2.宇宙開発利用の戦略的推進

(1)宇宙利用プログラムの重点化

 我が国の宇宙活動は、これまでの「技術の開発と実証」を軸とした時代から、その技術力をもって成果を社会・国民に還元するための「宇宙利用」に重心を移していくべき時代に入ったと言える。
 我が国のこれまでの宇宙開発活動において、多くの力が注がれてきた、気象衛星や通信・放送衛星などの分野については、社会基盤として我々の生活に欠くことができない宇宙利用分野となっており、既に産業化が進み、利用ニーズに応じた高度化が求められる分野となっている。
 一方、近年、地球環境観測や災害対応、衛星測位といった分野において、宇宙利用へのニーズが高まっており、これからの宇宙利用分野として大きな期待が寄せられている。また、地理空間情報活用推進基本法では、地理情報システムや衛星測位に係る施策を総合的かつ計画的に推進することとしている。これらの分野における活用は、我が国の危機管理能力の向上にも結びつくほか、人類共通の課題解決へ向けた国際貢献という側面も持っている。科学技術基本計画(平成18年3月、閣議決定)及び同計画に基づく分野別推進戦略(平成18年3月、総合科学技術会議決定)においても、衛星による全球観測・監視技術を含む「海洋地球観測探査システム」が国家基幹技術に位置付けられている。このような状況を踏まえ、人工衛星等を活用した宇宙利用分野としては、以下に掲げる3つのプログラムに重点化して推進することとする。
 なお、プログラムの推進に当たっては、衛星のユーザと開発段階から連携・協働を図ることにより、ユーザ側が求める衛星をユーザと一体となって作り上げる体制を構築するよう努めるものとする。

 さらに、人工衛星による地球観測データは、農作物、森林、水産物、エネルギー等の資源の開発・管理や、土地利用、災害の予知・予測等の種々の分野での利用も期待されるものであり、データ利用技術・解析技術等の研究開発を通じ、宇宙開発利用の拡大に努めることが重要である。

  •  人工衛星等を活用した宇宙利用分野については、以下の3つのプログラムに重点化を図り推進する。
    • 1 地球環境観測プログラム
    • 2 災害監視・通信プログラム
    • 3 衛星測位プログラム

(重点化するプログラムについて)

1地球環境観測プログラム

 地球環境観測プログラムにおいては、国際的な取組である「全球地球観測システム(GEOSS)」10年実施計画の枠組みの下で、気候変動・水循環等の把握に必要とされ、かつ、同時広域観測が可能であるという人工衛星による観測の利点を発揮できるデータを10年超にわたって継続的に取得する。また、関係府省庁等と連携し、地上系・海洋系観測のデータとの統合的利用研究を進めるとともに、取得データを適切に処理し、データ統合機関やユーザに提供する。

2災害監視・通信プログラム

 災害対応のための監視・通信プログラムにおいては、災害発生前の定期的な監視及び災害発生時における高頻度・高分解能・広域観測を可能とする複数の人工衛星による監視システム及び災害情報通信システムの構築に向けて、システム実証に関する研究開発を進める。特に、関係府省庁等と連携し、災害警報の発出、災害発生時の被害状況の把握、災害時の緊急通信手段の確保などでの人工衛星の有効性を実証する。また、アジア太平洋地域への展開にも取り組む。

3衛星測位プログラム

 衛星測位プログラムにおいては、地理空間情報活用推進基本法を踏まえ、準天頂衛星システムによる全地球測位システム(GPS)の補完・補強に係る技術実証を関係府省庁と連携して行う。これにより、衛星測位基盤技術の確立を図るとともに、GPS補完・補強体制の具体化につなげる。また、将来の地域測位システムに必要な技術を習得する。

(2)宇宙科学研究の推進

 宇宙科学研究は、「宇宙がどのように成立し、どのような法則によって支配されているのか」を知るための高度な知的活動であるとともに、宇宙開発に新しい芽をもたらす可能性を秘めた革新的・萌芽的な技術の源泉であり、宇宙開発利用の基盤を支えるものとして、我が国の宇宙開発利用の持続的発展のために不可欠なものである。また、我が国は、これまでにX線天文学や太陽・地球磁気圏観測などにおいて、高い創造性・先導性を有する世界第一線級の成果を上げてきている。
 このため、以下の方針により、宇宙科学研究を推進することとする。

