平成31年度「帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(浜松市)

平成31年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

事業の実施体制

2.具体の取組内容 

1)運営協議会・連絡協議会の実施

外国人児童生徒等教育に係りのある委員15人で構成し、年間3回(5月 8月 2月)開催した。

  • ア:中学校年齢で編入した生徒への初期日本語指導センター校方式について意見交換を行った。
  • イ:子供の学力や日本語能力等に応じた柔軟な受け入れ体制について意見交換を行った。
  • ウ:今年度から実施した新入学1年生のための「プレスクール」について、経過報告を行った。
  • エ:学校現場で多言語化に対応するため「やさしい日本語」の取り組みを進めるための方策について意見交換を行った。
  • オ:入管法改正 受け入れの手引き改定に伴い、現状と改定点などに対し有識者からのヒアリングを行った。

(2)拠点校の配置等による指導体制のモデル化 (必須実施項目)

昨年より開始した、日本語指導体制のさらなる充実を図った。初期適応指導→日本語基礎指導→日本語学習・支援の流れで支援者を派遣することを周知・徹底した。
指導者や支援者が、就学後3年で自律した学習が成立することを目標に指導し、外国人児童生徒が共生社会の一員として活躍できる人材として成長できるよう支援することができた。
集住している地域も散在している地域でも、浜松市内において同じ日本語指導体制がとれるよう支援者を配置・派遣した。
新1年生のためのプレスクールを実施した。(コロナウイルス蔓延防止のため8回実施予定のところ4回で中止)

(3)日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

  • ア:外国人児童生徒教育担当者と希望者を対象にDLA研修会を実施した。内容を「DLA測定ツールについて」「活用事例について」「結果を生かした指導について」とし、DLAで児童の日本語の能力をつかみ、支援にどのように生かすのか研修した。県外から講師を招き、活用事例の説明を受け活用の仕方についてイメージを持った。
  • イ:外国人児童生徒等が編入するときに、DLA「はじめの一歩」を行い、結果を学校と共有し指導に生かした。
  • ウ:学校の要請のもと市教委指導主事とバイリンガル相談員が、学校を訪問し、対象の子供のDLAを測定した。後日、学校や保護者に結果を伝えるとともに子供の日本語能力に応じた指導方法の提案を行った。

(4)「特別の教育課程」による日本語指導の実施 (必須実施項目)

  • ア:4月には各学校より、実施計画の提出があり、2月末には報告書の提出を義務付けている。指導主事が対象となる学校のうち市内小中学校7校を訪問し、授業参観、個別の指導計画への指導・助言を行った。
  • イ:外国人児童生徒教科指導員コーディネーターが教科指導員派遣校を訪問し、JSLカリキュラムによる授業の参観、特別の教育課程を編成した指導を実施するための目標の設定の仕方の指導助言を行った。
  • ウ:「特別の教育課程」を編成し、実施するための研修会を3回行った。1回目は外部講師による「特別の教育課程と個別の指導計画について」、2回目は授業研究と外部講師による指導助言、3回目は他市で先進的な取り組みをしている講師からJSLカリキュラムの概要説明を受け、参加者が指導案作りに取り組んだ。
  • エ:外国人児童生徒教科指導員対象の研修会を4回実施した。1回目は、「特別の教育課程と個別の指導計画作成について」2回目は、教科指導員による授業研究会、3回目は外部講師による「日本語指導と教科のつながり」、4回目も外部講師による「JSLカリキュラムの概要と教材研究」について研修した。

(5)学力保障・進路指導

  • ア:教科指導ができる人材に委嘱し、進学を目指す中学生の個別学習の支援のための通級型教室を市内2か所で年間59回実施した。
  • イ:浜松市で進学・就職をすることを目指す児童生徒が、高等学校の先生の話や先輩の成功体験やこれまでの努力など「生きた情報」を聞くことにより、自身の進路について考える機会とするため、「進路について語る会」を開催した。
  • ウ:児童生徒や保護者に進路を考える際の道しるべとするため、外国人としての生き方や考え方の手本となるロールモデルを学校に派遣した。

(6)日本語指導ができる、又は児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

  • ア:外国人児童生徒等教科指導員の派遣を行った。小学校では、在籍学級の学習進度に合わせたJSLカリキュラムによる算数科の取り出し指導を行い、学習用語や算数科における日本語の表現の定着を図った。中学校では、担当者の免許教科を中心に学校や生徒の実態に応じて、JSLカリキュラムによる取り出し指導を実施した。
  • イ:初期適応指導が必要な外国人児童生徒に初期適応サポーター(16人)を派遣した。初期適応指導が必要な児童生徒106人のうち、62人の児童生徒を指導した。(他は就学支援員による指導)
  • ウ:市内小学校36校、中学校8校に、外国人児童生徒就学サポーター(21人)を派遣した。ポルトガル語スペイン語、フィリピノ語、英語、ベトナム語、中国語、インドネシア語に対応した。加配教員による取り出し指導の補助、入り込み支援、保護者宛文書の翻訳、面談通訳、母語による電話対応等を行った。
  • エ:教育総合支援センターにバイリンガル相談員(浜松市非常勤3人 委嘱者2人)バイリンガル協力員(委嘱者1人)を常駐させた。ポルトガル語、フィリピノ語、スペイン語、英語、中国語に対応し、就学ガイダンスにおける通訳、電話相談における母国語での対応、学校訪問による保護者面談時の通訳を行った。
  • オ:小中学校からの要請に応じ、就学促進員(委嘱者10人)を派遣した。ポルトガル語、フィリピノ語、インドネシア語、中国語、ベトナム語に対応した。

