3.研究開発利用システムの改善

(1)人材育成

 宇宙開発利用を我が国においてさらに発展させていくためには、高い専門性や技術力を持つ研究者・技術者やプロジェクトを広い視野でマネジメントする能力を有する人材を確保・育成していくとともに、幅広い分野において、宇宙への理解・関心を持った人材を育てていくことが必要である。
 このため、以下の方針により、人材育成を進めることとする。

  •  宇宙への理解・関心を持った研究者・技術者を志望する若者の裾野の拡大と高等教育段階における実践的な教育・訓練の充実を図る。
  •  段階に応じた研究者・技術者の資質向上と体系的なキャリア・パスの整備を行う。

(大学、産業界等との連携)

 機構は、宇宙科学から利用を見据えた研究開発まで一体的に行う中核機関として設置されていることから、この特性を活かして宇宙開発全般にわたる幅広い人材の育成を積極的に行っていくべきである。

 このため、我が国の宇宙開発利用の持続的な発展に不可欠な、未来を担う人材の質と量を幅広く確保するため、小・中・高等学校に向けた教材の開発や専門家の派遣など、全国の教育委員会や各学校との連携により、研究者・技術者を志望する若者の裾野の拡大を図る。宇宙開発利用は夢にあふれ、若者を引きつける魅力を持った科学技術分野の一つであるため、このような取組は、宇宙分野に留まらず、広く若者の理工離れを食い止めることにもつながることが期待される。

 高等教育段階においては、連携大学院等による大学院への教育協力や、大学等における超小型衛星プロジェクト等の実践的な教育研究活動への支援を充実するとともに、システムズ工学等の宇宙開発利用講座への協力、共同研究、人材交流を進め、各大学と一体となって、次代の先端的な研究開発や基礎・基盤的な技術等を担う研究者・技術者を育てることが必要である。

 産業界との連携においても、機構と民間企業との共同研究を一層促進し、世界水準のシステムズ工学の手法の実践等を通じて、企業における優れた人材の育成に協力する。

(機構の研究者・技術者の育成)

 さらに、機構の研究者・技術者については、今後の日本の宇宙開発を担うべき人材であり、国際的に活躍することが期待されていることに鑑み、世界水準の専門技術・基礎研究能力を身につけると同時に、事業企画能力、システムズ工学能力及びプロジェクト管理能力を、涵養すべき中核的能力と位置づけ、中長期的な視点から戦略的な人材育成を行うことが必要である。このため、若手、中堅、管理職のそれぞれの段階に応じた目標を設定するとともに、専門技術やプロジェクト管理等の職務系統に応じた体系的なキャリアパスを設定した上で、必要な人事制度の改善や研修制度の整備を行う。
 若手・中堅職員については、開発期間が比較的短い小型衛星プロジェクト等への一定期間の参画により、計画から打上げまで一貫した業務を経験させるなど活躍の場を提供し、大型プロジェクトへの参加に備えて課題解決能力を習得させるとともに、異分野交流によって広い視野を持たせるようにする。
 また、管理職については、管理能力の強化や専門性の深化など職務に応じた能力開発を行うとともに、科学的・技術的側面のみならず、社会的・経済的側面にも配慮した経営管理能力の涵養を図る。

(2)日本の総力の結集と成果の社会還元

 宇宙開発利用は、大学等による高い専門性の上に立つ研究活動、産業界による事業化に向けた開発、国や公的機関によるリスクの大きな研究開発や技術実証、大規模な施設の整備等、産学官の各セクターがその役割を十全に果たし、国の総力を結集して取り組むことが肝要である。
 また、宇宙開発利用は、直接的に国民生活に影響を及ぼすだけでなく、様々な分野への潜在的な波及効果を秘めており、国民生活の質の向上や、イノベーションの実現による新たな産業の創出につながることが期待される。
 このため、以下の方針により、我が国の総力を結集して宇宙開発利用を進めるとともに、成果の社会への還元を積極的に進めていくこととする。

  •  産学官の各セクターの有機的な連携を確立する。
  •  宇宙発のイノベーションの実現を目指す。
  •  宇宙の実利用分野の拡充と副次的成果も含めた成果の積極的な社会還元を行う。

