2.3.1 評価時期 |
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評価実施主体は、研究開発施策や研究開発課題については、原則として事前及び事後に評価を行うとともに、5年以上の期間を有したり、研究開発期間の定めがない場合は、3年を一つの目安として定期的に中間評価を行う。その場合、特に成果が短期間で現われにくい基礎研究(注)等、研究開発の性格等によっては、性急に成果を求めるような評価を行うことが適切ではないことに留意する。
また、優れた成果が期待され、かつ研究開発の発展が見込まれる研究開発課題については、切れ目なく研究開発が継続できるように、研究開発終了前の適切な時期に評価の実施を図る。
さらに、研究開発施策、研究開発課題等においては、終了後、一定の時間を経過してから、副次的効果を含め、研究開発の直接の成果(アウトプット)から生み出された効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)を確認することも有益である。このため、必要に応じて、追跡評価を行うことにより、学会における評価や実用化の状況、研究開発を契機とした技術革新や社会における価値の創造、さらに、大型研究施設の開発・建設等の場合は当該施設の稼動・活用状況等を適時に把握するとともに、過去の評価の妥当性を検証し、関連する研究開発制度等の見直し等に反映させる。なお、追跡評価については、その重要性に鑑み、今後、その一層の定着・充実を図ることとする。
研究開発を行う機関等については、定期的に評価を行う。
研究者等の業績については、所属する機関の長が評価時期を定める。
(注) |
本指針において、「基礎研究」には、研究者の自由な発想に基づく研究と特定の政策目的に基づく基礎研究を含む。以下同じ。 |
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2.3.2 評価の対象、目的の設定 |
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評価実施主体は、評価対象を明確にするとともに、当該評価を研究開発活動の中でどのように戦略的に位置づけ、評価結果を誰がどのように活用するかを念頭に置いて、評価の目的を明確かつ具体的に設定し、その内容を被評価者に予め周知する。
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2.3.3 対象、目的に応じた評価方法の設定・抽出 |
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2.3.3.1 評価方法の設定・抽出、周知及び見直し |
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評価実施主体は、評価における公正さ、信頼性を確保し、実効性のある評価を実施するために、評価対象や目的に応じて、評価方法(評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準、評価過程、評価手続等)を明確かつ具体的に設定・抽出し、被評価者に対して予め周知する。
また、評価実施主体は、科学技術の急速な進展や、社会や経済情勢の変化等、研究開発を取り巻く状況に応じ、評価方法を見直す。
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2.3.3.2 評価手法の設定 |
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評価については、評価に先立つ調査分析法から評価法そのものに至るまで、様々な手法がある。代表的な評価手法としては、当該分野の研究者によるピアレビューや産業界や経済・社会的効果の専門家等も含むエキスパートレビューがある。また、ピアレビュー等における評価結果を明確に表現し、複数の事業間における比較を可能にする評点法(注)等がある。さらに、ピアレビュー等に客観的情報を提供し、レビューの質の向上に寄与する種々の定量的分析がある。評価実施主体は、これら多様な評価手法を検討し、評価対象や目的に応じて、柔軟に最適な評価手法を設定する。
また、評価に当たっては、科学的・技術的観点からの評価と社会的・経済的観点からの評価を区別し、研究開発の特性に応じた適切な手法により評価を行う。例えば、安全・安心に資する科学技術の研究開発においては、科学的・技術的観点からの評価のみならず社会的・経済的な観点からの評価をより重視すべきである。また、知的・文化的価値の創出を主たる目的とした研究開発においては、科学的・技術的な観点からの評価を中心に行うべきである。これらを混同して評価を行うことは研究者の意気を阻喪させるとともに、国全体として適切な研究開発が実施されない恐れが生じることとなり、この点に十分留意する必要がある。
今後、評価においては、その信頼性を高めるため、従来にも増して評価に先立つ調査分析を充実させ、判断の根拠となる客観的・定量的なデータを組織的に収集・分析するなど、その質の高度化が求められる。また、当面、現在入手可能な手法の中から適切なものを選択して行うが、今後は、評価手法等についても、それらの開発・改良を進め、評価の高度化を図る。
(注) |
評点法:評価者の判断を定量化して評価する方法。まず、考えられる評価項目についてリストを作成し、評価者がヒアリングや報告書や各種データ等を基にして各項目毎に評点をつけ、これらの評点を合計して総合点を算出するなどして評価する手法。 |
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2.3.3.3 評価の観点 |
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評価は、当該研究開発の重要性、緊急性等(「必要性」)、当該研究開発成果の有効性(「有効性」)、当該研究開発の方法、体制の効率性(「効率性」)等の観点から行う。
また、評価は、対象となる研究開発の国際的水準に照らして行う。
さらに、研究者が、社会とのかかわりについて常に高い関心を持ちながら研究開発に取り組むことが重要であることから、研究開発によっては、人文・社会科学の視点も評価に十分に盛り込まれるよう留意すること(社会との接点で生ずる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に対する適切な配慮を含む)、評価を通じて研究開発の前進や質の向上が図られることが重要であることから、評価が必要以上に管理的にならないようにすることや研究者の挑戦意欲を萎縮させないためにも研究者が挑戦した課題の困難性も勘案することが重要である。
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2.3.3.4 評価項目の抽出 |
