平成29年度 「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(姫路市)

平成29年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

 事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

2.具体の取組内容

(1)運営協議会・連絡協議会の実施

 大学教員及び姫路市教育委員会指導主事・姫路市内各学校の日本語指導担当教員・支援員等で構成する連絡協議会を3回開催した。

 [1]第1回姫路市帰国・外国人児童生徒受入促進事業連絡協議会 平成29年5月30日開催

  • 【参加者】
    • 大学教員1名 各校担当者等37名 支援員7名 指導主事等6名 観光交流局観光文化部文化国際課課長1名 姫路市文化国際交流財団国際交流担当2名
  • 【内容】
    • 事業説明
    • 演習 「日本語能力測定方法を活用した日本語指導」
    • 講演 「日本語指導の要素を取り入れた在籍学級での学習支援について」

 [2]連絡協議会にかかる東小研修会 平成29年8月24日開催(姫路市立東小学校)

  • 【参加者】 大学教員1名 東小職員20名 各校担当者等16名 支援員1名 指導主事等7名
  • 【内容】 10月23日の研究授業3年JSL算数科「何倍でしょう」の指導案検討

 [3]第2回姫路市帰国・外国人児童生徒受入促進事業連絡協議会 平成29年10月23日開催

  • 【参加者】
    • 大学教員1名 各校担当者等41名 支援員7名 指導主事等6名
  • 【内容】
    • 授業公開 3年 JSL算数科 「何倍でしょう」
    • 事後研修会及び指導助言

 [4]第3回姫路市帰国・外国人児童生徒受入促進事業連絡協議会 平成30年2月13日開催

  • 【参加者】 大学教員1名 各校担当者等 38名 支援員 9名 指導主事等 7名
  • 【内容】
    • 授業公開 2年 JSL国語科 「同じところ、ちがうところ」
    • 事後研修会及び指導助言
(3)日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施(必須実施項目)

 [1]日本語能力の測定方法としてDLAの他に、平成28年度の中央研修で報告のあった大阪府門真市立砂子小学校の取組の中で紹介されていた「日本語能力評価(JSL評価参照枠から抜粋)」を参考にして、姫路市版を作成した。こちらでの能力測定も可能とした。

 [2]これまで中央研修で学んできた教員が在籍している2校でDLAを本格的に実施した。

  • 小学1年生児童は日本生まれであるが、母親との会話がベトナム語である。JSL評価参照枠のステージは2である。そのため、いくつかの片仮名や平仮名を漢字で書くことを目標にし、取り出し指導を進めた。
  • 中学2年生生徒は来日して1年ほどになる。JSL評価参照枠のステージは3である。連文を使って、学習のことについて意味の通じる話をすることを目標にしてきた。そのために形容詞や動詞等の活用ができるような学習を行った。

 [3]個別の指導計画(様式2)に日本語能力を年度の初めと終わりに記入する欄を設け、2回実施することとした。

(4)「特別の教育課程」による日本語指導の実施(必須実施項目)

 [1]「特別の教育課程」編成にかかる説明会の実施
 平成29年4月13日に「特別の教育課程」編成連絡会を開催し、日本語指導の必要な児童生徒のための「特別の教育課程」編成について、年間の流れ等を詳しく説明し、「特別の教育課程」を編成し、個別の指導計画を作成することを依頼した。また、平成29年5月30日 第1回姫路市帰国・外国人児童生徒受入促進事業連絡協議会にて、取り出し指導を行う場合には、「特別の教育課程」を編成し、個別の指導計画を作成することが必要であることを説明し、依頼した。

 [2]4月~3月「特別の教育課程」による日本語指導の実施(各校)

 [3]4月~6月「特別の教育課程編成・実施計画」の作成・提出(学校より)

 [4]5月、7月、12~2月 市教委による訪問にて取り出し指導や対象児童生徒の様子を把握

 [5]今年度の「特別の教育課程編成・実施報告」及び来年度の「特別の教育課程編成・実施計画」の提出(学校より)

