第2章 共通事項

2.1  評価実施主体
   評価実施主体とは、評価の実施に当たっての全般的な責任を有するものをいう。
 評価実施主体は、各々の使命や任務に照らし、対象となる研究開発活動の性格、内容、規模等に応じて、質の高い実効性のある評価が行われるように、具体的な仕組みを設計する。具体的な評価は、評価実施主体の定める選任方法に従い選ばれた評価者が、評価実施主体の定める評価の目的、方法等に則り、その専門性を発揮して行う。研究開発実施・推進主体は、評価者が行った評価に基づき、政策立案等において意思決定をするなど適切な活用に供する。

 また、評価実施主体が評価を行う上で、各種の支援(評価の高度化のために必要な判断の根拠となる客観的・定量的なデータの収集・分析等評価に先立つ調査分析や評価法の開発等)を行う評価支援者の役割が今後益々重要になることから、評価支援者の育成への取り組みが重要である。

2.2  評価者
 
2.2.1 責任と自覚
   評価者は、厳正かつ公正な評価を行うことが、評価システムの信頼を保つ根幹であることを理解するとともに、自らの評価結果が資源配分や研究開発施策の見直しに反映されるなどの評価の重要性を理解し、評価者としての責任と自覚を持ち評価に取り組む。
 評価に当たっては、適切な助言を行うなど、創造へ挑戦する研究者を励まし、優れた研究開発を見出し、育て、さらに伸ばすような視点に配慮する。
 また、自らの評価結果が、後の評価者によって評価されることになるとともに、最終的には国民によって評価されるものであることも自覚し、評価に取り組むことが望まれる。

2.2.2 評価の観点に応じた評価者の選任
   独創性、革新性、先導性、発展性等の科学的・技術的意義に係る評価(科学的・技術的観点からの評価)と文化、環境等を含めた国民生活の質の向上への貢献や成果の産業化等の社会・経済への貢献に係る評価(社会的・経済的観点からの評価)では、評価者に求められる能力が異なることから、評価実施主体は、評価対象・目的に照らして、それぞれの観点に応じた適切な評価者を選任する。
 科学的・技術的観点からの評価においては、評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の研究者を評価者とする。社会的・経済的観点からの評価においては、評価対象と異なる研究開発分野の研究者、成果を享受する産業界、人文・社会科学の人材、研究開発成果の産業化・市場化の専門家、一般の立場で意見を述べられる者や波及効果、費用対効果等の分析の専門家等の外部有識者を加えることが適当である。
 なお、評価実施主体は、評価の目的や方法等に関して、選任した評価者に対して周知するとともに、相互の検討等を通じて、評価について共通認識が醸成されるよう配慮する。

2.2.3 外部評価、第三者評価の活用
   評価の公正さを高めるために、評価実施主体は、評価実施主体にも被評価主体にも属さない者を評価者とする外部評価(注1)を積極的に活用する。また、必要に応じて第三者評価(注2)を活用する。評価に当たっては、民間等外部機関の活用も考慮する。
 なお、国家安全保障や国民の安全確保等の観点から機密保持が必要な場合には、上記によらず、適切に評価を行う。
(注1)  評価の対象となる研究開発を行う研究開発実施・推進主体が評価実施主体となり、自らが選任する外部の者が評価者となる評価をいう。
(注2)  評価の対象となる研究開発を行う研究開発実施・推進主体とは別の独立した機関が評価実施主体となる評価をいう。

2.2.4 幅広い評価者の選任、在任期間、利害関係者、守秘義務
   評価実施主体は、評価の客観性を十分に保つとともに、様々な角度・視点から評価を行うために、例えば、年齢、所属機関、性別等に配慮するなどして、各研究開発活動の趣旨に応じて、民間人、若手研究者、外国人等を含め幅広く評価者を選任する。若手研究者を評価者に加えることは、最先端の知見に基づいた評価が促進されるとともに、研究者の資質の向上にもつながることから、適宜これを考慮する。また、国際競争・協調の観点や研究開発水準の国際比較等の観点からの評価を行うため、必要に応じて、メールレビュー等により、海外の研究者や評価の専門家に評価への参画を求める。
 評価者の固定化を防ぐため、評価者には一定の明確な在任期間を設ける。
 また、公正で透明な評価を行う観点から、原則として利害関係者が評価に加わらないようにする。その際、各制度等の趣旨、性格に応じて予め利害関係の範囲を明確に定める。やむを得ず利害関係者とみなされる懸念が残る者を排除できない場合には、その理由を明確にするとともに、当該評価者のモラル維持や評価の透明性確保等を図らなければならない。
 さらに、被評価者に不利益が生じることのないよう、評価者には評価内容等の守秘の徹底を図る。

