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2 初等中等教育における情報教育の考え方

1.「情報教育」と「教育の情報化」との関係

 本報告書を取りまとめるのに先立ち、「情報教育」と「教育の情報化」との関係を再確認する。
 「教育の情報化」は幅広い意味を持つが、特に指導場面に着目すれば、従前より以下のように整理されている。

「教育の情報化」の目的は、1子どもたちの情報活用能力の育成、すなわち体系的な「情報教育」の実施に加え2各教科等の目標を達成する際に効果的に情報機器を活用することを含むものである。

 すなわち、「教育の情報化」の概念に含まれる教育としては、
1 子どもたちの情報活用能力の育成を目的とした「情報教育」
2 各教科等の目標を達成する際に効果的に情報機器(IT)を活用すること(IT活用)

の2つがある。

 「情報教育」(1)は、「子どもたちの情報活用能力の育成」を目的とした教育であって、単にITを活用することとは異なる。ITを活用することは、情報教育を目的とした活用と、効果的に「各教科等の目標を達成する」ことを目的とした活用がある。ただし、後者は、「各教科等の目標を達成する際に効果的にITを活用すること(IT活用)」(2)となるが、この限りでは、ITを活用することは手段に過ぎず、それのみでは「子どもたちの情報活用能力の育成」を目的とした「情報教育」(1)にはならない。ITを活用することが「情報教育」(1)に位置づけられるためには、ITを活用することが、どのように「子どもたちの情報活用能力の育成」に資するのかが明確となり、実際に指導を行う教員が、その関係を理解した上で指導することが必要となる。

 以上を踏まえて「教育の情報化」の概念を図示すると、以下のとおりとなる。

「教育の情報化」の概念図

 本報告書は、これまで行われてきた「情報教育」(1)に係る検討の成果を取りまとめたものである。(注1)本報告書に、「IT活用」についての検討結果の内容も盛り込み、本報告書を本検討会における検討全体の取りまとめとして位置づけることも考えられたが、
1) 本報告書の目的が、「各学校における教育課程の編成や、各教科等の指導において参考として活用される」ことにより、教育現場において「情報教育」が進むことにあること
2) 本報告書に「情報教育」に加えて「IT活用」を盛り込むと、報告書の内容の焦点化が不十分となり、目的が十分に達成できなくなることが想定されること
から、本報告書は、あくまで現行の学習指導要領の下で「情報教育」に係る検討の成果のみに焦点化することとした。

 以上を前提とし、次項(2.)では、本報告書の目的等について扱うこととする。
 なお、本報告書では、小、中、高等学校の「普通教育」において行われる情報教育を対象としており、高等学校の「専門教育」において行われる情報教育(注2)については対象としないことを、あらかじめ注記しておく。

 

(注1)  「IT活用」(2)の観点については、「(1) 学校教育の情報化の今後の姿」に係る検討として行われており、その成果は、「論点整理」の中で整理したところである。(論点整理の概要については「1 はじめに」を参照のこと。)
(注2) 「専門教育」において行われる情報教育 … 「専門教育」とは、学校教育法(昭和22年法律第26号)第41条に規定されており、通常は、一般教育に対比され、専門的な知識及び技能を修得させる教育のことをいう。「『専門教育』において行われる情報教育」とは、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)別表第三(二)専門教育に関する教科に掲げられた各教科において行われる情報教育のことである。


2.本報告書の目的等について

(1) 情報教育の位置づけ

   我が国の初等中等教育における教育の情報化への対応は、昭和40年代後半の高等学校の専門教科において、情報処理教育が行われるようになったことに端を発している。以後、情報教育は、臨時教育審議会、教育課程審議会等における検討を踏まえた平成元年の学習指導要領改訂、中央教育審議会、教育課程審議会等における検討を踏まえた平成10年(高等学校にあっては平成11年)の学習指導要領改訂を経て、小中学校にあっては平成14年度から全面実施、高等学校にあっては平成15年度から学年進行により実施されている現行の学習指導要領に基づき行われているところである。

 また、現在、情報教育において育成することを目指している「情報活用能力」には、以下の3観点がある。これらは、3観点相互の関係を考え、児童生徒の発達段階に応じバランスよく身につけさせることが重要である。

1 情報活用の実践力
   課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力
2 情報の科学的な理解
   情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
3 情報社会に参画する態度
   社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度

