第2編 第4節 ドイツ

1.教育基本計画の法的位置づけ、策定プロセス、計画期間

 ドイツでは連邦レベル(注1)において、生涯学習、学校教育、教育基盤整備といった教育政策全般に関する総合的な計画あるいは基本計画(およびこれらの準拠法に相当するもの)が存在しない。教育分野に対する連邦政府の関与は限られており、日本の憲法に相当する「基本法(Grundgesetz)」に特に定めのない限り、教育は州政府の所管とされている(同法第7条第1項、第30条)。また、教育の計画策定についても各州に委ねられている(注2)。
 教育分野において連邦が関与できるのは、基本法第91a条第1項に基づき、高等教育機関(大学病院/附属病院を含む)の拡張・建設に関わる部分とされていたが、同条項は2006年8月に削除された。91b条第1項において連邦政府は、「協定に基づき、全国的な意義を有する場合に、「大学での学術研究」に州と協力して助成することができる」とされていたが、同条項の内容は、「協定に基づき、国際的比較からみた教育制度の有効性ならびにこれに関連する報告書の作成(Bildungsberichterstattung)や勧告(Empfehlungen)において、連邦政府と州が協力できる」と改正され、連邦政府と州が共同で「国際比較研究」、「教育報告(注3)」などを策定することとなった。
 このほか、基本法第75条においては大学制度に関する大綱立法権を連邦に対し認めている(注4)。同法に基づき、連邦政府は「高等教育大綱法」(Hochschulramengesetz; HRG)を定めているが、高等教育大綱法においても計画策定についての規定は書かれておらず、連邦レベルでの基本計画は策定されていない。
 教育分野における全般的な権限を有する各州においては州法を定め、学校法(Schulgesetz)や高等教育法(Hochschulgesetz)など教育分野における個別法を定めており、また一部の州においては個別法に基づいた計画書を策定している。各州はそれぞれ教育分野を所管する省庁を有し、独自の教育行政を実施している。ただし、各州が全く独自に教育政策を展開しているわけではなく、各州の文部大臣が参加する「各州文部大臣会議」(Kultusministerkonferenz; KMK)が各州の教育政策・制度を調整し、ある程度、連邦としての共通の方向を維持しようとしている(同会議には法的拘束力はない)。
 以上の状況から、教育制度については州によって異なるため、本報告書では一例としてベルリン市州(注5)をとりあげ、当該市州の「学校発展計画」(Schulentwicklungsplan)を中心に、連邦政府の政策との関連や各州文部大臣会議による決議事項なども交えながら記述する形式となっている。

図表2-4-1 基本法の改正部分

(1) 法的位置づけ

 ベルリン市州「学校発展計画(Schulentwicklungsplan)」は、ベルリン学校法(注1)(Schulgesetz für das Land Berlin)第8編105条3項の条文「各市区(Bezirke)との協議により、学校監督官庁は学校組織の基盤を定め、学校発展計画(Schulentwicklungsplan)をベルリンのために策定すること」が法的根拠となっている。さらに同項において、「学校発展計画は本法律に適した多面的な教育提言を確実に行わなければならない」としている。

図表2-4-2 ベルリン学校法 第8編105条3項の原文

 Im Benehmen mit den Bezirken legt die Schulaufsichtsbehörde die Grundlagen der Schulorganisation fest und stellt den Schulentwicklungsplan für das Land Berlin auf, in dem der gegenwärtige und der zukünftige Schulbedarf ausgewiesen wird. Der Schulentwicklungsplan soll das diesem Gesetz entsprechende vielseitige Bildungsangebot sichern und die Entwicklung der Schülerzahlen, die Nachfrage der Erziehungsberechtigten sowie die Planungen und Angebote der bezirklichen Schulentwicklungspläne in Abstimmung mit der bezirklichen Jugendhilfe- und Sozialraumplanung einbeziehen. Die Planungen der angrenzenden Schulträger des Landes Brandenburg sind zu berücksichtigen.