2.3  評価時期及び評価方法
 
2.3.1 評価時期
   評価実施主体は、研究開発施策や研究開発課題については、原則として事前及び事後に評価を行うとともに、5年以上の期間を有したり、研究開発期間の定めがない場合は、3年を一つの目安として定期的に中間評価を行う。その場合、特に成果が短期間で現われにくい基礎研究(注)等、研究開発の性格等によっては、性急に成果を求めるような評価を行うことが適切ではないことに留意する。
 また、優れた成果が期待され、かつ研究開発の発展が見込まれる研究開発課題については、切れ目なく研究開発が継続できるように、研究開発終了前の適切な時期に評価の実施を図る。
 さらに、研究開発施策、研究開発課題等においては、終了後、一定の時間を経過してから、副次的効果を含め、研究開発の直接の成果(アウトプット)から生み出された効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)を確認することも有益である。このため、必要に応じて、追跡評価を行うことにより、学会における評価や実用化の状況、研究開発を契機とした技術革新や社会における価値の創造、さらに、大型研究施設の開発・建設等の場合は当該施設の稼動・活用状況等を適時に把握するとともに、過去の評価の妥当性を検証し、関連する研究開発制度等の見直し等に反映させる。なお、追跡評価については、その重要性に鑑み、今後、その一層の定着・充実を図ることとする。
 研究開発を行う機関等については、定期的に評価を行う。
 研究者等の業績については、所属する機関の長が評価時期を定める。
(注) 本指針において、「基礎研究」には、研究者の自由な発想に基づく研究と特定の政策目的に基づく基礎研究を含む。以下同じ。

2.3.2 評価の対象、目的の設定
   評価実施主体は、評価対象を明確にするとともに、当該評価を研究開発活動の中でどのように戦略的に位置づけ、評価結果を誰がどのように活用するかを念頭に置いて、評価の目的を明確かつ具体的に設定し、その内容を被評価者に予め周知する。

2.3.3 対象、目的に応じた評価方法の設定・抽出
  2.3.3.1 評価方法の設定・抽出、周知及び見直し
   評価実施主体は、評価における公正さ、信頼性を確保し、実効性のある評価を実施するために、評価対象や目的に応じて、評価方法(評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準、評価過程、評価手続等)を明確かつ具体的に設定・抽出し、被評価者に対して予め周知する。
 また、評価実施主体は、科学技術の急速な進展や、社会や経済情勢の変化等、研究開発を取り巻く状況に応じ、評価方法を見直す。

  2.3.3.2 評価手法の設定
   評価については、評価に先立つ調査分析法から評価法そのものに至るまで、様々な手法がある。代表的な評価手法としては、当該分野の研究者によるピアレビューや産業界や経済・社会的効果の専門家等も含むエキスパートレビューがある。また、ピアレビュー等における評価結果を明確に表現し、複数の事業間における比較を可能にする評点法(注)等がある。さらに、ピアレビュー等に客観的情報を提供し、レビューの質の向上に寄与する種々の定量的分析がある。評価実施主体は、これら多様な評価手法を検討し、評価対象や目的に応じて、柔軟に最適な評価手法を設定する。
 また、評価に当たっては、科学的・技術的観点からの評価と社会的・経済的観点からの評価を区別し、研究開発の特性に応じた適切な手法により評価を行う。例えば、安全・安心に資する科学技術の研究開発においては、科学的・技術的観点からの評価のみならず社会的・経済的な観点からの評価をより重視すべきである。また、知的・文化的価値の創出を主たる目的とした研究開発においては、科学的・技術的な観点からの評価を中心に行うべきである。これらを混同して評価を行うことは研究者の意気を阻喪させるとともに、国全体として適切な研究開発が実施されない恐れが生じることとなり、この点に十分留意する必要がある。
 今後、評価においては、その信頼性を高めるため、従来にも増して評価に先立つ調査分析を充実させ、判断の根拠となる客観的・定量的なデータを組織的に収集・分析するなど、その質の高度化が求められる。また、当面、現在入手可能な手法の中から適切なものを選択して行うが、今後は、評価手法等についても、それらの開発・改良を進め、評価の高度化を図る。
(注) 評点法:評価者の判断を定量化して評価する方法。まず、考えられる評価項目についてリストを作成し、評価者がヒアリングや報告書や各種データ等を基にして各項目毎に評点をつけ、これらの評点を合計して総合点を算出するなどして評価する手法。

