平成30年度「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(松阪市)

平成30年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

<1>運営協議会(年2回)

(大学、松阪国際交流協会、松阪市観光交流課、センター校、県教委、市教委)

<2>連絡協議会
  • 外国人児童生徒教育プロジェクト会議(年3回)
    (大学、センター校担当者、母語スタッフ、「いっぽ」教室担当者、市教委)
  • 外国人児童生徒教育ネットワーク会議(年3回)
    (市内小中学校外国人児童生徒教育担当者、市教委)
  • 外国人児童生徒教育担当者会議(年7回)
    (センター校担当者、母語スタッフ、市教委)

2.具体の取組内容

<1>運営協議会・連絡協議会の実施
  • 運営協議会
     事業説明、今年度の取組の内容や成果と課題からの来年度の方向性について検討を行った。
  • プロジェクト会議
     センター校の「国際教室経営方針」、「外国人児童生徒教育推進のための学校行動計画」についての協議を行った。また、教科指導、日本語指導、アイデンティティ形成のための取組、「特別の教育課程」による「個別の指導計画」についての協議も行った。
  • ネットワーク会議
     「特別の教育課程編成」に係る周知研修、日本語指導法講座を行った。また、センター校の具体的な取組(多文化共生教育、日本語指導・教科指導等)について発表・交流を行った。
  • 担当者会議
     各校の取組や児童生徒の状況について情報交換を行った。学力保障・進路保障の具体的な取組についての協議、教材の交流等も行った。
<2>拠点校等の設置等による指導体制のモデル化

 外国人児童生徒のための初期適応支援教室「いっぽ」(以下「いっぽ」教室とする)、センター校(7校)を設置し、日本語指導員や母語が分かる支援員(以下「母語スタッフ」とする)を派遣し、受入体制の充実を図った。センター校での具体的な取組として、JSLカリキュラム公開授業・研究会議、「ぼくとわたしのフォトストーリーづくり」、日本語指導法講座、多文化理解の授業等を行った。

<3>日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

 「外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修」に参加した教職員からDLAについての報告を行い、日本語能力測定方法の理念や実施方法等についての学習会を実施した。

<4>「特別の教育課程」による日本語指導の実施

 外国人児童生徒教育ネットワーク会議で個別の指導計画」実践事例集を活用した研修会を実施し、「個票」及「個別の指導計画」の作成について周知した。

<5>学力保障・進路指導

 学力保障の取組としてJSLカリキュラム公開授業・研究会議(2校)、進路保障の取組として進路ガイダンス、松阪地区中高関係者情報交流会等を実施した。

<6>日本語指導ができる、又は児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

 「いっぽ」教室、就学前支援教室「ふたば」(以下「ふたば」教室とする)に日本語指導員を配置し、日本語指導の充実を図った。また、「いっぽ」教室、「ふたば」教室、日本語指導が必要な外国人児童生徒が在籍する小中学校へ母語スタッフを派遣し、学習支援や適応支援、翻訳、保護者との連絡等において支援を行った。

<7>小学校入学前の幼児や保護者を対象としたプレスクール

 来年度小学校へ入学する外国人幼児を対象に、日本語の学習支援、小学校の規律等の適応支援を行った。また、保護者には、日本で小学校生活を送るために必要な情報を提供した。

<9>成果の普及

 第3回外国人児童生徒教育ネットワーク会議でセンター校の具体的な取組(多文化共生教育、日本語指導・教科指導等)について発表・交流を行った。

3.成果と課題

<1>運営協議会・連絡協議会の実施

<成果>
 ネットワーク会議では、センター校での学力向上や多文化共生教育の取組についての発表・交流を通して具体的な取組を市内全体に広めることができた。担当者会議では、各校の取組や現状を情報共有し、その中で中学校の様子を聞くことで、小学校においてつけておくべき基本的な生活習慣や日本語の力(特に書くこと)について意識しながら日々の教育活動を進めることができた。

<課題>
 学校では若い教職員が増えている。外国人児童生徒教育担当者も異動等で入れ替わっていく中で、これまでの取組を継続していけるよう会議の内容についてより効果的なものを考えていく必要がある。また、他地域での取組や使用している教材等の情報を共有しながら、各学校で活用することのできる共通教材の作成を進めていく必要がある。

<2>拠点校等の設置等による指導体制のモデル化

<成果>
 母語スタッフを学校に派遣することで、児童生徒が安心して学習に取り組むことができた。また、家庭訪問、懇談、学校からの通訳等を通して、学校と家庭の連携を図ることができた。フォトストーリーづくりの活動を通して、参加した児童生徒が両親への感謝の気持ちを持つことができ、学校とは違った一面も見ることができた。さらに、作成したフォトストーリーを学校の多文化共生の集会で紹介することで自己肯定感を高めることやなかまづくりにもつながった。日本語指導法講座は、「いっぽから学校へつなぐ日本語指導法講座」というテーマで全6回実施した。「いっぽ」教室関係者は、学校での教科指導を意識した日本語指導法を、学校教職員は、教科指導の中での日本語指導の大切さを学ぶことができた。

