平成30年度「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(大阪市)

平成30年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

  • 「帰国した子どもの教育センター校」(以下「センター校」)担当者会(月1回)、全体連絡会(年2回)
    • 大阪市教育委員会事務局(指導主事、教育相談員)
    • 大阪市教育センター(指導主事)
    • センター校(校長、担当者)
  • 日本語指導協力者会議
    • 大阪市教育委員会事務局(指導主事、教育相談員)
    • 日本語指導協力者
  • 日本語指導担当者会議
    • 大阪市教育委員会事務局(指導主事、教育相談員)
    • 日本語指導担当者(日本語指導が必要な児童生徒のための児童生徒支援加配)
  • 母語支援者(通訳者)連絡会
    • 大阪市教育委員会事務局(指導主事、教育相談員)
    • 母語支援者(通訳者)
  • 帰国・来日等の子どもの教育施策連絡会
    • 大阪市教育委員会事務局(首席指導主事・指導主事)
    • 各区教育政策課担当者

2.具体の取組内容

<1>運営協議会・連絡協議会の実施
  • 月1回、指導主事・教育相談員・センター校担当者がセンター校担当者会を行い、情報交換や指導法の研修を行う。
  • 日本語指導、教科指導等の研究活動、研修会の企画・運営を行う。
  • 各センター校の学校長も含めた全体会を5月と3月に開催し、実施計画および研究報告を行う。
<2>拠点校の設置等による指導体制のモデル化
  • 小学校5校、中学校5校をセンター校に指定する。
  • 多文化共生教育相談ルーム準備室を開設する。
  • 児童生徒および保護者の教育相談や教職員の相談を受けて助言を行う。
  • 日本語指導が必要な小学校4年生以上の児童生徒への日本語指導をセンター校で行う。
  • 指導用教材や図書の整備と貸し出しをする。
  • 多文化スピーチ大会(ワールドトーク)を実施する。
  • 日本語指導に関わる研究、教科指導に関わる研究活動を行う。
<3>日本語能力測定方法の活用
  • センター校担当者が日本語指導指導者養成研修に参加し、DLAの活用方法について研修を受け、センター校担当者に受講内容を周知する。
  • 年度末のセンター校担当者会において、各センター校でDLAを活用した結果について交流し、今後の活用方法について意見交換を行う。
<4>「特別の教育課程」による日本語指導の導入に向けた研修会の実施
  • 各校から提出される「特別の教育課程編成・実施計画書」により、児童生徒の日本語指導の状況を把握し、在籍校の学級担任等が日本語指導の担当者と協力して作成している「個別の指導計画」をより充実させ、児童生徒の学びが継続するように進める。
  • 日本語指導が必要な児童生徒の受け入れが少ない学校には、「個別の指導計画」の作成方法や進め方等を具体的に伝え、周知・徹底を図る。
<5>学力保障・進路指導
  • 年2回実施する「多文化進路ガイダンス」に母語支援者(通訳者)を派遣し、日本語での説明理解に不十分な生徒・保護者に対して母語での説明を行う。
  • 進路懇談会や教育相談で母語支援者を派遣し、生徒や保護者の思いに寄り添った進路相談を行う。
  • センター校担当者と母語支援者による母語作文の指導を行う。
<6>日本語指導ができる、又は児童生徒等の母語が分かる支援員の派遣
  • 日本語指導が必要な小学校1年生~3年生の児童が在籍する学校へ日本語指導協力者を派遣する。
  • 母語支援者(通訳者)や日本語指導協力者との連絡調整、教職員への教育相談や日本語指導等に関わる指導助言を行うコーディネーター(教育相談員)を配置する。
  • 初期対応、懇談会、説明会、教育相談等への母語支援者(通訳者)を派遣する。
  • 月1回程度、センター校で母語支援者(通訳者)が母語で授業を行う母語教室を開催する。
<7>小学校入学前の幼児や保護者を対象としたプレスクール
  • 公益財団法人 大阪国際交流センターが主催する「外国にルーツを持つこどものためのプレスクール」に就学前の帰国・来日した児童が参加するよう、外国にルーツがある児童生徒が集住する学校等に周知する。
<8>ICTを活用した教育・支援
  • 多文化共生教育相談ルーム準備室から各校へ「やさしい日本語による保護者向けプリント」のサンプル版を配信する。
  • 各学校に配布しているタブレット端末への翻訳機能の導入。
9.高等学校における教育・支援
  • 教育委員会の高等学校担当者と連携し、学校からの要請に応じて日本語指導協力者を年間50時間派遣する。
  • 日本語指導協力者は、日本語理解を深めるための日本語指導あるいは母語支援者(通訳者)による教科学習支援を行う。
10.成果の普及
  • センター校全体連絡会で、各センター校の事業内容やセンター校担当者が担う研究委員会の成果および本市の日本語指導が必要な児童生徒の支援状況を共有する。また、各センター校からの報告書等を配信し、本市の日本語指導が必要な児童生徒の状況を周知する。