(10)ICTを活用した教育・支援【重点実施項目】

市内9校にタブレット端末を1台ずつ配置し、外国人児童生徒及び保護者に対し、母語での通訳支援と翻訳支援を行った。

(12)成果の普及 (必須実施項目)

  • ア:各種研修会や協議会での報告、他県市町からの視察の際や大学関係者などへの業務説明を行った。
  • イ:浜松市HPへ「外国人子供教育推進事業」を掲載している。
  • ウ:浜松市の外国人児童生徒の状況や支援事業が新聞へ掲載された。

(13) その他

  • ア:新任の日本語指導加配が、外国人児童生徒等に対する浜松市の支援事業の内容や校内での役割、日本語指導の体制作りについて学ぶための研修会を開催した。(2回)
  • イ:外国人児童生徒等への指導において必要な知識や技能を習得し、浜松市の外国人児童生徒等指導を推進するための資質向上を図るため、年間7回の外国人児童生徒指導リーダー研修を実施した。
  • ウ:バイリンガル支援者が、発達支援や進路に関わる場面などでの通訳や翻訳に対応できるよう、バイリンガル支援者のための資質向上研修を行った。(7回)
  • エ:入学前に準備しておくべきものや保護者の心構えを伝えるために、新入学児童保護者対象の入学準備ガイダンスを開催した。
     

3.成果と課題

(1) 運営協議会・連絡協議会の実施

ア 成果

日本語指導のシステム、受け入れについて学校と・保護者が共通理解をするためのリーフレット(多言語保護者版 教職員版)作成が決定した。
今後、増加することが予想される外国人児童生徒への持続可能な日本語指導体制のための初期日本語指導センター校実施ワーキンググループを立ち上げ、状況・課題などの洗い出しを進めていくことになった。
多言語化に対応するため、各学校の「やさしい日本語」への取り組みを推進していくこために来年度よりワーキンググループを立ち上げ、モデル校での普及と「学校版やさしい日本語の手引き」の作成を行う。

イ 課題

センター校実施に向けて、広域の浜松市において場所の選定に課題がある。学校のグローバル化に向けて、管理職の理解を得ることが必要である。

(2)拠点校の配置等による指導体制のモデル化 (必須実施項目)

ア 成果

市内どの地域の学校に編入しても、バイリンガル支援者による初期適応指導(サバイバル日本語)が編入後14日以内に受けられ、その後引き続いて5か月までに市内統一した内容の日本語基礎を終了することができた。それにより、できるだけ早い時期から教科内容と日本語指導の内容を切り離さずに指導することができた。昨年度より引き続き日本語指導体制を保持してきたので、システムが学校に理解されつつある。
児童生徒・指導者ともに目標を明確にしたので、自律に向けた学習を意識することができた。
日本語指導加配教員配置校はもちろん、未配置校でも「特別の教育課程」を編成した指導を実施することができた。昨年度と比較し「特別の教育課程」に対する取り組みが、64人増えた。
プレスクールを実施することにより(4回のみの実施であったが)、学校で必要な日本語や学校のルールを入学前に親子で身に付けることができた。

イ 課題

今後、増え続ける外国人児童生徒等に対し、日本語指導体制が持続できるよう初期日本語指導センター校(拠点校)実施を検討するなど研究する必要がある。

(3) 日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

ア 成果

参加者は、児童生徒の実態をより正確につかむことで、次の支援方法が見えてくることや伸び悩んでいる児童生徒の原因がどこにあるのか探るための方策としてDLAが有効であることが実感できた。
「はじめの一歩」を就学ガイダンスで行うことにより、日本の学校へ編入する児童生徒の日本語の能力を把握することができ、支援者派遣の目安としたり学校における支援者のコーディネートの参考としたりすることができた。
学校へ訪問しDLAを実施することにより、学校の子供理解が進み、指導方法を改善することができた。

イ 課題

学校からの依頼で「子供の日本語の能力の問題なのか、発達の問題なのか知りたい。」という言葉がよく聞かれた。DLAとは何か、どのようなことが分かるのか、どのような方法なのかという基本に立ち返って研修を進める必要がある。

(4) 「特別の教育課程」による日本語指導の実施 (必須実施項目)

