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第3章 青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために−重視すべき視点と方策−

3.青少年が社会との関係の中で自己実現を図れるよう,地域の大人が導こう

視点
  • ○社会との関係への興味・関心を育て,社会との関係の中での自己実現を導く
  • ○地域の大人が青少年の育成に積極的にかかわっていくという価値観を醸成する
方策
  • ◎社会との関係の中で自己実現を図った大人の生き方から学ぶ機会を提供する
  • ◎青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する
  • ◎地域の大人が地域の青少年の成長に継続してかかわることのできる場や機会を広げ,その連携を進める

重視すべき視点

【社会との関係への興味・関心を育て,社会との関係の中での自己実現へ導く】

  •  人間は生来,好奇心の塊である。幼児は接する外界の一つひとつに対して「なに?」「なぜ?」と疑問を発し,知ること,発見することを積み重ねて成長していく。
    この好奇心はあらゆる方向に向けられるが,ある対象に焦点が定められ,その対象と自己との関係を見つめることを通じて,例えばその対象に近づくために何かをしたいという意欲が生まれる。
    すなわち,生来の好奇心は,対象と自己との関係性を見つめることを通じて,意欲へと「育てられる」のである。
  •  青少年の成長とは,自己の素質や能力などを発展させてより完全な自己を実現していく,すなわち自己実現(注20)を目指していくことであるが,我々が社会的存在である以上は,社会と全く関係を持たない自己実現というものはあり得ない。
    このため,青少年期にあっては,まず好奇心を持つこと自体を大切にすることが必要である。その上で,その好奇心を他者や社会と自己との関係への興味・関心に発展させ,社会的期待や社会のルールやマナー等との関係をとらえつつ,社会との関係の中での自己実現を図り社会的自立を目指す意欲に結実させていくことが必要である。
  •  その際,青少年が自立に向けて自分を高めるために努力を重ねたときや,地域の大人や実社会とかかわり社会貢献をした機会等をとらえて,そうした青少年の意欲を積極的に評価することが,青少年の意欲を社会的自立に導くために大変重要である。

【地域の大人が青少年の育成に積極的にかかわっていくという価値観を醸成する】

  •  青少年は,人間は一人で孤立して生きていくことはできず,社会の中で相互依存により共生する存在であるという実感を,地域社会とかかわる経験を通じてより一層得ることができる。こうした経験は,青少年の自立への意欲を高めるに当たって極めて重要である。
  •  また,地域における多様な年齢層の人々との交流は,家庭内における家族との人間関係や学校での教師,友達との関係では必ずしも十分には得られない,社会におけるルールやマナー,対人関係能力等について体得する機会を青少年に提供する貴重な機会でもある。
    これらの社会のルールやマナー,対人関係能力等は,青少年が自立への意欲を持ち,社会に参画する上で必要な資質であり手段である。
  •  このため,青少年育成は家庭でのしつけや学校教育の問題だととらえるべきではない。社会全体で青少年を「社会の子」として育て,青少年の自立への意欲を高めるという考え方に立って,親,教職員に次いで,地域の大人が言わば「第三の保護者」として青少年の育成に積極的に,そして徹底的にかかわっていくという価値観を社会全体で共有すべきであると考える。

方策

◎  社会との関係の中で自己実現を図った大人の生き方から学ぶ機会を提供する

 これまで学校においては,児童生徒の職業観や勤労観を培うため,地域の大人を招いて職業や勤労観,人生観等についての話を聞く機会を設けたり,地域に出向いた職業体験活動を通じて大人が実際に働く場に参画する機会を設けたりしている。また,教育活動の様々な場面に地域の大人の参画を得ることにより,児童生徒が多様な大人から社会と自己とのかかわりについて学ぶ機会を提供している。
また,文部科学省では,スポーツ選手や芸術家をはじめとしたその道の達人を学校等の青少年が集まる場に派遣し,社会との関係の中で自己実現を図った達人の生き方から青少年が刺激を受けて新たな夢や目標への意欲を高めるなど,様々なことを学ぶ機会を提供している。
 このように,学校や行政等の努力により,青少年の職業体験活動や地域の大人との交流活動の充実が図られているものの,データ(図22,P28)が示すとおり依然として青少年の地域の大人とのかかわりをはじめとした対人関係は希薄なのが現状である。