3.成果と課題

<1>運営協議会・連絡協議会の実施

【成果】

  • 通級児童生徒の状況を情報交換することで、日本語指導を行った成果や課題について出し合い、今後の指導法に活かすことができた。
  • 研究委員会を設置することで、帰国・来日等の児童生徒への指導に活かすことができた。
  • 文部科学省の施策の周知を図ることができた。
  • 「特別の教育課程」による「個別の指導計画」の目標の立て方や、指導法の工夫について検討を重ね、児童生徒の学びが継続するよう行うことができた。
  • 全体会を行うことで、センター校の役割や本市の成果と課題について周知することができた。
  • 日本語指導協力者と子どもの状況を共通理解することによって、必要な教材や資料の作成を進めることができた。
  • 日本語指導教員を対象に、日本語指導研修会を連続講座として3回実施し、具体的な実践例について検討しながら研鑽を深めることができた。

【課題】

  • 日本語指導は専門性を必要とするため、新しく担当者になる教員へ指導法の教授や児童生徒の習得状況の申し送りができるように担当者会を運営する。
  • 一般の教員向けの日本語指導研修会を実施し、日本語指導や日本語指導が必要な児童生徒の理解を広げていく。
  • 多文化共生教育相談ルーム準備室と他の連絡協議会との連携の強化を進める。
  • 児童生徒が小・中学校での生活に適応するための日本語教材や対訳版を改訂する。
  • 文部科学省の施策を研究実践するための研修会を担当者会で開催する。
<2>拠点校の設置等による指導体制のモデル化

【成果】

  • 相談窓口を設けることによって、学校園からの質問や要望に迅速に対応できるようになった。
  • 「やさしい日本語」による保護者向けプリントのサンプル等を集約しサンプルを提供することで、各校で柔軟に対応することができ、保護者とのつながりを深めることができた。
  • センター校を増設したことで、日本語指導教員が指導する一人当たりの児童生徒数が減り、きめ細かな指導を進めることができた。

【課題】

  • 多文化共生教育相談ルームとして、学校園だけでなく保護者や地域からの相談窓口として業務内容を拡大していく。
  • 多文化共生教育に関わる指導事例や教材等の集約をさらに進め、情報の一元化を図る。
  • 多文化共生相談ルーム、日本語指導センター校、加配校、日本語指導協力者が協働して、日本語指導に関われるよう、新たな組織連携の在り方について検討を行う。
<3>日本語能力測定方法の活用

【成果】

  • 研修に参加したセンター校担当者がDLAの活用方法を習得するとともに、各担当者が短時間で実施する方法について意見交換をした。
  • 各センター校での実施結果を交流し、次の段階として日本語指導が必要な児童生徒が在籍する学校でDLAを活用する方法について話し合うことができた。