  2.3.3.3 評価の観点
   評価は、当該研究開発の重要性、緊急性等(「必要性」)、当該研究開発成果の有効性(「有効性」)、当該研究開発の方法、体制の効率性(「効率性」)等の観点から行う。
 また、評価は、対象となる研究開発の国際的水準に照らして行う。
 さらに、研究者が、社会とのかかわりについて常に高い関心を持ちながら研究開発に取り組むことが重要であることから、研究開発によっては、人文・社会科学の視点も評価に十分に盛り込まれるよう留意すること(社会との接点で生ずる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に対する適切な配慮を含む)、評価を通じて研究開発の前進や質の向上が図られることが重要であることから、評価が必要以上に管理的にならないようにすることや研究者の挑戦意欲を萎縮させないためにも研究者が挑戦した課題の困難性も勘案することが重要である。

  2.3.3.4 評価項目の抽出
   評価実施主体は、研究開発の性格、内容、規模等に応じて、「必要性」、「有効性」、「効率性」等の観点の下、適切な評価項目を抽出する。
 なお、評価項目としては、以下のものが考えられる。
ア. 「必要性」の観点
  科学的・技術的意義(独創性、革新性、先導性、発展性等)、社会的・経済的意義(産業・経済活動の活性化・高度化、国際競争力の向上、知的財産権の取得・活用、社会的価値(安全・安心で心豊かな社会等)の創出、国益確保への貢献、政策・施策の企画立案・実施への貢献等)、国費を用いた研究開発としての妥当性(国や社会のニーズへの適合性、機関の設置目的や研究目的への適合性、国の関与の必要性・緊急性、他国の先進研究開発との比較における妥当性等)等
イ. 「有効性」の観点
  目標の実現可能性や達成のための手段の存在、研究者の能力、目標の達成度、新しい知の創出への貢献、(見込まれる)直接の成果の内容、(見込まれる)効果や波及効果の内容、研究開発の質の向上への貢献、実用化・事業化の見通し、行政施策実施への貢献、人材の養成、知的基盤の整備への貢献等
ウ. 「効率性」の観点
  計画・実施体制の妥当性、目標・達成管理の妥当性、費用構造や費用対効果の妥当性、研究開発の手段やアプローチの妥当性等

  2.3.3.5 評価基準の設定
   評価基準については、抽出された各評価項目についての判断の根拠があいまいにならないよう、予め明確に設定する。この際、評価実施主体は、研究開発の質を重視する。特に、科学的・技術的観点からの評価基準の設定に当たっては、国際的水準等を基本とする。

  2.3.3.6 評価の実施
   評価実施主体は、設定・抽出した評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準に従い、評価を実施する。
 特に、中間・事後評価等においては、予め設定した目標に対する達成度等を評価することを基本とするが、必要に応じて、抽出した評価項目全体を平均的に判断するばかりではなく、場合によっては優れている点を積極的に取り上げる。また、失敗も含めた研究過程や計画外の事象から得られる知見、研究者の意欲、活力、発展可能性等にも配慮する。さらに、被評価者が達成度を意識するあまり当初の目標を低く設定することがないよう、高い意義を有する課題に挑む姿勢を考慮する。
 また、評価実施主体は、評価者の見識に基づく質的判断を基本とする。その際、評価の客観性を確保する観点から、評価対象や目的に応じて、論文被引用度、特許の取得に向けた取り組み等の数量的な情報・データ等を評価の参考資料として利用することは場合によっては有用であるが、数量的な情報・データ等を評価指標として安易に使用すると、評価を誤り、ひいては被評価者の健全な研究活動を歪めてしまう恐れがあることから、これらの利用は慎重に行う。特に、インパクトファクター(注)は、特定の研究分野における雑誌の影響度を測る指標として利用されるものであり、掲載論文の質を示す指標ではないことを認識して、その利用については十分な注意を払うことが不可欠である。
(注) インパクトファクター:現トムソンサイエンティフィック(旧ISI)のCitation Index製品の収録対象誌に付与される雑誌評価指標であり、同社が提供するJournal Citation ReportsRに収録される雑誌に掲載された論文が、特定の年又は期間に引用された平均的頻度を表す。

