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資料6
中央教育審議会大学分科会
大学の教員組織の在り方に
関する検討委員会(第5回)
平成16年2月5日

概要

国際級研究人材の養成・確保のための環境・方策
(アンケート調査の結果より)
―「個人を活かす」ためのシステムへの移行―
(調査資料−102)


平成16年2月5日
文部科学省
科学技術政策研究所

1.調査の趣旨

   我が国の科学技術振興のためには、優れた研究人材の養成・確保が必要不可欠である。文部科学省において科学技術系人材に関する検討が進められていること等も踏まえて、本研究所では国際的に極めて卓越した研究人材を「国際級研究人材」と定義し、このような人材を我が国から数多く輩出するために必要な施策について調査研究を進めてきた。
 その一環として、本調査研究では、世界的に活躍されている日本人研究者の中から、一定の基準に当てはまる方々を抽出してアンケート調査を実施した。主な調査項目は、子供時代からシニア研究者となるまでの成長の各段階ごとに、研究者を目指す上で、あるいは研究者として大成する上で重要なもの等である。これらを通じて、優れた研究者を養成・確保するうえでの考え方、国際級研究人材を育む教育環境、国際級研究人材の養成に理想的な研究開発環境、今後取り組むべき課題等を、調査対象者自身の経験を通して、俯瞰的に明らかにすることを調査のねらいとした。

2.アンケートの概要

  (1)   アンケートの対象
   当研究所では、平成14年7月に、「国際級研究人材の国別分布推定の試み」(科学技術政策研究所調査資料-87)として、次の3つを基準を用いて、「国際級研究人材」の概数を求めた。
 
    国際的科学賞受賞者
    国際的アカデミー会員
    論文被引用度数
   今回のアンケートでは、同報告書において「国際級研究人材」としてリストアップされた方々に加え、有識者による研究会からの推薦のあった方も対象として、調査を実施した。
 なお、今回アンケート対象とした「国際級研究人材」は網羅的なものではなく、その一定の条件で抽出した部分的集団である点には留意することが必要である。

  (2)   アンケートの観点
   国際的に高く評価される仕事ができるような研究人材が、どのような教育環境・研究環境で育ち、活動してきたか明らかにし、国際級研究人材の養成・確保に必要なシステムを明らかにするため、以下の観点から、子供時代からシニア研究者までの各段階について自由記述形式で質問した。(別添1
 
  1   本人の経験上、研究者として成長していく上で重要であったこと、ターニングポイントとなったこと(周囲で見聞きしたものを含む。)、それぞれの時代に研究者としてなすべきこと等
  2   我が国の教育システムや研究システム(大学、研究機関の運営・管理を含む)についての改善すべき点・あるべき姿等

3.アンケート調査の結果

(1)   回答状況(別添2
 
  発送数 242通
  回答数 108通
  回収率 44.6%

(2)   主な指摘内容
 
1   子供時代(有効回答数102人)
 
  両親、親戚、教師といった周囲の大人から知的な刺激を受けていることを示す記述が目立った反面、あまり勉強を強制されたことはなく、どちらかというとのびのびと好きなことをしながら成長してきている傾向が見られた(53人)。
  子供自身の知的好奇心も強く、自然に触れる、読書や趣味に没頭する等を通じて積極的に知識を吸収してきたことを窺わせる回答も多かった(43人)。
  教育については、子供の好奇心を引き出し、興味を伸ばすような教育の重要性を指摘し、構い過ぎたり、干渉過剰に陥ることを否定する意見が多く見られた(35人)。

2   大学学部生時代(有効回答数94人)
 
  自分で考えて勉強したことや友人・先輩からの刺激や周囲との議論・対話を通じて多くのことを学んできていることを示す記述が多かった(28人)。
  実際の教育に当たっても、議論や対話を中心とした少人数での演習やレポートを重んじる授業を重視する傾向がみられた(30人)。
  専門分野以外の文科系・理科系両面での教養を身につけたこと、知的なバックグランドの広さが研究活動を進める上で有益であったことを示唆する回答も目立った(21人)。

3   大学院生時代(有効回答数93人)
 
  研究をテーマの設定・変更、研究実施面で比較的自主性を尊重してもらいながらも、研究の過程では研究室内での議論や指導もしっかりと行われたことを示す回答が多く、自由が放任にはなっていないことを窺わせた(43人)。
  専攻分野の知識基盤を系統的に身に付けたり、境界領域・異分野の知識を持つことの重要性や、そのための授業を大学院教育の中で充実するべきとする意見も多かった(16人)。
  大学院生が経済的に自立するための支援を充実し、教官の労働力として使われている現状を改善し、大学院生がきちんと研究者として育成される環境を整える必要性を指摘する意見もあった(17人)。

