日本火山学会

地震及び火山噴火予知研究計画の次期計画検討にかかるアンケート調査結果(様式1)

実施機関名(氏名) 日本火山学会 

(複数の会員から回答があり、学会として一本化することはせず、意見を併記)

1. 次期計画骨子(案)について

(「次期計画骨子(案)」の構成(大・中・小項目の区分や内容等)について、重複しているもの、漏れているもの、構成にないもの等について、ご意見があれば記入願います。また、構成全般についても、ご意見があれば記入願います。)

  • (2-2)火山噴火準備過程と噴火ポテンシャル(火山)の部分に、「マグマ溜まりの物理条件(規模、深さ、温度、含水量、結晶量)の推定」という内容が入ると良いと思う。
  • (3-2)火山噴火過程と噴火様式(火山)のオ.統合的噴火モデルの構築、について、具体的に、近年の火山噴火についての取り組みがおこなわれることが望まれます。
  •  「次期計画の具体的な内容策定方針」の4にある「予知研究の成果を防災・減災対策につなげていくため方策を策定する」は、きわめて重要な事項と考えられるが、それをどのようなデータにもとづいてどのように策定するのか、それが「内容骨子(案)」のどこに対応するのかが非常に漠然としている。そもそもこのような方策は、限られた知識と経験をもった人間だけをクローズした場所に集めて人知れず策定されるべきものではなく、方策の研究そのものが基礎研究のフロンティアと言うべきものである。平成14〜18年度特定領域研究「火山爆発のダイナミックス」計画研究A05班では、まさにこのような予知研究の成果を実際に社会の災害軽減に役立てるためのさまざまな基礎研究を展開し、着実な成果を挙げてきた。また、これまでの噴火予知研究がピュアサイエンスに偏りすぎていたことが、2000年三宅島噴火対応の遅れの一因となったことは否めない。とくに、噴火予知連の実態が噴火の直前予知を主目的とした火山専門家集団であるのに対し,実際には減災のためのあらゆる総合判断と減災対応への助言を社会から期待されるという齟齬が表面化している。このような齟齬を少しでも埋めていくためにも、地震・噴火予知研究の一部を、成果の還元方策を探るための基礎研究に振り向けるべきである。具体的には、「策定方針」の4を「予知研究の成果を防災・減災対策につなげるための基礎研究を進め、その成果にもとづいた減災方策を検討する」とし、「骨子(案)」の4の(1)として「地震・火山噴火予知研究の成果を防災・減災対策につなげるための基礎研究の推進」を挿入すべきである。

    以下、参考:
    平成14〜18年度特定領域研究「火山爆発のダイナミックス」計画研究A05班ページ:
    http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/a05kazan/
    (※火山爆発のダイナミックスホームページへリンク)
    http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/a05kazan/kk_team/
    (※火山爆発のダイナミックスホームページへリンク)
    小山真人(2005):火山に関する知識・情報の伝達と普及-減災の視点でみた現状と課題-.火山,50,S289-S317.
    http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/onlinepaper/K2005b.html
    (※静岡大学教育学部総合科学教室小山真人研究室ホームページへリンク)

2. 新計画の名称について

(「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」及び「第7次火山噴火予知計画」を統合する方向で検討することから、新計画の名称についてご意見があれば記入願います。)


地震及び火山噴火予知研究計画の次期計画検討にかかるアンケート調査結果(様式3)

実施機関名(氏名) 日本火山学会 

(複数の会員から回答があり、学会として一本化することはせず、意見を併記)