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評価実施主体は、研究開発の性格、内容、規模等に応じて、「必要性」、「有効性」、「効率性」等の観点の下、適切な評価項目を抽出する。
なお、評価項目としては、以下のものが考えられる。
ア. |
「必要性」の観点 |
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科学的・技術的意義(独創性、革新性、先導性、発展性等)、社会的・経済的意義(産業・経済活動の活性化・高度化、国際競争力の向上、知的財産権の取得・活用、社会的価値(安全・安心で心豊かな社会等)の創出、国益確保への貢献、政策・施策の企画立案・実施への貢献等)、国費を用いた研究開発としての妥当性(国や社会のニーズへの適合性、機関の設置目的や研究目的への適合性、国の関与の必要性・緊急性、他国の先進研究開発との比較における妥当性等)等 |
イ. |
「有効性」の観点 |
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目標の実現可能性や達成のための手段の存在、研究者の能力、目標の達成度、新しい知の創出への貢献、(見込まれる)直接の成果の内容、(見込まれる)効果や波及効果の内容、研究開発の質の向上への貢献、実用化・事業化の見通し、行政施策実施への貢献、人材の養成、知的基盤の整備への貢献等 |
ウ. |
「効率性」の観点 |
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計画・実施体制の妥当性、目標・達成管理の妥当性、費用構造や費用対効果の妥当性、研究開発の手段やアプローチの妥当性等 |
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2.3.3.5 評価基準の設定 |
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評価基準については、抽出された各評価項目についての判断の根拠があいまいにならないよう、予め明確に設定する。この際、評価実施主体は、研究開発の質を重視する。特に、科学的・技術的観点からの評価基準の設定に当たっては、国際的水準等を基本とする。
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2.3.3.6 評価の実施 |
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評価実施主体は、設定・抽出した評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準に従い、評価を実施する。
特に、中間・事後評価等においては、予め設定した目標に対する達成度等を評価することを基本とするが、必要に応じて、抽出した評価項目全体を平均的に判断するばかりではなく、場合によっては優れている点を積極的に取り上げる。また、失敗も含めた研究過程や計画外の事象から得られる知見、研究者の意欲、活力、発展可能性等にも配慮する。さらに、被評価者が達成度を意識するあまり当初の目標を低く設定することがないよう、高い意義を有する課題に挑む姿勢を考慮する。
また、評価実施主体は、評価者の見識に基づく質的判断を基本とする。その際、評価の客観性を確保する観点から、評価対象や目的に応じて、論文被引用度、特許の取得に向けた取り組み等の数量的な情報・データ等を評価の参考資料として利用することは場合によっては有用であるが、数量的な情報・データ等を評価指標として安易に使用すると、評価を誤り、ひいては被評価者の健全な研究活動を歪めてしまう恐れがあることから、これらの利用は慎重に行う。特に、インパクトファクター(注)は、特定の研究分野における雑誌の影響度を測る指標として利用されるものであり、掲載論文の質を示す指標ではないことを認識して、その利用については十分な注意を払うことが不可欠である。
(注) |
インパクトファクター:現トムソンサイエンティフィック(旧ISI)のCitation Index製品の収録対象誌に付与される雑誌評価指標であり、同社が提供するJournal Citation ReportsRに収録される雑誌に掲載された論文が、特定の年又は期間に引用された平均的頻度を表す。 |
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2.3.4 評価に当たり留意すべき事項 |
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2.3.4.1 評価活動の継続性 |
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評価実施主体は、必要に応じて、過去に評価を行った者を評価者に含めるなど、評価の考え方の継承に努め、継続性を確保する。
また、一連の評価に係る情報を一括管理し、当該研究開発の過程をたどることを可能としたり、事後評価や追跡評価の結果を次の研究開発段階の課題や施策がより良いものになるように活用されるよう運営する。
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2.3.4.2 評価の過程における被評価者との意見交換 |
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評価実施主体は、評価内容の充実、研究開発活動の効果的・効率的な推進、並びに評価者と被評価者の信頼関係の醸成の観点から、評価の過程において評価者と被評価者による意見交換の機会を可能な限り確保するよう努める。その際、評価の公正さと透明性が損なわれないよう配慮する。
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2.3.4.3 基礎研究等の評価 |
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基礎研究については、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このため、評価実施主体は、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意する。
また、試験調査等の研究開発の基盤整備的な役割を担うもの(注)については、個々の性格を踏まえた適切な評価方法を用いる。
(注) |
各種観測調査、遺伝子資源の収集・利用、計量標準の維持、安全性等に関する試験調査、技術の普及指導等、相対的に定型的、継続的な業務をいう。 |
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