4   ポスドク時代(有効回答数71人)
 
  海外の一流の研究者に指導してもらったり、接する機会を持てたこと、海外での人脈が形成できたこと、国際感覚を身に付けられたことなどを評価する意見が多かった(19人)。
  大学院生時代とは違った環境を経験できたことや、違った分野・新しいテーマで研究したことがプラスになったことを示唆する意見も目立った(18人)。
  ポスドクの経験について肯定的な意見が多い一方で、我が国のポスドクについては、ポスドク終了後の就職問題など、キャリアパスとして確立していないことが指摘された(19人)。

5   助手・講師(テニュア・トラック)時代(有効回答数92人)
 
  若いうちから独立して研究室を持てたこと、科研費を得たこと、米国でテニュア・トラックを経験できたことを評価する意見が多く、研究スペース、研究費などを含め、文字通り“独立”することの重要性が窺えた(41人)。
  若手の独立の観点から、現在の教授・助教授・講師の間の従属的関係を解消するよう提言したり、講座制・助手制度の弊害を指摘する意見(20人)や、米国のようなテニュア制度(テニュア・トラック→テニュアという流れ)採用の必要性に関する指摘もあった(11人)。
   
 
注) テニュア制度、テニュア・トラックについて
アメリカの公私立大学で広く採用されている制度。大学院を卒業後研究経験を積んだ後,まず、一定の試用勤務年限(3〜7年程度)の定まった’instructor’,’assistant professor’等として就職する。その間実績を積み重ね,’associate professor’となった後にテニュア審査に合格すると「テニュア(終身在職権)」を取得し,その大学に終身雇用される。但し、’instructor’等として採用された者の全てがテニュア審査を受けられるわけではなく、特に数年後にテニュア審査を受けることが初めから決まっているポジションを“テニュア・トラック”ポジションという。

6   教授・助教授(テニュア)時代(有効回答数94人)
 
  流動化に対する肯定的な意見(新しい刺激を受け成果につながった等)が目立った一方で、実際の組織間移動に当たっては、移動する人の負担(機器の移動、学生の扱い、住居等)が大きいことや処遇面でメリットが感じられない(同じ組織に長く勤務した方が有利になっている)ことなどが指摘され、流動化に当たっての支援体制整備の必要性が窺われた(22人)。
  雑用」に忙殺され、研究に専念できない現状の改善を求める意見が出され、書類作成を始めとした事務面での負担、教授会等の大学、学部、学科の運営に係る会議の多さ、独法化・大学評価等の作業の負担に関する指摘が見られた(48人)。
  組織のマネジメントについては、基本的には教授会等で扱うのではなく適任者・専門家に委ねるべきとする意見も多かった(26人)。

7   シニア時代(有効回答数52人)
 
  年齢による一律の定年制には否定的な意見が多く、能力に応じたリタイヤ(研究資金が獲得できなくなったら引退する等)を主張する意見が目立った(24人)。
  シニアが第一線で活躍し続けることは不可能であり、むしろ経験を活かして、教育、若手育成、組織の管理・運営、社会貢献等に努めるべきとの意見も多かった(33人)。

8   時代に関わりない共通する事項
  以上の他の指摘の中で目立ったものとしては、以下のようなものがある。
 
  競争的資金の課題選定、評価の充実・強化(研究資金の配分機関での専門家の配置、名前や過去の実績に拠らない評価等)
  自校出身者採用の抑制、公正な公募の徹底等によるインブリーディング(大学教員の自校出身比率の高さに代表される純粋培養、純血主義)の排除
  海外経験などを通じて第一線の優れた研究者に触れる重要性
  サバティカル制度(数年に1度、自己研鑽のために与えられる半年から1年間程度の休暇)の導入
  評価の負担(評価のための作業の負担、評価結果が十分に活かされていない等)

