更新制については、基本的にどのような制度として考えるかにより、その意義や期待される成果、教員に対する影響等も異なることから、まず、更新制の基本的な在り方を検討することが必要である。その場合、具体的には、以下のような方策が考えられる。
【案1】については、教員として最小限必要な適格性や専門性を確実に保証することが可能になるとともに、大方の教員は免許状が更新されることとなるため、排除の性格が弱まり、教員の身分を不安定にしたり、過重な負担感を与えることは避けられるという点で、意義がある。
他方、教員免許状が更新されない者はごく少数と見込まれ、また、専門性の向上の面では、更新制導入の政策効果が薄いことから、他の制度(例えば、免許状の上進制度や現職研修)と連動させるなど、専門性の向上を促す別途の方策を併せて講ずる必要がある。
さらに、現在、教育公務員については、一年間の条件附採用期間や分限制度により、教員としての適格性を判定する制度がある中で、新たにこのような性格の更新制を導入することの意義を整理する必要がある。
【案2】については、教員として最小限必要な適格性や専門性の確保はもとより、更新ごとに一定の専門性の向上を求めることで、教職生活を通じて、教員全体のレベルアップを確実に図ることができるという点で、意義がある。
他方、教員免許状が更新されない者も少なくないと見込まれることから、排除の性格が強まり、教員の身分を不安定にしたり、過重な負担感を与え、教職の魅力を低下させることにつながる等の課題がある。また、更新ごとに、更新基準に差異を設ける場合、同一の免許状にもかかわらず、免許状が保証する専門性が更新回数により異なることとなる等、資格制度上の課題もある。
さらに、現在、教職生活を通じて教員としての専門性は次第に向上していくことを前提として、免許状の上進制度や現職研修などの制度がある中で、新たにこのような一定の向上が認められた場合のみ、免許状が更新されるという性格の更新制を導入することの意義を整理する必要がある。
更新制は、教員として最小限必要な資質能力を公証する教員免許制度上の制度であることや、上記のような教員に対する影響、資格制度上の課題等を考慮すると、更新制の基本的な在り方については、【案1】の方向を基本として検討することが適当ではないか。
この場合、現行の分限制度等に加えて、新たに更新制を導入する意義としては、国・公・私立の別によらず、およそ教員として不適格な者は教壇に立つことができない状況が実現され、教職に対する信頼の確立につながること、また、一定期間ごとに全ての免許状保有者を対象に、教員としての最小限の適格性や専門性を確認することで、不適格者の早期発見と問題事象発生の未然防止が可能となること等が挙げられる(1.6.教員免許更新制について(1)参照)。
上記1について、【案1】による場合、専門性の向上を図るためには、例えば免許状の上進制度や現職研修、評価、処遇等、教員に関する他の制度や施策と制度として連動させるなどの方策を講ずることが必要であるが、この点については、以下のような方策が考えられる。
【案1】については、教員免許状のみに着目した制度設計が可能になるとともに、更新制と上進制度の連動により、上位免許状の取得が促進されることが期待できる。
【案2】については、教員の専門性向上のためのインセンティブとしての機能は十分期待できる。
他方、更新制と評価や処遇等を制度として完全に連動させた場合、教員の負担感を増大させるとともに、評価や処遇における任命権者等の判断や裁量を制約することが懸念される。また、更新ごとに更新基準に差異を設ける場合、同一の免許状にもかかわらず、免許状が保証する専門性が更新回数により異なることとなり、資格制度として妥当かどうかという課題がある。
更新制を教員として最小限必要な適格性や専門性の確保のほか、専門性の向上にもつながる制度として考えることは必要であるが、同時に、教員の評価や処遇については、自治体をはじめとする各任命権者等の責任と判断により、柔軟な対応を可能とすることが望ましいことから、【案1】の方向を基本として検討することが適当ではないか。なお、この場合、現職研修との関係については、免許状の上進制度において、現職研修の一部も上位免許状の取得の際に評価することとすることが適当ではないか。
上記(1)1のように、更新制を一定の基準を満たしていれば、教員免許状が更新されるような制度として考える場合、【案1】のように専門性の向上のために一定の講習の受講等を更新の義務的要件として課すことは困難と考えられること、また、有効期限内における勤務実績の評価により、教科の専門的知識や指導力等の最小限の専門性も判定することが可能であると考えられることから、【案2】の方向を基本として検討することが適当ではないか。
この場合、「有効期限の満了時の直近の勤務実績」については、教員としての適格性及び専門性を適切に判定する上で必要な期間を設定することが適当ではないか。また、当該期間の勤務実績の評価にあたっては、非常勤講師等としての勤務実績も換算されるようにすることが適当ではないか。
有効期限内に受講に努めなければならない「一定の講習」については、上位免許状の取得のための講習等に加えて、現職研修(初任者研修、10年経験者研修等)や教育研究団体が行う講習等のうち、教員養成を行う大学の指導や協力の下に行われるなど、大学が一定の関与をするものは対象とすることにより、専門性の向上の機会が幅広く確保されるようにすることが適当ではないか。
また、「一定の講習」は、有効期限の満了時に一括して受講するのではなく、有効期限の全体を通じて、計画的、継続的に履修していくものとすることが適当ではないか。
