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第3章 青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために−重視すべき視点と方策−

4.青少年一人ひとりに寄り添い,その成長を支援しよう

視点
  • ○ガイダンスの発想に立ち,青少年一人ひとりの成長を支援する
方策
  • ◎ガイダンスの発想に立って青少年を支援できるよう,指導者の意識の涵養(かんよう)と指導力育成に努める
  • ◎学校における教育相談体制の整備や関係機関が連携したサポート体制の充実などにより,一人ひとりの成長をきめ細やかに支援する

重視すべき視点

【ガイダンスの発想に立ち,青少年一人ひとりの成長を支援する】

  •  青少年の生活実態は多様であり,意欲をめぐる様相や抱える課題は一人ひとり異なっている。さらに,課題を抱えている青少年についても,その解決に向けてだれに相談し,あるいはどのように解決したらよいか分からず,大人に助けを求めることを躊躇(ちゅうちょ)している状態や,青少年自身が自らの状況を客観的につかめないために,意欲の方向や行動の有り様について悩み,つまずいていると自己認識できず,立ちすくんでいる状態など,様々な状態が考えられる。
     このような青少年の多様な課題や状態に適切に対応するためには,青少年一人ひとりの考えや気持ちに寄り添い,青少年自身の主体性を尊重しつつ自立に向かっての意欲と行動に導くといった,ガイダンス(注22)という発想に立って青少年の成長を支援することが大切であるという認識を持つことが,我々大人側に必要である。
  •  その際,これまでの我々大人の青少年へのかかわり方が,問題行動など外面に現れる事象への対応に傾注しがちであったかもしれないと省みた上で,青少年一人ひとりの状況を見つめ直すことが大切である。
     一見,問題行動もなく従順でおとなしくみえる青少年の中には,保護者,教員や周囲の大人が「期待する青少年像」を必死に演じようと努めながら,演じている像と自らの実像とのギャップに悩み,心に課題を抱えつつもそれらを外面に現すことによって大人の期待を裏切ってしまうのではないかとおそれ,相談できずに苦しんでいる者もいるかもしれない。そのような青少年は,見過ごしてしまいがちな小さなものであるかもしれないが,大人に助けを求める何らかのサインを出しているものである。
     我々大人は,青少年の成長に期待する余りに,青少年の実像を見つめることなく無意識に否定してしまっていないかを省みる必要がある。青少年期は多くの複雑な悩みを抱える時期ととらえ,青少年が悩みもがいていることを示す小さなサインを見逃さない目を養い,青少年のありのままの姿を認め,その姿に寄り添って課題の解決に向かって共に歩みを進める覚悟を持つことが求められる。

方策

◎  ガイダンスの発想に立って青少年を支援できるよう,指導者の意識の涵養(かんよう)と指導力育成に努める

 青少年は,生活の中で様々な経験を通じて,自立した社会人の基礎となる体力,社会性や判断力,向上心や耐性等を身に付けていくが,青少年一人ひとりの成育歴,状態や置かれている環境,抱えている課題等がその時々により様々であるため,例えば集団体験として同じ活動を行っても,その活動を通じて学ぶものは青少年によって様々である。
 このため,青少年の多様な状態や課題に対応し,その自立への意欲を高めるためには,青少年一人ひとりの状態や課題に応じてその成長を支援するガイダンスという発想に立ち,その時々の経験からその時点で青少年が抱える課題の解決に向けた学習ができるよう適切に指導することが必要である。そして,その過程全体にわたって青少年と向き合い,課題を解決し自立に至るまで根気よく支援することが必要である。
 特に,自立に向かって何をすべきか自己分析できていなかったり,社会とのかかわりを持てないなどの課題を抱えていたりする青少年に対しては,一人ひとりの葛藤や挑戦に寄り添い,励ましながら導いていく存在として,指導者の力量がより一層問われることとなる。その意味で,特にガイダンスの意識・発想に富み,青少年の主体性を尊重しつつ,その自立を支援できる指導者をユースサポーター(仮称)として位置付け,その育成を図ることが求められる。
 このため,国においては,青少年教育指導者等に対して,ガイダンスの発想に立って青少年一人ひとりへ支援を行うことが重要であるという認識を涵養(かんよう)するとともに,ガイダンスの発想に立った指導能力の向上が図れるよう,先進的な事例も参考としながら指導能力養成カリキュラムの開発などを行う必要がある。
 なお,青少年が抱える現代的課題に対応するためには,青少年に,他者からの評価だけに依拠するのではなく,自分自身を客観的にとらえた上で,自分の可能性を信じこれを伸ばすよう努力することに価値を置けるような自己評価能力の育成や,従来は日常生活の中で獲得できた集団での遊び方や基礎的なコミュニケーションスキルなどの対人関係能力の育成が必要であると指摘されている。このため,指導能力養成カリキュラムの開発に当たっては,これらの能力を青少年に育成できる指導能力の養成に留意すべきである。
 また,青少年教育指導者等に対するガイダンスの発想に立った指導能力養成のための学習機会が広く提供されるよう,国において開発されたカリキュラムを大学等の教育課程や社会教育主事講習,特定非営利活動法人自然体験活動推進協議会(CONE)(注23)をはじめとした民間団体における青少年教育指導者を育成するプログラムに導入するなどの取組が進められることを期待したい。

