等学校連合会常任理事
順天中学校・高等学校長

座長代理

福田 幸男

横浜薬科大学教授

座長

耳塚 寛明

お茶の水女子大学基幹研究院教授


吉村 宰

長崎大学大学教育イノベーションセンター教授


渡部 良典

上智大学言語科学研究科教授



お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成28年06月 --