(2) 策定プロセス

 本計画書の所管かつ策定者は、ベルリン市政府教育科学研究省(Senatsverwaltung für Bildung, Wissenschaft und Forschung)である。

(3) 計画期間

 本計画が対象とする期間は5年間で、2006〜2011年である。1999年からの計画を継ぐものであり、2003,2004年に策定された市区(Bezirke)ごとの部分計画に基づいている。

2.基本計画の体系

 ベルリン市州の本計画はドイツの初等中等教育の段階における、ベルリンの以下の各学校を対象とした計画書である。

 計画書は2部構成となっており、第1部は質的発展・質の確保について、第2部は量的な計画の基礎と、学校組織上の見地から描かれている。また、内容は以下の項目から成り立つ。少子化の急速な進展を背景に、将来の学校のあるべき姿を描いたものである。

1部 学校の質的発展のための施策(計画書p5〜75) 学校の責務の拡大
教育スタンダード
質の向上と確保
教員教育
全日制教育
学校種類の拡大
学校類型関連ならびに学科拡大の重点改革
人員と授業の供給
教育のコントロール
2部 学校ネットワーク計画・分析計画(計画書p76〜126) 量的な計画の基礎
学校組織と学校スペースの需要充足
教材・学習用品の最低基準
学校ネットワーク計画、学校ネットワークの発展
地区ごとの学校発展計画
特別プログラム
共同授業における特別の教育学的振興
継続した一般教養学校の領域における教育需要
職業学校、中央管理型の学校
ブランデンブルク州とのゲスト生徒協定
公益団体による学校(私立校)の発展

 ベルリン市州全体の学校計画である本計画をもとに、市区(Bezirke)ごとの学校発展計画が策定され、さらにすべての学校において「学校プログラム」(Schulprogramme)の策定が義務付けられている。学校プログラムにおいては以下の事項を含むこととされている(注1)。

3.基本計画における重点分野の有無

(1)ベルリン市州

 ベルリン市州の本計画書には重点分野についての明記はないが、計画書全体の6割近くが質的向上の側面に割かれている(第1部;全70ページ)ことから、現在、連邦政府として重点的に行なうことを奨励している「初等中等教育における学力の維持・向上(のための学校の質的向上)」の分野に注力していると思われる。

(2)ドイツ全体

 「初等中等教育における学力の維持・向上(のための学校の質的向上)」はドイツ全体における学童の度重なる成績不振に端を発している。いわゆる「PISAショック」と呼ばれるもので、OECD「生徒の学習到達度調査(PISA)」の2000年調査(2001年末に発表)において、ドイツの結果は1996年末の第3回国際数学・理科教育調査(TIMSS)の不振(「TIMSSショック」と呼ばれる)に続く最悪のものとなった。PISA2000年調査においてドイツは参加した32カ国中、読解力で21位、数学、自然科学領域で20位となった。また、習熟度レベル1〜0(最下位2レベル)の割合が22パーセントと高いものとなった。
 二度のショックにより学力に関する危機感が全国的に高まった。特にPISA調査では、基礎学校等の早期の学習段階に学習を怠ったため、中等教育では取り返しがつかなくなっているという指摘がなされ、就学前教育、初等教育のとりわけドイツ語教育の充実が求められる結果となった。「各州文部大臣会議」は教員組合を招いた緊急会議を2001年12月5日に招集し、今後の学校教育改善の優先課題として以下の7項目を設定した。

 PISAは2003年調査が2004年11月に公表され、ドイツは前回に比べ若干良好な結果を示した(41カ国中、読解力で21位、数学的リテラシーは19位、科学的リテラシーは18位)。しかし、依然として低レベルにあることから、各州文部大臣会議および連邦教育研究省の学力向上に向けての取り組みは続いている。