 高度なミッションの実現や宇宙の利用を社会に定着させるため、研究開発成果等の研究開発情報の発信機能を強化するとともに、産学官の適切な役割分担の下で、産官共同プロジェクト、大学との包括的な協力、共同研究等を通じて、各セクターの有機的な連携を促進する。
 産業界や大学等との人材交流は、経済社会におけるニーズの的確な反映や最先端の科学的知見の導入という観点から重要であり、積極的に進めることが必要である。

 また、機構が所有する大型試験施設・設備等については、産業界を含めた利用者の意向を十分に踏まえ、その供用の促進を図る。

 さらに、宇宙に対する「しきい」を下げ、新産業の創出を促進するため、宇宙以外の分野から多様で新しい発想を持った参入者を取り込み、異分野の技術や事業企画等を融合する活動を行うとともに、中小型衛星や小型副衛星を活用した宇宙実証等の機会の積極的な提供を図る。
 加えて、宇宙開発による先端的技術開発の成果の副次的活用(スピンオフ)についても、さらなる創出に向けて積極的に取り組む。この一環として、機構が保有する知的財産の利用を促進するため、休眠特許等の発掘、シンポジウム等を通じた利用者の発掘や技術の民間移転をさらに積極的に推進する。

 このような一連の取組を通じて、多大な投資によって得られた宇宙開発利用の成果による便益を国民・社会に還元することにより、さらなる宇宙開発利用の推進へとつなげる正の循環を確立するとともに、宇宙発のイノベーションの創出を目指す。また、このような取組は、プロジェクト等の価値を高めることにもつながるものであり、最大限の努力を行っていくことが必要である。

(3)戦略的な国際協力の推進

 我が国は、宇宙先進国の一員として、宇宙開発利用による人類全体の発展や地球規模の諸問題の解決等に貢献し、我が国の国際的な地位をさらに向上していくことが必要である。その際、宇宙開発利用が人類共通の課題への挑戦であることに加え、技術等の相互補完やコストの面から、国際協力の枠組みを活用していくことが有効である。
 また、宇宙開発利用の成果は、国際的な評価や影響力にもつながるものであることから、これまでの国際協力の実績と経験を踏まえ、自律性を保持した上で、得意な分野等において我が国がリーダーシップを取り、存在感をアピールできる形で国際協力を進めることが肝要である。
 このため、以下の方針により戦略的な国際協力を進めていくこととする。

  •  国際協力の枠組みを積極的に活用していくこととし、参加に当たっては自律性を保持し、他国と相互的かつ協調性のある関係を構築することに留意する。
  •  我が国発の国際枠組みを活用し、日本の優れた宇宙技術を世界、特にアジア太平洋地域等に展開することで、我が国の地位向上及びリーダーシップの確保を図る。

 人類共通の課題の解決等に向け、我が国としては、自国だけでは達成し得ない大きな成果を上げるため、国際協力の枠組みを積極的に活用し、日本の優れた宇宙技術を世界に展開していく。
 我が国が国際協力の枠組みに参加するに当たっては、国際宇宙ステーション(ISS)計画等の従来の国際協力プロジェクトにより築いた国際的な信頼関係を継承するとともに、その経験を踏まえ、我が国の自律性を保持することに留意し、相乗的な効果が見込まれるような形態で参加する。
 特に、アジア太平洋地域においては、我が国のイニシアティブの下に構築したアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を活用するなどにより、地球観測衛星等を利用した災害危機管理のためのシステムの構築への貢献、国際的な利用が可能な温室効果ガス等の地球観測データの提供、宇宙開発利用の成果の展開、人材育成への協力を進めるなど各国の宇宙活動の支援を行い、我が国の国際的な地位の向上及びリーダーシップの確保を図る。

 国際協力を進めるに当たっては、国際的な信用と評価を維持するため、「宇宙条約」、「国際宇宙基地協力協定」等の宇宙の開発及び利用に関する条約その他の国際約束に従うほか、諸外国との科学技術協力協定等に基づく会議における活動等により、関係機関との連携を図る。
 なお、宇宙条約等の国際約束のために必要な国内法整備のあり方については、昨今の民間等による宇宙活動の状況を踏まえつつ、関係省庁との綿密な連携の下に検討を行う。
 また、研究開発により得られた技術・情報が、輸出等により国際的な平和と安全の維持を妨げることがないよう、国際的な枠組み及び我が国の輸出管理規制の下で適切に対応する。
 加えて、地上環境の保全への配慮はもとより、宇宙環境についても、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を極力増加させないよう、環境との調和に配慮した宇宙開発の推進に努めるとともに、宇宙の環境を保全するための国際的な連携の確保に取り組む。

