平成29年度 「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(津市)

平成29年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

[2]拠点的機能の整備

[3]日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

[4]「特別の教育課程」による日本語指導の実施

[5]日本語指導ができる支援員の派遣

[6]児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

[7]進路・学力保障

[9]成果の普及

[10]就学前の幼児や保護者を対象とした取組

2.具体の取組内容

[2]拠点的機能の整備

 初期日本語教室「きずな」「移動きずな教室」では、入学・編入学後の日本語を母語としない子どもに対し、日本の学校への適応指導や基本的な生活言語指導を行った。
 初期日本語教室「きずな」では教室長と市民ボランティア、市所属の巡回担当員で、在籍校での「移動きずな教室」では、在籍校の日本語教育担当者をはじめとする教員と巡回担当員、ボランティア数名がチームを組み、在籍校での初期日本語指導を行った。
 いずれも原則マンツーマンで津市版初期日本語指導カリキュラムを基にした直接法で指導を行っている。

[3]日本語能力測定方法等を活用した実践研究の実施

 今年度も日本語指導が必要な外国につながる児童生徒が在籍する小中学校・義務教育学校56校で津市版日本語能力把握スケールをもとに日本語能力判定会議を実施した。在籍する子どもたちの日本語能力のレベルを判定・把握するとともに、学校や家庭での生活状況などを共有し、日常生活や授業の中でどのような支援が必要かを話し合った。
 また、日本語教育担当者会のグループ研修では、「日本語能力判定会議」と「JSLカリキュラムに係る授業」の公開を位置づけ、外国につながる児童生徒の学びを支える支援のあり方についての研修の機会をもった(小学校5校・中学校2校計14回)。
 さらに、日本語教育担当者会でDLAを活用した実践について共有化し、有効な活用について検討するとともに、その周知を図った。

[4]「特別の教育課程」による日本語指導の導入に向けた協議会の実施

 初期日本語指導教室「きずな」「移動きずな教室」に入級した児童生徒について、「特別の教育課程」による日本語指導を実施した。
 「特別の教育課程」の編成について、学校長を対象とした施策説明会や日本語教育担当者会で周知を図った。また転入時には在籍学校に周知・説明を行った。

[5]日本語指導ができる支援員の派遣

 日本語指導ができる支援については、3校(小1中2校ずつ)に支援員を派遣し、教科の一斉授業へつなげる学習支援を行った。
 また、初期日本語教室「きずな」において日本語指導を重ねたボランティアの中から、在籍校において開設した「移動きずな教室」へ日本語指導ボランティアとして派遣した。

[6]母語支援のできる支援員の派遣

 日本語が全くわからない状態で転入した、園児・児童・生徒への初期適応指導として、できる限り転入時から2週間程度、母語支援協力員の派遣を行った。
 また、家庭訪問・懇談会・進路指導等の保護者通訳、就学・進学ガイダンス、不就学調査等における通訳としても、母語支援協力員の派遣を行った。

[7]学力保障・進路保障

 「学校へ行こう!in津市 高校進学ガイダンス」を年2回、 津市内に転入してきた保護者に対する「転入学ガイダンス」を年4回、 中学生を対象にした「大学見学ツアー」を実施した。
 また、学校教育課と学籍に関する情報を共有し、不就学に関する家庭訪問を、随時実施した。

[9]成果の普及

 就学・進学ガイダンス実行委員会で、外国人住民と関わる行政各課や多文化共生に関わる市民活動団体、学校関係者と情報を共有した。
 進学・就学ガイダンスの様子や、成果の1つである外国につながる子どもたちの高校進学率について校長会・進路担当者会、さらには高等学校長会とも共有を図った。また、年3回行う日本語教育担当者会でも取組状況について情報共有した。
 日本語指導ボランティア養成講座のオリエンテーションや、 関係機関・大学の研修の機会等の機会に津市の取組を一般市民にも直接伝えた。