図表2-4-3 PISA調査におけるドイツの順位

  2000年調査 2003年調査
読解力 21位 21位
数学的リテラシー 20位 19位
科学的リテラシー 20位 18位
(参加国数) 32カ国 41カ国

図表2-4-4 PISA2003年調査におけるドイツおよびベルリンの平均得点

  読解力 数学的リテラシー 科学的リテラシー
OECD平均 494 500 500
ドイツ全体 491 503 502
(参考)ベルリン 481 488 493

4.主要施策の内容

 ベルリン市州の本計画書には多数の施策が記述されているが、中でも連邦政府においても重視されている施策は、「全日制学校の拡大」、「教育スタンダード(Bildungsstandards)」、「教員養成」、「情報・コミュニケーション技術教育とメディア教育の推進」の4つである。以下、それぞれの内容について、連邦政府とベルリン市州の施策内容をそれぞれ記述する。

(1)全日制学校の拡大

1ドイツ全体

 「全日制学校−投資プログラム“将来の教育と保育”」(Ganztagsschulen - das Investitionsprogramm "Zukunft Bildung und Betreuung"; IZBB)(学校の全日制化)は連邦(政府)が掲げた学校の全日制化の事業であり、2003年から2007年の期間において、ドイツ国内の基礎学校等をこれまでの半日制から全日制にするにあたって補助を行うというものである。主な内容は以下のとおりである。

2ベルリン市州

 この全日制については、ベルリン市州計画書の第7.2項に記述がある。なお、ベルリンでは2006年8月ですでにすべての基礎学校と総合制学校が全日制となっている。ベルリンでは2003年以前に旧東ベルリン地区において全日制学校がすでに数多く存在していたため、いち早く全校達成にこぎつけた。

(2)教育スタンダード

1ドイツ全体

 教育スタンダード(Bildungsstandards)としては、各州文部大臣会議が定めた全国共通のものが一部の学年についてのみ存在する(下表)。教育課程の基準は従来、各州が独自に決定してきたが、前述のPISAによる国際的学力低下が明らかになったことから、学力向上に向け、各州文部大臣会議が全国共通の到達目標(要求水準)を示した教育スタンダードの導入を2002年5月に提唱し、同年6月に当時のブルマーン連邦教育研究大臣が、同年7月にシュレーダー前首相もこの重要性を唱えた。これにより、同会議がスタンダードを設定することとなった。これ以降、このスタンダードに基づいて各州が教育課程の基準を定めることとなった。

図表2-4-5 全国共通の教育スタンダード
対象学年 対象教科 議案成立年月
4学年(初等教育段階最終学年) ドイツ語、算数 2004年10月15日
9学年(ハウプトシューレ修了段階) ドイツ語、数学、第一外国語(英語またはフランス語) 2004年10月15日
10学年(中級修了資格) ドイツ語、数学、第一外国語(英語またはフランス語)、 2003年12月4日
生物学、化学、物理学 2004年12月16日

2ベルリン市州

 ベルリンの計画書においては第3.1項および第4項にこの記述がある。例をあげると、初等教育第1〜5学年の教育課程(カリキュラム)の枠組みはベルリン市州に加え、ブランデンブルク、ブレーメン、メクレンブルク・フォルポメルンの各州と協同で作成されたことが記されている。算数の教育課程としては、専門知識の習得を行うとともに、本質的な内容にフォーカスをあてるところまで達しており、これにより、従来の中等教育領域のテーマを前倒ししている。
 ただし、ベルリン市学校法には教育スタンダードに関する記述はなく、教育スタンダードがベルリン市の教育カリキュラムにどのように反映されているのか、詳細は不明である。

(3)教員養成

1ドイツ全体

 PISAの成績不振を受け、各州文部大臣会議が掲げた教育改善の7つの優先課題(前述)の一つとして、教員の質の向上が挙げられていた。2004年12月16日に同会議で初めて全国共通の「教員養成スタンダード:教育諸科学」(Standards für die Lehrerbildung: Bildungswissenschaften)が決議された。
 このスタンダードでは、大学での教員養成及び試補勤務段階での養成の基盤となる諸能力を、「授業(Unterricht)」、「教育(Erziehen)」、「評価(Beurteilen)」、「革新(Innovieren)」の4領域に区分し、さらにそれらを細分して全部で11の能力として示し、それぞれについて理論と実践の両面の内容を示している(注1)。

