平成30年度「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(津市)

平成30年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

【日本語教育担当者会議】87名

 市内各小中学校・義務教育学校の担当教員77名、津市外国人児童生徒通訳等巡回担当員8名、教育委員会事務局人権教育課担当2名

【就学ガイダンス実行委員会】10名

 三重大学教員1名(アドバイザー)、多文化共生に関係する市民活動団体3名、市行政関係各課担当者6名(市民交流課多文化共生担当1名・子育て推進課保育担当1名・学校教育課学務担当1名・教育委員会人権教育課3名)

【進学ガイダンス実行委員会】13名

 小学校長1名、中学校長1名、中学校教員3名、県教育委員会3名(人権教育課1名・高校教育課1名・小中学校教育課1名)、市行政関係各課担当者5名(市民交流課多文化共生担当1名・教育研究支援課進路担当1名・人権教育課3名)

2.具体の取組内容

(2)拠点校の配置等による指導体制のモデル化

 初期日本語指導教室「きずな」を実施し、入学・編入学後の日本語を母語としない子どもに対し、日本の学校への適応指導や基本的な生活言語指導を行った。また今年度より副教室長を配置し、「きずな」に通えない児童生徒が在籍する学校に開設した「移動きずな教室」を教室長や副教室長が巡回し、初期日本語指導のさらなる充実を図った。
 さらに、津市版の初期日本語指導カリキュラムの指導を通して、教室長を中心に市巡回担当員や日本語指導ボランティアと何度もミーティングを行い、カリキュラムの再検討や既存教材の見直しを進めた。
 日本語教育担当者会議の内容に「きずな」の見学や、初期日本語指導カリキュラムに基づいた指 導法の体験を位置づけ、その有効性を確かめる機会を持った。

(3)日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

 今年度も日本語指導が必要な外国につながる児童生徒が在籍する小中学校・義務教育学校48校で津市版日本語能力把握スケールをもとに日本語能力判定会議を実施した。在籍する子どもたちの日本語能力のレベルを判定・把握するとともに、学校や家庭での生活状況などを共有し、日常生活や授業の中でどのような支援が必要かを話し合った。
 また、日本語教育担当者会議を構成する学校を4つのグループに分け、各グループ内で「日本語能力判定会議」と「JSLカリキュラムに係る授業」の公開を研修として位置づけ、外国につながる児童生徒への学びを支える支援のあり方について学び合う機会をもった。

  • 【日本語能力判定会議】小学校3校・中学校1校
  • 【JSLカリキュラムに係る授業】小学校2校・中学校1校

 さらに、日本語教育担当者会議でDLAを活用した実践について共有化し、有効な活用について検討するとともにその周知を図った。特に転入時における児童生徒の日本語能力を把握する上での活用を広めた。

(4)「特別の教育課程」による日本語指導の実施

 初期日本語教室「きずな」「移動きずな教室」に入級した児童生徒について、「特別の教育課程」を編成し日本語指導を実施した。
 「特別の教育課程」の編成について、市内全ての園・学校長を対象とした施策説明会や日本語教育担当者会議で周知を図った。また転入時には在籍校に周知・説明を行った。在籍校での取り出し授業における「特別の教育課程」の編成をすすめるため、先進して取り組んでいる自治体や学校を視察した。

(6)学力保障・進路保障

 「学校へ行こう!in津市 高校進学ガイダンス」、 津市内に転入してきた保護者に対する「転入学ガイダンス」、中学生を対象にした「大学見学ツアー」を実施した。
 また、学校教育課と学籍に関する情報を共有し、不就学に関する家庭訪問を、随時行った。

