6.教員免許更新制について

(1)導入の必要性及び意義

 教員免許更新制(以下「更新制」という。)については、平成14年の中教審答申「今後の教員免許制度の在り方について」において、導入の可能性を検討した結果、現行制度等との関係で、いくつかの問題点を指摘した上で、導入には「なお慎重にならざるを得ない」と提言したところである。このため、上記のように教員養成・免許制度の改革を図る一環として、更新制を導入することとする場合、導入の必要性や意義を明らかにするとともに、あらかじめ平成14年の中教審答申との関係を整理することが必要である。

 更新制は、一般的に、教員免許状に有効期限を設け、一定の要件のもとで更新の可否を決定する制度として理解されているが、具体的な制度設計により、導入の必要性や意義は異なるものと考えられる。
 更新制の制度設計については、2.2.において詳述するが、基本的には、教員免許状の有効期限の満了時に一定の基準(例えば、教員として最小限必要な適格性及び専門性を有している等)を満たしていれば、免許状が更新されるような制度として設計することが考えられる。また、教員免許状の有効期限内における勤務実績や講習の受講等を上位免許状の取得の際に評価することにより、専門性の向上を図ることが考えられる。
 更新制をこのような制度として考えた場合、導入の必要性としては、次のような点が挙げられる。

 教員免許状の授与の仕組みを見直すことにより、免許状は、教員として最小限必要な資質能力(教員としての適格性及び専門性)を身に付けていることを確認・保証した上で授与されることとなる。これにより、大多数の教員は、使命感や誇り、教育的愛情を持って教育活動に当たることが期待できるが、その一方で、教員の中には、教職経験の経過に伴い、例えば教職に対する情熱や使命感を失ったり、研修や自己研鑽を積むことなく、教職課程で修得した知識や技術のみを基に、引き続き幼児児童生徒に対する教育活動を行ったりするなど、問題を抱える者が少なからず存在することが指摘されている。この中には、教員免許状が保証する、教員としての最小限の適格性及び専門性すら満たしていない者が含まれていることが想定される。
 このような者に教員免許状を保持させたまま、引き続き教育活動に当たらせた場合、人格形成や能力の伸長を図る大切な時期に、幼児児童生徒に対して、将来にわたって回復しがたい多大な損失を与えるおそれが強い。また、こうした問題を抱える教員の存在が、学校や教員全体、ひいては学校教育制度そのものに対する信頼を低下させることにつながりかねない。
 このため、教員免許状の授与の仕組みを見直すことと併せて、当該免許状の授与時に確認された教員として最小限必要な適格性及び専門性が失われることなく、引き続き維持されているかどうかを定期的に確認することが必要であり、そのための方策として、教員免許更新制を導入することが必要である。

 このような更新制を導入する意義(メリット)としては、主に次のような点が挙げられる。

  1. 教員の自己研鑽の促進
    教員免許状に有効期限を設け、一定期間ごとに教員として最小限必要な適格性及び専門性を有しているかどうかを判定することになるため、免許状保有者に対して、判定基準を上回るよう、常に緊張感を持って自己研鑽に励むことを促すとともに、教員全体の資質能力を向上させていくインセンティブとしての役割が期待できる。
  2. 教職に対する信頼の確立
     教員免許状は、国・公・私立学校を通じた教員資格であり、一定期間ごとに教員として最小限必要な適格性及び専門性を確認することにより、国・公・私立の別によらず、およそ教員として不適格な者は教壇に立つことができない状況が実現され、教職に対する信頼の確立につながる。
     また、現在、公立学校の教員については、分限制度の的確な運用についての取組みが進められているが、分限制度は問題事象が深刻化した後に初めて処分が行われることが一般的であるのに対して、更新制は全ての免許状保有者を対象に、一定期間ごとに教員としての最小限の適格性及び専門性を確認するものであり、教員として不適格な者の早期発見と問題事象発生の未然防止が可能となる。
     さらに、分限制度の具体的な運用については、教員の任命権者である都道府県教育委員会等の判断に委ねられているが、更新制は全国共通の基準に基づき、運用されるものであることから、より客観的で公平な判定が行われ、教員免許状や教職に対する信頼を飛躍的に高めることが期待できる。
  3. 専門性の着実な向上
     教員免許状に有効期限を設け、当該期間内における勤務実績や講習の受講等を、上位免許状の取得の際に評価するなど、免許状の上進制度とも連動させることにより、教職生活の節目ごとに専門性の着実な向上が期待できるとともに、上位の免許状の取得が促進される。

(2)平成14年中央教育審議会答申との関係

 平成14年の中教審答申との関係については、同答申は、更新制を実施した場合の効果や問題点を明らかにしつつ、更新制の導入の可能性について検討したものである。これに対して、今回の諮問においては、更新制の意義や位置づけ、具体的な制度設計等を含め、更新制を導入することについての検討が求められている。このような検討の趣旨を考慮すれば、平成14年の中教審答申で指摘された課題を解決しつつ、どうすれば更新制が有効に機能するのかという観点から、検討を行うことが適当である(なお、平成14年の中教審答申で指摘された問題点については、別紙 平成14年中央教育審議会答申の指摘事項と検討の方向性のような方向で検討することが考えられる)。