ア 成果

「特別な教育課程」を編成のためのカリキュラムマネジメントについて理解し、児童生徒の実態に即した個別の指導計画の立案をすることができた。学校全体で「特別の教育課程」や「個別の指導計画」について協議を行うことで、「特別の教育課程」編成・実施に関する理解を深めることができた。個別の指導計画の実施や見直しにより、児童生徒の日本語能力に合った指導を行うことができた。外国人児童生徒教科指導員に対しても研修を行い、日本語指導加配が配置されていない学校においても「特別の教育課程」を編成した指導を実施することができた。授業研究を取り入れたことで、研修参加者がJSLカリキュラムによる授業の実際をイメージし、明日からの授業構想に生かすことができた。浜松市内の小中学校へ進学・転出した際に、個別の指導計画を引き継ぐ体制を整えることができた。

イ 課題

校内人事の関係で、毎年、指導者が半数ほど交代をする。引き続き、「特別の教育課程」について周知するための研修会を実施していく必要がある。

(5) 学力保障・進路指導

ア 成果

ステップアップクラスにおいては、指導者が日本語指導を必要とする子供に寄り添うことで、意欲的に学び、進んで質問したり学習したりする子供の姿が見られた。指導者が子供たちのよき理解者になり、子供たちも学校の教師以外の日本人の大人と接することで異文化理解につながった。
進路について語る会・ロールモデル派遣事業では、参加者が進路に関わる生きた情報を得ることができた。子供たちは、自分も努力すれば道が開かれることを実感し、保護者は、子供がつまずいたときにどのような言葉掛けをしたらよいのか知ることができた。

イ 課題

ステップアップクラスの希望者が非常に多く、定員20人×2か所のところ、開催当初は各会場25人名を超える希望者があった。各会場3人の指導者と大学生のボランティアとで担当しているが、子供たちのニーズに十分に応えることができない。指導者や大学生ボランティアの確保が難しい。ブラジル人以外のロールモデルとなる人材を発掘する必要がある。

(6) 日本語指導ができる、児童生徒等の母語が分かる支援員の派遣

ア 成果

教員免許を保持している外国人児童生徒教科指導員を配置することにより、「特別の教育課程」の編成・実施数が昨年と比較し、64人増加した。日本語と教科学習を統合したカリキュラムにより児童生徒の日本語力に合わせた指導ができた。
会話に支障がある児童への適応指導を早期に行うことができた。子供は安心して自分の思いを伝えられ、学校への適応を進めることができた。バイリンガル支援者による入り込み支援を実施することで、既習の学習内容を日本語で置き換えることができ、教科内容への理解が進んだ。
生徒指導や進路指導や発達関係など、経験や知識が必要とされる面談に対し、学校からの要請により相談員が学校訪問をすることで、誤解なく学校の思いを保護者に伝えたり、教育活動への理解を促したりすることができた。

イ 課題

外国人指導担当教員とサポーター等の支援者との情報交換や連絡調整を行う時間の確保が難しい。
バイリンガル人材の確保が難しい。今後増え続けることが予想され、多言語化する児童生徒への初期適応指導には限界がある。
様々な立場の支援者が学校に入っていくため、曜日により支援者の重なりがあった。

(10) ICTを活用した教育・支援【重点実施項目】

ア 成果

緊急性を要することにすぐに対応できた。外国人児童生徒散在地域でバイリンガル人材の派遣がない学校でもバイリンガル相談員による通訳支援を実施することができた。

イ 課題

タブレットを使用することよりも、センターに常駐している相談員に電話対応を依頼する学校が多かった。

(12) 成果の普及 (必須実施項目)

ア 成果

市民や連携している団体から本事業について理解を得ることができた。また、県外の団体や教育機関さらに民間の調査機関からの視察もあり、取り組みや成果を広く発信することができた。

イ 課題

浜松市の外国人児童生徒の数の多さから、浜松市だからできるという声があった。説明するときに、視察のあった市町や学校の手が届くところから取り組むような内容にしていくほうが良いと感じた。

(13)その他

ア 成果

初めて担当になる日本語指導加配教員が、担当としてすぐに必要となる業務について理解することができ、学校内での外国人支援体制の整備のための推進力となることができた。リーダー研修修了者とのOJTを実施し、相談体制を充実させることができた。
外国人児童生徒指導リーダー研修参加者は、定員10名の内訳が日本語指導加配3人と学級担任7人であった。学級担任が参加したことで、日本語指導担当者だけでなく、学校にいる職員全員が外国人児童生徒に関わる必要があることを学校に広める契機となった。また、参加者が外国人児童生徒等の状況に対し理解を深めることができ、担当としての専門性を高め、リーダーとなる教員の育成が促進された。
バイリンガル研修会では、進路や発達にかかわる相談にも対応できるようバイリンガル支援者のスキルアップを図ることができた。
入学準備ガイダンスでは、小学校入学に係る保護者の不安を解消し、スムーズな就学へとつなぐことができた。

イ 課題

    外国人指導は日本語・学習指導だけでなく、就学や学校生活などで様々な課題がある。外国人児童生徒等に係る指導者や支援者が、さらにスキルアップを図ることが必要である。

表

4.その他(今後の取組予定等)

  • (1)外国人児童生徒受け入れのためのリーフレット(保護者版・教職員版)作成
  • (2)中学生のための初期日本語指導センター校ワーキンググループ発足
  • (3)学校におけるやさしい日本語の普及と手引き作成のためのワーキンググループ発足

お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

電話番号:03-6734-2035