  • 【高校進学ガイダンス】
     第1回 7月7日 津工業高等学校を会場にして、高校紹介(参加者数94名)
     第2回 9月30日 高校入試・高校紹介・高校別相談ブースの設置(参加予定者数154名)
     →台風に伴う暴風警報が発令されていたため、中止。参加予定者に「高校資料(津市・鈴鹿市の高校)」「奨学金等のチラシ」「高校進学ガイドブック2019」を配布。
  • 【転入学ガイダンス】7月・9月・12月・2月の4回、(総参加家族5組)
  • 【大学見学ツアー】 8月8日 三重大学(参加人数28名)
  • 【不就学に関する家庭訪問】
     住民登録後、就学手続きのなかった22名(平成31年2月15日現在)について確認のための家庭訪問を実施。
(6)日本語指導ができる、または児童生徒等の母語が分かる支援員の派遣

 日本語指導の支援として、日本語指導が必要な児童生徒の在籍が多い3校(小1中2校)に支援協力員を派遣し、教科の一斉授業へつなげる学習支援を行った。
 また、「移動きずな教室」での日本語指導ボランティアは、初期日本語教室「きずな」において日本語指導を重ねたボランティアの中から派遣した(16校)。
 日本語が全くわからない状態で転入した、園児・児童生徒への初期適応指導として、可能な限り転入時から2週間程度、母語支援協力員の派遣を行った。家庭訪問・懇談会・進路指導等の保護者通訳、就学・進学・転入学ガイダンス、不就学調査等における通訳としても、母語支援協力員の派遣を行った。

  • 【転入生への母語支援】タガログ語・ビサイア語・中国語・ポルトガル語・英語・ベトナム語
  • 【保護者への母語通訳】ポルトガル語・スペイン語・中国語・韓国語・タイ語・英語・ベトナム語
  • 【ガイダンス等での通訳】ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・中国語・ベトナム語・英語
(7)小学校入学前の幼児や保護者を対象とした取組

 外国につながる園児が通う幼稚園・保育園・こども園(13園)や関係機関(イスラム教会マスジド)での出前就学ダンスを実施した。また、小学校を会場にした就学ガイダンスを実施した(10月27日 高茶屋小学校)。

(9)成果の普及

 就学・進学ガイダンス実行委員会で、外国人住民と関わる行政各課や多文化共生に関わる市民活動団体、学校関係者と情報を共有した。
 進学ガイダンスの様子や、成果の1つである外国につながる子どもたちの高校進学率について校長会や進路担当者会、さらには高等学校長会とも共有を図った。また、年3回行う日本語教育担当者会議でも取組状況について情報共有した。
 日本語指導ボランティア養成講座のオリエンテーションや、関係機関の研修の機会等に津市の取組を発信した。

3.成果と課題

(2)拠点校の配置等による指導体制のモデル化(初期日本語指導教室の設置)

 今年度は初期日本語教室「きずな」に18名、在籍校での「移動きずな教室」に41名が通室した(平成31年2月15日現在)。「移動きずな教室」を多い時には同時に11校で開設し、「きずな」「移動きずな教室」合わせて30名が通室している状況もあったが、そのような場合でもマンツーマンでの支援体制がとれたことは大きな成果である。
 「きずな」で関わっている期間中、常時、学校との情報共有に努めているが、今年度はスタッフと学校の管理職・担任・日本語教育担当者が会して「情報交換会」という機会も設定した。その中で、日本語指導カリキュラムを活用した指導の効果の確認や、個々の児童生徒の状況に合わせた継続した指導のあり方を検討できた。(小学校2校・中学校1校計6回)
 広域である本市において、居住が分散傾向にある外国につながる子どもたちが、どこの学校に在籍することになっても、初期日本語指導を受けることができるよう、ボランティアの新たな人材確保は引き続き必要である。
 学校と情報交換する中で、小学校1年生への新入学児についてはカリキュラムについて特別に編成し、効率的に日本語指導を進めた上で、早く学校に戻すことを優先していくことが必要ではないかという提案を受け、「4月新入学生対応カリキュラム」を編成し、来年度試行していきたい。