【課題】

  • センター校の担当者は、DLAについて一定の理解はできているが、本市の教員のために教授できるまで経験を積みながら理解を深める必要がある。そのため、DLAの活用方法を熟知した講師を招き、研修会を開催してより理解が深まるように進める。
  • 日本語指導が必要な児童生徒の在籍校でのDLAの活用方法を検討し、測定後における在籍校での指導方法や教科学習指導例を提示するように進める。
  • 多文化共生教育相談ルーム準備室の教育相談員が日本語指導教員や協力員と連携しながら、各校園にDLAの活用を普及できるような体制を構築していく。
<4>「特別の教育課程」による日本語指導の導入に向けた研修会の実施

【成果】

  • 個別の指導計画を作成することで、計画に基づいて児童生徒が日本語を習得できているのか確認することができた。
  • 定期的に指導計画を見直し、今後の支援する手立てについて意見を出し合うことで、より適切な日本語指導を進めることができた。また、次年度への引継ぎの資料としても効果的な役割を果たし、児童生徒の実態について、全教職員で共通理解を図ることができた。
  • 教育委員会事務局が特別の教育課程による日本語指導を実施する学校に編成・実施計画書等を提出させることによって、本市の日本語指導の状況を確認することができる。

【課題】

  • より具体的な指導計画を立てられるように「個別の指導計画」の内容について見直しを行う。
  • 「特別の教育課程」による日本語指導について、教員が理解を深めるための研修を実施する。
  • 多文化共生教育相談ルーム準備室の教育相談員が巡回訪問をするなどして、各校に「特別の教育課程」をもとにした助言を行える体制づくりを進めていく。
<5>学力保障・進路指導

【成果】

  • 在籍校において日本語で説明を受けるだけでは十分に理解できない生徒に対して受験制度等を母語で知ることでより理解が深まり、高校進学に向けて意欲的に取り組むことができる。また、保護者が日本の高校の制度や必要な費用等を理解することで、子どもを進学させる事への不安を取り除くことができる。
  • 特別枠選抜入試制度の母語作文指導を行うことで、母語保障や自己のアイデンティティの形成にもつながっている。

【課題】

  • 在籍校において日本語で説明を受けるだけでは十分に理解できない生徒に対して受験制度等を母語で知ることでより理解が深まり、高校進学に向けて意欲的に取り組むようになった。
  • 保護者が日本の高校の制度や必要な費用等を理解することで、子どもを進学させる事への不安を取り除くことができた。
<6>日本語指導ができる、又は児童生徒等の母語が分かる支援員の派遣

【成果】

  • 初期対応時に母国での生活や学習歴を聞くことにより、文化的背景の違いや保護者の思いについて知ることができ、受け入れの準備を円滑に進めることができた。
  • 初期の日本語指導により多くの児童生徒が日本語での会話が積極的になり、学級内での人間関係も形成され、以前より楽しく学校生活を送ることができるようになった。これは、日本語の習得だけでなく、学校生活への不安を解消する面にも役立っている。また、教職員と連携して日本語指導することで指導に関して教職員自身に気づきや発見があり、これからの取組にも活かすことができた。
  • 日本語指導協力者の派遣において、事前・中間・終了前に連絡会で学校へ指導助言をすることで効果的な日本語指導を行うことができた。また、派遣終了後も学校で継続的に日本語指導ができるように進めた。

【課題】

  • 予算等の事情から、日本語指導協力者の派遣回数に上限(25回)を設けざるを得ないため、習得が遅くカリキュラムが終了しない場合でも派遣の延長ができない。指導方法や教材の工夫を深めながら、派遣回数の見直しについて検討する。
  • 日本語指導協力者を増員したが、編入学をしてから日本語指導がはじまるまで1か月程度待つ児童がいた。
  • サバイバル日本語や学校生活で困らない程度の日本語習得に向けて、編入学前のプレスクール(初期指導教室)を開校する方向で検討を進めていく。
  • 日本語指導協力者は、日本語指導が必要な児童生徒に対し、在籍校の教員が日々の学校生活の中で指導ができるように支援および助言する役割を担っている。しかし、日本語指導協力者が派遣されたときのみ指導を受け、派遣終了後は日本語指導を受けていない児童がいると判明した場合に備え、派遣のできない日や派遣終了後に在籍校の教員が日本語指導を行う体制づくりを進めていく。
<7>小学校入学前の幼児や保護者を対象としたプレスクール