2.3.4 評価に当たり留意すべき事項
  2.3.4.1 評価活動の継続性
   評価実施主体は、必要に応じて、過去に評価を行った者を評価者に含めるなど、評価の考え方の継承に努め、継続性を確保する。
 また、一連の評価に係る情報を一括管理し、当該研究開発の過程をたどることを可能としたり、事後評価や追跡評価の結果を次の研究開発段階の課題や施策がより良いものになるように活用されるよう運営する。

  2.3.4.2 評価の過程における被評価者との意見交換
   評価実施主体は、評価内容の充実、研究開発活動の効果的・効率的な推進、並びに評価者と被評価者の信頼関係の醸成の観点から、評価の過程において評価者と被評価者による意見交換の機会を可能な限り確保するよう努める。その際、評価の公正さと透明性が損なわれないよう配慮する。

  2.3.4.3 基礎研究等の評価
   基礎研究については、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このため、評価実施主体は、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意する。
 また、試験調査等の研究開発の基盤整備的な役割を担うもの(注)については、個々の性格を踏まえた適切な評価方法を用いる。
(注) 各種観測調査、遺伝子資源の収集・利用、計量標準の維持、安全性等に関する試験調査、技術の普及指導等、相対的に定型的、継続的な業務をいう。

2.4  評価結果の取扱い
   研究開発を企画立案し、実施し、評価するとともに、評価結果を研究開発の見直しや運用の改善等に適切に反映するといった循環過程を確立しなければならない。
 そのためには、研究開発施策、研究開発課題及び研究開発機関等の評価については、予め評価目的及び活用方法を具体的に明確化し、評価結果を研究開発の企画立案や資源配分等に適切に反映して、研究開発の質の向上や資源の有効活用を図ることが重要である。評価結果の具体的な活用の例としては、評価時期別に、
  事前評価では、採択・不採択もしくは実施の可否、計画変更、優れた研究開発体制の構築等
  中間評価では、進捗度の点検と目標管理、継続、中止、方向転換、研究開発の質の向上、機関運営の改善、研究者の意欲喚起等
  事後評価では、計画の目的や目標の達成・未達成の確認、研究者又は研究代表者の責任の明確化、国民への説明、評価結果のデータベース化や以後の評価での活用、次の段階の研究開発の企画・実施、次の政策・施策形成の活用、研究開発マネジメントの高度化、機関運営の改善等
  追跡評価では、効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)の確認、国民への説明、次の政策・施策形成への活用、研究開発マネジメントの高度化等
が挙げられる。
 また、研究者等の業績の評価結果の具体的な活用の例としては、研究費の配分や研究開発環境の充実等の特典付与、昇格やポスト登用の審査への活用、勤勉手当や年俸への反映等が挙げられるが、機関の特性に応じた活用が期待される。
 なお、研究開発施策、研究開発課題の評価に当たっては、以下の点に留意する。
 中間評価においては、必要に応じて、研究開発が一層発展するよう助言する。特に、進展の激しい研究開発については、柔軟に研究計画を変更することを提言する。
 また、評価実施主体は、評価結果に応じて、研究者がさらにその研究開発を発展させ、より一層の成果を上げることができるような事後評価を行うとともに、必要に応じて、研究開発実施・推進主体は事後評価を活用するなどして、ある制度で生み出された研究成果が適切に次の制度等で活用されるような仕組みの構築を図る。