  (参考資料) 国際級研究人材の養成・確保に関するアンケート調査における回答例

4.国際級研究人材の養成・確保のためのポイント

   今回のアンケート調査結果から、優秀な研究者が育ち、活躍するために必要な要素として、以下のような点が浮かび上がってくる。
    研究者に如何に機会を与え、やる気(モチベーション)を高め、能力を最大限に発揮させるかという「個人を活かす」ことの重要性を示唆している。
    ポスドク時代を中心に海外で研究経験を積むことで研究者として大きく成長してきていることを踏まえると、特に、国際的に活躍する研究者の下で「武者修行」を行うことは極めて重要である。
    テニュア制度の導入に関する多くの指摘や、逆に助教授・教授への任期制導入等への賛同の少なさは、「競争」一辺倒でも「安定」に安住するだけでもない、「競争と安定」のバランスが重要であることを示唆している。

  (1) 「個人を活かす」システムへの移行
1   若手研究者の「自由」と「自立」
   若いうちから「自立」して「自由」に研究できたことが重要であった半面、その「自立」、「自由」が指導教官との巡り合わせ等偶然の要素に左右されることを示しており、これを構造的なものに変えていく必要がある。
 
  教授、助教授、講師、助手の関係をフラットにする
  講座制を改める
  若手にも研究室を与える
  若手を対象とした研究資金の充実(研究室立上げの経費を含む)する 等

2   個人のモチベーションを高めるための工夫
   研究者にとって良好な環境を整えるとともに、成果を上げた者を如何に優遇していくかという視点が不可欠である。
 
  研究者を雑用から開放(マネジメントの専門家への委譲)する
  研究環境・研究資金・処遇面で成果を上げた研究者がより良い条件を得られる(優れた研究者が良い条件で引き抜かれるようになること)ようにする
  一律定年制を見直す 等

  (2) 海外の一流の研究者の下等での「武者修行」の支援と制度化
1   海外の一流の研究者の下での「武者修行」
   海外の一流の研究者の下で自己を高めようという目的を明確に持った若手の「武者修行」を促進することが、世界一流の研究者として成長する上で極めて重要である。
 
  ポスドク時代を中心とした海外派遣制度を拡充する
  採用に当たっての一流の研究者の下での海外経験者の優遇等間接的インセンティブを付与する 等

2   育ってきた環境から離れる「武者修行」
  また、「武者修行」は、それまで育ってきた環境から離れ、研究者として視野・分野を広げ、人脈を広げるなど様々な点でも有意義である。
 
  他機関でのポスドク経験を徹底する
  博士課程以降同じ系列・大学・講座・研究室で経験・昇進を積み重ねていくインブリーディングを廃止する 等

  (3) 競争と安定の調和を目指した任用・人事制度
 研究者の扱いについては、厳正な評価に基づく徹底した競争原理、能力主義の適用を望む声と、身分が不安定だと落ち着いて研究できず長期的な課題に取り組めない、一流の研究者にまで任期をつけるのは無意味といった声があり、どちらに偏しても問題があると思われる。「競争」と「安定」を交互に繰り返すモデルをとることが重要である。
    若手の時期は研究面で他者と厳しく競わせ、勝ち残った者には、安定した地位を与える
    但し、無条件に安定した地位を与える訳ではなく、第一線で活躍している(研究費を確保できる)限りにおいての安定の保障とする
    他の優れた研究者に追い抜かれ第一線からドロップアウトした時点で、安定も失われるようにする
    その第一歩として、テニュア制度を定着させる
    大学院生等への経済的側面へ配慮する 等

  (4) 国際級研究人材を支えるポイント
1   「知」を感じさせる家庭環境が子供の好奇心を育む
2   博士課程修了者等の中学・高校教師等への積極的登用とエンリッチメント(子供の能力等に対応して、選択の幅を増やしたり、個に応じて指導することなど。例えば進んだ内容を教える特別なクラス・グループの編成等)を重視した教育
3   国際級研究人材の育成に適した教育(基礎学力・一般知識の習得→幅広い教養・知識(一般的教養や理系の幅広い知識)を身に付ける→高度の専門知識を身に付ける→異分野・周辺領域の知識を学ぶ→経験を通して研究者としての方法論を身に付ける、という一連の流れの教育システムへの埋め込み)
4   海外での研究活動のための支援等の必要性
5   研究者の流動性の向上を阻害する要因と留意点(機関間の移動促進の前提として、退職金、社会保障、給与基準、昇級制度など機関間の移動を不利にしている諸制度、慣行の改善が必須等)
6   研究機関のマネジメント機能の強化を通じた研究者の雑用からの解放
7   評価のための評価ではなく、活用目的の明確な評価の実施
8   一律定年制廃止によるシニア研究者の活用
9   ノンアカデミックキャリアでの研究者等の活用



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