  •  長期的な展望に基づき、我が国の特長を活かした独創的かつ先端的な宇宙科学研究を推進する。

 国内外の関係する研究者グループとの密接な連携の下、研究者の自由な発想に基づく研究計画からピア・レビューを通じて精選し、我が国の特長を活かして、科学衛星の打上げ・運用や理学的・工学的研究など独創的かつ先端的な宇宙科学研究を継続的に実施し、世界最高水準の成果の創出を目指す。
 今後重点を置く研究分野は、世界において広く認められる重要な科学目標を有していること、目標及び実現手段における高い独創性と技術及び予算の観点から高い実現可能性を有していること、我が国の独自性と特徴が明確であること、並びに我が国が既に世界第一級にある分野をのばすとともに、これからを担う新しい学問分野を開拓することにも留意することの観点から、以下のとおりとし、ミッションに即した多様な規模の計画を展開する。

 具体的なプロジェクトの選定や遂行に当たっては、大学・研究所等の研究者の参画を広く求め、関係研究者の総意の下にプロジェクト等を進めるという「大学共同利用システム」を発展させ、これまで以上に大学等の機関や関係研究者と連携・協調を図ることとする。この際、関係研究者の協力関係の構築や共同研究等を通じた大学等における人材育成といった宇宙開発利用全般にわたる基盤の構築に資するよう配慮することが求められる。

 また、科学衛星計画の規模については、近年、研究者からの提案が多様化していることを踏まえ、従来の中型衛星による計画に加え、大型・小型衛星による計画など、ニーズに即した計画を展開していくことが必要である。特に、迅速な開発・成果の創出が期待できる小型衛星による計画を積極的に推進する。また、大型衛星による計画は、我が国が主要な貢献を果たすことができることを前提とし、国際的な協力体制を構築して進めることが必要である。

 宇宙科学研究を通じて得られる理学的・工学的な成果は、宇宙利用プログラム等にも積極的に展開し、分野横断的に活用する。さらに、今後の宇宙科学の発展のため、科学衛星により得られるデータが世界中の研究者に使われるよう、その蓄積・解析・公開を行うことが必要である。

 また、宇宙科学研究の成果は、人類共有の知的資産であることから、優れた成果をわかりやすい形で広く国内外に向けて広報・普及することについて、特段の配慮を行うことが必要である。加えて、優れた研究成果は、我が国の国際社会での影響力を維持・強化することにも大きく寄与することから、研究成果の国際的な評価の獲得にも努力していくことが必要である。

(3)宇宙探査への挑戦

 宇宙探査は、宇宙の起源が知りたい、遥か彼方に広がる未知の世界を見たいという人類の純粋かつ根元的な知的欲求に応えるというだけでなく、無人探査を含め、人類の活動域の拡大につながるものである。また、宇宙探査を成し遂げる知的エネルギーが次の新しい科学や技術を生み育て、社会変革をもたらし、人類の発展を牽引していくことが期待される。人類がその発展を希求する限り、宇宙空間というフロンティアへの知的探求は歴史的必然とも言えよう。さらに、国家にとっては、国の総合的な技術力を世界にアピールしていく等の観点からも非常に大きな意義を有するものである。
 我が国は、宇宙探査に取り組む技術的能力を備えている数少ない国の一つとして、人類の発展に貢献し、我が国の国際的な影響力の維持・強化を図ることが必要である。また、今後の宇宙開発の最前線になると見込まれる宇宙探査に果敢に取り組み、国際協力あるいは国際的な競争における切磋琢磨の中で、より高い技術を追求していくことが、我が国の宇宙開発の進展や、その技術成果による技術革新を果たす上で極めて重要である。
 我が国は、工学実験探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワへの離着陸の成功など優れた成果を上げてきており、また、平成19年9月にはアポロ計画以来の最大規模の月探査計画となる月周回衛星「かぐや」を打ち上げ、本格的な月探査を開始したところである。
 宇宙探査への国際的な関心が高まる中、このような成果をもとに、以下の方針により、宇宙探査を推進していくこととする。

