トピック型JSLカリキュラム 授業例 1 レベル1 テーマ:木
「わたしの木」(3時間)
1.ねらい
- 校庭にある木の様子について、五官を使って調べ、表現することができる。
- 木の様子を詳しく調べ、太さや高さ、幹や葉の形状などを記録することができる。
- 木について調べたことを、友だちにわかりやすく伝えることができる。
2.利用するAUカード(次のAUに、示されている日本語の表現を使って授業に参加させる)
1.AU:A‐2 知識を確認する2 「知識の有無を確認する」
表現:
T「~について知っていますか。」
S「はい、知っています。」
2.AU:K‐6 わかったことを表現する2 「気づいたことを表現する」
表現:
T「気がついたことを話してください。~は?~は?~は?」
S「~は~です。」
3.AU:I‐4 推測する4 「それまでの学習から推測する‐1」
表現:
T「これはどうなる/どうだ/何だ/どれだと思いますか。」
S「~になる/~だと思います。」
4.AU:C‐1 観察する1 「観察行動の指示に応じる」
表現:
T「~を観察してみよう。どんなことを調べますか。」
S「はい。~と~を調べます。」
5.AU:C‐2 観察する2 「形状などを観察する」
表現:
T「大きさや色や形はどうですか。」
S「大きさは~で、色は~です。形は~です。」
6.AU:J‐6 結論付ける2 「結論付けの理由を話す」
表現:
T「どうして、~だと思うのですか。」
S「~から、~だと思います。」
7.AU:K‐5 わかったことを表現する1 「わかったことを表現する」
表現:
T「分かったことを言ってください。」
S「~が分かりました。」
※ 示した表現は一例であり、実施に当たってはAUカードの日本語表現を参考に子どもの実態に合わせて調整する必要がある。
3.教材・教具等
- 木の観察カード
- わたしの木の写真
- わたしの木の葉や実
- 語彙カード
4.授業の流れ
○:教材・教具
|
活動 |
AU・表現 |
体験
一単位時間 |
学校にどんな木があるか話し合 |
知識を確認する2.「知識の有無を確認する」
T:学校にはどんな木があるか知っていますか。
S:知っています。いちょう、さくら…です。
桜は春、花がきれいです。
|
「わたしの木」ゲームをする
目隠しをして木に触り、五官を使って得られた情報(手触り、抱えた感じ、におい、たたいた音等)を表現する。
|
わかったことを表現する2.「気づいたことを表現する」
T:触った感じはどうですか。においは?叩くとどんな音がしますか。幹の太さは?
S:ザラザラ/ゴツゴツ/ツルツルします。
草のにおい/変なにおい/臭いです。
ドンドン、ゴンゴンっていう音です。
(手で大きさをつくり)このぐらいです。
|
「わたしの木」を当てて、木の名前を確認する |
推測する4.「それまでの学習から推測する‐1」
T:~さんの木はどれだと思いますか。どうして?
