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坂田 仰さん(日本女子大学准教授)

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『不思議な少年』
 マーク・トウェイン著
坂田 仰さん
(日本女子大学准教授)

 マーク・トウェインは,一九世紀を代表するアメリカ人作家です。ペンネームの由来にもなったミシシッピ川を舞台に,『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリ・フィンの冒険』など,愉快な冒険小説を書いていて,テレビアニメにもなっているので知っている人も多いことでしょう。楽天主義を代表するといわれるマーク・トウェインですが,最晩年の『不思議な少年』は,一転してペシミスティックな作風になっています。
 物語は,一六世紀のオーストリアを舞台とし,寒村に住む三人の少年がサタンという名の不思議な少年と出会うところから始まります。サタンは,次々と他人の心の内を言い当て,その将来を予測し,その後の運命を変えて見せます。老後の苦痛を避けるために命を縮める。余生を幸福にするために精神錯乱に陥らせる。その結果,徐々に暗澹たる思いに駆られていく少年達。そして詰る三人に,サタンが「人間の人生なんてすべて幻に過ぎない。」と言い放ち,どこへともなく消えていくところで終わっています。
 サタンが繰るように,人間の運命は予め決まっているのか。もしそうだとすると何とも味気ない。小学校の三年生か四年生の頃,『トム・ソーヤの冒険』から始まった私のマーク・トウェイン巡礼は,中学時代の『不思議な少年』との出会いで一時期止まってしまいました。しかし,人生が幻かどうかは別として,自らの手で将来を切り拓くという気概を持つこと。人生がどうなるか,そしてどんな意味を持つかは,本人の気持ち次第。そこに人間のおもしろさがあると思えるようになった頃,またマーク・トウェイン巡りが始まりました。そしてそれは今も続いています。どうやらマーク・トウェインの作品は,年齢に関係なく楽しめるところに魅力の一つがあるといえそうです。

──子どもたちに対する読書メッセージ
 マーク・トウェインには,『人間とは何か』という同様のスタンスに立つ評論があります。この作品では,少年ではなく,老人に「人間の行動はすべて環境によって決定される。人間は,ある種の機械に過ぎない。」と説かせています。『不思議な少年』と『人間とは何か』を読み比べてみると,いろんな発見があります。小説と評論の違い,晩年の作風がなぜ変わったのか等々,読書の迷宮は尽きることがありません。みなさんも作者との長い付き合いを始めてみませんか。
 
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-- 登録:平成21年以前 --