1. 若手研究者の確保も含めた人材養成への対応

  •  すべての教官、指導的立場にいる者が、研究を進め成果の論文発表を指導できる力量があるとは必ずしもいえない現状です。優れた研究者は優れた指導者のもとで育つと考え、人材の流動性を高め、年齢を問わず優れた業績を上げている研究者のもとにポスドクや学生を雇用できる予算をつけ、多くの若手研究者があつまるような体制ができれば、人材の養成につながり、日本の研究レベルはさらに上がると思います。日本の観測や研究体制は世界のトップクラスであるので、優れた研究者の数が増えればそれに比例して研究は進むと思います。
  •  これまで、火山関係ではこの分野に対する具体的な方策の実施がなかったように思う。今後、学生側から見て火山の学習・研究の窓口の役割をはたす協力講座の拡充を推進するべきである。特に火山関係では、これまで遠隔地に位置することが多い観測所およびそのスタッフが研究の傍らで教育に携わるケースがほとんどであったので、教育される側の学生にとっては糸口をつかみにくい。あるいは、インターンシップ教育のシステムを拡大して、予知事業に関わる機関でもある程度学生の受け入れ・指導を行うことも考えられるのではないだろうか。

2. 観測研究の縮小が危惧される観測・監視体制の維持への対応

  •  現状で、どの機関がどこの観測で、どの測点を維持するのに、いくらお金をかけているかを公開していただきたいです。すでに資料のようなものがあるのかもしれませんが、常勤、非常勤を問わず研究者ならだれでも簡単に閲覧できるようなものがあると良いと思います。地震予知計画や火山噴火予知計画でどのように人材やお金が使われているのかを総合的に把握している人はあまりいないのではないでしょうか。できるだけ公開していただきたいです。
  •  日本の観測体制は世界のトップです。ただ、私の専門の火山物理学を例にとると、イタリアのエトナ火山のように多種多様な観測を高密度で行えており、世界トップクラスの成果を上げている例はほとんどないのが現状です。やはり、ある場所に集中して観測網をしくことは、これまで気が付かなかった発見につながりやすく、大きな成果が望めると思います。最近の伊豆大島火山の観測体制は充実しており素晴らしいと思いますので、このような体制構築に集中的に人員と予算を向けることが重要だと思います。重要なことは、このときに他国で行われていない実験的な観測を多く取り入れることだと思います。
  •  日本のランクB、Cの火山の多くは、大学による火山観測からはずれ、さらに大学の火山観測自体の縮小が余儀なくされている中で、地震予知計画と連携した火山噴火予知次期計画の策定は心強い。これまでの大学の火山観測では、プレート境界型大〜巨大地震と火山噴火が相関していることを意識した噴火前を含む火山の地殻変動把握のための観測網の構築ができなかった。今回地震予知計画と連携するに当たっては、より火山に近づけた電子基準点を増やし、観測は国土地理院が行い、データ解析はほぼリアルタイムで大学研究者も自由に行えるようにすることが良い。特に噴火が迫っていることが予測される火山では、より火山に寄せた電子基準点の数をさらに増やすことで成果を出して欲しい。
  •  一部の観測項目の見直しや、観測サイクルの見直しが必要であると考える。

3. 国際共同研究の推進への取り組み

  •  火山については、火山が特に分布する国はかなり限定されているので、火山について基礎研究、観測、防災など認識を共有しやすい。ここに着目して、比較的限られた国の間(研究先進国と開発途上国)において、火山噴火予知計画を推進するため、現況と今後あり方についての共同研究事業を積極的にすすめるのは有効性の高いプロジェクトである。
  •  活動中の火山を求めて海外の機関との共同研究を推進してケーススタディの蓄積をはかるのは良い考えであると思う。国内で定常的に噴火活動を行っている火山が少ない現状では、噴火イベントがなければ予知事業に関するケーススタディ、(特に爆発現象など)に関しての蓄積が進まない。

4. 研究成果の社会への還元(国民や防災担当者への理解増進を含む)

