(1)海洋研究船に対するニーズ
海洋に関する研究分野は海洋物理学、地球環境観測、海洋化学、生物海洋学、海洋生物学、極限環境生物学、海洋地学、水産学、海洋工学など非常に多岐に亘るとともに、海洋研究船でなければ効果的かつ効率的に調査・観測できない項目も存在する。海洋研究船の整備に当たっては、それぞれの研究分野の観測に応じた研究施設・設備が求められる。
海洋における主な研究分野において研究船での調査・観測が特に必要とされる研究項目を例示すると、以下のとおりである。
- 海洋物理学分野に関しては、深層までの海洋循環の形成と大気との相互作用による循環の変動、とりわけ地球温暖化に伴う海洋構造の変化の検出等についての調査・観測を行う必要がある。これらのデータの多くは、化学、生物関係の研究を行う際の基礎データとなる。
- 地球環境観測分野に関しては、海洋と大気の相互作用の解明とエルニーニョ現象など気候変動予測を目的として、海洋大気観測ブイを展開している。
- 海洋化学分野に関しては、海洋の物質循環や温室効果気体の海面における交換と海水溶存、海洋深部での蓄積等についての調査・観測を行う必要がある。
- 生物海洋学・海洋生物学分野に関しては、生物の種の生活史や各種生物群集の持つ代謝活性、海洋汚染の生態系への影響等についての調査・観測を行う必要がある。特に、各層のプランクトン群集などの微小生物を層ごとに採取することや、採取した生物を船上で培養・飼育して研究に使うことが必要である。
- 極限環境生物学分野に関しては、熱水墳口、海底下など極限環境における独立栄養生物についての研究を推進する必要がある。潜水船や無人探査機で生物を生存状態のまま観察採集し,サンプル採取地点の現場の環境で飼育することが必要である。
- 海洋地学分野に関しては、プレートテクニクス、地震発生過程、海底下の地球構造や海底鉱床の形成過程や資源探査及び採取に関する研究を行う必要がある。また、精密な海底地形探査やコア試料採取は、地殻形成過程の解明や古環境復元、そして海底の位置情報の把握の点で必要である。
- 水産学分野に関しては、生物資源量の変動の把握や生物資源の持続的利用等についての調査・観測を行う必要がある。
- 海洋工学分野に関しては、船舶の性能向上、潜水調査船、船舶機器及び観測機器に関する技術開発を行う必要がある。
その他、南極海や北極海等の極域における調査・観測に際して研究船は十分な耐氷性能が必要である。また、深海底層域、海溝域の大深度での調査・観測、人間活動とも密接に関係する沿岸域・浅海域での調査・観測を行うことも必要である。
また、将来的には、海洋の長期変動を監視するために中長期的な継続観測を行う定点観測のためのステーションを整備し、併せて当該観測点を維持するために海洋研究船を運用することが望まれる。
加えて、海洋研究船は海洋研究者・技術者の育成の場でもある。研究船の乗船を通じて海洋学の基礎的観測手法を教員等からの指導を受け、試料、データを自ら解析する作業は海洋研究や若い技術者養成に必須である。また、乗船の研究に従事した国内外との研究者とのつながりが、その後の研究の発展につながり、国際的な研究を展開する場になっている。このようなことを踏まえ、可能な限り多くの学生、大学院生及び教員が乗船を可能とすることが必要である。
海洋研究船には、以上をはじめとした多様なニーズが存在しており、我が国の海洋研究船全体として、これらの多様なニーズへの対応が求められる。