Contents 山口恵梨子女流二段

「3月のライオン」の原作やアニメを御覧になった中で、印象に残ったシーンや感想などをお聞かせください。

漫画ですと、12巻の藤本雷堂棋竜の奥様が、自分の旦那様が負けそうになって苦しんでいる姿を「最後まで見るのよ」と言っている姿が印象的で、すごく好きです。

棋士って戦っているんですよ。零君とひなちゃんの対比を見ていつも思うのですが、「戦っている人」と「戦っていない人」って全然違うんです。私は、高校や大学が女子校だったので特に思ったんですが、将棋界の人と話すときは「戦っている人」どうし分かり合えるし、「戦ってない人」と話すと癒されるんですね。生き方とかが違うと、考え方も接し方も違うなって思います。

雷堂棋竜の家庭は壊れかけていたけど、奥様が「あなたを幸せにできるのは私しかいない」って言うんです。雷堂棋竜の奥様は棋士ではないので「戦っていない人」だと思っていたんですが、奥様はこういう戦い方をされていたんだなって。将棋の戦いだけがすべてではないですし、いろいろな戦い方があるんだなって思いました。自分と違った価値観の人が、こういう考え方をして、こういうところを大事にしているんだなって感じられたシーンなので、すごく好きですね。

アニメですと、対局に負けた後にテレビを付けたら流れていたシーンなのですが、島田八段が宗谷名人に挑戦したもののタイトルを取れずに負けてしまうシーンが印象的でした。負けた時に故郷の星空を思い出すっていうシーンが、対局に負けた身にしみました。地元の応援が励みにもプレッシャーにもなっている、両方を背負っているということがすごく伝わってきました。

山口恵梨子女流二段

「3月のライオン」では、好きなキャラクターはいますか?

漫画の中には実在の棋士がモデルになっているんじゃないかなと思うキャラが結構いまして、代表的なのは辻井武史九段ですね。名前は藤井猛九段がモデルだと思いますが、キャラクターは藤井九段とは違って、テレビに出るのが大好きだから、インフルエンザにかかっていてもテレビに出ようとしたりするんですけど、そんな辻井九段がすごく面白いです(笑)。

主要キャラですと、あかりさんが好きです。あかりさんは一家を導いていく存在でもあり、一家を守らなくてはいけないっていうこともあって、零君と同じくらい戦っているんじゃないかなと思います。零君が主人公で、彼は一人ぼっちで頑張っているんですが、あかりさんの方が頑張っているんじゃないかなって思うところもあります。私は、将棋界の戦い方しかしていないし、他は分からないですが、「3月のライオン」を読んで、身近な人が苦しんでいたら助けてあげたいなって、あかりさんを通じて思いました。

アニメキャプチャ

辻井九段

川本あかり

将棋に関する話になりますが、将棋を続けてきて良かったことや、
将棋を続けてきて身についたこと・学んだことなどがありましたら教えてください。

実はたくさんあるんです。将棋を通じて良かったことは、負けず嫌いになったことです。私は、人と競争するのがすごく苦手なタイプで、将棋界は向いていないよということをずっと言われ続けてきました。学校に関して言うと、クラスで友達と喋ったりするのが楽しみで学校に行ってたんですが、勉強はあまり好きではなかったんです。でも、将棋を始めてからは、模試がすごく楽しくなりました。模試は、自分の頑張りがある程度までいくと、点数や順位として現れるじゃないですか。国語の模試で一番を取ることができたときに、「あ!これ将棋で勝ったときと同じ気持ちだ」と思って、将棋が好きで勉強嫌いだったのが、勉強は将棋と一緒なんだと気づいて、将棋も勉強も好きになりましたね。

もう一つは、私はプロを目指してやってきたんですが、将棋をずっと勉強していても、やはり壁がいくつもあって、ある程度行ってもそこでずっと止まってしまうということがありました。そういうときに、乗り越えるためにしなくてはいけないことは、生活を変えることと性格を変えることだと思うんです。昔は、すごくおっとりしているとか、勝負にこだわらないとか言われていたんですが、最近は、「勝気だね」って言われるようになりました。自分の壁を乗り越えるために自分が変わっていくというのを、将棋を通じて実感しました。