 また、専ら情報活用能力の育成を目標としている教科等としては、高等学校の教科「情報」及び中学校の教科「技術・家庭」における「技術分野」の「B情報とコンピュータ」があるが、情報教育は、これらを含むあらゆる教科等において行われることが想定されている。このため、現行の学習指導要領に基づき情報教育を進めるためには、各教科等の指導を行う教員が、自らが指導する内容の中にも「子どもたちの情報活用能力の育成」を念頭においた「情報教育」が含まれていることを認識しつつ、教育を進めていくことが必要となる。



(2) 本報告書の目的

 

 情報教育は、高等学校の教科「情報」等を含むあらゆる教科等において行われることが期待されている。しかし、情報教育全体という視点で見れば、各学校段階や学年、各教科等の個々の学習活動にどのような形で情報教育が盛り込まれ、また、各学習活動の視点で見れば、当該学習活動が、小、中、高等学校を通した情報教育体系全体の中でどのように位置づけられているのかを網羅的に把握することは難しい。
 また、学習指導要領が改訂された平成10年(高等学校にあっては平成11年)からほぼ7年が経過し、この間も、情報化は進展し続けている。これに伴い、子どもたちが身につけるべき「情報活用能力」の具体的な内容も変化してきていると考えられる。学校教育においては、所謂「不易の部分」を指導し、子どもたちに、社会の変化そのものに対応できる力を身につけさせる教育が大切であることは言うまでもないが、特に「情報教育」においては、対応が求められる「社会の変化」が極めて速いことから、これらの変化に応じた適時適切な教育を行っていくことも必要である。

 このような状況を踏まえ、本検討会においては、社会において進展し続ける情報化に相応した「情報活用能力」の具体的な内容が何であるかを検討し、小、中、高等学校の全ての学校段階において、教科等をできる限り網羅的に捉え、情報教育に係る学習活動の例を抽出し、それが情報教育の体系の中でどのように位置づけられるかを一覧形式で提示することとした。当該学習活動一覧の具体的な内容は後述3に記すとおりであるが、これが、各学校における教育課程の編成や、各教科等の個別の指導において参考として活用され、教育現場において「情報教育」が進むことが期待されるところである。
 なお、社会全体で急速な情報化が進んでいる状況を鑑みると、児童生徒のみならず、その保護者等も含めて情報活用能力の向上が図られることが、児童生徒の情報活用能力の育成やIT活用に対する理解と支えにつながり、ひいては社会全体の健全な発展に資するものと考えられる。このことから、本報告書が、上記に加え、例えば、「情報活用能力」の具体的な内容や情報教育の位置づけ等について、保護者等に理解を促す際にも活用するなど、幅広く活用されることも期待したい。



(3) 本報告書と「新・手引」との関係

 

 「情報教育に関する手引」は、平成3年7月に旧文部省がまとめているが、現行の学習指導要領の下で取り組むべき「情報教育」については、学習指導要領を補足する形で具体的に示しているものとして、平成14年6月に文部科学省がまとめた「情報教育の実践と学校の情報化〜新『情報教育に関する手引』〜」(以下「新・手引」という。)がある。具体的には、その第2章において、「初等中等教育における情報教育の考え方」として「情報教育の位置づけ」、「各学校段階における情報教育の在り方」及び「情報教育と各教科等との関係」について、また第3章において、学校現場の視点から見た「子どもの学習活動と情報教育の実践」について記されている。特に、第3章第2節においては、「1.学習活動の組み立て方」や「2.学習活動例」を掲げており、学習活動場面にまで踏み込んだ具体的な記述もある。しかし、ここで掲げられた学習活動の事例は10のみであり、前述の(2)で記したとおり、各学校段階や学年、各教科等の個々の学習活動にどのような形で情報教育が盛り込まれているかを網羅的に把握することは難しかった。このため、本検討会において本報告書をまとめることとしたものである。
 本報告書と「新・手引」の両者において、前提としている情報教育の位置づけや目標等についての相違はなく、両者ともあくまで現行の学習指導要領を補足するものである。ただし、社会の急速な情報化や情報機器の活用の低年齢化が進んでいる状況を踏まえて、学習活動一覧を整理する過程において、小学校段階から「情報の科学的な理解」や「情報社会に参画する態度」についても扱うことができるよう整理している。



3.情報教育の推進のために(各委員の意見の整理)

 本検討会においては、現行の情報教育について様々な意見交換が行われた。
 そこで、ここでは、学習活動を一覧形式で提示する前に、本検討会において示された各委員の主な意見を簡単に整理することとする。

(1) 情報教育の内容の明確化の必要性

 