2.4.1 評価結果の公表、資源配分等への反映プロセス
   評価実施主体は、評価結果を原則として公表するとともに、研究開発の企画立案に責任を有する部門や資源配分等に責任を有する部門に適切に周知する。また、評価結果が他の評価にも有効であることに留意し、必要に応じ関係部門に周知する。それらの部門は、評価結果を受け、研究開発施策や機関運営等の改善や、資源配分等への適切な反映について検討する。その上で、文部科学省内部部局及び研究開発を行う機関等はこれらの検討結果や反映状況も含め公表する。
 評価実施主体は、評価結果等について、個人情報や知的財産の保護等、予め必要な制限事項について配慮した上で公表する。また、評価結果の公表は、国民に対する説明責任を果たすとともに、評価の公正さと透明性を確保し、社会や産業において広く活用されることに役立つことから、インターネットを利用するなどして、分かりやすく活用されやすい形で公表する。その際、評価の目的や前提条件を明らかにするなど、評価結果が正確に伝わるように配慮する。評価者の評価内容に対する責任を明確にするとともに、評価に対する公正さと透明性の確保の点から、適切な時期に評価者名を公表する。ただし、研究開発課題の評価の場合、研究者間に新たな利害関係を生じさせないよう、個々の課題に対する評価者名が特定されないように配慮することが必要である。

2.4.2 被評価者からの意見の提出
   評価実施主体は、評価実施後、研究開発の規模等を考慮しつつ、被評価者に対して原則として、評価結果(理由を含む)を開示する。さらに、被評価者が説明を受け、意見を述べることができる仕組みの整備を図る。被評価者からの意見を受け、必要に応じ評価方法等を検証する。また、被評価者が評価結果について納得し難い場合に、制度の趣旨等に応じて、評価実施主体に対し、十分な根拠を持って異議を申し立てるための体制整備に努める。

2.5  評価における過重な負担の回避
   評価に伴う作業負担が過重となり、研究開発活動に支障が生じないよう留意する。
 評価実施主体は、評価目的や評価対象に応じ、複数の評価実施主体が同一の評価対象についてそれぞれ異なる目的で評価を行う場合や研究開発課題・施策・機関といった階層構造の中で複数の評価を行うような場合等において、評価の重複を避けるよう、可能な限り既に行われた評価結果を活用する。具体的には、
  ある制度を評価する際に、その下にあるプログラムの中の個々の課題まで詳細に点検するのではなく、プログラム単位で行われた評価を活用する。等
 また、研究開発課題等の特性や規模に応じて、適切な範囲内で可能な限り簡素化した評価を行うなど、評価目的、趣旨を一層明確化した上で、評価の必要性の高いものを峻別し、評価活動を効率的に行う。具体的には、
  萌芽的研究、比較的小規模な研究、大学等における基盤的経費を財源とする基礎研究等は、特に必要と認められる場合を除き、中間・事後評価は行わない。なお、この際には、次の段階の研究開発の事前評価等を通じて、優れた研究開発を見落とさないように配慮する。
  外部評価は、評価者、被評価者ともに大きな負担を強いられるため、小規模な研究開発等については、事前にその必要性について十分検討する。
  評価対象となる研究開発課題が比較的少額の場合、メールレビューを実施したり、評価項目を限定する。等
 なお、評価方法の簡素化を行う場合には、公正さと透明性を確保する観点から、評価実施主体はその理由等を示す。
 評価に当たっては、その目的・役割を明確化することを徹底し、評価システムとしての重複がある場合には、統合化・簡素化等の評価システムの合理化を図る。
 また、評価実施主体は、評価文書の形式を可能な限り統一すること等により評価作業を省力化する。さらに、文部科学省内部部局及び研究開発を行う機関等は、外部評価の効果的・効率的な実施の観点から、予め自らの研究開発について適切な関係資料の整理に努める。
 我が国では、評価に従事する者が質・量ともに不十分なため、過重な負担が一部の者にかかっていることを踏まえ、評価者、研究開発実施・推進主体の職員等の育成・確保等評価体制の強化を図る。
 また、評価が無駄となったり形式化すること等により、現場に徒労感を生み出す恐れがあることから、評価に当たっては、その目的・役割を明確化した上で、評価結果を適切に活用することにより、被評価者への確実なフィードバックを図ることが必要である。