[10]就学前の幼児や保護者を対象とした取組

 外国につながる園児が通う幼稚園・保育園13園や関係機関での出前就学ダンスを実施した。
 また、小学校を会場にした就学ガイダンスを実施した。

3.成果と課題

[2]初期指導教室の設置

 今年度は初期日本語教室「きずな」に15名、在籍校での「移動きずな教室」に43名が通室した。「移動きずな教室」を多い時には同時に13校で開設し、1つの学校に同時に5名が通室している状況もあったが、そのような場合でも「きずな教室」と同等の初期日本語指導を受けることが保障できる体制がとれたことは大きな成果である。
 また「移動きずな教室」を在籍校に開設することで、在籍校の教員も初期日本語指導に関わる機会となり、集中して指導を受けた成果を、子どもの姿を通して学校とも確かめ合える機会となっている。今年度「移動きずな教室」を開設した18校のうち、5校が今年度初めての開設であり、「きずな」の取組をより多くの教職員も知れる機会となった。
 今後も初期日本語教室「きずな」を母体にしながらも「移動きずな教室」を中心に開催していくことになると思われる。転入状況も市内全域に広がりつつあるので、市内どこの学校に在籍しても「移動きずな教室」を開設できるように、ボランティアの新たな人材の確保もさらに必要である。
 「きずな」では、「移動きずな教室」での指導や、子どもや保護者と関わる中で見えてきた課題を集約し、その共有化を在籍校と図り、ともにどのような支援が必要かを考え合ったり、「きずな」で学ぶ子の様子やその成果を日本語教育担当者会で全ての学校に発信していきたい。
 また、日本語指導カリキュラムを活用した指導の効果を確認し、その活用を進めていきたい。

[3]日本語能力測定方法の活用

 今年度も在籍校で日本語能力判定会議を実施したことで、日常会話では不自由なく過ごしているように見える子でも、やはり日本語指導が必要だったと再認識したり、学習言語だけでなく、教科に出てくる言葉がわからず問題をイメージできていなかった等、課題のとらえがより具体的になってきた。
 日本語能力判定会議の公開をもとにしたグループ研修の事後研修会では、「家庭での状況を把握する必要があるのではないか」「授業や教室でみせる姿だけでなく、様々な場面で見せる姿は違うこともあるので、さらに複数の教師の視点で明らかにしていくことが必要ではないか」等、参観者から具体的な課題を提示されることも増えてきた。
 こうした取組を続けることで、教職員の日本語指導を必要とする児童生徒についての日本語能力や生活の捉えがより具体的になってきている。
 JSLカリキュラムに係る授業をもとにしたグループ研修では、教科学習を理解する支援として具体的にどんな支援が有効だったか、どんな課題があったか等、授業を公開し合うことで具体的に協議することができた教科の内容の理解を助ける支援とともに、授業の中に出てくる日本語についての支援も必要であること、視点児童生徒を大事にする授業はクラス全体の児童生徒にもわかりやすい授業になっていること、授業者の工夫だけでなく、子どもどうしの関わりをとおして、お互いに支え合い支援する工夫も大事であること等を再認識できる機会となった。
 来年度も日本語指導が必要な児童生徒が在籍する全ての学校において、日本語能力判定会議を実施していく。判定会議の経験が少ない教員がまだまだ多い中、判定会議の意義を実感できるように工夫していく必要がある。
 今後もさらに、「最終的に子どもたちが学ぶべき場所は学級であり、一斉授業の中」であることを浸透させ、児童生徒に一斉授業の中で力をつけていくこと、居場所づくりと進路保障をめざしていくことを考え合っていきたい。

[4]「特別の教育課程」による日本語指導の導入に向けた協議会の実施

 「きずな・移動きずな教室」で、日本語指導を行う児童・生徒について、学期ごとに評価をまとめ、在籍校と共有できた。
 また、「きずな・移動きずな教室」を卒室する際には、在籍校へ該当児童生徒の日本語の習得状況の引継ぎ、卒室後の指導の計画についても、連携することができた。
 日本語教育担当者は、単年で担当者が代わる場合が多いので、さらに丁寧に周知を図っていきたい。また今後、各校での取り出し授業での「特別の教育課程」の編成・実施にむけて検討し、推進していきたい。

[5]日本語指導ができる支援員の派遣

 初期日本語指導を修了した児童生徒の教科学習補助として、個別指導や一斉授業で、一斉授業をめざした個別支援ができた。
 日本語指導ボランティアの登録者数が70名となり、各在籍校での「移動きずな教室」で指導にあたれるボランティアの量的・質的な充実もできつつある。今年度、小学校と中学校を合わせて18校に開設した「移動きずな教室」において、43名の児童・生徒に対し、原則としてマンツーマンでの日本語指導を行い、きめ細やかな上に、効果的・効率的に初期日本語指導を行うことができた。
 津市は広域なため、市内どこの学校に在籍することになってもきめ細やかな初期日本語指導が受けられるよう、日本語指導ボランティアの新たな人材の確保や養成を進めていきたい。