 平成14年の中教審答申は、将来的な更新制の導入を否定しているものではなく、科学技術や社会の急速な変化等に伴い、再度検討することもあり得ることが示されている。近年の学校教育の変化としては、例えば、以下のような点が挙げられる。

  • 児童生徒の学力について、最新の国際学力調査の結果等から、低位層が増加しているなど、低下傾向が認められるとともに、学習意欲や学習習慣・生活習慣等の面で、引き続き課題があること
  • 学校評議員や学校運営協議会等、保護者や地域住民が学校運営に参画する仕組みが整備されるとともに、学校に自己評価の努力義務が課され、また学校運営の状況に関する情報の提供が課されるなど、学校が説明責任を果たし、保護者や地域社会の信頼を深めていくことが重要となっていること
  • 教職に対する情熱や使命感が低下している教員が少なからずいることや、いわゆる指導力不足教員の増加、一部の教員による不祥事等を背景として、教員の資質能力に対する社会全体の信頼がゆらぎつつあること
  • LD/ADHDなど、子どもに関する新たな課題が明らかになっており、また脳科学と教育との関係や子どもの人間学など、子どもや教育に関する研究が進展していること

 これらの変化の萌芽は、既に平成14年の答申当時も、一部現れていたが、現在、こうした変化が、より明確に、かつ複合的に生じてきており、そのことが学校に対する保護者や国民の信頼を揺るがす主な要因となっている。
 このため、中教審においては、義務教育における制度や教育内容の在り方、国と地方の関係・役割の在り方、学校・教育委員会の在り方、費用負担の在り方など、義務教育全般に係る検討を行っているところである。本年5月の義務教育特別部会の審議経過報告では、安心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を求める保護者や国民のニーズが高まっており、義務教育の質の向上に国家戦略として取り組む必要があること、その際には「教師に対する揺るぎない信頼を確立する」ことが極めて重要であるという認識が示されている。

 以上のような諸状況を考慮しつつ、また、これからの社会の進展や国民が求める学校像を展望すると、信頼される学校づくりを進めていく上で、教員の資質能力を確実に保証することにより、教職に対する尊敬と信頼を確立する必要性は、平成14年答申時に比べて、格段に高まっているものと考えられる。

 また、平成14年の中教審答申においては、我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において、更新制を導入することは、なお慎重にならざるを得ないとされた。
 他の資格制度を見ると、更新制を導入している資格は比較的少なく、また、医師や法曹等の高度な専門的職業とされる主な資格については、更新制は導入されていないのが現状である。一度取得した資格を事後的な理由により失効とすることは、国民の雇用の安定に直結する問題であり、慎重な検討が必要なことは言うまでもない。しかしながら、今後の社会の進展等を展望すると、特に社会的影響の大きい専門的職業については、一度取得した資格が生涯有効で良いのかは、大いに検討されるべき課題である。専門的職業は、身に付けている資質能力の故に社会から評価され、当該業務に従事することを認められるものである。そのため、専門的職業に従事する者には、絶えず最新の知識や技術を修得するなど、厳しい自己研鑽が求められるが、仮にこうした努力がなされず、十分な専門性が維持されていないなどの場合、国民の生命や財産、幸福追求等に重大な影響を及ぼすおそれがある。特に、専門分野の高度化が著しい今後の社会においては、これまで以上の自己研鑽が求められるとともに、国民が専門的職業に従事する者を信頼し、安心して業務を任せることができるよう、身に付けた資質能力を積極的に社会に対して明らかにしていくことが必要となっている。
 このような観点から、今後、専門的職業に関わる資格については、一度、取得すれば生涯有効とするのではなく、資格を取得する際に身に付けた知識や技術等が、その後も維持向上されているかどうかを、定期的に確認し、明らかにしていくことが求められるものと考える。
 なお、現在の資格制度においても、例えば、業務の安全確保が求められる資格や、業務の遂行上、一定の身体・技能が必要とされる資格等においては、更新制が設けられているものもある。本来、資格制度の在り方は、当該制度の特性や業務の性質等を踏まえて検討されることが基本である。教員の職務の本質は、日々の教育活動を通じて、一人一人の幼児児童生徒がその一生を安全、幸福に、かつ有意義に生きることができる基礎を培うことである。また、幼児児童生徒が教員を選ぶことができない中で、その一生を左右しかねない重要な役割を担う職業であり、このような職務の重要性と特殊性に鑑みると、教員免許状は、広い意味で、幼児児童生徒の将来の生命、幸福追求に関わる資格として位置づけることができるものと考える。

 公務員制度との関係については、公立学校の教員について、更新制と分限制度等との関係を整理することが必要であるが、この点については、身分上の問題と資格制度上の問題を基本的に切り離して、整理することが適当である。私立学校の教員についても、同様の観点から、更新制と労働法制との関係を整理することが適当である。
 ただし、教員免許状が失効した場合、引き続き教員としての職務に従事することはできなくなることから、実際には免職処分や解雇処分につながる可能性が高いものと考えられる。このため、教員免許状が失効する事由やその際の手続きについては、これらの処分の事由や手続きも考慮に入れつつ、慎重に検討することが必要である(この点については、後ほど更新制の具体的な制度設計の中で改めて触れる)。

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