2ベルリン市州

 ベルリンの本計画書の第6項においてこの教員養成について記述されており、さらにベルリン独自の教員養成プログラムなどが記されている。

(4)情報・コミュニケーション技術教育とメディア教育

1ドイツ全体

 教育システムにおける近代化は連邦政府にとって最も重要な課題の一つとしてとらえられている。PISA調査の追跡調査によると、コンピュータを大いに使用している生徒の読解力がすぐれているとの結果が得られた。そのため、連邦(政府)としては学校教育におけるコンピュータの導入を積極的に推進しており、あらゆる学科、あらゆる水準において、学校の教材をマルチメディア教育に変えることを目標としている。

2ベルリン市州

 ベルリンの計画書においては第9.10項において、e-educationに関する記述がある。ベルリンでは本計画書のほかに2005年8月25日に「e-educationベルリン・マスタープラン」(eEducation Berlin Masterplan)を策定している。

5.数値目標

 ベルリン市のそれぞれの施策に対する数値目標は立てられていないが、参考資料として巻末に、生徒数の予測、教師数の需要予測、空間占拠率予測などが挙げられている。ベルリンの初等中等教育における生徒数は、国全体と同様、少子化に伴い今後減少することが予測されている。

6.教育投資

(1)ベルリン市州

 ベルリン市の本計画書には、どの分野にどの程度投資するという予算内訳は記述されていない。投資額の明示があるのはいくつかのプログラムや施策に限られる。たとえば、「連邦政府のプログラム−学校の全日制化」の予算については以下のとおりの記述がある。
 ベルリン市州は計画期間中に生徒数に応じ、連邦政府から総額約1億4,700万ユーロの助成を受ける。2003年に約1,100万ユーロ、2004年〜2006年に各年約3,670万ユーロずつ、最終年となる2007年には2,570万ユーロを使うこととなる。なお、連邦補助金の少なくとも10パーセントにあたる金額を、全日制化する学校の運営者自らが負担しなければならないため、総額で1億6,350万ユーロが使われる。
 参考までにベルリン市州政府の2007年予算の内訳をみると次のとおりである。このうち、文化・教育関連予算は文化、学校、大学、大学以外の学問を合わせると、全体の21パーセントに上る。

図表2-4-6 ベルリン市州政府の政策分野別の2007年度予算

 ベルリン市州の文化・教育費についてその内訳をみると、下図のとおりであり、2007年総額は48.75億ユーロで、2006年の49.14億ユーロに比べ、わずかながら減っている。

図表2-4-7 文化・教育関連支出の予算内訳

  2006年予算(ユーロ) 2007年予算(ユーロ)
1 Bildungswesen, Wissenschaft, Forschung, kulturelle Angelegenheiten
教育、学術、研究、文化的事業
総額 4,913,937,800 4,875,217,500
11 Allgemeinbildende und berufliche Schulen
普通教育および職業学校(基礎学校ほか)
1,883,404,000 1,874,847,400
12 Allgemeinbildende und berufliche Schulen
普通教育および職業学校(職業学校ほか)
653,467,500 648,997,700
13 Hochschulen
大学
1,346,176,300 1,323,626,300
14 Förderung von Schülern und Studenten
学生・生徒等の育成
204,575,600 206,978,600
15 Sonstiges Bildungswesen
その他教育
37,837,000 37,490,800
  16 Wissenschaft, Forschung, Entwicklung außerhalb der Hochschulen
大学以外の学問・研究・振興
246,712,400 248,128,100
18 Kultureinrichtungen (einschl. Kulturverwaltung)
文化施設
426,579,400 419,565,300
19 Kulturförderung, Denkmalschutz, Kirchliche Angelegenheiten
文化振興、文化財保護、教会業務
115,185,600 115,583,300