S:(自分の木を指して)これだと思います。
ザラザラするから/太さはこのぐらいだから。
|
探求
一単位時間 |
「わたしの木」を観点を決めて観察する 観点:幹の太さ(巻尺で測定)、木の高さ、葉の形や大きさ、実や花等 |
観察する1.「観察行動の指示に応じる」
T:私の木を観察してみよう。何をしらべようか。
S:太さと高さを調べます。それから、葉の形と色と大きさを調べます。 |
それぞれの観点について観察し、記録する
|
観察する2.「形状などを観察する」
T:太さは何センチですか。高さは何階ぐらいですか。葉の形と色はどうですか。大きさは何センチですか。どんなにおいがしましたか。実がありますか。
S:~センチです。2階ぐらいです。葉はぎざぎざで緑色です。~センチです。いいにおいです。小さい実があります。 |
発信
一単位時間 |
「わたしの木」の葉がどの葉かを当てる
それぞれの木の葉を並べ、形や色や大きさに注目して誰の木の葉かを話し合う
|
結論付ける2.「結論付けの理由を話す」
T:これは、誰の木の葉だと思いますか。どうしてそう思いましたか。
S:僕の木の葉です。大きくて、ギザギザしているからです。
~さんの木の葉です。形が特別だからです。 |
「わたしの木」の観察記録をまとめ、友だちにわかりやすく伝える
|
わかったことを表現する1.「わかったことを表現する」
T:観察して、分かったことを発表してください。
S:私の木は~です。触った感じは~でした。太さは~センチでした。高さは~階と同じでした。葉の形は細長かったです。色は黄緑でした。叩くとドンドンと音がしました。小さい緑色の実がたくさんなっていました。 |
5.語彙と文字
活動中に自然な形で聞かせたり使わせたりして、次の語彙・文字の力を強化することができる。
<語彙>日本語能力及びトピックに関する知識を考慮して、語彙(数も)を選択する。
- 触感を表すことば:ざらざら、すべすべ、堅い、柔らかい、しめっている
- 長さの単位:センチメートル、メートル
- 音を表すことば:コンコン、トントン、ボンボン、コーン
- 高さ等を表すことば:高い、低い、大きい、小さい、太い、細い
- 木の部位を表すことば:葉、枝、根、花、実
- 葉や実の形を表すことば:ギザギザ、とがっている、丸い、長細い
<文字>対象児童の文字の読み書きの力に応じて、意識させる文字を決める。
- 漢字:木、高い、大きい、太い、細い、小さい、花、実、緑、白、桜、梅、柿、栗
- カタカナ:センチメートル、木の名称
6.教師の支援
学習内容の理解と表現を補助するための手立てと、予測される困難とそれへの対応例を各活動毎に示す。教師は、理解を求める表現・語彙と使用まで求める表現・語彙とを区別して聞かせたり使わせたりすることが大事である。また、子どもが言いたいことを表現できずにいる場合は、適切な言葉を伝える、或いは、いくつかの表現を示して子どもが選んで使用できるようにする等の補助が必要である。
体験 学校にはどんな木があるか話し合う
- ☆ 学校にどんな木があるか話し合い、木について興味が湧くようにする。木と木以外の植物(トマト、いちご、なす、チューリップなど)の違いが理解できていない子の場合には、その違いについても話し合う。
→このやりとりの中で、木の部位を示す語彙を絵で理解させ、同時に文字で提示して意識化を図る
- ☆ 次の活動に結びつけるために、その木について知っていることも引き出す。遊びについて聞いておくと、子どもの生活経験がわかる。「いちょうについて知っていることはありますか。どんなことですか。」
体験 「わたしの木」ゲームをする→「わたしの木」を当てる
- ☆ 「わたしの木ゲーム」の最中、木に触らせながら、木の感触や太さなどについてやりとりをする。「触った感じはどうですか/太さは/高さは/叩いた音は/においは?」日本語でのやりとりが難しければ、実際に触る、叩く、嗅がせる等させて、質問を理解させる。また、答がうまく出てこなければ、具体的に例を挙げ(「ザラザラ?ゴツゴツ?ツルツル?スベスベ?…」)そこから、選択して答えられるようにする。
- ☆ 目隠しをとって、自分の木を当てる時には、目で見て分かることを問いかける。「葉の色や形はどうですか/高さは/花はありますか/実はありますか」…観察の観点を自然な活動の中で意識させる。
- ☆ 木の部位を表す言葉や、次の観察の観点に関連する言葉を、このゲームの中で繰り返し聞かせておく。