【成果】

  • 就学前に日本の小学校のきまりや小学校で使う日本語を学習する機会をもつことで、学校生活への不安感をできるだけ軽減してから入学することができる。
  • 学校へ情報提供することにより、受け入れる学校側が子どもの状況を把握し、入学前からその児童の支援方法を計画できるようになった。
  • 今年度、プレスクールを外国にルーツがある児童生徒が集住する地域の小学校の2カ所で開催することができ、就学前のプレスクールの取組が定着してきている。

【課題】

  • 日本の生活経験がほとんどなく、日本語もわからない子どもや保護者の参加率を上げるために、就学前検診での周知や区役所窓口での情報提供ができるように、早くにプレスクールの準備を進めていく。
<8>ICTを活用した教育・支援

【成果】

  • 画像や映像、音声等を使用することにより、わかりやすい授業を展開することができ、日本語指導が必要な児童生徒の学習意欲が高まる。
  • 「やさしい日本語による保護者向けプリント」のサンプル版を配信することで、保護者との意思疎通が図れ、保護者に安心感を与えることができた。また、教職員の負担軽減にもつながった。

【課題】

  • 「windows版 translator」について周知ができていないため、活用頻度が低い。周知を徹底し教職員や児童生徒の不安感を減らす。
  • 通訳者の派遣対応も今後、増えることが予想されるので、テレビ電話の活用について検討していく。
<9>高等学校における教育・支援

【成果】

  • 継続した日本語指導の結果、生活言語は一定習得することができた。

【課題】

  • 高等学校に在籍する日本語指導が必要な生徒は、日常会話はできるが授業時に使用される学習言語の理解が不十分な生徒が多い。そのため、履修単位の修得に苦慮したり進学を断念したりする生徒がいるので、学校生活の支援だけでなく進路選択の幅を拡げるために、大阪市における高校入試制度について見直す必要がある。
  • 地域や外部機関と連携した学習の場の確保が必要である。
<10>成果の普及

【成果】

  • センター校の校長およびセンター校担当者が、各校の成果や課題等を共有することによって、次年度の計画作成に役立てることができた。また、日本語指導が必要な児童生徒への支援状況を配信することで、各区で実施される教育行政会議等を活用し、課題解決に向けた取組が全市的に広がった。

【課題】

  • 日本語指導が必要な児童生徒の在籍数が少ない学校は、子どもたちを支援する経験が少なく、対応に困ることがある。そこで、帰国・来日等で編入した児童生徒やその保護者への対応について相談できる多文化共生教育相談ルーム準備室を今後、多文化共生教育相談ルーム、そして多文化共生相談センターへと拡大し、本市の現状と取組について共有・発信していくように進める。

4.その他(今後の取組予定等)

  • センター校の再編と新たな日本語指導システムの構築を検討する。
  • センター校担当者や日本語指導協力者の指導力向上のための研修会を行う。
  • 「個別の指導計画」等、日本語指導の重要性をより周知するための効果的な研修会を行う。
  • 在籍校での学習や保護者との連携を支援するため、多文化共生教育相談ルームへの組織拡大を進める。
  • 日本語指導や学習支援等を行う外部機関、大学、NPO、ボランティアと連携した多文化共生教育プログラムを開発する。
  • 各区で実施する日本語指導が必要な児童生徒に対する支援事業の連携を深める。

お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

電話番号:03-6734-2035