 青少年が社会との関係の中で自己実現を図るためには,社会を構成する一員として社会的役割を担うことを通じて自己実現を図った大人の生き方から,そうした志向を学ぶとともに,自己実現を図りたいという意欲を高め,そのための手段・方法を体験や交流を通じて学ぶことが極めて重要である。特に,年齢の近い先輩層や地域の大人たちとの交流は,彼らが身近なモデルとして青少年に親近感を与え,青少年の意欲を高め行動の変容を促す効果が高いと考えられる。
 また,大人との交流活動の中でも,職業体験活動を行う中で大人と共に働く体験をすることは,単に話を聞くことにとどまらず,職業生活を疑似体験し,職務に従事し役割・責任を分担する中で,これらに従事する大人と交流することを通じて,社会的役割を担い職業生活を営むことへの志向を学び,意欲を高めることができるものであり優れて実践的な学習となる。

現在,職業体験活動は各学校で広く実施されているが,その実施状況や成果は学校によって様々である。その教育的効果を高めるためには,他校の好事例を参考にしつつ,生徒の発達段階に応じた職業体験活動を計画的に実施するとともに,生徒の積極的な参加と活動を通じた学習の深化を支援できるよう指導の充実を図ることが必要である(事例15)。
 また,職業体験活動以外による大人との交流活動についても,国や自治体,学校,民間団体等において,より積極的に青少年に提供し,青少年が大人の生き方から社会のルールやマナー,対人関係能力等,自立への意欲を持ち社会に参画する上で必要な資質や手段を学ぶ機会を得られるようにするべきである。同時に,特に年齢の近い先輩層や地域の大人たちとの交流を深められるようにすべきである。
 他方,企業等に対しても,青少年団体が行う事業や地域行事への参加を広くボランティア休暇制度の対象としたり,これらへの参加を企業の社会貢献活動と位置付けて雇用者の参加を積極的に推進することや,職場体験や雇用者の子どもの職場見学を実施するなどを通じて,青少年と社会を結ぶための積極的な取組を期待したい。

事例15:学校におけるキャリア教育,職業体験活動(高知県馬路村立馬路中学校)
 自立心を身に付け,夢を持ってたくましく生きる子どもを育てるため,5日間の職場体験を行っています。同時に,職場体験に臨むに当たっての目的意識をしっかり持たせるため,事前指導として学校にキャリアアドバイザーを招いた職業講話を行うなどの取組を実施しています。
 生徒は仕事を体験することによって,親の苦労や仕事の厳しさを実感することができ,家庭においては,職場体験について親子で会話するようになったという成果が報告されています。

◎  青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する

 学校教育や課外における活動に対しては,努力の結果としての成績や順位の評価が従来行われており,また,児童生徒の良い点や進歩の状況を積極的に評価し,学習意欲の向上を図ることを目指した教育活動が展開されている。
 しかし,例えば青少年が学校外での社会貢献活動等に積極的に参画しても,これが社会から評価される機会が多いとは必ずしも言えず,青少年が積極的に評価される機会は学校等の一部に限定されていることは否めない。青少年の努力や社会貢献を社会が評価することは,社会からの期待を青少年が認識するために極めて重要であり,また,青少年の社会参画への意欲を喚起することにもつながるものである。