  •  我が国の強みを活かし、未知のフロンティアである宇宙の探査に積極、果敢に挑戦する。

 人類にとって未知の領域である、月、惑星、小惑星といった太陽系の天体の探査について、我が国もまた、積極、果敢に挑戦する。宇宙探査に取り組むにあたっては、科学技術の新しい知見の獲得とフロンティアの拡大を両輪に進めるとともに、国際協力の枠組みの中での協調と連携を主軸とし、我が国の主体性と独自性を発揮できる課題に選択・集中する。また、我が国として当面どのような活動を展開するかを明確にし、その進展状況、諸外国の動向などを踏まえ、科学コミュニティなどの関連コミュニティとも連携を密に保ちながら、次に取り組むべき課題を見定め、その着実な前進を図る。

 我が国としては、当面は、工学実験探査機「はやぶさ」等で築いてきた我が国の強みを活かし、無人活動を中心に宇宙探査を進めることとする。将来の国際協働における有人活動については、国際的な動向に即し、費用対効果を含めた総合的な観点から、適時適切にその要否を慎重に検討することとし、また、独自の有人活動については、これへの着手を可能とすることを視野に入れ、基盤的な研究開発を進める。また、宇宙探査は、一つのプロジェクトとしての規模が大きく、長期間に渡るものになりがちであることに注意し、プロジェクト期間として数年程度にまとまったものを組み合わせて計画的に進めるよう努める。
 月は、地球に最も近く、従って、アクセスが最も容易であることから、様々な宇宙探査の足掛かりとなることが期待され、また、地球と同様の進化過程を含む形成期の痕跡が保存されており、宇宙科学における大きな意味を持っている。また、月探査への国際的な関心が高まっており、月探査活動は国際的な影響力を確保する上でも重要なものとなっている。このため、諸外国においても意欲的な月探査計画が進められようとしている。
 我が国は、「かぐや」による探査活動を開始したところであるが、その成果をさらに発展させるべく、無人機による月表面着陸により、リモートセンシングでは得られない、詳細な化学組成や月深部の情報など月の起源と進化の謎に迫る科学的に価値の高い情報の取得や、高精度着陸技術、表面移動技術等の今後の探査活動等に必須となる基幹的な技術の獲得を目指すこととする。
 その際には、月探査が国際的な側面を有する活動であることを踏まえ、我が国固有の理由によるほか、国際的な動向に即し、総合的な観点から、適時適切に計画を見直すことが必要である。
 また、小惑星や惑星への新たな探査に挑戦すべく研究開発を進める。

(4)国際宇宙ステーション計画の推進

 国際宇宙ステーション計画は、日本、米国、欧州、カナダ、ロシアの5極計15カ国の協力によって、低軌道の地球周回軌道上に有人研究施設を建設・運用するという壮大なプロジェクトである。我が国の実験棟「きぼう」(JEM)をはじめ、必要なモジュール等が順次打ち上げられ、平成22年度までに組み立てが完了する予定である。
 国際宇宙ステーション計画については、引き続き、以下の方針により推進することとする。

  •  国際宇宙ステーション計画を推進し、我が国だけでは達成・習得が困難な課題に挑戦するとともに、宇宙活動のプラットフォームとしてその積極的な活用を図る。

 国際宇宙ステーションは、我が国単独では困難な、有人宇宙技術や宇宙環境の利用技術の獲得等を行い得る場として、我が国にとって重要な意義を持つ。また、宇宙空間という特殊な環境を利用した研究成果の創出、新たな科学的知見の獲得、その成果を活用した技術の進歩による新たな産業活動の発展も期待される。
 このため、我が国としては、「国際宇宙基地協力協定」などの国際約束の下、着実に責務を果たしていくとともに、我が国だけでは達成・習得が困難な課題に挑戦するべく、長期的な展望に立って積極的に活用を図る。

 具体的には、我が国の重要な有人宇宙活動のプラットフォームとしての日本実験棟「きぼう」(JEM)の打上げが確実に行われるよう国際的な協調を図っていくとともに、「きぼう」を宇宙環境利用に係る研究開発の場として、幅広い分野で積極的に活用していくこととする。さらに、「きぼう」を中心とした国際宇宙ステーション計画における活動を通じて、将来有人宇宙活動を行う上で必要となる技術やノウハウを着実に蓄積していく。

(5)宇宙輸送系の維持・発展

 宇宙輸送系は、宇宙空間へのアクセスを可能とする手段として、あらゆる宇宙開発利用活動の根幹であり、その国がどのような宇宙活動を展開するかは、その国が保有する宇宙輸送系によって特徴付けられる。この意味において、宇宙輸送系は、その国の宇宙開発、さらには、その国の科学技術力、国力を象徴するものである。
 また、宇宙開発利用活動の自律性は宇宙輸送系に大きく支配されており、このような意味を持つ宇宙輸送系に関しては、以下の方針により、その維持・発展を図ることとする。