探求 「わたしの木」を観点を決めて観察する
- ☆ 前時の活動についての具体的なやりとりを通して、自分の木について調べたいこと(観点)を決める。
難しい場合は、みんなで一本の木を調べながら観点を決め、その後、各自に「わたしの木」を調べさせる。
- ☆ 幹の太さや長さをどうやって調べるか話し合い、巻き尺を使うと便利であることを確認する。
※ 太さを測る活動では、巻き尺が正しく使えるように指導する。
- ☆ 観察中も、観察の観点についてやりとりを繰り返す。「太さは、何センチメートルですか。花がありますか。実がありますか。葉っぱは大きいですか。どんな形ですか。どんな色ですか。」
- ☆ 高さは巻き尺では測れないので、校舎の高さと比べて何階ぐらいかで表せることを知らせる。「高さは、何階ぐらいですか。」
- ☆ 観察シートに記録しながら観察させる。
発信 「わたしの木」の観察記録をまとめ、友だちにわかりやすく伝える。
- ☆ 観察シートをもとにタスクシートにまとめさせる。文章にまとめる前に、観察したことについて簡単にやりとりをし、まとめの活動に役立ちそうな、語彙や表現を板書して(或いは語彙・表現カードで)示す。
- ☆ 「実」のなる木の場合は、次のような内容も含めると、子ども達は楽しんで学習に参加できると思われる。「~の実は何色ですか/どんな形ですか/いつごろなりますか/食べられますか」
- ☆ 発表する際にはタスクシートにそって行わせ、声の大きさ、間の取り方などに注意させる。時間があれば、発表の前に練習をして子ども達に自身を持たせることも、発表の仕方を身に付けるという点で有効だろう
- ☆ 一人で発表することが難しい場合には、やりとりの形で発表させる。
- ☆ 質問の時間を設け、子ども同士でやりとりをさせると、自分の木の観察を通して抱いた関心や興味を、質問の形で表現する機会になる。
7.活動のバリエーション
(1)学習の形態に応じた工夫
- 1時間目のわたしの木ゲームをグループで行い、周りにいる児童が目隠しをしている児童にヒントを与えたりできるようにする。教師と子どもが1対1で行う場合は、より細かい部分まで問いかけ、時間をかけて活動する。
- 子どもが一人の場合、最後の「観察してわかったこと」の発表は、在籍学級で行うようにしてもよい。→ (4)に関連項目有り
(2)出身国による違いに着目して
- 学校にある木の話し合いの中で、母国にも同じ木があるかどうか触れる。
- 学校の木を調べた後に、母国の「実のなる木=(イコール)果物」を思いだし、その種類や名前、味などについて日本の果物との違いを探すという活動に展開する。
(3)学習活動を発展させるために
- 1時間目の学習では、学校にある木だけでなく、生活圏の公園や街路樹や、地域の「古木・銘木」に対象を広げて学習を展開してもよい。
- 調べた結果を表にまとめるスキルを身につけることを狙って、2時間目のタスクシートを表形式にしてもよい。
- 観察後、子ども達が、更に詳しく調べたい様子であれば、その後図鑑やインターネット等を調べる活動に発展させる。
- 様々な植物について観察したり調べたりし、「植物図鑑」を作る、ホームページ上で公開する等の活動に展開する。
(4)多様な学習の連携に向けて
- 「わたしの木」の発表を在籍学級で行う機会を作ってもらう。
- 在籍学級の生活科や総合の学習等の学習で、植物に関して理解できていないことがある場合には、その点に焦点化して学習を展開する。
- 総合学習と関連付けて、学校の植物の図鑑作りに発展させる。
8.リソース
(1)教材・教具
- 7.バリエーションの(3)参照
- 木について調べる学習を組み入れるのであれば、図鑑、インターネットを活動する
(2)人的リソース
<仲間>
- 友達から木について知っていることを聞く。
- 授業で得た知識や技能を、在籍学級で披露する。
<家族>
- 事前に家族から母国の木について話を聞いて来たり、調べた学校の木のことを家族にも話す。
- 家庭学習が可能であれば、授業で出てきた語彙や漢字の読み書き練習の宿題を出す。
<地域>
- 学校以外の場所の木について調べてくる。できれば、地域の日本語教室などで、その補助をしてもらう。

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、まずダウンロードして、インストールしてください。