(4)国民の支持の獲得と国際社会での影響力の維持・強化

 宇宙開発利用は、人類共通の知的資産となるものであるが、その推進には、長期にわたる研究開発と多額の資金が必要とされるため、その活動状況や成果を積極的に発信することにより、国民・社会の支持を得ていくことが不可欠である。さらに、宇宙開発の優れた成果等は、我が国の国際社会での影響力を維持・強化することにも大きく寄与する。
 このため、以下の方針により、我が国の宇宙開発について国内外に向けた広報・普及活動を展開していくこととする。

  •  国民の支持を獲得するとともに、国際社会での我が国の影響力の維持・強化に資するべく、積極的に広報・普及活動を実施していく。

 宇宙開発利用の魅力や、我が国の宇宙開発利用の目的と成果、国民への成果の還元について透明性を高め、説明責任を果たすべく、適時適切に積極的な広報・普及活動を実施し、国民の支持を獲得する。
 具体的には、従来から行われている、ホームページやパンフレット等による広報、施設公開やシンポジウムの開催等を一層充実させるとともに、対象とする人々の関心度等に合わせた企画による一般向けの対話型・交流型のアウトリーチ活動、博物館や科学館等の社会教育施設との連携、特別番組の制作・放映への協力などマスメディアを通じた広報など、効果的な手法を講じることにより、広報・普及活動の充実を図る。
 また、宇宙教育の強化・充実を図るため、次世代を担う青少年のために教育現場支援を行うとともに各種の体験・参加型プログラムを実施する。
 さらに、優れた成果等は、我が国の国際社会での影響力を維持・強化することにも大きく寄与することから、国外に向けた広報・普及活動についても、積極的かつ効果的に行うことが必要である。
 なお、宇宙分野における情報の公開にあたっては、宇宙開発に関する情報管理についての国の方針に従い、技術情報等の機密性に十分に配慮することが肝要である。

(5)宇宙航空研究開発機構の運営の強化

 宇宙開発利用は、高い専門性や技術力の集約の下に、多くの人員と資金を投入した大規模かつ長期にわたるプロジェクトによって実現される。このため、プロジェクトの確実な推進と成果の創出に当たっては、組織として高い研究能力や技術能力が必要であるとともに、適切な選択と集中の下に、人材や予算の効果的・効率的な運用、コストやリスク、スケジュール等の観点からのプロジェクトの進行管理等の経営・管理能力が強く求められる。このため、機構の運営の強化について、以下の方針によりさらなる改善を行うこととする。

  •  世界最高水準のミッション遂行能力の獲得・維持に向けて、研究能力及び技術能力を涵養する。
  •  組織としての経営・管理能力をさらに強化するとともに、より厳格な評価を実施する。

 機構は、宇宙分野の基礎研究から利用を見据えた研究開発等を一体的に行う中核機関であり、その機能と役割を果たすためには知の集積拠点としての研究能力・技術能力及びプロジェクトの実施主体としての経営・管理能力をバランスよく高めていくことが最も重要である。
 そのため、専門性の深化や課題解決能力の習得など、世界最高水準のミッション遂行能力の獲得・維持に向けた研究能力及び技術能力の向上の重要性を機構の経営部門や技術者・研究者に徹底させるとともに、そのための環境を整える。

 また、組織として一貫性を持って戦略的に事業の優先順位付けを行うなど経営・管理能力の強化を行う。
 さらに、安易にコストの増加や開発期間の延長等を招かないよう、開発移行前の研究段階において十分な技術的リスクの低減(フロントローディング)を実施した上で、開発移行後も不断にリスク管理を行うなど、事業の進捗管理についても強化を図ることが必須である。これらにより、計画の実施状況を把握するとともに、計画の大幅な見直しや中止をも含めた厳格な評価を行うための経営レベルでの適切な管理体制を確立する。
 この際、工程管理という視点はもとより、目標達成のために資源を最大限かつ柔軟に活用するための経営・管理を行うよう留意することが必要である。
 また、経営の観点から、予算の効率的な執行及び自己収入の確保についても努力をしていくことが必要である。

 また、万が一トラブル・不具合等が発生した場合には、根源的な原因究明を行い、他のプロジェクト、部署に適切に反映させる。重大な事故・不具合等が発生した場合には、宇宙開発委員会による調査等を踏まえ、適切に対策を講じる。

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