 前述の1.でも記したとおり、「教育の情報化」が「情報教育」と「IT活用」との双方の意味を持っていることを学校に浸透させることは極めて重要であることについては認識の共有が図られた。これに加え、「義務教育諸学校、高等学校のそれぞれの段階の指導において達成すべき目標が明確でない」、「各学校段階、各学年で指導すべき内容を、高等学校の普通教科『情報』及び中学校『技術・家庭』を含むどの教科等で指導すべきかについて、その整理が不十分」といった意見が示された。そして、具体的に、「義務教育諸学校、高等学校それぞれの段階において指導すべき内容と、当該指導を行う各教科等の指導分担を明確化するため、典型的な指導例を抽出し、各教科等の指導場面にマッピングしその系統性を示すべき」という意見もあった。加えて、「情報教育の内容の明確化は、教育現場において行われている発展的な教育を阻害することのないよう配慮しつつ行うべき」との意見もあった。



(2) 情報教育の内容

 

 情報教育の内容については、「情報手段の活用に偏り過ぎるべきではない」、「情報を適切に活用して合理的判断や創造的思考、表現・コミュニケーションなどに役立てる力、よりベーシックな情報活用能力の育成が必要である」、「不易の内容を明確化する」といった意見に加え、「情報科学、情報工学、情報システム学に関連する科学・技術的内容が乏しい」といった総論的な意見があった。
 また、具体的な意見としては、情報活用能力の3観点を理念のままで終わらせないという考え方の下、3観点それぞれについての主な意見として、以下のようなものが示された。

1 情報活用の実践力
 
 情報の収集、判断、発信等の一連の情報伝達過程について指導することを前提とした上で、その手段としてコンピュータを活用する能力の育成を重点に検討すべきである。
2 情報の科学的な理解
 
 一定の基礎学力が前提となるが、自らの情報活用を評価・改善するために不可欠である。
 人間が判断を誤る原因や判断を誤らせる要因についての科学的な観点から見た教育が重要で、科学的センスや学習意欲向上にも繋がる。
3 情報社会に参画する態度
 
 情報モラル、情報化の影の部分への対応を充実すべきである。
 マスメディアのメッセージを鵜呑みにしないなど、情報に対し、冷静で合理的な判断ができる力が必要である。
 情報モラル教育には、「情報倫理教育」と「情報安全教育」がある。


(3) 各学校段階に応じた指導とその連続性

 

 各学校段階、各学年において指導すべき内容を明確化し、その連続性を確保するということを前提として、主に、以下のような意見が示された。 

1 小学校段階
   関連する教科等で幅広く情報教育を扱っているため、その位置づけが難しいが、児童の実態や児童を取り巻く社会状況等も踏まえ、情報活用の実践力に焦点を当てつつ、情報社会に参画する態度、更に情報の科学的な理解も含めて育成が図られることが望ましい。その際、必要に応じて各観点が関連付けられる等バランスを考慮しつつ取り組まれることが重要である。
2 中学校段階
   情報活用の実践力、情報の科学的な理解及び情報社会に参画する態度の育成が包括的に扱われることが重要である。その際、情報の科学的な理解の充実が図られることが望ましく、教科「技術・家庭」の「技術分野」における「B情報とコンピュータ」で扱うことができる。
3 高等学校段階
   情報活用の実践力については、「リテラシー」を小中学校で習得した「スキル」を活用する総合力として捉え、熟成させることが必要である。また、情報の科学的な理解については、プログラミングを一定程度扱うなど、情報科学、情報技術についての内容をもったものとすべきであり、情報社会に参画する態度については、小中学校の発展形としての指導が必要である。
4 盲・聾・養護学校
   特別な教育的支援を必要とする児童生徒の教育においても、その教育目標、内容は小・中・高等学校に準じており、上記13の段階を踏まえた指導展開が必要である。また、児童生徒自身が自らの障害等を改善・克服していく「力」ともなりうることから、様々な支援機器及びテクノロジーの知識・技術の普及を図ることが大切である。なお、個々の障害の特性に応じて教育方法の工夫をする必要もある。

 なお、情報モラル教育については、特に、各学校段階に応じた指導とその連続性という観点から、「スキル」の指導に合わせて、子どもが小さい頃から自然と身につけられるようにすべきであり、小中高を通じて発達段階を考慮した指導体系を確立することが必要という意見があった。

 本検討会では、以上のような意見を可能な限り反映して、現行の学習指導要領の下で可能と考えられる小、中、高等学校の全ての学校段階における、情報教育に係る学習活動の一覧を整理したものであり、その内容は、3のとおりである。





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