(3)日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

 今年度も在籍校で日本語能力判定会議を実施し、日本語指導を必要とする児童生徒の日本語能力や生活の捉えがより具体的になってきた。また複数の教職員の視点で児童生徒を見ることで具体的な課題が明らかにされることも増えてきた。
 DLAの活用については、転入時の児童生徒の日本語能力を把握する場面での活用を進めた。
 来年度も日本語指導が必要な児童生徒が在籍する全ての学校において、日本語能力判定会議を実施していく。判定会議の経験が少ない教職員がまだまだ多い中、判定会議の意義を実感できるように工夫していく必要がある。また、判定会議で見えてきた児童生徒の課題に対して、どのような支援をどのような体制で計画的に実施していくかについては、具体性に欠けることもある。今後、「特別の教育課程」編成を進めていく上でも、日本語能力判定会議では児童生徒の日本語能力の把握だけでなく、中長期的な見通しをもった計画や支援、変容の確認、指導に対する評価を明らかにできるような持ち方に迫っていく必要がある。
 さらに、「最終的に子どもたちが学ぶべき場所は学級であり、一斉授業の中」であることを浸透させ、「児童生徒に一斉授業の中で力をつけていくこと」「居場所づくりと進路保障をめざしていくこと」「児童生徒に関わる全ての教職員が日本語の先生であること」等も、合わせて考え合っていきたい。 

(4)「特別の教育課程」による日本語指導の実施

 初期日本語指導教室「きずな」及び「移動きずな教室」においては、これまでも津市初期日本語指導カリキュラムを基に指導者が学習目標を明確に持ち、系統的・継続的に指導してきたが、「特別の教育課程」の導入により、これまで以上に学校と密に子どもたちの学習状況の共有化と検証を行い、学期ごと及び卒室時の評価につなげることができた。これまでも卒室する際には、在籍校へ該当児童生徒の日本語の習得状況の引継ぎ、卒室後の指導の計画についても連携してきたが、卒室時の「情報交換会」を定例化することにより、初期日本語指導修了後、国際教室での取り出し授業や一斉授業へつないでいくための取組について具体的かつ明確にしていきたい。
 また、高校で学び続けるだけの学習言語を身につけさせるためには、初期日本語指導修了後、国際教室や一斉授業での工夫等が求められる。今後、各校での取り出し授業での「特別の教育課程」の編成・実施を推進することと合わせて、支援方法の開発をすすめ、学校に具体的に提示していきたい。

(5)学力保障・進路指導

 高校進学ガイダンスや大学見学ツアーを実施することにより、実際の日本の高校や大学を見学したり、高校の先生や大学生の話を聞いたりすることを通して、保護者や子どもたちが日本の高校や大学のイメージを具体的に持ち、進学に対する意識を高めることができた。また保護者の思いを聞いたり、子どもの教育について考え合ったりする機会にもなった。
 さらにガイダンスの実行委員会では、外国につながる子どもたちの教育保障や進路保障についての課題、社会情勢など、様々な面について情報共有することができた。
 不就学に関しては今年度も他課と連携し情報共有を図るとともに、家庭訪問を行い、市内の外国につながる子どもたちの不就学0をめざしてきた。
 日本の学校を経験していない保護者にとっては、高校や大学等、子どもの進学に対して具体的なイメージを持つことが難しい現実がみえてきた。また、保護者や生徒が高校進学に対して強い思いを持っていたり、心配な思いを持っていたりする。今後もそのような保護者の不安を払拭し、進路に対する展望をもてるような取組にしていきたい。そのために必要な人に必要な情報が届けられるよう、学校との連携もさらに図っていきたい。
 なお、高校進学率は93.4%と、調査を開始した10年前の57.1%と比べると、約36%アップしている。今後は高校中退率にもこだわり、高校で学び続けられる力をつけていくための取組について研究を進めていきたい。