(6)児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

 [1]バイリンガル支援員(スタディサポーター29(のべ51)名・通訳21名)の派遣
 日本語指導が必要な児童生徒の在籍する幼・小・中・特別支援学校等に、母語と日本語が話せるバイリンガル支援員(スタディサポーター)・バイリンガル支援員(通訳)を配置・派遣し、日本語指導の補助や学校との連絡調整を行った。コミュニケーションの円滑化を図ることにより、児童生徒及び保護者の心の安定を図った。

 [2]バイリンガル支援員(就学促進員)の派遣
 平成18年度以降実施している就学状況調査の手法を踏襲し、学校や関係機関等と連携し、外国人の子供の就学状況調査を行った。不就学の生徒がいる件が1件あったが、父親と日本語が通じたため、バイリンガル支援員(就学促進員)の派遣はなかった。

(9)成果の普及(必須実施項目)

 3月:市のウェブサイトに実践の概要と成果の発信を行った。

3.成果と課題

(1)運営協議会・連絡協議会の実施

(成果)
 [1]第1回連絡協議会では、本市における日本語指導が必要な児童生徒の受入体制及び日本語能力測定方法(DLA)の概要及び活用方法について説明を行った。また、今年度は「特別の教育課程」の編成と個別の指導計画の作成方法についても説明した。次に前年度の日本語指導研究推進校の日本語指導担当教師によるDLAの演習をしていただいた。さらに、大学教員から、日本語指導の要素を取り入れた在籍学級での学習支援について講義をしていただいた。在籍学級での学習支援を行うにあたり、「教科の目標」とは別に「日本語の目標」を設定することの必要性等を話していただいた。今年度初めて日本語指導担当になった教員や日本語指導が必要な児童生徒の担任になった教員も多く、参加者の感想には「本市における支援体制や支援員の活用方法について理解することができた。」「DLAを活用し、児童の実態をより正確に理解し、指導へとつなげたい。」「担任に任せるだけでなく、校内の連携体制作りが大切であることが分かった。」「支援員との連携をもっと密にし、今後指導していく上で参考になった。」などがあり、指導・支援のポイント等数多く得ることができた協議会となった。

 [2]連絡協議会にかかる研修として、夏休み中に第2回連絡協議会の公開授業の学習指導案の検討を行った。「指導案検討の段階で研修できたことは有意義であった。」という感想が多くあった。

 [3]第2回連絡協議会では、在籍学級で小学3年生のJSL算数科「何倍でしょう」の授業公開を行った。公開授業には多くの参観者があり、授業後の参加者の感想に「日本語指導の必要な児童が分かる授業は、すべての児童が分かる授業である。」や「重要となる語句が強調されており、児童の頭に残ると思う。持ち帰って授業に生かしていきたいと思う。」などがあり、これからの参観者の授業実践に役立つ公開授業となった。

 [4]第3回連絡協議会では、取り出し教室で小学2年生のJSL国語科「同じところ、ちがうところ」の授業公開を行った。公開授業には取り出しの児童一人に対して多くの参観者がある中であったが、児童はよくがんばっていた。授業後の参観者の感想には、「この授業を見ることで、短い言葉で伝えることが大切であることがよくわかった。」や「指導の積み重ねがよくわかる授業であった。」などがあり、取り出し指導だけでなく、在籍学級での授業実践にも役立つ公開授業となった。