[6]母語支援のできる支援員の派遣

 初めての日本の学校に対する初期適応を支援する有償ボランティアとして、母語通訳者の派遣(韓国語・中国語・ポルトガル語・英語)を、三重大学・津市国際交流協会・三重県国際交流財団等の協力を得ながら派遣した。就学・進学ガイダンスでの通訳(ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・中国語・ベトナム語・英語)や、 不就学調査家庭訪問でも通訳として同行を依頼した。母語支援協力員の存在は子どもや保護者に安心感を与えるという意味で大きな効果があった。
 懇談会や家庭訪問等に関わる保護者通訳についても、園・学校の要請に応じる形で、派遣した(ポルトガル語・スペイン語・中国語・韓国語・タイ語・英語)。保護者に対する学校内や家庭訪問での通訳についても、トラブル対応や進路選択など、繊細な内容で確実に伝えることや思いを聞き取ることが必要な場面では、通訳の派遣は有効である。
 津市内に在籍する児童生徒の言語は26言語と、多言語化の傾向にある。必要な時に適した支援ができるよう、大学や国際交流協会の協力を求めていくとともに、学生や市民ボランティアの発掘し、母語支援員の拡充を図りたい。
 全く日本語がわからない状態の児童生徒が安心して日本の学校に入れるために、母語通訳者の存在は大きいが、学校が母語が通じないと子どもとつながれないとの意識に陥らないようにしたい。また、学校が直接保護者に働きかけることが保護者とのつながりをより深められる場合もあることから、その機会を奪うことにならないように配慮しながら、学校がすべきこと、教育委員会が支援することを整理していく必要がある。

[7]学力保障・進路保障

 実際の日本の高校や大学を見学したり、高校の先生や大学生の話を聞いたりすることを通して、保護者や子どもたちが日本の高校や大学のイメージを具体的に持てることにつながった。そのことによって進学に対する意識を高めることができた。保護者に直接情報を届け、保護者の思いを聞いたり、子どもの教育について考え合ったりする機会にもなった。
 実行委員会の中で、外国につながる子どもたちの教育保障や進路保障についての課題、社会情勢など、様々な面について情報共有することができた。
 また、今年度も不就学に関する家庭訪問を行い、市内の外国につながる子どもたちの不就学を防ぐことができた。
 日本の学校を経験していない保護者にとって、日本の高校や大学等、子どもの進学に対して具体的なイメージを持つことが難しい現実がある。また、保護者や生徒が高校進学に対して強い思いを持っていたり、心配な思いを持っていたりすることに直接ふれ、不安を払拭しながら具現化していけるような取組にしていきたい。必要な人に必要な情報が届けられるよう、学校との連携もさらに図っていきたい。

[9]成果の普及

 関係機関や高校・大学関係者・一般市民、各行政各課と連携することで、津市の取組を知ってもらうという一方的な普及にとどまらず、外国につながる子ども達の教育保障や進路保障についての課題、保護者の教育に対する考え方や価値観、就労を含めた生活状況等、学校や教育行政の立場ではなかなか見えてこない課題や社会情勢など、様々な面についても知ることができた。また、取組を普及することにより、関係各課や市民団体との連携や、より具体的な支援が可能になった。
 日本語指導ボランティアの拡大にもつながり、年度当初は就職や転職により、登録数が一端減ってしまうが、新規登録者を開拓し、昨年を超える登録数となった。(2月1日現在70名)
 今後も様々な機会をとらえ、普及に努め、ともに外国につながる子どもの教育保障や進路保障についての課題を、ともに考え合っていけるよう、連携を図りたい。

[10]就学前の幼児や保護者を対象とした取組

 出前就学ガイダンスでは、外国につながる園児が通っている園に出向き、通訳者も同行することで、保護者に対して直接情報を届け、保護者が心配していることを聞いたり、子ども達の教育について考え合ったりできた。
 今年度から実施した小学校を会場にした就学ガイダンスでは、実際に小学校の施設を教職員の説明を聞きながら見学し、保護者や子どもたちの初めての日本の学校に対する不安を払拭し、期待を膨らませることにつながった。
 今後も、必要な人に、情報を届けられるよう取組を進め、不就学を防ぎたい。

4.その他(今後の取組予定等)

 教育委員会や学校、関係機関それぞれの立場で、外国につながる児童生徒の保護者や子どもと関わる中で見えてくる課題を集約し、その共有化をともに図りながら、どのような支援が必要なのか、大事にしていくべきことは何か、考え合っていきたい。そして、津市内のどこの学校に在籍することになっても、保護者も子どもも安心して学校に通え、子どもたちの進路保障を目指した取組を進めていきたい。

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