(2)連邦政府

 ドイツの場合、教育関連予算は主として州、郡、市町村で実施するものとに分けられるため、全体の把握は難しい。また、連邦政府も若干の権限を有するものの、その負担は少なく、公的経費の約85パーセント(高等教育費では80パーセント)を州と地方が負担している。連邦政府は主として研究開発分野(高等教育中心)に重点配分している。参考として連邦統計局資料2003年歳出をみると、国が負担する大半は研究等、学校や高等教育以外の部分であることがわかる。

図表2-4-8 連邦、州、市町村の目的別歳出(2003年)

単位:百万ユーロ、かっこは割合

費目(一部費目は合算してある) 連邦政府プラス社会保障プラスEU出資分 市町村 合計
政治的指導・中央行政管理
Politische Führung und zentrale Verwaltung
4,334 7,058 12,844 24,236
治安・秩序維持、権利保護、財務管理
Öffentliche Sicherheit und Ordnung/ Rechtsschutz/ Finanzverwaltung
4,845 29,027 8,772 42,644
普通教育および職業学校(教育関連)
Allgemein bildende und berufliche Schulen
43割合0.1パーセント) 40,309割合80.1パーセント) 9,995割合19.9パーセント) 50,348割合100.0パーセント)
大学(教育関連)
Hochschulen
2,135割合10.5パーセント) 18,190割合89.5パーセント) 0割合0.0パーセント) 20,325割合100.0パーセント)
学生・生徒等の育成、その他教育、大学以外の学問・研究・振興(教育関連)
Förderung von Schülern, Studenten u. dgl./ Sonstiges Bildungswesen/ Wissenschaft, Forschung, und Entwicklung außerhalb der Hochschulen
8,397割合52.8パーセント) 5,427割合34.1パーセント) 2,058割合12.9パーセント) 15,894割合100.0パーセント)
文化・教会業務
Kultur, Kirchliche Angelegenheiten
359 3,630 4,366 8,355
社会保障・戦争に伴う社会支出・補償
Soziale Sicherung, soziale Kriegsfolgeaufgaben, Wiedergutmachung
502,099 24,135 39,842 566,076
保健・環境・スポーツ・レクリエーション
Gesundheit, Umwelt, Sport und Erholung
2,242 5,602 7,235 15,079
住宅・総合地域再開発計画・市町村共同体サービス
Wohnungswesen, Städtebau, Raumordnung und kommunale Gemeinschaftsdienste
1,247 4,993 17,197 23,436
食糧・農業・林業、光熱水道管理・商工業振興
Ernährung, Landwirtschaft und Forsten / Energie- und Wasserwirtschaft, Gewerbe, Dienstleistungen
20,278 12,211 1,903 34,393
交通・通信
Verkehrs- und Nachrichtenwesen
10,088 5,473 6,704 22,265
公営企業・不動産・資本財産・特別財産
Wirtschaftsunternehmen / Allgem. Grund- und Kapitalvermögen, Sondervermögen
14,942 4,228 7,185 26,355
一般交付金(歳出マイナス歳入)
Allgemeine Finanzwirtschaft
68,490 57,508 マイナス16,012 109,986
合計 683,343 217,862 102,101 1,003,307

 連邦政府の教育関連歳出の推移をみると、歳出総額に占める割合は近年微増している。また、教育関連の公財政支出全体(注1)の推移をみると、公財政支出全体に占める教育関連支出割合は、近年わずかに減少している。

図表2-4-9 連邦政府の教育関連歳出の推移

(単位:億ユーロ、下段は歳出総額に占める割合パーセント)

  2004年実績 2005年実績 2006年実績 2007年予算
1 教育関連
Bildungswesen, Wissenschaft, Forschung, kulturelle Angelegenheiten
110(4.4パーセント) 114(4.4パーセント) 120.47(4.6パーセント) 132.49(4.9パーセント)
歳出総額
Ausgaben zusammen
2,516 2,598 2,610.46 2,705.00