(6)日本語指導ができる、又は児童生徒等の母語がわかる支援員の派遣

 初期日本語指導を修了した児童生徒の教科学習補助として、個別指導や一斉授業で支援ができた。
 日本語指導ボランティアの登録者数が80名となり、在籍校での「移動きずな教室」で指導にあたれるボランティアの量的・質的な充実もできつつある。「移動きずな教室」においても、原則としてマンツーマンでの日本語指導を行い、きめ細やかに効率的に、効果的な初期日本語指導を行うことができた。しかし広域な本市の状況を考えると、日本語指導ボランティアの新たな人材の確保やその養成をさらに進めていく必要がある。
 母語支援協力員の存在は子どもや保護者に安心感を与えるという意味で大きな効果があった。保護者に対する学校内や家庭訪問での通訳についても、トラブル対応や進路選択など、繊細な内容で確実に伝えることや思いを聞き取ることが必要な場面では、通訳の派遣は有効であった。
 津市内に在籍する児童生徒の言語は、22言語と多言語化の傾向にある。必要な時に適した支援ができるよう、大学や国際交流協会等の協力を求めていくとともに、今年度から始めた市広報での呼びかけを続け、学生や市民ボランティアを発掘し、母語支援協力員の拡充を図りたい。
 全く日本語がわからない状態の児童生徒が安心して日本の学校に入れるために、母語通訳のできる支援協力員の存在は大きいが、教職員が母語が通じないと子どもとつながれないとの意識に陥らないようにしたい。また、学校が直接保護者に働きかけることが保護者とのつながりをより深められる場合もあることから、その機会を奪うことにならないように配慮しながら、学校がすべきこと、教育委員会が支援することを整理していくとともに、「やさしい日本語」についてもさらに周知していく必要がある。

(7)小学校入学前の幼児や保護者を対象とした取組

 保育園や幼稚園、子ども園と連携し実施した出前就学ガイダンスでは、保護者に対して直接情報を届け、保護者が心配していることを聞いたり、子ども達の教育について考え合ったりできた。参加した保護者からは「日本の学校のことが聞けてよかった。」「入学式の服装や持ち物など、自分の国とは違うので、説明を聞いたり、実物や写真を見せてもらえたりして、ありがたい。」等の評価と感謝の言葉をいただいた。また、「自分の子どもだけがひらがなが書けないで入学するが大丈夫だろうか」等、心配に思っていることを直接聞くことができた。
 さらに小学校を会場にした就学ガイダンスでは、実際に小学校の施設を教職員の説明を聞きながら見学することを通して、保護者や子どもたちの初めての日本の学校に対する不安を払拭し、期待を膨らませることにつながった。日本の学校を経験してない保護者にとって子どもを日本の小学校に入学させることは、想像していた以上に不安があることを感じさせられた。今後も保育園・幼稚園・子ども園の協力を得ながら、必要な人に情報を届けられるよう取り組みをさらに進め、保護者や子どもの不安を払拭するとともに、不就学を防ぎたい。

(9)成果の普及

 関係機関や高校・大学関係者・一般市民、各行政各課と連携することで、津市の取組を知ってもらうという一方的な普及にとどまらず、外国につながる子ども達の教育保障や進路保障についての課題、保護者の教育に対する考え方や価値観、就労を含めた生活状況等、学校や教育行政の立場ではなかなか見えてこない課題や社会情勢など、様々な面についても知ることができた。また取組を普及することにより、関係各課や市民団体との連携や、より具体的な支援が可能になった。
 広報誌、ホームページ等で初期日本語教室「きずな」の取組を積極的に発信することにより、日本語指導ボランティアの拡大にもつながり、新規登録者を開拓し、昨年を超える登録数となった。(2月15日現在80名)
 今後も様々な機会をとらえ普及に努め、ともに外国につながる子どもの教育保障や進路保障についての課題を、ともに考え合っていけるよう、連携を図りたい。

4.その他(今後の取組予定等)

 外国につながる児童生徒のおかれている現状やそこから見えてくる課題を、就学・進学ガイダンスや日本語教育担当者会など様々な機会を通じて、市教育委員会、学校、関係機関等それぞれの立場において共有化を図り、具体的な支援につなげていきたい。そして、津市内のどこの学校に在籍することになっても、保護者も子どもも安心して学校に通える状況をつくるとともに、子どもたちの進路保障を目指した取組を今後もさらに進めていきたい。

お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

電話番号:03-6734-2035