2.6  評価の質の向上のための方策
   研究開発実施・推進主体は、研究開発の特性に応じて、質の高い実効性のある評価が行われるように、評価実施のための具体的な仕組みを定め、公表するとともに、評価自体やこのために必要な調査分析、体制整備等に要する予算の確保、質の高い評価を実施するための人材の養成・確保等を通じて、国際的に高い水準の評価を行う体制を整備することが必要である。そのため、必要に応じて、研究開発施策、課題毎に、その特性に応じ実効性のある評価が行われるような体制を整えるために要する経費を確保することが重要である。

2.6.1 評価人材の養成・確保等
 
ア. 評価事務局職員、プログラムオフィサー等について
   文部科学省内部部局及び研究開発を行う機関等においては、評価部門を設置し、国の内外から若手を含む研究経験のある人材を適性に応じ配置し、効果的・効率的な評価システムの運営と評価の高度化を推進する体制を整備する。
 競争的資金の配分機関においては、競争的資金制度の適切な運用、研究開発課題の評価プロセスの適切な管理、研究開発の質の向上の支援等を行うために、研究経験のある人材を専任のプログラムディレクター(注1)(以下PDと記す。)、プログラムオフィサー(注2)(以下POと記す。)として充てるマネジメントシステムの構築を図る。この際、各制度の趣旨や目的等に応じて、POを最大限活用した効率的かつ的確に評価を行うための方法や評価に関係する者の役割分担の明確化が必要である。
 競争的資金以外の大規模プロジェクト等においては、恒常的に当該プロジェクトに関与し、円滑な推進のために助言等を行う者を必要に応じて配置する。
 PO等は、評価結果の信頼性を確保する上で重要な役割を担っていることに鑑み、資質向上のための研修等を行う。
 また、研究開発機関等において、その経歴を研究活動の一環として適切に評価し、給与や処遇に反映するなどインセンティブを確保することにより、PO等を研究者のキャリアパスとして位置付ける。さらに、研究者がPO等へ円滑にキャリアを転換できるような仕組みについて検討する。
 国、大学、公的研究機関の事務局における人的拡充を含めた研究開発評価体制の構築や職員等の評価実施能力の向上を図ることは、評価に係る各種作業を円滑に行う上で不可欠である。このため、職員等を対象とした研修等の開催、評価に係る相談窓口の設置、研究開発評価専門研究者等の派遣等の取り組みを進める。また、研究機関等においては、評価部門に専門性が蓄積されるように人事運用面で配慮する。

イ. 評価者について
   文部科学省内部部局及び研究開発を行う機関等は、評価に対する研究者の認識を深め、評価の質の向上を図るなどの観点から、優れた研究開発課題や人材等を早い段階から見出し、研究開発を発展させることのできる評価者層の拡大に努める。
 さらに、適切な評価者を選任するため、評価者候補に関する情報の蓄積・活用の仕組みの構築を図る。
 なお、大学・公的研究機関における教育や研究活動を兼任している評価者やPO等については、過重な作業が原因で本来の教育や研究活動に支障が生じることがないよう、評価実施主体による所属機関に対する適切な支援策や所属機関における評価者等に対する適切な措置を検討する。例えば、競争的資金配分機関等においては、評価者等の教育負担等を軽減するための経費の所属機関への措置等、所属機関においては、評価者等としての経歴の評価や教育負担等を軽減するための措置等を検討する。

ウ. 評価システム高度化のための評価支援体制の整備
   評価の信頼性を高めるために、評価に先立つ調査分析を充実させるとともに、事前評価や追跡評価における効果や波及効果等の社会経済への還元に係る評価手法や基礎研究についての評価手法の開発等評価システム高度化のための調査研究を実施する。
(注1) 競争的資金制度と運用について統括する研究経歴のある高い地位の責任者をいう。
(注2) 各制度のプログラムや研究課題の選定、評価、フォローアップ等に関わる諸実務を行う研究経歴のある責任者をいう。

2.6.2 データベースの構築・活用等
   文部科学省内部部局及び研究開発を行う機関等は、評価業務の効率化等を図るため、各研究開発課題毎に、その目的や領域の区分を明確にするとともに、研究者(エフォートを含む)、資金(制度、金額)、研究開発成果(論文、特許等)、評価者、評価結果(評価意見等)を収録したデータベースの構築やその活用、データベースへの情報提供を行う。

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