 各自治体においては近年,いわゆる「子ほめ条例」(児童生徒表彰に関する条例)(注21)の制定等を通じて,地域の大人が地域の青少年の長所や優れた個性,努力,思いやりや善き行い等を積極的に認めて,地域ぐるみで青少年の社会性の育成や自立の支援を図る取組が進められている(事例16)。また,民間団体の中には,青少年の地域貢献を積極的に評価するものとして「ボランティア・スピリットアワード」という賞を設け,学校と地域周辺の清掃を行ったり,地域の高齢者にコンピュータの使い方を教えたり,障害者福祉施設や老人ホーム訪問に力を入れて取り組んだりしている中学生・高校生を表彰しているものもある。
 今後とも,国において,社会全体で青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する機運の醸成を図るとともに,自治体や各種団体におけるこうした取組を広く紹介し,これらの普及を促すことが必要である。また,家庭・学校・地域が連携して青少年の努力や社会貢献を積極的に評価し,青少年の更なる努力や社会貢献への意欲を高め,社会性を培うことが望まれる。

事例16:かがみのっ子表彰事業(岡山県鏡野町)
 次代を担う子どもたちの心身の健全な成長を願い,助長するため,町内在住の小学6年生全員に以下の12の賞のうちのいずれかの賞を表彰します。どの賞を表彰するかについては,学校や地域住民,PTAや青少年団体などすべての個人・団体が推薦できます。このように地域ぐるみで子どもたちを見守り育て,一人ひとりの優れた個性を見いだして表彰することにより,子どもたちの健全な心身の成長を促し,未来を担う人づくりに資することを目的としています。

1. ボランティア賞かっこ6名)   2. スポーツ賞かっこ35名)   3. 文学賞かっこ4名)
4. アイディア賞かっこ4名) 5. 勤労賞かっこ3名) 6. 努力賞かっこ10名)
7. リーダーシップ賞かっこ25名) 8. スマイル賞かっこ16名) 9. チームワーク賞かっこ7名)
10. ユーモア賞かっこ7名) 11. 特技賞かっこ6名) 12. 環境愛護賞かっこ2名)
かっこ内は18年3月の表彰時の受賞者数

◎ 地域の大人が地域の青少年の成長に継続してかかわることのできる場や機会を広げ,その連携を進める

 提言2.で述べたように官民挙げて青少年が地域で多様な体験活動を行える拠点づくりを進めているが,今後は,より多くの大人がこうした拠点での活動に参加できるよう促すとともに,様々な分野で青少年の成長にかかわっている大人たちが連携を深め,各自の活動の充実を図ることが必要である。
 より多くの大人の参加を促すためには,例えば,青少年の身近なモデルとなる大学生等がリーダーとなって行う体験活動(事例17)や,定年後の社会貢献活動として高齢者が企画・実施する青少年への体験活動など,青少年が多様な年齢層と交流できるような活動に対して,国や自治体等がより積極的に支援することが考えられる。
 また,様々な分野で青少年の成長に携わる大人が連携を深めるには,例えば,総合型地域スポーツクラブと学校における体育の授業や運動部活動が連携を図ること等を通じて,総合型地域スポーツクラブに参画する大人が地域の青少年の成長により一層深くかかわることが考えられる。また,様々な種類の自然体験活動を提供している各種団体等が地域で学校,行政機関も交えたネットワークを構築し,個々の団体の活動の一層の充実を図るとともに,地域の多様な大人が一体感を持って地域の青少年の成長を支援する体制を整えることが考えられる。

事例17:NPO法人ブレーンヒューマニティー(兵庫県西宮市)
 「ブレーンヒューマニティー」は,兵庫県西宮市にある大学生が自発的に運営する学生主体の非営利組織です。主な活動内容は,野外教育や不登校の子どもへの訪問学習支援等ですが,これらの活動を通じて,大学生自身は自分の業務や役割に責任を持ち,主体的に市民社会の担い手となることを学んでいきます。
 学生たちは,その業務において明確な役割・成果を求められることによって,責任感が芽生え,実際の活動を通じて子どもや保護者から感謝される経験を通して,社会から必要とされていることを実感します。また,高い目標に向かってチャレンジすることにより,自らの成長欲求を顕在化させるとともに,定期的な振り返りの習慣化により成長を確かなものにしています。
このように,ブレーンヒューマニティーでは,大学生や若者たちに対し,社会に参画していくための機会(体験)と基盤を提供しています。

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