平成28年度 「公立学校における帰国・外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」に係る報告書の概要(静岡市)

平成28年度に実施した取組の内容及び成果と課題

1.事業の実施体制(運営協議会・連絡協議会の構成員等)

  • 指導員連絡協議会
    構成員:教育委員会:学校教育課長、指導主事3人 通級指導員11人、訪問指導員6人
  • 日本語指導担当者会
    構成員:学校教育課長、指導主事3人、日本語指導担当者(小学校30人、中学校18人)

2.具体の取組内容

 ※取り組んだ実施事項[1]~[8]について、それぞれ記入すること

[1]運営協議会・連絡協議会の実施

(1)指導員連絡協議会(年1回開催)
 本年度の事業について、現状と課題の整理、本年度の重点や支援体制の改善、児童生徒に関する情報交換等についての説明についての協議を行った。

(2)日本語指導担当者会(年1回開催)
 指導主事、浜松市で支援を経験していた教員、静岡大学准教授による講話と演習を行い、当該児童生徒に関する背景についての理解や諸問題への対応、受入れ体制の整備や具体的な支援の方法等についての理解を図った。

[2]初期指導教室や教室校等の設置

 市内3か所(各区に一か所ずつ)に日本語初期、初級の児童生徒を対象とした日本語指導教室を設置し、週1~2回(1回2時間)の指導を実施した。児童38名、生徒19名が指導を受けた。

[3]日本語能力測定方法の活用

 学校からの依頼を受け、指導主事によるDLAを3人(別の学校)の児童に実施した。測定の記録と評価シートを作成し、教頭、担任と今後の指導について協議を行った。また、日本語の状況が気になる児童に対して、指導員によるDLAも実施した。他の指導員、指導主事と今後の指導について協議したり、学級担任や保護者にも結果を報告し、今後の指導についての説明資料とした。
 また、指導員連絡協議会で演習を行ったり、日本語指導担当者会で説明をしたりした。

[4]「特別の教育課程」による日本語指導の導入に向けた協議会の実施

 「日本語指導担当者会」、「指導員連絡協議会」において、「特別の教育課程」についての説明を行った。「特別の教育課程」の概要やDLAの結果を基にした個に応じた支援計画の作成、校内支援体制づくり等について説明をした。「指導員連絡協議会」では、学校との連携について協議をした。

[5]日本語指導ができる支援員の派遣

 要請のあった学校に訪問指導員を派遣し、日本語初期、初級の当該児童生徒に対し、10~15時間程度の取り出し指導を行った。児童38名、生徒7名が指導を受けた。
 また、要請のあった学校に学生ボランティアを派遣し、学習や学校生活の支援を行った。静岡大学のNPO法人「ONES」、静岡県立大学の「にょっき☆」と連携をしている。

[6]児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

 要請のあった学校に適応相談員を派遣し、日本語が話せない児童生徒とその保護者に対して、日本の生活に適応するための相談の通訳を行った。小学校10件、中学校4件、相談時間は1回2時間程度で、相談員は、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語、中国語、韓国語、英語の担当者がおり、本年度は、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語の通訳の依頼があった。主な相談内容は、転入当初の事務手続き、進学に伴う手続きや準備、生活指導、進路指導等であった。

[8]その他

 静岡市国際交流協会と共催で、外国をルーツにもつ児童生徒とその保護者を対象に、高校進学ガイダンスを実施した。参加者は21名(6家族)であった。内容は、「静岡県の高校受験の概要(日本の高校受験制度や受験、受験までの流れ、入学金にかかる金額等)、高校の紹介と先輩からのメッセージ、質疑応答である。通訳者(ポルトガル語、スペイン語、タガログ語、中国語)、私立高校の教頭、教育委員会の高校の管理主事、高校受験を担当する指導主事が参加した。

3.成果と課題

 ※取り組んだ実施事項[1]~[8]について、それぞれ記入すること

[1]運営協議会・連絡協議会の実施

成果

 指導員連絡協議会では、全指導員が一度に会し、児童生徒に関する情報交換を行ったり、指導法について協議したりした。様々な立場からの意見交換により、それぞれの意識の向上や今後の指導の重点について考える機会となった。日本語指導担当者会では、国全体の現状や方向性、浜松市の具体的な取組等を聞いてから協議を行ったことにより、自校の当該児童生徒の表れに対して、講義内容と結び付けて協議をすることができた。ダブルリミテッドや文化の違いなどについての情報交換が多く、当該児童生徒の抱えている背景を踏まえた話し合いができた。

課題

 指導員、教員ともに、特別の教育課程、DLA等、日本語指導の現在の方向性についての知識が少ない。また、本市は散在型の地域であり、外国にルーツを持つ児童生徒を受け持ったことのある教員が少ないため、実践が積み重ねられていないことも課題である。今後は、日本語指導教室と学校の現状についての共通理解を図り、教員と指導員が協働していくことが重要と考える。

[2]初期指導教室や教室校等の設置

成果

 本年度の初期、初級児童生徒数は29人であった。個人差はあるものの、全員が日常会話では困らない段階になっている。また、日本語指導教室での指導よりも、原学級での学習を受けながら日本語を習得した方が良い段階と考えられ退級した児童生徒は9人。退級の進め方については、学校、家庭と連携しながら、どこで学習をすることがその子にとってよりよいかということを考えながら行った。そのため、退級を前向きにとらえ、学習意欲が続いている児童が多い。中学部では、受験の対策も行った。日本語初期段階で転入した生徒もおり、学習指導、面接指導等を集中的に行うことで、その生徒たちの高校進学の一助を担うことができた。