図表2-4-10 教育関連支出の公財政支出の推移

  2002年 2003年 2004年
教育関連支出 普通教育および職業学校
Allgemein bildende und berufliche Schulen
50,168 50,348 77,448
大学
Hochschulen
20,630 20,325
学生・生徒等の育成
Förderung von Schülern, Studenten u. dgl.
4,042 4,202
その他教育
Sonstiges Bildungswesen
2,092 2,247
大学以外の学問・研究・振興
Wissenschaft, Forschung, und Entwicklung außerhalb der Hochschulen
9,441 9,445 9,305
総額(百万ユーロ) 86,373 86,567 86,753
公財政支出総額(百万ユーロ) 992,688 1,003,307 993,125
名目GDP総額(億ユーロ) 22,072 22,410 23,072
教育関連支出対GDP比(パーセント) 3.91パーセント 3.86パーセント 3.76パーセント

 連邦政府の教育関連予算のうち教育研究省予算内訳と近年の推移を次ページに示す。2007年予算は総額で前年比6.1パーセント増の85億1,900万ユーロが予定されている。うち25億8,500万ユーロがプロジェクト助成に充てられる。内訳としてはこれまでのものと大きく変わり、新たな施策への助成が盛り込まれた。2006年まであった60億ユーロの研究・開発プログラムの予算枠は、2倍以上の120億ユーロ超に拡大された。
 また、「全日制学校プログラム」、「高等教育エクセレンス構想」を前政権から引き続き重点的に推進し、学力の維持・向上や国際競争力の強化に努めることが現政権で掲げられており、これらについては連邦政府が率先して取り組んでいる。2005年からはじまった「高等教育のためのエクセレンス構想」(後述)については2007年もさらに1億4,250万ユーロと大きい予算がつけられたが、新たに「職業教育の振興」にも同額が付けられたほか、「大学協定2020」(後述)にも1億6,000万ユーロが組まれた。なお、連邦政府が各州に補助を出している「学校の全日制化」については従来と同様、教育予算とは別枠で予算を充当しており、最終年である2007年も4億ユーロが計上されている(注2)。

図表2-4-11 ドイツ連邦教育研究省予算

助成内容 2004年実績(百万ユーロ) 2005年見込(百万ユーロ) 2006年見込(百万ユーロ) 2007年予算(百万ユーロ)注5)
プロジェクト助成−総額 1,811.464 2,045.994 2,290.642 2,585
60億ユーロの研究・開発プログラムの枠内での重点         120億ユーロ超のプログラムに拡充
才能ある若者の助成
Begabtenförderung
98.612 99.400 107.400 121
精神科学、文化科学、社会科学の助成
Geistes- und Sozialwissenschaften
29.521 34.450 36.353 42.8
エクセレンス構想−大学の先端的助成
Exzellenzinitiative Spitzenförderung von Hochschulen
  4.500 100.000 142.5
生命科学によるイノベーション
Innovation durch Lebenswissenschaften
285.126 316.062 346.000  
環境に応じた持続的開発
Umweltgerechte nachhaltige Entwicklung
228.153 253.219 271.000  
自然科学基礎研究
Naturwissenschaftliche Grundlagenforschung
58.031 72.949 93.600  
ニュー・テクノロジーによるイノベーション
Innovation durch neue Technologien
456.857 499.956 554.104  
職業教育の振興
Beruflichen Bildung
      142
大学協定2020
Hochschul Pakt
      160
機関助成(HGFを含む)−総額 3,081.402 3,197.152 3,302.615  
60億ユーロの研究・開発プログラムの枠内での重点 DFG(ドイツ研究協会) 746.587 768.985 791.820  
MPG(マックス・プランク協会) 470.587 497.845 523.427  
FhG(フラウンホーファー協会) 344.289 361.015 373.301  
BLE(ライプニッツ学術連合) 248.904 264.920 270.167  
プログラム主導型助成−HGF(ヘルムホルツセンター) 1,212.661 1,243.292 1,280.666  
国際貢献 210.839 216.174 238.846  
特別助成−総額 2,080.171 2,158.788 2,224.688  
重点: 連邦奨学金(BaföG)(注3) 990.253 1,026.000 1,090.000  
95.873 113.066 107.175 106
計(上限)(注4) 7,279.749 7,602.493 8,025.766 8,519
【参考】高等教育のためのエクセレンス構想(連邦政府)Exzellenzinitiative Spitzenförderung von Hochschulen
【参考】大学協定2020(連邦政府)Hochschul Pakt 2020