◎  学校における教育相談体制の整備や関係機関が連携したサポート体制の充実などにより,一人ひとりの成長をきめ細やかに支援する

 これまで,国においては,児童生徒の心の問題に対し専門的な観点から助言を行うスクールカウンセラーや,教員OBなどの地域の人材を活用した「子どもと親の相談員」の学校への配置などを進め,児童生徒の訴えや内面的な葛藤にきめ細やかに目を向けるための教育相談体制の充実に取り組んできた。各学校や地域においても,教職員のほか保護者,PTAなど地域住民,教育委員会や警察等関係機関が連携して,児童生徒を取り巻く環境や行動について情報を共有するとともに,児童生徒の問題行動等に対して関係機関が相互に連携した一体的な対応(行動連携)を効果的に展開できるよう,ネットワークづくりやサポートチームの形成等様々な取組が進められてきたところである。こうした取組については,問題行動等のきっかけとなった心理的背景をも踏まえた個々の児童生徒へのきめ細やかな対応や,教職員のみならず児童生徒を取り巻く関係者の連携による対応など指導方法の改善や機敏な対応につながるとして,教育の現場から評価を得ている。
` しかし,一方で,最近相次いでいるいじめを苦にした自殺の件において,本来子どもを守り育てるべき学校や教職員がその役割を適切に果たしていないケースがあり,問題となっている。また,小学生の校内暴力を中心とした暴力行為の問題や不登校の問題などもあり,子どもの心をめぐる問題は,教育上大きな課題となっている。
 こうした課題に対応するためには,まず学校における適切な対応が求められるとともに,保護者や地域住民を含めた大人全員が,ガイダンスの発想に立って,子どもの不安や悩みをしっかり受け止め,注意深く見守っていくための体制づくりを進めていくことが重要である。この観点から,今後も引き続き,児童生徒に対する教育相談体制の整備や,課題の解決に向けて家庭・関係機関と連携したサポート体制の充実を図っていく必要がある(事例18)。さらに,課題解決に効果的な取組について調査研究を進める(事例19)など,各地域における創意工夫を凝らした取組を一層推進していく必要がある。
 また,NPO団体等民間団体においても,子どもがいつでも気兼ねなく相談しやすいようにフリーダイヤルによる電話相談やメールによる相談を行うなど,地域において子どもの実態等に合った多様な相談活動が進められているところである(事例20)。今後,学校や教育委員会をはじめとする関係機関は,子どもが抱える問題や悩みが多様化していることを踏まえ,ボランティア等と協力しながら,これらの民間団体と連携して相談体制の充実を図ることが求められる。同時に,どのような相談窓口や相談方法があるのか,一人ひとりの子どもに周知することが必要である。
 平成16年12月に「犯罪被害者等基本法」(注24)が成立し,翌年12月に犯罪被害者等基本計画が策定されるなど,政府全体として犯罪被害者等に対する支援を拡充する取組が進められている。この点からも,スクールカウンセラーの配置等による児童生徒への支援体制整備の一層の推進が必要である。
 さらに,児童生徒の心の発達過程を踏まえた効果的な教育活動等を実施することが必要となっていることから,国においては,子どもの情動やこころの発達等に関する研究を振興し,その科学的成果を教育現場の指導に反映するための取組を進めることが必要である。

事例18:スクールソーシャルワーカー(大阪府教育委員会)

 社会福祉に専門的な知識経験を有し,学校で相談・援助経験のある人材をスクールソーシャルワーカーとして配置・派遣することにより,子どもにかかわるすべての背景や状況を視野に入れて判断し,必要に応じて関係機関と調整・連携を進めながら,子どもを取り巻く環境の改善を図り,不登校・問題行動等への適切な対応を行います。相談活動を中心に,校内ケース会議や家庭訪問,関係機関との連絡調整,教職員研修での講演等の活動も行っています。平成17年度には417の事例(新規)に対応しました。

事例19:やる気元気サポート室(沖縄県那覇市教育委員会)

 地域の伝統行事や民俗行事を中心に,現在でも残っている「地域の共同体意識」を活用し,学社融合の観点から,地域から推薦された生徒サポーターと学校,教育相談員や関係機関・大学等が連携し,遊び非行傾向の不登校児童生徒への多様な支援・効果的な学習プログラム,活動プログラムを開発しています。学校,青少年センター,児童相談所,県警サポートセンターとの連携の下,自立支援教室や適応指導教室を活用して,児童生徒の個々の状況に応じた支援を行っています。地域の行事への参加や地域子ども教室への積極的なかかわりも推進しています。

事例20:チャイルドライン(子ども電話)

 チャイルドラインは子どもの心を受け止める電話として,平成10年に日本で初めて世田谷に設けられ,現在では全国63か所で開設しています。平成17年には,12万2千件を超える子どもの声を受け止めました。また,平成11年には,各チャイルドラインを支援するNPO法人チャイルドライン支援センターが設立され,各地チャイルドラインの立ち上げ,開設へのサポート,研修や広報援助など,全国規模で行なうイベントや,全国チャイルドラインのデータ収集などを行っています。
 チャイルドラインは電話を通じて子どもたちに寄り添い,子ども自身が持つ自ら解決する力を引き出し,自立を支える活動をしています。と同時に,受け止めた子どもの声を社会に還元し,子どもが伸び伸び育つことのできる社会をつくっていくことを目指しています。

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