教員免許状の有効期限については、教員のライフステージの区切りに対する考え方や更新の際の要件、教員に対する影響等を総合的に勘案して検討する必要があるが、【案2】の場合、複数の免許状を有する者や、上進制度により上位免許状を取得した場合の取扱いが複雑になるなど、教員の間に混乱をもたらすことが懸念される。また、教員については、免許状取得後、5年程度経過した時点で教員としての資質能力の定着状況を確認することが効果的であると考えられること等から、【案3】の方向を基本として検討することが適当ではないか。その場合、有効期限は最初の更新時までは5年、2回目以降については10年とすることが適当ではないか。
教員としての適格性及び専門性の判定は、教員が所属する学校の校長等からの報告に基づき、免許状の授与権者である都道府県教育委員会が行うこととするのが適当ではないか。なお、評価の客観性を確保するため、校長等の評価に当たっては、例えば複数の関係者で構成される委員会等を設置することも考えられる。
教員としての適格性及び専門性は、免許状保有者に共通に求められる最小限必要な適格性及び専門性を有しているかどうかを基準として判定することが適当ではないか。この場合、公正かつ公平な判定が行われるよう、あらかじめ国において、具体的な判定基準(教員免許状の授与時と同一の基準)を定めておくことが必要である。
教員としての適格性及び専門性を判定した結果、更新の基準に満たない場合については、例えば、第三者により構成される審査機関を設置して、その審査を経た上で最終的な判定を行うこととするなど、より慎重に判定を行うための仕組みを設けることが適当ではないか。また、更新の基準は満たすものの、教員としての適格性や専門性に何らかの問題が認められる場合には、受講すべき特別の講習を指定することにより、問題事象の早期改善を促すことが適当ではないか。
上記1について、【案2】による場合、専門性の着実な向上を図るためには、前述のように、更新制と免許状の上進制度を連動させることにより、上位の免許状の取得が促進されるような仕組みを設けることが有効である((1)2の【案1】参照)。
現行の上進制度は、教員は教職経験を積むことで専門性が向上するという理念に基づき、現職教員に上位免許状を取得する途を開いたものであり、この理念は尊重することが適当である。ただし、現行制度では、在職年数により一律に上位免許状の取得に必要な単位数が軽減されているが、教職経験を積むだけでは必ずしも専門性が向上するとは限らないことから、一人一人の教員の専門性向上に対する取組を適切に評価する観点から、免許状の有効期限内における勤務実績や自己研鑽の状況等を個別に評価した上で、相当の単位数を軽減する制度に改めることが適当ではないか。この場合、適正かつ公平な評価が行われるよう、あらかじめ国において具体的な評価基準を定めておくことが必要である。
また、上位免許状の取得に必要な単位を修得する講習等については、現行制度上、文部科学大臣が認定する講習や大学の公開講座、通信教育等が対象とされているが、この他に、例えば、現職研修(初任者研修、10年経験者研修等)や教育研究団体が開催する講習等についても、教員養成を行う大学の指導や協力の下に行われるなど、大学が一定の関与をするものは対象とすることにより、上位免許状を取得する機会が広く確保されるようにすることが適当ではないか。
なお、これらの講習については、受講者のニーズ等に応じて選択が可能となるよう多様な内容の講習を用意することが必要であるが、一方、上位免許状を授与する上で、適切な内容であることが担保される仕組みを整備することも必要である。
上記1の更新の要件を満たさない場合、教員免許状は更新されず、当該免許状は失効することとなる。この場合、現職教員については、引き続き教員としての職務に従事することはできなくなるが、これに伴う教員の身分上の取り扱い(例えば、他の職に転任させる、免職とする等)については、任命権者(私立学校の場合は雇用主)の判断によるものとして、教員免許状の失効とは切り離して考えることが適当ではないか。
また、中途退職者のように、有効期限内における「一定期間以上の勤務実績」がない者等についても、教員免許状は失効することとなるが、こうした者が、再度、教職に就く機会は幅広く確保することが適当であることから、教員免許状の再授与の申請を可能とすることが適当ではないか(後述の6参照)。
○ 教員としての適格性及び専門性に問題があるとして教員免許状が失効した者について、直ちに再授与の申請を可能とすることは、更新制の導入の趣旨に照らし適当でないと考えられることから、再授与については、【案2】の方向を基本として検討することが適当ではないか。なお、この場合でも、教員としての適格性及び専門性が十分改善されているかどうかを慎重かつ適切に判定した上で、再授与の可否を決定することが適当ではないか。
専修免許状は、一種免許状と比べて高い資質能力を身に付けたことを公証する免許状として位置づけられることから、【案1】のように一種免許状と全く同等の取扱いとすることは適当ではない。ただし、専修免許状の保有者についても、専門性の向上が求められる点では他の免許状保有者と変わりはないことから、【案2】の方向を基本としつつ、専門性の向上のための自発的な取組みを求めることが適当ではないか。
複数の教員免許状を保有する者については、更新制の導入により、過重な負担が生じないよう、例えば、教員としての適格性及び専門性の判定は同じ勤務実績を基に行うこととするなど、更新の際の要件等において、何らかの工夫を講じることが適当ではないか。
現に教員免許状を有する者(特に現職教員)に対する更新制の適用については、今回の教員免許制度の改革の趣旨や、更新制の導入の意義、現職教員に対する国民や社会の評価、期待等も考慮しつつ、更新制の具体的な制度設計を踏まえて検討・整理することが適当ではないか。
初等中等教育局教職員課