7.基本計画の実施体制

(1) ベルリン市州

 ベルリン市州の基本計画の実施体制についてはとくに記述はない。ベルリン市州ではさらに市区(Bezirke)に分かれており、市区ごとに具体的な計画を策定し、市州政府に提出することとなっている。さらに、すべての学校に「学校プログラム」の策定が義務付けられている。

(2) ドイツ全体

 ドイツでは先に述べたように、初等中等教育に関する権限は各州にある。各州に教育省が存在し、連邦政府は州と共同でのみ、決定や実施をすることができる。また、連邦と州は「連邦・各州教育計画・研究助成委員会」(Bund-Länder-Kommission für Bildungsplanung und Forschungsförderung; BLK)で協力しているが、この委員会で、実際に共同で計画書が策定されたことはなかったため、前述したとおり、教育計画における連邦政府と州の協力については法律からは削除されたことを受け、同委員会の処遇が2007年末以降に決められる予定である。
 なお、先に述べたように、「各州文部大臣会議」の枠組みで各州の教育政策の調整が図られるが、ここで提議されたことには法的拘束力はない。同会議で一部の学年について全国共通の教育スタンダードを設定しているが、それ以外については州ごとに定められている。

図表2-4-12 教育区分ごとの管掌、全国統一カリキュラムの有無

  行政管轄 統一/全国カリキュラム
初等教育 市町村 各州別のガイドラインあり。他に、4年生修了レベルのナショナル教育スタンダードあり。
中等教育 基礎学校:市町村
それ以外:州
各州別のガイドラインあり。他に、9年生、10年生修了レベルのナショナル教育スタンダードあり。
高等教育 国、州 統一カリキュラムなし。

8.基本計画の評価

(1) ベルリン市州

 ベルリン市州の本計画に対する評価システムについてはとくに記述がないが、ベルリンのすべての学校が策定する「学校プログラム」については、各校が自己評価し評価報告書を提出することが義務付けられており、その旨が本計画書に記載されている。
 また、学校の質の確保・向上のための施策として、ベルリン市州とブランデンブルク州政府が共同で設立した「ベルリン・ブランデンブルクの学校の質研究所」(Institut für Schulqualität der Länder Berlin und Brandenburg e.V.; ISQ)という機関がある。ここは2006年1月1日に設立されたばかりであり、ここを通じて各校の自己評価結果が公表されているほか、この機関自身が学校のクオリティ・マネジメントを実施しており、各校の指導、比較、教育スタンダードに照らし合わせた検査などを行なっている。

(2) ドイツ全体

 このほか、前述のとおり、「教育スタンダード」については連邦と州が協同で作成しており、全国共通のものとなっている。それに基づいた教育システムに対する評価の必要性がPISAテストの不振以来唱えられており、フンボルト大学につくられた第三者機関「教育制度における質的発展のための研究所」(Institut zur Qualitätsentwicklung im Bildungswesen - Wissenschaftliche Einrichtung der Länder an der Humboldt-Universität zu Berlin; IQB)において、「教育スタンダード」に基づいた結果について評価する、全国共通のパフォーマンス測定指標の作成が進められている。

【参考資料】

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