課題

 大きな課題として、日本語指導教室に通えない児童生徒の存在が挙げられる。3か所とも各区の中心的な場所にあるが、生活環境や家庭事情から通えない子も多い。また、教室によって児童生徒の人数の差があり、児童の多い教室では、個別指導にかける時間の確保が課題である。訪問指導との兼ね合い、学校との連携による指導の一体化等、通級指導以外の時間との連携が求められる。

[3]日本語能力測定方法の活用

成果

 指導員連絡協議会において、DLAの演習を行った。DLAの評価の捉えとその活用について、具体例をもとに協議をすることができた。指導員のDLAに関する認識が深まり、今後の活用法についても話し合うことができた。また、指導主事が3校でDLAを行い、その結果をもとに担任や担当者と今後の指導について協議を行った。学級における指導や日本語指導教室との連携など、今後の進め方について協議することができた。また、保護者に対する説明資料としても使用することができ、現状を伝えることに役立てることができた。

課題

 DLAについて知らない教員が多い。そのため、さらなる周知を図り、各学校の日本語指導担当者や、当該児童生徒の担任ができるようにしていく必要がある。

[4]「特別の教育課程」による日本語指導の導入に向けた協議会の実施

成果

 具体的な内容について知らない教員も多い。今回、日本語指導担当者会でDLAと合わせて説明をしたことにより、具体的な進め方について周知させることができた。実際に行っている学校はまだないが、「特別の教育課程」の趣旨に沿った個別支援計画の作成や校内支援体制づくりについて周知した。

課題

 実際の加配教員がいないということ、理解が進んでいないことが大きな課題である。少数散在型であるため、日本語指導に関わってない学校、教員も多い。さらなる周知を図らなければならない。

[5]日本語指導ができる支援員の派遣

成果

 日本語指導教室に通えない児童生徒は、この取組によって日本語の力が伸びている。学校に出向いての指導となるため、担任や教頭と密に連絡をとることができ、指導内容の改善や連携した個別指導に結び付けることもできた。本年度は、日本語指導教室に通える者についても、状況によって訪問指導を行った。来日直後の初期指導が必要とされる者について訪問指導を集中的に行うことで、学校生活に適応できるようにし、その後、継続的に日本語指導教室で指導を行うことで、着実に力をつけていくことができた。
 また、学生ボランティアの派遣により、授業や学校生活に安心して取り組めるようになった児童生徒も多く、担任としてもとても助かっているという声が多かった。

課題

 訪問指導の要望は多いが、予算の関係から、一人に対し、10~15時間しか行うことができていない。学校からの継続依頼もあるため、訪問指導の拡充が求められる。次年度は、予算を訪問指導にできるだけ充てられるようにと考えているが、当該児童生徒の人数が年度によって違うため、一人当たりの指導時間数を一律に増やすことは難しい。効率的な訪問指導の実施方法について考える必要がある。

[6]児童生徒の母語が分かる支援員の派遣

成果

 日本の教育や学校制度について、外国人の保護者が理解していないことが多くあり、言語の問題だけでなく、違いを説明することが難しい。今年度については、南米とフィリピンの相談が中心であったが、どちらの相談員もベテランであり、双方の国の文化の違いも熟知している。また、そういった国々の方の抱えやすい問題等にも詳しいため、保護者側と学校側の双方の考えを上手に伝えることができた。また、相談員は数年にわたり、継続的に本事業に関わっている者が多い。そのため、当該児童生徒や保護者との関係ができていることが多い。また、学校の伝えたいことも十分に理解しているため、教育相談をスムーズに進めることができた。

課題

 現在は保護者との面談時の通訳が中心であるが、今後は児童生徒の指導に関して、母語が話せる者が関われることでより細やかな指導ができるものと考えられる。教員で多言語が話せる者がいたり、学生ボランティアでも母語で支援を行うものもいたりするため、そういう人材の活用も今後は視野に入れていくことも考えたい。

[8]その他(高校進学ガイダンス)

成果

 本年度は対象者を中学生のみにせず、小学校にも本ガイダンスのことを案内し、参加があった。また中学生に関しても、3年生だけでなく、1,2年生の参加もあった。中学3年生になってから高校進学について考えるのではなく、もっと早い段階で高校進学について考えることやその準備を始めることについて伝えることができた。通訳者、高校の職員、本課の高校進学担当がいるため、個別の質問についても、的確に答えることができた。
 また、20歳になる日本語指導教室出身の先輩を講師に招き、講話をいただいた。ロールモデルとして話をしてもらうことで、今後日本でどのように生きていくのかということについて考える機会となった。

課題

 今年度の参加は21名の6家族であった。市内の関係小中学校に向けて案内してはいるが、まだ参加者が少ない印象である。高校受験について具体的に相談できる時間として、さらに参加者を増やしたい。
 また、今回の成人ロールモデルによる講話は、生徒だけでなく、保護者に対しても、今後を考える良い機会となった。今後も内容を高校受験にのみしぼるのではなく、高校受験を通して、今後どのように生きていくのかというキャリア教育の要素も考慮しながら、計画していきたい。

4.その他(今後の取組等)

 各学校の実情や児童生徒の状況を的確に把握し、限られた人員、予算の中で、的確な支援ができるよう取り組みを進める必要があり、特に訪問指導の拡充が求められる。「特別の教育課程」、DLAについては、本市の学校の現状に合わせた運用が必要であり、そのあり方について検討していかなければならない。また、認知度が高くないことも課題であり、周知を図っていく必要がある。

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