(課題)
 学校内での受入及び研修体制をより充実させ、日本語指導担当や担任のみならず、学校全体で日本語指導が必要な児童生徒に関わり、情報を共有する体制づくりが必要である。また、協議会等で各校担当者等の定期的な意見交換が不可欠であり、日本語指導が必要な児童生徒を長年受け入れている学校の取組を聞いたり、各校における悩みや課題を共有したりする機会を継続的に設定していきたい。さらに公開授業も取り入れながら、学校間での効果的な学習教材や指導・支援方法等の情報を共有できるような連携を視野にいれ今後も年3回程度の実施していきたい。今年度は、講師を4回招聘し、公開授業後、「在籍学級における教科指導型日本語指導」についてお話をしていただいたが、参加者からは、「もっとお話が聞きたい。」という感想が多かった。今年度もこれまで日本語指導を必要とする児童生徒が在籍していなかった学校に対象児童生徒が編入してきたケースが6校もあり、来年度も新1年生として入学してくることが分かっている学校が数校ある。そのため、初めて日本語指導担当になる教員や日本語指導が必要な児童生徒の担任になる教員も多いことが予想される。来年度も、講師を3回程度招聘し、研修を進めることで、姫路市内の帰国・外国人児童生徒等への教育の充実を図っていきたい。
 また、初期指導など特別な日本語指導が必要な児童生徒には目が行きがちであるが、生活言語には不自由しないが家庭での言語が母語である等の理由で学習言語が身についていない児童生徒を把握する必要性がある。そして、その児童生徒に対する在籍学級での日本語と教科の統合学習の方法の1つである教科指導型日本語指導について、広く研修していく必要がある。

(3)日本語能力測定方法の活用 (必須実施項目)

(成果)
 [1]「日本語能力評価(JSL評価参照枠から抜粋)」姫路市版を利用することにより、DLAが実施できない学校でも、日本語能力の評価を行うことができた。
 [2]日本語能力の測定により、児童生徒の課題をはっきりさせ、指導することでできることが増えてきた。

  • 小学1年生児童は、カードを使ったカルタ取りをすることで片仮名を書くことができるようになった。
  • 中学2年生生徒は、質問に対して意味の通じる答え方ができるようになり、さらに自分から尋ねたり、積極的に話したりできるようになってきた。

 [3]日本語能力を2度測定することにより、児童生徒の伸びを見ることができる場合があった。(特に滞日期間が長い場合)

(課題)

  • 日本語能力の把握と指導計画の一体化をさらに進め、日本語指導におけるRPDCAサイクルの確立を目指す必要がある。
    • R(Research)…日本語能力の把握、個別の指導計画(様式1)により児童生徒の実態(年齢、入国年齢、滞日期間、母語力等)を把握する
    • P(Plan)………日本語指導の計画をたてる
    • D(Do)………特別の教育課程による日本語指導を行う
    • C(Check)……2回目の日本語能力の把握により、日本語指導の評価を行う
    • A(Action)……日本語指導の改善、見直しを行う
  • DLAのステージだけで見ると伸びがわからないので、児童生徒の「伸びの可視化」を考える必要がある。
(4)「特別の教育課程」による日本語指導の実施(必須実施項目)

(成果)

  • 少人数での説明会を行うことで、『個別の指導計画を作成しているため、学校内で日本語指導担当者や学級担任がかわっても、支援方法等について引き継ぎをしやすい。小学校から中学校への進学、または他校へ転入する場合に、対象児童生徒の学習歴や支援状況を把握することができる』など、「特別の教育課程」を編成する意義を共通理解することができた。また、「特別の教育課程編成・実施計画」や個別の指導計画を作成するときのポイントを伝えることができた。「特別の教育課程」編成、個別の指導計画(様式1・2)とも、文部科学省作成の様式及び記入例を参考に、今年度の姫路市用に変更して提示したため、各校担当者とも記入例を参考に作成することができた。大きく変更したところは、個別の指導計画(様式2)に年度の初めと終わりの日本語能力を記入する部分を追加したところである。これにより児童生徒の日本語の伸びを把握しやすくなった。

(課題)

  • 別室指導を行っている日本語指導が必要な児童生徒が多数在籍する学校では、個別の指導計画を児童生徒数分作成しなければならないため、教師の負担が大きい。
(6)児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

(成果)