将棋は頭脳スポーツと言われますが、その発想とか思考とかを学校の勉強でもかなり生かせるようになるということでしょうか。

そうですね。私がすごく思ったのは、将棋をやると100マス計算をやっている感じなので、計算能力は上がりますね。

また、将棋の考え方で「手の意味を考える」というのがあるのですが、これによって、国語の文章問題がすごく解けるようになります。この文章のこの部分がこういう意味だから、この答えが導き出されるという感じですね。あと、数学もですね。数学の問題集を解くのは、数学の解法を覚えて、それを当てはめていくことだと思うのですが、これが将棋の手筋を覚えて、実際の対局に生かすということとすごく似ていると感じます。

また、女流棋士のトップの里見香奈さんは歴史を覚えるのがすごく得意だとインタビューで答えていました。おそらく、将棋をやることによって、記憶力が上がったのかなと思います。私は残念ながらその傾向はなかったんですけど、計算は得意になったと思います。

山口恵梨子女流二段・アニメキャプチャ

「3月のライオン」では、ひなちゃんの同級生であるちほちゃんがいじめられて転校することになるのですが、
この中で、ひなちゃんはいじめをやめさせようと努力していました。
文部科学省としても、いじめを見て見ぬふりをするのではなく、できるだけ生徒同士でも止めに入りましょう、ということを推奨しています。生徒たちがいじめを仲裁できるようになるためには、どのようなことが必要だと思いますか?

そうですね、この作品のストーリーに即して言うと、ひなちゃんがいじめを止めに入ることってすごく難しいことだったと思います。実際の現場でもいじめをやめさせるということは相当大変だと思います。やはり、いじめられている子の心に寄り添うことが大事だと思います。仲裁することは本当に難しいので、いじめられているからといってその子と距離を置くのではなく、その子のことが好きならその気持ちを貫いてそばにいてあげることが大事だと思います。

あと、ひなちゃんの姉のあかりさんについてなのですが、彼女はひなちゃんの前で必要以上に怒ったり悲しんだりしなかったと思います。いじめられている子が、自分のせいで家族を悲しませてしまっていると感じると余計相談しにくくなると思うので、常に笑顔で接して、いじめられている本人に心配をかけさせないことも大事だなと感じました。

山口恵梨子女流二段・アニメキャプチャ

川本ひなた

周りにいる人の心構えも大事ということですね。

はい。それと、私はちほちゃんの逃げちゃうという選択肢もありだと思うんです。ひなちゃんの戦うという意思もいいと思うし、逃げちゃうという選択もいいと思います。ここで、周りの子たちも、いじめられているから自分も一緒になっていじめるのではなく、その子が好きならば、そばにいてあげようという気持ちを持ち続けることが大事だと思います。つまり、子供たちの意思を尊重してあげることが第一だと思います。

いじめの問題は答えがあるものではないのでとても難しいのですが、
当人だけでなく、周囲の人々の支えてあげるという意思も大切になりますね。
山口女流二段は、いじめ問題に対応する上でどのようなことが大切だと思いますか。

そうですね、私も実際ひとりでお弁当を食べていた時期があって、そのときにすごく思ったことなのですが、逃げる場所を用意してあげて、さらに、学力や出席日数、受験など、逃げた後に悪影響が出ないような環境が大事だと思います。その意味で転校するという選択肢もありますし、いじめに立ち向かうなら、休める場所、または気分転換になるような趣味といったものを用意してあげることが大事だと思います。

山口恵梨子女流二段・アニメキャプチャ

学校以外のところでもきちんと成長できるような場を用意してあげることも大事ということですね。
文科省としてもいじめから逃げた場合でも、変わらず夢を探し求めていけるような環境を用意する取組を行っているところです。

そのような取組を行う上での一番大事なのは親だと思うんですよね。親としては、これまでいた学校にいてほしいと感じると思うので、そのような状況でも子供の幸せを第一に考えて、今いる場所を離れるという選択を後押ししてあげてほしいなと思います。

ありがとうございます。最後に、いじめられている全国の子供たちへのメッセージをお願いします。

山口恵梨子女流二段より、直筆メッセージをいただきました。

山口恵梨子女流二段
山口恵梨子女流二段からのメッセージ「戦っても良い 逃げても良い」

文部科学省では、24時間通話無料の
相談ダイヤルを設置しています。

0120-0-78310(なやみいおう)