  •  気象庁と内閣府で本年度からの、防災体制を考慮した新しい火山情報の策定が予定されている。しかし、この情報が出されても、現在の自治体では、それに応したダイナミックな火山防災体制の構築はかなりしきいが高いと思われる。そこで、火山噴火予知計画のなかに、こうしたあたらし火山防災体制構築を支援するためのプロジェクトを新たに組み入れることで、基礎研究、観測システムなどの研究成果がより社会還元性の高いものとなる。その結果、火山噴火予知計画の推進の必要性が社会的にも理解を得られやすくなる。
  •   Webでの情報公開をさらに進めればよいと思います。日本地球惑星科学連合ニュースレター(Japan Geoscience Letters : JGL)にたくさんのリンクをはって宣伝するとよいと思います。最近、研究機関や学会、研究者のホームページが充実してきて素晴らしく感じています。
  •  現在、地震調査研究推進本部のニュースとして「月刊地震レポート サイスモ(SEISMO)」が刊行され、地震・津波・火山の情報が提供され、防災担当者の理解を深めることに貢献している。地震予知と火山噴火予知が連携することを機会に、「SAISMO」の火山情報の充実を期待したい。
  •  一定レベル以上の火山に関する理解をもった人材供給を続けることこそが、このテーマに対する大学の最良・最適な答えであると考える。

5. その他

  •  火山に限って、観測研究を行う予算人材があまりに少なすぎる。大きな噴火が起これば、その後予算が増えるのかもしれないが、それでは人材の育成にはならない。1.に関連するが、実験的観測ができ、きちんと結果を発表できる指導者、若手を普段から応援する制度があればいいと思います。
  •  「実施内容骨子」のうち,3−(1)−ウに関連して
     私は文科省特定領域研究で火口近傍などでの噴火観測を行う新しい機器‘火山探査移動観測ステーションMOVE)’の開発を進めてきました.私のグループでは,噴火観測用のドップラーレーダーや投下型のGPS観測機器の開発も行われ,一応の完成をみたのですが,今後の運用に関して数多くの問題を抱えています.動かすための人員,訓練や予算に関する問題はもとより,保管場所にさえ頭を痛めています.気象庁などでも同様の問題があるようですが,このままでは火山噴火予知に関して新しい技術開発をおこなっても,結局は運用されることもなく忘れ去られてしまうのではないかと危惧しています.この点にかんして,実際に運用を可能にするための,なにか新しい仕組みを考えておく必要があると思います.時間がないので要点のみで失礼します.
  •  過去の火山噴火で得られたデータの解析・解釈、及び一般の火山現象に関する解釈には、必ずしも確立されていないものが多い。新しいデータを追求することも必要であるが、上記を解決することは、火山学の本領であり、また噴火予知にも役立つであろう。日本火山学会はかって「仲良しクラブ」的であると言われたように、甲論が出ても、概して、乙駁が出ないようである。そのため、大事な現象に関する解釈が、実は未解決のままになっていることがある。

    小生の浅学の故に、或は先入観の故に誤解があるかも知れないが、思い付くままに以下に列挙する:
    •  有珠山の過去の火砕流の発生機構(ドーム崩壊と判っているものは除く)、
    •  有珠2000年噴火の際のマグマの動き;どのくらいの深さから、如何に?
    •  三原山1986年噴火の際のマグマの動き;伊豆大島南東部にマグマが貫入したか?
      (全島避難の措置は学問的に正しかったか?)
    •  三宅島2000年噴火の初頭に、西方海域で、真に海底噴火があったか? その後、マグマは何処へ移動したか? その機構は?
      山頂火口の陥没の機構は?
    •  手石海丘1989年噴火の際のマグマの動き;将来、他の地点で発生する可能性は?
      伊豆半島の単成火山、及び一般の単成火山の研究を更に進めるべきであろう。
    •  阿蘇カルデラ南西部のボーリングにより、地表下約1.5キロメートルにAso-4火砕流が厚さ200メートル堆積していることが発見されたが、これを如何に解釈するか?
    •  姶良カルデラの活動源と桜島の活動源との関係は?
    •  姶良カルデラ縁の大崎鼻は、何故顕著な地震群を伴わずに隆起したか?
     この種の問題の解明は基礎研究につながり、また、噴火予知にも役立つものと思われる。これらの研究のために、人員、予算を投入することは決して無駄ではないであろう。

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