  •  H−2Aシリーズを我が国の基幹ロケットと位置付け、性能及び信頼性の面から世界最高水準のロケットとして維持・発展させる。
  •  打上げ需要の多様化に対してより柔軟かつ効率的に対応することができる宇宙輸送系の構築を目指すこととし、中型及び小型のロケットについて必要な研究開発を行う。

(基幹ロケットの維持・発展)

 我が国が必要な人工衛星等を必要なときに独自に宇宙空間に打ち上げる能力を将来にわたって維持・確保することにおいて、中核的役割を担う基幹ロケットとして、H−2Aロケット及びH−2Bロケット(H−2A能力向上型)を引き続き位置付け、定常的に使用していく。

 H−2Aロケットについては、13号機から民間移管が行われ、民間による打上げ輸送サービスが開始された。H−2Aロケットを我が国の基幹ロケットとして維持・発展させていくためには、民間移管後においても、機構は、信頼性の向上を核としたシステムの改善・高度化を図るための研究開発を不断に継続することが不可欠であって、機構の主体的役割の下に、民間及び大学等との連携を強化しつつ、関連の研究開発を着実に進めることとする。基幹ロケットとしての維持・発展には、安定的な打上げ機会の確保、部品・材料の保全を含めた強固な製造基盤及び打上げ基盤も欠くことのできないものであり、所要の対応が必要とされる。このような対応により、同ロケットの国際競争力強化が図られることとなる。なお、民間移管開始後5年を目途に、目的達成状況の評価を行い、必要に応じて、官民の役割分担を含めた体制の見直しを行う。

 H−2Bロケット(H−2A能力向上型)は、宇宙ステーション補給機(HTV)の運用手段を確保するとともに、基幹ロケットの能力の向上を図ることを目的に開発するものである。H−2Bロケットの開発は、H−2Aロケット標準型を維持発展した形態を基本として行う。また、その開発に当たっては、システム仕様の決定などに民間の関与をより多くするなど、民間の主体性・責任を重視した開発プロセスを採用する。

(打上げ需要の多様化への対応)

 今後の我が国における衛星打上げ需要は、中規模のものが増大すると予測されるとともに、宇宙科学の分野を中心に小規模のものの活用が指向されている。このような打上げ需要の多様化に対してより柔軟かつ効率的に対応することができる宇宙輸送系の構築を目指すこととする。なお、このような宇宙輸送系の構築により、基幹ロケットの代替手段の確保や、将来に向けてのより多様なロケットシステム技術の向上が図られることとなる。
 このため、中型ロケット及び小型ロケットについて、それぞれ次の取組を進めていくこととする。
 中型ロケットについては、官民協力の下、民間主導により開発計画が進行中のGXロケットについて、我が国が保有すべき中型ロケットとして位置付けられていることから、第二段に搭載する液化天然ガス(LNG)推進系の開発及び飛行実証を進めるなど開発計画を支援してきているが、LNG推進系を含めGXロケットの今後の進め方については、現在行っている評価の結果等を踏まえ進める。
 小型ロケットについては、新たに小型固体ロケットの開発を目指すこととする。その際は、小型衛星の打上げ需要動向を含めて適時適切に評価を行い、その結果を踏まえつつ、これまで我が国が蓄積してきた固体ロケットシステム技術の知見を最大限活かし、単なる既存技術の組み合わせでは達成し得ない高品質の固体ロケットシステムを構築するとともに、低コストかつ短期間での打上げなど革新的な運用性の向上を目指す。なお、小型固体ロケットの開発に伴い、ミューファイブロケットの運用を終了する。

(HTVの開発)

 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」(JEM)において必要となる我が国の物資輸送と、我が国が国際約束で分担している国際宇宙ステーションへの補給義務の履行のため、宇宙ステーション補給機(HTV)の開発を引き続き進める。HTVは無人輸送機であるが、有人施設である国際宇宙ステーションに接近することから、有人宇宙機に相当する安全性設計がなされており、これを着実に開発、運用することにより、将来の軌道間輸送や有人化に関する基盤技術の習得が図られることとなる。

(将来輸送系の研究開発)