<課題>
 「いっぽ」教室で、小学校低学年の児童で日本語がなかなか入りにくい状況がある。また、日本語指導が必要な外国人児童生徒の中には、学習内容がなかなか定着しない児童生徒もいる。それが生活習慣上の違いによるものなのか、日本語の習得の遅れによるものなのか、発達障がいによるものなのかが分かりにくい状況がある。担任、外国人児童生徒教育担当者、特別支援教育担当者が連携・協力して当該児童生徒の状況や課題を共有し、その上で、必要な支援の在り方について考えていく必要がある。

<3>日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

<成果>
 外国人児童生徒教育担当者会議でDLAの報告を行うことで、測定のための教材の準備や測定方法についての共通理解を図り、その後各校で測定を実施し、実際の効果的な測定について意見交流することができた。

<課題>
 外国人児童生徒が多く在籍している学校では、一人ひとりに測定を実施するには時間的にも難しい。より現場に即した効果的な活用について、今後も研修を積んでいく必要がある。

<4>「特別の教育課程」による日本語指導の実施

<成果>
 ネットワーク会議で「個別の指導計画」実践事例集を活用しながら、実際の指導計画・指導内容について市内の全担当者に研修することができた。

<課題>
 「個別の指導計画」は、児童生徒の学習支援に欠かすことのできないものであるが、作成にかかる教員の負担も大きい。記入方法や内容の精選など検討を重ねていく必要がある。

<5>学力保障・進路指導

<成果>
 今年度もJSL公開授業をセンター2校で行うことができたので、各校でのJSLカリキュラムを活用した授業づくりを進める上で参考にすることができた。進路ガイダンスは、入試制度や高校生活等について、通訳を介しながら詳しく説明され分かりやすかった。大学や高校に通う先輩から直接話を聞くことができ、将来へのロールモデルとなっていた。

<課題>
 進路ガイダンスについては、早い段階から将来に向けての見通しを持ってもらうため、小学生及び保護者の参加が増えるよう、より目的意識を持って参加してもらえるような工夫をしていく必要がある。また、今後中高の連携を進める意味でも高等学校の日本語公開授業等にも参加していく必要がある。

<6>日本語指導ができる、又は児童生徒の母語が分かる支援員の配置

<成果>
 学校、「いっぽ」教室、「ふたば」教室に母語スタッフを派遣することで、外国人児童生徒が前向きに学習に取り組むことができた。また、児童生徒だけでなく保護者にも母語での支援を行うことで学校と家庭の連携が高まった。高校生活入門講座等(3校)へ母語スタッフを派遣し、7人の児童生徒の通訳支援をすることができた。高等学校の説明を直接聞くことで、進路に向けて意識が高まった。

<課題>
 外国人児童生徒の増加にともなって、学校での母語スタッフの需要も高まっている。食物アレルギー等の健康安全面や進路指導面、生徒指導面において十分な支援が行えるよう、効果的な母語スタッフの配置について今後も検討していかなければならない。また今年度、ベトナム、インドネシアからの来日があった。今後、少数言語の国からの来日も予想されるため、通訳スタッフの確保も考えていかなければならない。

<7>小学校入学前の幼児や保護者を対象としたプレスクール

<成果>
 外国人幼児への学習支援、適応支援だけでなく、保護者にも入学にあたって必要な学用品、入学式、一年間の行事等の説明を行い、小学校へのスムーズな移行のための支援をすることができた。

<課題>
 「ふたば」教室に通級していた幼児は、「いっぽ」教室に入級しないことを原則としているが、小学校入学後の学習状況等により個々に応じた対応も今後考えていく必要がある。

<9>成果の普及

<成果>
 センター校の具体的な取組を市内全小中学校に発信することができた。外国人児童生徒の在籍が少ない、または在籍しない学校でも今後も受入体制の参考にすることができた。

<課題>
 今後、外国人児童生徒の増加が予想される中、ネットワーク会議だけでなくさまざまな場で、取組の発信・交流を行っていなかければならない。

4.その他(今後の取組予定等)

  • 日本語指導法の研修を深め、教科学習の理解につなげていく。また、「JSLカリキュラム(教科指導型日本語指導)に基づくわかりやすい授業づくり」の教育実践と研究をさらに進めていく。
  • すべての小中学校でアイデンティティの確立をめざして多文化共生の教育をさらに進めていく。
  • 外国人児童生徒の増加にともなって、母語スタッフの充実とより効果的な配置について検討していく。

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