1.はじめに

 海洋は、地球の全表面の約7割を占めており、40億年以上にわたって地球環境の調和機能を果たすとともに、生命の誕生と進化の主要な舞台であり、加えて、水産資源、海底資源や海上交通など、我々人類の生活に不可欠な存在であり続けている。
 また、我が国は、四方を海に囲まれ、国土面積の約12倍の排他的経済水域(EEZ)を有する海洋国家であり、これまでも海洋からの恩恵を享受する一方、その脅威にさらされるなど、我が国においては、海洋の存在は国民生活に密着している。
 文部科学省科学技術・学術審議会海洋開発分科会は、このような海洋の持続可能な利用を実現するための10年程度の長期政策ビジョンとして、「21世紀初頭における日本の海洋政策」を平成14年8月に取りまとめた。この中では、海洋の持続可能な利用を実現するためには、「海洋を知る(海洋研究)」、「海洋を守る(海洋環境保全)」及び「海洋を利用する(海洋開発)」のバランスの取れた政策への転換が重要であると指摘しており、特に「海洋を知る」ことは、海洋を守り、海洋を利用する政策を適切に実行するための前提として必要不可欠であるとしている。
 また、平成19年4月には、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため海洋基本法が制定されているが、この中においても第4条に「海洋の開発及び利用、海洋環境の保全等が適切に行われるためには海洋に関する科学的知見が不可欠である一方で、海洋については科学的に解明されていない分野が多いことにかんがみ、海洋に関する科学的知見の充実が図られなければならない。」と明記されている。また、基本的施策として、海洋調査の推進、海洋科学技術に関する研究開発の推進等が位置付けられている。
 海洋を知るためには、人工衛星での調査・観測のほか、調査・観測点の設定が柔軟であること、調査・観測項目が多様であること、海面から深海底そして海底下までの調査・観測が容易であること、潜水船や無人探査機を運用する必要があること、といった観点から、船舶を利用した実海域での観測・調査を行うことが不可欠であり、これを達成するため、各国においても船舶の整備を行い、継続的かつ詳細な海洋の調査・観測を行っているところである。なお、船舶には、海洋研究船、海洋実習船、官公庁船等あるが、本取りまとめでは、研究者が研究の利用に供する海洋研究船について検討を行った。
 海洋国家である我が国においても、海洋研究船を継続的に整備するとともに、幅広く国内の研究者の利用に供することにより、今後とも海洋に関する知見の蓄積と科学技術の水準の向上を図り、国民へ貢献していくことが不可欠である。
 我が国の海洋研究船の整備を振り返ると、国公私立大学の研究者の共同利用に供するため、東京大学海洋研究所(以下、「海洋研究所」という。)において海洋研究船の整備及び運用が図られるとともに、国の政策課題に対応しつつ、かつ、研究者の利用に供するため、海洋科学技術センター(現独立行政法人海洋研究開発機構)において海洋研究船の整備及び運用が図られてきた。
 一方、平成13年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」を踏まえ、海洋科学技術センターと海洋研究所の組織の一部(研究船及びその運航組織)とを統合し、新たな独立行政法人海洋研究開発機構(以下、「海洋機構」という。)を設立することにより、海洋研究に必須の研究基盤である海洋研究船の効率的な運航体制を整備することとされた。このため、現在、海洋機構においては、地球深部探査船「ちきゅう」のほか、海洋科学技術センター時代から所有している5隻の海洋研究船(「なつしま」、「かいよう」、「よこすか」、「かいれい」及び「みらい」)を運用するとともに、海洋研究所から移管された「淡青丸」及び「白鳳丸」の運航を実施している。
 しかしながら、これらの海洋研究船のうち、昭和56年に建造された「なつしま」は船舶の標準的な限界船齢である25年を越え、また、昭和57年に建造された「淡青丸」も船齢25年を迎えている。このように、海洋研究船の老朽化が進むなか、海洋国家として、これからの海洋研究の目標及び目標達成に必要な機能や観測設備を明らかにし、今後の海洋研究船の整備のあり方を取りまとめるとともに、その運用体制についても再検討し、我が国の海洋に関する調査・観測水準の向上を図る必要がある。
 海洋研究船委員会(以下、「委員会」という。)においては、上記のような問題意識を踏まえつつ、海洋研究船を用いた研究に対するニーズを取りまとめるとともに、海洋研究船の機能を整理し、我が国が継続的に整備及び運用を行う必要のある海洋研究船の全体像について議論を行った。また、併せて、船齢を重ねた海洋研究船に代わって早急に整備すべき海洋研究船に求められる具体的な機能、施設及び設備について検討を行った。さらに、今後のあるべき運用体制のあり方について検討を行った。
 政府においては、これらの趣旨を踏まえつつ、早急かつ継続的な海洋研究船の整備・改修を図ることが強く望まれる。

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