 将来の輸送系を展望しての有人輸送システムや再使用輸送システムに関しては、重要技術に重点を置いて、将来において独自の有人宇宙活動への着手を可能とすることを視野に入れ、基盤的な研究開発を着実に推進する。その一環として、高水準のシステム要求を取り込んだ実験機体による飛行実証に向けて必要な研究開発を行う。

(その他)

 上記の宇宙輸送系の在り方を踏まえた上で、政府の人工衛星の打上げには国産ロケットを優先して使用することを基本とすること、及び民間企業が人工衛星を打ち上げる場合にも国産ロケットの使用を奨励するとしたこれまでの我が国の方針を継続することとする。

 また、大学等における教育研究活動や先駆的な要素技術の実証機会としての超小型衛星及び小型衛星の打上げニーズに応えるため、打上げ余剰能力の積極的な活用を図る。

 打上げ等に関わる安全確保については、宇宙開発委員会が策定する指針により対策を講じる。なお、機構が民間のロケットの打上げを受託する場合は、機構において体制を整備し、当該打上げの安全監理に責任を持つこととする。

(6)宇宙開発基盤の強化・充実

 宇宙活動は、幅広い分野の高度な技術を結集し、それらをシステムとして構築することによりはじめて成り立つものである。我が国の宇宙開発利用のさらなる発展には、宇宙輸送系と衛星の二大システム技術に加え、それらを支える確固とした技術基盤、産業基盤が不可欠である。このため、以下の方針により、その強化・充実を図ることとする。

  •  宇宙開発利用を支える技術基盤の強化・充実を図る。
  •  民間への技術移転や民間との連携を一層活発化するなど、産業基盤の強化を図る。

(技術基盤の強化・充実等)

 宇宙開発利用を支える技術基盤の強化・充実を図るためには、システムレベル及びコンポーネント・部品レベルのそれぞれで基盤的な技術力の抜本的な強化が不可欠である。
 このため、衛星に関し、システムレベルでは、信頼性向上、開発の短期化・効率化、軽量化等による国際競争力のある衛星バスシステムの確立を目指し、研究開発を進める。また、コンポーネント・部品レベルでは、衛星の信頼性を決定付ける機器や海外からの調達に問題のあるものなど我が国の自在な宇宙活動にとって重要なもの、我が国の優位性を発揮できるもの、システムの国際競争力の確保に重大な役割を果たすものの中から精選し、必要に応じて国際的な連携も活用しつつ開発を進め、安定的な供給を確保する。いずれの場合も、システムレベルでの頑健性(ロバスト性)及び機能保障性(サバイバビリティ)の向上を重視する。さらに、衛星通信技術など、衛星の性能向上や信頼性向上に不可欠な共通基盤技術の高度化を進めるとともに、宇宙開発利用を支えるため、地上系の施設・設備の開発・整備及び静止軌道上のデータ中継衛星の高性能化を進める。

 これらの研究開発に際しては、事前に十分な予備検討・地上試験を行うとともに、小型衛星や超小型衛星を活用した宇宙実証を積極的に行い、必要に応じて技術試験衛星による技術実証を行う。

 将来の社会ニーズへの対応や新たな利用の創出を目指した先行技術に関しては、例えば、衛星分野では、高分解能の光学観測のための大型ミラー技術、搭載機器の小型化を実現する光衛星間通信技術、地上携帯電話との共用を可能とする大型展開アンテナ技術等について、最終的に衛星やロケットに搭載・装着してシステムとして運用を行う段階を念頭に置きつつ、研究開発を進める。

(産業基盤の強化)

 我が国の宇宙開発基盤の強化・充実を図るには、宇宙機器の製造等を担う民間部門が健全で強固であることが不可欠である。しかしながら、この分野を担う民間部門は、全体として脆弱化しつつあり、我が国の宇宙開発の脆弱化につながるものと危惧される。
 このため、民間部門における開発機会の増大による基盤の強化が必要であるが、そのためには、官需による開発機会を基礎としつつ、民間部門が、新たな市場を開拓する等により、官需だけではなく、国内外における民需を獲得できるようになることが最も肝要である。機構としても、市場の動向を見据えた技術開発を行い、その成果の民間への技術移転や民間との連携を一層活発化するなど、国際市場での競争力を保つことが出来るよう努めることとする。その際、中小企業の宇宙分野への参加の促進に留意する。
 このような産業基盤の強化に向けた取り組みを通じて、宇宙産業が将来の我が国の基幹産業に発展することを期待する。

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