  • 学校生活のきまりや、日本人の習慣、日本の文化や母国の文化との違い等を伝えてくれたので、日本の理解が深まった。
  • 在留期間の短い児童にとって支援員が心の拠り所になり、母語での会話を通して、心配なことや分からないこと、悩み等の相談に乗り、心の安定を図ることができた。
  • 学習言語や学習内容の母語での支援により、授業内容が少しずつ理解できるようになり、それに伴って、自分から発表したり、家庭学習に積極的に取り組んだりできるようになった。
  • 日本語理解が十分でない児童生徒には、教科書や参考図書を翻訳し、児童生徒が理解できる言語で学習を進めることができた。また、難しい日本語の意味を母語で説明することで、学習への意欲が持続し日本語での理解が深まった。
  • 友達との関わりを支援してもらい、トラブルなく過ごすことができた。
  • 休み時間も一緒に過ごし、遊びや他の児童と関わるときのルールを教えてくれたので、児童は集団生活にずいぶん慣れることができた。
  • 児童生徒の問題行動に対して、母語での対応や家庭への連絡をスムーズに行うことができ、早期解決が図れた。
  • 保護者会や進路相談時に、日本語の理解が十分でない保護者への通訳を行うことで担任と生徒及び保護者間の意思疎通に大いに役立った。
  • 懇談時の通訳や通知表を含む配付物の翻訳等、必要に応じて細かなことまで伝えることができ、保護者は児童の様子を正しく理解でき、学校への不安を減らすことができ、信頼関係を深められた。
  • 学年便りや学校行事、学校便りのプリント等、保護者に伝えることを翻訳したり、電話や家庭訪問などでの通訳をしたりして、学校と保護者をつなぐ重要な役割を果たした。
  • 周りの児童が対象児童の母国の生活や文化に興味をもった結果、本人の意欲の向上にもつながった。
  • 支援員と児童との母語での会話が周りの児童へのよい刺激になった。

(課題)

  • 外国籍児童が多数在籍する学校では、指導や支援に当たる人材が多いほど、確実にきめ細かな対応が可能になるため、今後も支援員の配置が必要である。
  • 学年が上がるにつれて、教科や学習内容が増えるため、習得が追いつかず学力の積み上げが難しくなってきている児童生徒が増えている。また、文字は読めるが、内容を把握したり意見や考えを書いたりする力が弱いといった学習言語が身についていない児童生徒も多い。日本語指導担当や学級担任だけでなく、学校職員全体で取り組む必要がある。
  • 同室指導において、授業の内容を理解できていない状態であるにも関わらず、支援員に翻訳してもらったり通訳してもらったりすることを「特別扱いされている」と感じ、支援員の配置を嫌がる児童生徒がいる。保護者を含め、話し合う必要がある。
  • 在留期間に関係なく、保護者も含め継続した母語支援が必要である。
  • 日本生まれで母語が理解できない外国人児童生徒は、母語しか話せない保護者と意思疎通ができにくくなっている。外国人児童生徒の母語理解も必要である。
  • 母文化の継承のために、文化交流にも貢献してもらったが、ますます積極的に活動を依頼して、多文化共生教育を推進していきたい。
  • 日本人児童生徒と外国人児童生徒がよりよく共生できる学校にするため、支援員の体験や経験を教員や児童が聞く場を設定し、多文化共生教育の推進に努める必要がある。
  • 対象児童生徒の編入が散在傾向にあるため、多くの学校に派遣する必要があり、現在の予算では、1校あたりの派遣回数が充分でないのが現状である。
  • 支援回数が多いほど学習効果が高い。予算が限られているので、少ない回数で、いかに効果的な支援になるか工夫したり、計画を綿密に立てたりする必要がある。
  • 今後も支援員と連携して児童生徒や保護者とつながり、日本で生活する力を育てていきたい。
(9)成果の普及(必須実施項目)

(成果)
 ウェブサイトで公表することにより、地域のみでなく全国に成果を発信できた。

(課題)
 よりよい発信の方法を考える必要がある。

4.その他(今後の取組予定等)

 就学前の幼児・保護者に対しての就学支援ガイダンスを行う。

お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

電話番号:03-6734-2035